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双天の共鳴者  作者: 月山
第二章-2「瞋恚の炎」
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地下を目指して

 一方、学園のグラウンドでは再び戦闘が勃発していた。それは、またもや演習場から魔獣たちが這い出てきたからだ。


 春美は闇御津羽で弾幕を形成し、大河は自機のレーザー砲を発射しながらそれを支援。

 エリーネは周囲を巻き込まないように術式を火球へと切り替え、射撃によって魔獣を牽制。その隙に敏也が接近・もしくは炎刀から炎を放射し、近寄ってきたものから順に屠っていく。

 敏也は、爪を突き立てようとしてきた一匹の攻撃を高速で身を逸らすことで避け、その速度のまま横合いまで移動すると、それを真っ二つに斬り倒した。

 そして、額の汗を手の甲で拭い、


「くそっ、虎雅って人は確か魔術科で一番強いはずだろっ? いつまでチンタラやってんだよ!」


「っ、不測の事態にでも陥ったのかもしれませんね。それとも、他に何か原因があるのかもしれません。……でも大神くん、それよりも今は――」


「ああ! まずはこいつらを片付けてからだな!」


 言いながら、敏也は高熱の炎を纏わせた炎刀を振り下ろす。と同時に刀身から紅蓮が迸る。それがグラウンドを奔り、こちらへ駆けて来ていた獣たちを焼き尽くしていく。

 燃える大地をモニターの端で見ながら操縦桿を握り、射撃を続けている春美は感心したかのように息を吐いた。


《へぇ……この前の紫苑との模擬戦では見られなかったけど、それがその刀の本当の力ってわけね。確かに、わざわざ紫苑との戦いに持ってきただけのことはあるわ》


《でしょ? すごいよね。あの刀、再生能力を持ったタイプβをたった二発で行動不能に追い込んじゃったんだよ? もちろん、その前にエリーネさんの術式攻撃があったりもしたんだけど》


《そう。タイプβを……ねぇ……》


 学園に引き籠らされていた春美とて、学園のデータベースに挙がってくる報告には目を通していた。ゆえに、タイプβのことも知っている。

 再生能力持ちの大型個体。統率個体とも書かれていた。なんにせよ、強力な生物であることは間違いがない。そして、それがここ一週間の内に各地で発生した数回に渡る襲撃の際、猛威を振るったということも。


 しかし、それを敏也とエリーネはいとも簡単に仕留めて見せたという。

 それは異常だ。

 タイプβを殺すためには魔動機数機か、もしくは高位魔術師が一名以上必要になると記されていた。となると、まだ見習いである敏也とエリーネに倒せるはずがない。

 そう、春美は思いたかった。


 それは純粋に、二人の身を案じてのこと。

 力があると知れれば、それを利用しようとする者が必ず現れる。二人には、まだそんな浅はかな人物たちと接点を持ってほしくはなかった。


《ままならないわね……この世っていうものは》


 春美はそう呟き、操縦桿にあるスイッチを乱暴に押し込んだ。



 衝撃と炸裂音が駆け抜ける中、その場所には黒い波紋が生まれていた。

 そこは、学園の地下。学園の校舎の丁度真下辺りにある空洞だ。

 しかし、ただの空洞ではない。


 薄暗いためよくは見えないが、その壁は深緑に彩られ、整備された壁面であることがわかる。外の騒動や、学園が造られてから経過した年月を踏まえても亀裂一つ入っていないことから、恐らくは対魔装甲製の壁だ。

 そして真っ直ぐ延びるその空洞の先には、奈落へと続いているかのような暗い階段の入口が存在していた。


 天井に生まれていた波紋が一層波立ち、そこから一人の老人が重力を感じさせない速度でゆっくりとで、通路へと降り立った。


「ふむ……やはり対魔素材への干渉は骨が折れるな」


 そう呟くと、杖をカツンと床に突いた。そのまま歩き始め、階段へ向けて進んで行く。


「噂の楠瀬燐火とやらの妨害があるかと思ったが……見込み違いだったか」


 兼ねてより想定していた事態が訪れなかったことに、その老人は些か落胆していた。

 無論、重要な計画に邪魔が入らないに越したことはない――が、想定とは即ち期待であり、相応の準備してきたにも拘わらず件の人物が現れなかったことは、それはそれで準備をしてきた側としては残念なのだ。


「ヒヒ、研究所に送り込んだ魔獣はそう多くはないはずだが……挨拶代わりのあの程度は軽く跳ね退けるかと思ったのだがね」


 過去の戦歴を見れば、楠瀬燐火には魔獣が幾千と集まったところで抑え込める相手ではないということがわかる。

 しかし、今はどうだ。

 たった数百程度の魔獣を研究所に送り込んだ程度で、身動きが取れなくなっている。

 それが彼女自身の力の劣化ゆえなのか、それとも研究員たちを護ることに専念しているからなのかはわからないが、どちらにしてもこの老人にとっては期待外れだ。

 と、その時、


「む? 封印術式か」


 老人は立ち止まった。

 突然、階段の前にそこを塞ぐかのように巨大な魔方陣が現れたのだ。しかもそれは、陽光のように発光している魔方陣自体を四方の壁から伸びた光の鎖たちが絡め取っており、梃子でも動きそうにないほど強固に固められている。

 さらには、その向こう側に対魔装甲製の隔壁が左右の壁より迫り出してきて、階段を護るようにして立ち塞がる。

 だが、


「下らない。この程度でここまで侵入してくる者を止められるつもりでいるなど」


 老人の足元の影――いや、この薄暗い空間では全てが影であるようなものだが、特に老人の足元にある暗闇が蠢き、立ち昇り、それが幾十の黒い腕となった。そして、それらはまるで銃口から発射されたかのような速度で伸び、魔方陣へと殺到した。


 何十もの腕が我先にとそこへ突き立ち、時にせめぎ、または弾かれ、だが光の魔方陣には確実に罅が入る。絡んでいた鎖たちも走る衝撃によって次々と砕けていき、容を保てなくなったのか魔力に戻り、空中へと四散していく。


 光の壁は十秒と持たずに砕け散り、跡形もなく消えていた。奥にあった隔壁も同様に突き崩され、砕けて破片が階段を転がり落ちて行く。

 その結果に老人は凶悪な笑みを浮かべ、階下へと一歩を踏み出した。


「さあ、もうすぐだ。今迎えに行くよ……竜の因子よ」



 けたたましい音がグラウンドや校舎、果てには学園の隣の敷地に存在する研究所群にまで響き渡った。

 それは、敏也たちが今まで聴いた事のない警報だ。


「っ――なんだ?」


 魔獣の頭蓋へと正面から真紅の刃を突き立て、痙攣するそれを尻目に、敏也は周囲を見渡した。彼の後方に佇み、術式による援護射撃を行っていたエリーネも、突然鳴り響き始めた音に周囲を見渡している。


 そんな中、ここにいる四人の中で一人だけ、その原因を理解できている人物がいた。


《まさか……安置室に侵入された……? たった一人で警戒網を掻い潜ったというの?》


 春美だ。彼女は闇御津羽と連動した自機のコックピット内で戦慄している。


《姉さん! 動きが止まってるよ! ちゃんと敵を見て!》


《っ》


 と、春美が惚けている間にもレーザー砲とアサルトライフルで弾幕を形成していた、弟である大河からの叱責で、春美は我に返る。

 モニター上には、数えきれないほどの黒が蠢いている。

 それを見た春美は頭を軽く振って衝撃を振り切り、


《ええ、そうね。惚けている場合ではないわ。……今はそれぞれにできることを》


 操縦桿を動かし、スイッチを押し、闇御津羽による全力射撃を行う。

 小型ミサイルと銃弾が雨霰あめあられと飛び、グラウンドを校舎目掛けて駆けて来ていた魔獣群を弾け飛ばしていく。

 そして、


《敏也君、エリーネちゃん。あなたたちに、一つだけ無茶なお願いをしてもいいかしら?》


「無茶な?」


「お願い?」


 敏也とエリーネはそれぞれが迎撃を続けつつ、インカムから聴こえたその曖昧な表現と彼女の苦悶に満ちた声音に疑念を示した。

 春美は闇御津羽の操縦を続けながら頷き、


《ええ、そうよ。……今の警報はね、校舎の真下にある『地下安置室』に侵入者が現れた際に鳴る警報なの。さっきの警報の意味も、安置室の場所も、そのどちらも理事長と教員、もしくは歴代の生徒会メンバーくらいしか知らないことだから、あなたたちはあれの意味がわからなかったと思うけれど》


「安置室って本当にあって……つーか、それってかなりやばくないですか? 春美さん」


《ええ、かなり不味い状況よ》


 春美の苦虫を噛み潰したかのような声に、敏也は冗談抜きで現状が危ういということを理解する。エリーネと大河も同様だ。


《でも、このまま見す見す先駆者たちの遺物を失う訳にはいかないわ。そのためにも、敏也君とエリーネちゃんにはそこに向かってほしいの》


 ガトリングの弾で敵を吹き飛ばしながらそう言う。次いでミサイルが発射され、銃弾によって弾き飛ばされた敵へと追撃を加えた。

 その光景を見据えながら、敏也は困惑した顔で首を振り、


「なんで俺たちなんですか? 他に候補は幾らでも……そもそも、そんなところに侵入できる奴が待ち構えてるってんなら、教員の人たちか春美さん、それとも虎雅って人が最適任じゃないっすか。俺たちなんかよりもよっぽど強いんですから」


「確かに大神くんの言う通りです。……ですが、恐らくは……」


《そう、どれもあてに出来ないから、あなたたちにお願いしているのよ》


 エリーネの言葉尻を拾うようにしたその声には、隠しきれなかった苦渋が滲み、


《先生方は演習場で魔獣の到来を阻んでくれているの。彼らが居てくれるからこそ、ここに現れる魔獣の数が『この程度』で済んでいるのよ? もし彼らが持ち場を離れれば、曲がりなりにも存続していたここ一帯の戦線が崩壊する危険が出てくるわ》


 つまり、迂闊に現状の部隊配置を変えることは必ずしも得策ではないということ。


《それと虎雅君のことだけれど……残念ながら彼は『まともな戦力としては』勘定に入れられないのよ。出自が出自だし、そのしがらみに雁字搦めにされている坊やだから……》


 最後の部分には、どこか憐れみが含まれているように感じられた。


《そして、そんな彼に統率されている魔術科の子たちも校舎の周りでの迎撃で手いっぱい。そもそもわたしが『闇御津羽』を捨てて『メシア』で行こうにも、地下安置室には魔動機では入れないのよ、通路の大きさ的にね。――つまり》


「モジュールなしで戦えて、ここでの所属に関してはフリーな俺とエリーネが最適任、ってわけですか」


「なら、行くしかありませんね。応援を待っていたら侵入者に逃げられてしまいますし」


 敏也とエリーネは選択の余地がないことを理解できたのか、諦観めいた発言ながらも確固とした意思を滲ませた声でそう言った。

 それに対し、春美は遣る瀬無さ一杯に喉から息を絞り出す。


《もちろん教員の人たちはなんとかそっちに向かえるように頑張ってくれるでしょうし、魔術科の子たちにはわたしから連絡しておくわ。手が空き次第、地下安置室に向かうように、と》


「わかりました。それで、安置室への行き方ってのは?」


《まずは理事長室に向かって。侵入者が安置室まで入りこんでいるからロックが解除されて、部屋の入口の施錠も隠し扉も開いているはずよ。中の通路に設置されてあるセキュリティも停止しているだろうから、道なりにひたすら走って。そうすれば辿り着くはずだから》


 話しこんで油断していた敏也とエリーネに接近していた魔獣三体。それを、春美は闇御津羽の巨腕部で纏めて殴り飛ばす。猛烈な風が二人を吹き抜けていく。


「っ……やれますよね、俺たちなら?」


 敏也はどこか不安めいた想いを漏らした。

 このように多少ナーバスになっても仕方ないはず。なにせ、そこで待ち受けているのは正体不明の敵なのだから。しかも、張り巡らされた警戒網を掻い潜り、学園の深部へと易々と侵入してみせるほどの手練れだ。


(今度は交易都市の時みたいに上手くいかないかもしれない)


 あの時のように運良く生き残れはしないかもしれない。今度こそ本当に死んでしまうかもしれない。

 待ち構えている敵は高位魔術師か、あるいはそれに比肩するほどの強さを備えた存在だろう。見習いに毛の生えた程度である敏也たちでは、勝てる見込みなどほとんどない。

 だが、それでも、


「行きましょう、大神くん。私が傍にいます」


「……ああ」


 それでも、隣でエリーネがこうして微笑んでくれているのであれば、敏也はどれほど恐ろしく険しい道であっても、進んで行けると思えていた。

 勝てると、そう信じることができた。

 ――胸の中の歯車が、回転数を増した気配がした。

 春美は、そんな二人へと笑んだ気配と柔らかな声援を送る。


《ええ、あなたたちならきっと……きっと遣り遂げられるわ。だから、自分たちの中にある可能性を信じてあげなさい》


「――はい」


 敏也は不安を消した視線を闇御津羽の頭部へ向けながら返事をし、エリーネも彼に習うようにして頷く。


《お取り込み中のところ悪いんだけど……行くなら早いほうがいいよ。――もう、道を切り開くのもきついから》


 大河からの通信に敏也とエリーネは周囲を見渡すと、それまでよりも明らかに数を増した魔獣たちがこちらへと向かってくるところだった。


「なんだ、この数っ? 演習場にいる先生たちは……」


「考えるのは後です、大神くん。彼らがそう簡単に敗走するはずがないでしょう。今はそう思っておいてください」


《エリーネちゃんの言う通りよ、敏也君。――わたしと大河の射撃で周囲の敵を牽制して機先を削ぐ。その隙に走って、追い付かれる前に校舎まで辿り着きなさい!》


「春美さんたちは?」


《ここを死守するわ》


「でも! この数じゃ――」


《おっと、あたしを忘れてもらっちゃ困るな》


 と、突然新たな人物の通信がインカムに届いた。

 それを発した人物を乗せた機体――メシアの改造タイプの機体が、闇御津羽と背中合わせになるようにして舞い降りた。その右手にはスナイパーライフル。後腰部にはマシンガンが装着され、バックパック左右には二本の短剣型の対魔剣が備わっている。

 それが、スナイパーライフルを碌に照準を着けずに乱雑な発砲を開始。周囲に迫る魔獣に一体ずつ血を吐かせ、弾き飛ばしていく。


「その声って、佐上さん?」


《ふふふ、いかにも。それよりどうかな、このタイミングと現れ方、驚いたかい? 真打ち登場ってやつだね》


《薫、格納庫前から離れてもいいのかしら? 戦力が足りなくなるのではなくて?》


 と、嬉々として話す薫に対し、春美は闇御津羽での弾幕を形成しながら、どこか呆れながら伺いを立てる。

 どうやら、薫はこれまで格納庫付近で迎撃をしていたようだ。そのため、相棒である春美の傍に彼女の姿が見えなかったのだろう。

 すると、薫はコックピット内で肩を竦め、


《もちろん。向こうには君の機体を除く魔動機全てが宛がわれてるんだから。むしろ、みんなこっちのことをヒヤヒヤしながら見ていたよ? 『春美会長一人で大丈夫かな』ってね》


《……わたしって意外と信用ないのね。――それはともかく、三人で同時に一斉射よ。目標は敏也君とエリーネちゃんを追おうとする個体全て。いい、二人とも。合図をしたら走るのよ!》


「うっす!」


「はい!」


 返事をし、闇御津羽の足元まで後退してきた敏也とエリーネが校舎の方を向き、駆け抜ける体制を取る。

 そして、


《今よ!》


《そら、このマガジンはくれてあげるよ!》


《行って、敏也君、エリーネさん!》


 闇御津羽のガトリングと小型ミサイルによる飽和攻撃。

 薫の繰るメシアによるスナイパーライフルとマシンガンによる弾幕。

 そして、大河機の放つレーザーの帯が魔獣たちを薙ぎ払う。


「エリーネ、行こう!」


「ええ!」


 そして、敏也たちは駆け出す。

 が、二人が幾らか進んだところで、吹き荒れる砂煙の中から血走った赤の目が飛び掛かって来る。先ほどの攻撃が当たらずに、生き延びていた個体だろう。

 敏也は考えるよりも先にエリーネを庇うようにして立ちはだかる。


「っ、エリーネ、俺の後ろに――」


 と、言い掛けた時。

 ダンッ、と音がし、敏也に飛び掛かって噛みつこうとしていた魔獣が脳漿を撒き散らしながら吹き飛んでいった。

 見れば、マシンガンを足元に捨て、スナイパーライフルを両手で構えた薫機が狙いを定めていた。


《ほら、二人とも、立ち止まっちゃ駄目さ。君たちがさっさと行ってくれないと、あたしらは自衛行動が取れないんだからね?》


「すみません。――エリーネ、文句は後で聞くからな」


「……なんとなく展開が読め――きゃっ!?」


 敏也が刀を腰の鞘に納め、エリーネの返事を聴くことなく、彼女を抱き抱える。そのまま肉体強化を最大で掛け、校舎へ向けて高速で走りだす。

 猛烈な加速で追い縋って来る魔獣を引き離そうと試み、敏也は駆け続ける。



 その様を見据えつつ、薫は照準を合わせながら眉根を寄せていた。


《んん? 魔獣たちはみーんな大神君たちを追っているのかな? 珍しいね、近くにあたしたちっていう新鮮な肉があるってのに》


 言葉が終わると共に弾丸が飛ぶ。


《嫌な表現しないでくれるかしら、まったく……でも、確かに彼らを追っているように見えるわね》


 そうなると厄介だ。これだけの数――未だ百を越そうという魔獣全てが彼らを追うとなると、倒しきれないかもしれない。最悪、校舎を防衛している魔術科の生徒たちの戦域とあの軍団がカチ合うことになってしまう。それは、文字通り最悪だ。

 だが、


《仕方ない……か》


 大河が諦めたように呟き、レーザーの照射を止め、機体を上昇させ始めた。


《大河? 何をするつもり?》


《簡単だよ、姉さん。砲身が焼き切れるギリギリまでレーザーの出力を上げて、敏也君たちを追ってる集団を纏めて吹き飛ばすんだ》


 大河機のモニターに映っている補助バッテリーの残量は約三割。これまで連戦だったにも拘わらずこれだけ残っているのだから上々だと言える。これを完全開放すれば、その結果を生み出すことは容易だろう。


《でも大河君、そのレーザー砲は君がようやくメシア用に改良したものだろう? そんなあっさりと壊してしまってもいいのかい?》


 そう、きっと壊れてしまう。これでもロースペックなメシアに合わせて無理矢理出力を落とし、尚且つ外付けバッテリーをバックパックに装着し、なんとか運用している現状なのだ。

 そんなデチューン品を第三世代魔動機・レガリアが放つような高出力レーザーへと出力モードを切り替え、砲身を最大稼働させれば、瞬く間にレーザー砲がオーバーヒート――運が悪ければ爆散だ。


 兵器とは、普通は継続使用を念頭に置いて運用するもの。無茶な使い方をして即壊す、などという真似は愚の骨頂だ。それらは基本的に高価であり、継続使用が可能であるならばそう努めるべきものなのだ。それは大河とてわかっている。

 しかし、だとしても決断すべき時はある。


《機械なんて壊れたら直せばいいんだよ。人と違って、機械はいくらでも直せるんだから。――だから今は、二人を護ることが先決だよ》


《大河……》


《さあ、行くよ。――出力最大》


 銀色のメシアが高空でレーザー砲を構え、照準を合わせる。

 ――目標は、グラウンドを今しがた抜け、校舎の中へと入った敏也たちを追い掛けようと、こちらの射撃には目も暮れずグラウンドを抜けようかとしている一団だ。


《――――っ!》


 件の敵がグラウンドを出る瞬間、空より光の柱が降った。それは、直径二メートルはある光線で、明らかにメシアの砲身以上の大きさである。

 それだけ、無理な出力でエネルギー供給をしているという証拠だ。


 光柱が地に激突した瞬間、それは熱波を伴いながら強烈な爆風を生んだ。それによって校舎の窓ガラスは全壊し、建物が大きく揺れ、人の身であれば倒れ込んでしまうような振動が地を襲っている。

 件の一団は壊滅。これほどの暴虐の後で、跡形などあるはずがなかった。


《~っ、パージパージ……っと》


 大河機はレーザー砲からスパークを放ちながらゆっくりと降下しており、それをこの瞬間に切り離したところだった。

 下方に居る春美たちからはほど良く離れた場所にそれは墜ち、しばしの後、火を上げ始めた。

 それを見据えながら着地した大河機に、春美は通信を飛ばす。


《お疲れ様、大河。で、悪いんだけど、まだ戦えるわよね?》


《もちろん》


 と、大河は応えながら自機を動かし、腰に備え付けてあったアサルトライフルを右手に握らせた。


《姉さんのほうこそ、闇御津羽の限界稼働時間はまだ大丈夫なの?》


《ええ、バッチリよ。まだ何時間でも戦え――》


《もって三十分だろう? 春美。元々一時間が限界だったんだし、弾薬もそろそろきついはずだ。いくら大型コンテナを着込んでいるとは言ってもね》


《……ここは強がらせてほしかったわ》


 あっさりとばらされてしまったが、そういうことだった。

 春美のいるコックピット内のモニターでは、闇御津羽の武装コンテナに残っている弾薬の残量が示されている。だが、ほとんどが赤色点滅――武装の破損やエラー、もしくは残量の危機を知らせる色だ。

 ――ざっと平均して残り三割。特に、ミサイルの残りが少ない。

 でも、


《やるしかないのよ。事態が好転するまではね》


《……もし自動パージを解除したりしたら、後でぶん殴るからね》


《……わかってるわよ、薫》


 いざという時はそうして注意を引き付けようと思っていた春美は、息を詰まらせながらもそう返事をした。


 一時間が限界稼働時間というのは、あくまでも弾薬が底を着くまでの目安に依るところが大きい。なにせ、闇御津羽には予め幾つものバッテリーを積み込んでいるため、一時間程度では活動限界を迎えることはないのだ。

 単に、武装が無くなったことでただの的となることを避けるための自動パージなのである。


《さてさて……》


 そうしているうちにもモニターに表示されている活動限界までの時間は二十九を切っているし、またしても魔獣の増援が演習場より現れた。


《お呼びでないお客様には、引き続きお引き取り願おうかしら》


 闇御津羽が搭乗者の想いに応えるように、その頭部センサーを発光させた。


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