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双天の共鳴者  作者: 月山
第二章-2「瞋恚の炎」
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迎撃戦闘

 迸った黒炎は敏也たちの居た家屋を一瞬の内に消し飛ばした。

 しかし、敏也たち三人は間一髪それを逃れ、空中へと躍り出ている。

 そして、


「エリーネ!」


「はい! ――術式展開!」


 敏也の両腕に抱えられたエリーネが、手のひらをレーヴェへと翳し、魔術を行使した。

 エリーネの手の先に展開された魔方陣から生み出されたのは、彼女が得意とする火の魔術――火球だ。それが雨の中を突き進みながらレーヴェへと迫る。

 が、 


「オラァァァッ!」


 レーヴェは手に持った黒剣を棍棒のように振り回し、辺りの気流を乱す。と、それによって発生した突風で火球が掻き消されていく。

 エリーネはそれを見て落胆するかに思われたが、少しも失意を示していない。むしろ、その表情は不敵さを増しているように見える。

 なぜなら、それは陽動。本命は、地を駆け、レーヴェへと接近を試みているマサルだ。

 マサルは走りながら右手に三鈷剣を生成。次いで、左手を敵へと向け、


「術式展開――『クサナギ』」


 直後、彼の周りに十二個の水色の魔方陣が出現。そして、それらから蛇を思わせる水流が放流された。

 水流たちは身をくねらせ、マサルと共にレーヴェへと向かっていく。

 それを見たレーヴェは悲観なく、逆に享楽に耽った笑みを浮かべた。そのまま黒剣に炎を灯し、マサルを睨む。


「そんなヌルい水ごときで――フェンリルの炎を消せるつもりかァッ!?」


 轟音――否、それまで刀身に圧縮され続けていた炎が、ようやく解き放たれた音だ。レーヴェが振り抜いた黒剣『フェンリル』から生み出された黒き猛火。


 進行方向から迫り来る火炎を視認した直後、マサルは水流たちを自身の前方へと終結させ、滝のような防御陣形を組む。そして、自らはアスファルトを力の限り踏み締め、減速。そのまま後方へと跳び退き、身の安全を確立する。


 その一連の流れの後、水蒸気爆発が起こった。

 黒炎と水流の激突によって発生した蒸気が周囲の家屋や瓦礫を呑み込んで行き、視界が極端に悪くなる。

 家屋の天辺に居るレーヴェが、口元を愉しそうに歪ませたままで佇んでいると、


「そこだなッ?」


「――くそっ、バレてたか……」


 後方の蒸気の中から突然飛び出してきた敏也が、炎刀で斬撃を放ってきた。が、レーヴェにとってその程度の奇襲は先ほどの爆発の折に予測済みであり、簡単に対応可能な攻防だった。

 一撃目を防がれた敏也は刀を引き、即座に二撃目へ移行。一撃目が振り下ろす形だったのならば、今度は横に薙ぐ形だ。


「ハッ!」


 それをレーヴェは嗤いながら危うげなく黒剣で受け止め、弾く。ついでとばかりに強化された右足の脚力による高速のミドルキックを放ち、敏也を蹴り飛ばそうとする。


「喰らうかよ!」


 しかし、それを敏也は左腕の側面でガード。吹き飛ばされはせず、痛みに顔を顰めることもせぬまま腕に力を込め、足を払い除ける。

 敏也はそのまま流れるような動きで、刀を用いた刺突を放つ。その刀身からは吹き荒れる火の粉が次々と生まれていて、まるで篝火の傍にいるかのようだ。


 だが、レーヴェは身を捻るようにしながら高速の刺突を回避。脇腹を危うく掠めて行くのでは、と思うほどギリギリの箇所を刀は過ぎ去っていった。


「チッ」


 刺突を避けられた敏也はレーヴェとすれ違うようにして移動。身を捩り、突進の速度を身体全体でいなしながら向きを変え、再びレーヴェへと迫る。

 二人はそのまま目にも留まらぬ速さで動き、数回の剣劇の後、鍔迫り合いへ。

 剣と刀は拮抗し、揺れ動く。決死の形相で刀を握り込む敏也の姿が見える。


 そこでふと、レーヴェの脳裏に疑問が過る。


(こいつァ確か、三珠市じゃあオレの腕力に対抗できなかったはずだろ)


 記憶を辿れば、レーヴェの脳裏には敏也へと黒剣を押しつけつつあった光景が浮かんでくる。

 だが、今はどうだ。まるで『互角』ではないか。一週間ほど前までは圧倒出来ていたはず――なのに、今は腕力の面では同程度となっている。

 この短期間で成長した? ――有り得ない。そのような短い期間で強くなれるのであれば、魔術師は何年も訓練を積む必要がないではないか。

 では、この事態はいったいなんだ。


 そのような疑問・疑念が頭の中で渦巻くレーヴェに、敏也の応援に駆け付けたのか、マサルが蒸気を突き破りながら三鈷剣を構え、突き込もうとする。

 しかし、


「――『ヨルムンガルド』」


「! ――駄目だ! マサル!」


「っ! これが例の……」


 暗い色に変色したレーヴェの左手が一切の切傷なく、マサルの三鈷剣を掴んでいた。マサルは引き抜こうとするが、剣は微動だにしない。そして、その刀身が先から徐々にレーヴェの手の中へと沈み込んで行く。

 三珠市で大河機のスナイパーライフルの弾丸を容易く呑み込んだ術式、その脅威が今再び、敏也たちを襲おうとしていた。


「マサル、何してんだ! さっさと剣捨てて離れろッ!」


「……そうしたいのは、山々なのだがな……!」


 苦々しげに口元を引き結んだマサルに、敏也は刀で黒剣フェンリルを抑え込んだまま、疑念の視線を向ける。

 と、レーヴェがニンマリと笑み、


「残念ながら剣だけじゃなく、こいつもとっくの昔に効果範囲内だ。諦めて楽になっちまえよ? ハハハッ!」


「フッ、――誰が」


 マサルが嘲笑に嘲笑を返したその時――

 どこからか一直線に飛来した砲弾がレーヴェへと直撃。次いで炸裂した爆風が近くに居た敏也たちをも囲い込む。だが、その攻撃のおかげか、マサルの剣はレーヴェの手を離れている。

 さらに、破裂した大気によって敏也たちは押され、家屋上から空中へと投げ出された。

 が、そのまま敏也は道路へ、マサルは別の家の庭先に着地し、それぞれがある場所を目指して走り出し、一度レーヴェから距離を離した。


「ゲホゲホっ、くそ……いってぇなー」


「コホッ……しかし、そのおかげで助かったのだから良しとするべきだ」


 合流した敏也とマサルは、咳き込みながらその攻撃をした本人を見上げた。

 エリーネだ。敏也たちが退いてきた場所の近辺にある、未だ目立つ損害なく無事な家屋の上には、苛烈な光を放つ魔方陣を構えた彼女が佇んでいた。


「無事ですか? 二人とも。今度こそは威力を最低限に抑えることができたと思うのですが……」


「感謝はしてるけど、それでも痛かったぞ、エリーネ」


「ご、ごめんなさい! 大神くんっ。でも……でも……っ!」


「ちょ、今の冗談だから! 本気に――」


「敏也! エリーネ嬢!」


 マサルからの警鐘に敏也とエリーネはそちらを見やる――と、道路どころか家屋数軒分を覆うほどの黒炎の高波が、数十メートル先からこちらへと迫って来るところだった。

 家屋の残骸たちは呑み込まれた端から塵にされ、次々と消えていく。

 すると、その状況を見て取ったエリーネが、


「大神くん! 神堂寺くん!」


 と、声を張り上げながら二人を呼んだ。呼ばれた二人はエリーネの意図を瞬時に察し、彼女の傍へと降り立つ。


「障壁展開! ――最大出力!!」


 エリーネの一声が紡がれる。そして、ガラス張りのような球状の魔力障壁が三人を囲うように現れ、燦然たる輝きを放ち始める。

 それは以前よりも強い輝きだ。増大した魔力によって、ただでさえ強固だったエリーネの障壁はさらに力を増しているともくされる。


 数秒後、黒炎と白い輝きが激突。

 しかし、たっぷり五秒ほどは迫り合ったにも拘わらず、黒炎は輝きを塗り潰すことが敵わず、輝きの部分から左右へと分かたれるような形で弾け去っていく。


「これなら……対魔剣にも……」


 エリーネが確固とした自信を顔に滲ませながら呟いている時、黒炎が飛来してきた方角から尋常ではないスピードで駆けて来るレーヴェの姿が見えた。

 その表情は苛立たしさに染まりきっている。

 だが、エリーネは蚊ほども怯えず、むしろ敢然として魔力を障壁へと変換する。


 大地を蹴り、飛び上がったレーヴェが落下しながら障壁へと黒剣を突き立てる。それに乗じるようにして、刀身から黒炎が流れ始める。

 すると、魔力と魔力がぶつかり合い、それによってスパークにも似た現象が激突の部位を起点として起こり始め、周囲にあるものを破壊し始めた。

 が、


「クソがァ! なんだ、この堅さは!」


「ふふ、私の障壁をそん所そこらの魔術師と一緒にしないでください」


 エリーネの障壁は全くと言っていいほど無傷だ。黒剣が突き立てられている箇所も、黒炎が撫で付けて行く部位も、どこも損傷していない。

 異常な堅さ。それは単に魔力量が多いだとか、そのような次元ではないような……。


「この――」


 レーヴェが盛大な苛立ちを悪態と共に吐き出そうとした時、


「――今だ、エリーネ嬢」


「ええ。頼みます……二人とも」


 瞬間、障壁が消滅。そうすると、当然それまで障壁の上部へと剣を突き立てていたレーヴェは宙に浮き、無防備になると言うことであり、


「焼き尽くせ、『灰神』」


「貫け、水流たちよ」


 猛る赤炎と唸る水流が、ほぼ同時にレーヴェへと収束した。



 下方では時折爆発が起こっているが、紫苑はそれにかまけている余裕などなかった。


《……くっ、鬱陶しい!》


 操縦桿を操作しながら、彼女の体勢は逆さまに――否、機体全体が宙返りをすることで飛来する実弾兵器から回避運動を取ったのだ。

 そのまま紫苑は機体を再加速させ、弧を描くように上方へと向かい、今しがた攻撃してきた機体・黄色のレガリアへと、右手に持った対魔剣を打ち付けた。

 しかし、その機体は紫苑機の斬撃の軌道を完璧に見切っていた。左腕が流れるような動作で腰から対魔剣を引き抜き、その斬撃を受け止める。


《この程度なのか、ヴラド様の機体を傷付けたという搭乗者は》


《……わけのわからないことを》


 若い男の声に紫苑は難色を示す。

 ヴラドなどという人物のことを紫苑は知らない、聴いたこともない。それどころか、わざわざ敵である自分に通信回線を開いてまで恨み事を言ってくるなど、それほどまでに誰かに恨みを買われる真似をした覚えも、彼女にはなかった。

 ただ唯一、彼女への敵対者を除いてだが。


《忘れたとは言わせない! お前が一週間前に頭部を破壊した魔動機、その搭乗者がヴラド様だ!》


 レガリアが搭乗者の怒りを示すかのように駆動音を高鳴らせる。腕部関節のモーターが狂ったように膂力を発揮し、紫苑機へと対魔剣を押していく。


《……あぁ、あのいけすかない声の男のこと? なら、確かに私が相手をした。でも、それがなに?》


 が、紫苑は敵機の尋常ではない迫力など興味がないとでも言いたげに、操縦桿を僅かながら前へと押した。

 すると、押し付けられつつあった対魔剣が向こうへと押し返されていく。


《な、なんだとっ? このマシンパワー……いったい……?》


 大河が施したチューンが功を成した結果だ。無論、機体への負荷はかなりのものではある。

 それを理解しているがゆえか、少しでも早くこの硬直状態を抜け出すため、紫苑は自機に蹴りを放たせる。

 鋼鉄の右足が敵機の左脇腹を容赦なく打ち付ける。


《ぐぅぁッ!》


 敵機のパイロットはそれによって発生した振動に揺られ、コックピット内で呻く。

 だが、すぐさま意識を機体制御へと戻し、操縦桿を前へと押し倒す。限界までペダルを踏み込む。

 すると、体制が崩れていた黄色のレガリアが頭部を紫苑機へと向け、センサーを発光させながら睨み据える。

 そして、


《このッ!》


 スラスターを噴かせながら紫苑機から距離を離す。それと同時に右腕部に持たせていたアサルトライフルを構え、発砲。

 続けるようにバックパック右側に装着されているレーザー砲が肩上部へと伸びるように展開。それもまた、照射を開始。

 弾丸と光の帯が、空中に佇む紫苑機へと向かってくる。


 しかし、紫苑はそれを見た瞬間に機体を右へと移動させる。――機体左側にあるスラスターが全開で噴かされ、反動で機体が動き、攻撃を回避。

 そして、加速によって燐光を残しながら紫苑機が移動を始めた。


《……その程度の射撃精度で、私を墜とせると思うな》


《くっ》


 両機はそのままドッグファイトへ。

 スラスターを惜しみなく噴かすことで空を高速で駆け、時折接近しては対魔剣で斬り合い、距離を離して射撃で牽制し合う。

 天へと昇っていく螺旋を描くように、時には地へと墜落していくように、果てには周囲で戦闘中の敵味方の間を縫うように駆け、戦場を闊歩していく。


 それでも、有効な一撃をお互いに与えることができないでいる。

 そして、何度目かの近接戦闘に陥ったその時、対魔剣による攻防を絶え間なく続けながら、敵機の搭乗者が小馬鹿にするような笑みを零した。


《なるほど、確かにお前は強い。そこらの魔動機乗りよりかは。――しかし、ヴラド様を倒せるほど技能が成熟していない》


《……何を……――ッ!?》


 突然、紫苑機が衝撃に見舞われた。

 機体損傷――被害はバックパック両側に装備しているガトリングガン、その左側が破損。

 紫苑は予想外の事態に困惑したが、それでも今すべきことは分かっていた。

 体制が崩れた紫苑機を斬り裂こうと目の前に居るレガリアが、対魔剣を振り上げている姿がモニターには映っている。


(……離脱。とにかく離れなければ)


 一瞬、踏み込んでいたペダルを緩める。すると、背部スラスターから放たれていた光が消失。それによって機体は滞空能力を失い、機体が金属であることもあってか、見る間に下降を開始した。


《なっ――?》


 レガリアが振り下ろした対魔剣は、あと一歩というところで紫苑機を捉えずにくうを切る。


 直後、紫苑は自機の破損したガトリングを手動操作でパージしつつ、左手に持たせていた対魔剣を腰のアタッチメントに装着。

 次いで、切り離されたガトリングガンを左腕に掴ませると、それを黄色のレガリアへ向け、チューンによって得られた膂力に物を言わせ投擲した。

 何者かの攻撃によって損傷し、火を噴いていたガトリングガンはレガリアが咄嗟に構えた対魔剣にぶつかると、内部の弾薬に引火したのか、合間なく爆散。

 苛烈な爆風が敵機を包み込む。


 それを見届けた紫苑はペダルを踏み込み直し、体制を直して滞空すると索敵を開始。

 先ほどの横やりを入れてきたのはまず間違いなく――


《そいつもかなり強いほうなのだが、それに対し一矢報いたのは褒めてやるぞ、小娘》


《……やはりお前か。部下に任せて他の機体に向かったと思えば……》


 紫苑はその機影をレーダーで捉え、紫苑機のツインアイがそれを睨みつける。

 紫苑機から見て、斜め下方に佇む機体。


 レガリアよりも淡い蒼色の装甲を持ち、また、それを二回りほど大きくしたような巨体であるにも拘わらず、三珠市で見せた動きは軽快そのもの。そして、その左手に持った複合防盾『アイギス』の堅牢さは折り紙つきの機体――アナスタシア。

 その搭乗者と目される男、ヴラド。


 と、その時、大空を駆け抜ける烈風によって散った爆炎の中から、所々の装甲塗料が焼け落ちているものの、機能的には目立った損傷のないレガリアが姿を現した。


《申し訳ありません、ヴラド様。仕留め損ないました》


《構わん。元々ワタシ一人で相手取るつもりだったところを、貴様が無理にと言うからこうなっただけだ》


《……面目次第もございません》


《謝る暇があったら他の機体を潰してこい》


《了解っ》


 レガリアは推進器を発光させ、周囲の空で戦っているテロ組織所属の魔動機と、軍及び治安維持部隊所属の魔動機混成部隊との戦いの中へ向かっていった。

 それを見届けると、ヴラドは紫苑へと意識を戻し、


《さて、小娘。一連の攻防の中で貴様の技量は見せてもらった。その上で言わせてもらう。――貴様は弱い》


《……それをお前の遺言にしてあげる》


 淡白な声音のその言葉を皮切りに、紫苑機がアナスタシアの目前まで肉迫。スラスターを限界まで噴かした事による高速移動だ。

 腰部に納めていた対魔剣を左手で再び引き抜く。それは居合いと言ってもいい剣筋。

 しかし、


《忘れたか、小娘。対魔剣ごときでは、このアイギスを突破することなどできんと》


 アナスタシアが構えた大型シールド・アイギスの前には、圧倒的な切れ味を有する対魔剣ですらも無力だ。

 高速で閃いた紫苑機の対魔剣は、甲高い音を鳴らしながら弾かれた。

 だが、それで終わりではない。


《……この距離なら……っ!》


 背部右側に残ったガトリングガンを起動。続けるように右手に持たせているアサルトライフルを構える。

 間髪入れず二つの火器が射撃を開始し、至近距離からアイギスへと銃弾の雨を見舞わせる。


《っ! ――ほう》


 コックピットが揺れ動く中、感心したかのような音をヴラドは漏らした。

 アナスタシアは防御姿勢を取っているため、迂闊には動けなくなっている。それを見て取った紫苑は射撃を続けつつ自機を近付け、そのまま右足の裏で蹴り付けた。

 アイギスと右足が衝突、そして、アナスタシアが衝撃で後方へと弾き飛ばされる。

 紫苑機はアナスタシアを蹴り飛ばした後、即座に身を翻して追撃に出る。スラスターが苛烈に瞬き、吹き飛んでいくアナスタシアに追い縋る。


《……これで》


 自機に左腕を振るわせ、対魔剣を高速で振り下ろす。対魔剣がアナスタシアの頭部へと迫り――


《甘いぞ、小娘》


 が、ヴラドはその事態にまったく動揺せず、左側の操縦桿だけを限界まで引く。すると、アナスタシアが左半身を盛大に逸らせ、振り下ろされた剣を見事に回避した。


《……なにっ?》


《お返しだ、小娘!》


 対魔剣が素通りした後、アナスタシアが剣の上を滑らせるように左足を振る。

 紫苑機の胸部装甲に激突。アラートが鳴り響き、機体は吹き飛ばされた。


《……ぐっ……く!》


 衝撃に揺らぐ中、必死に操縦桿を握り込み、自機に乱れた体制を直させる。

 だが、紫苑に休んでいる暇などなかった。

 紫苑機のモニター上には、アナスタシアの持つ盾・アイギスの外周部から放たれた四本のアンカーが蛇のようにうねりながら迫ってきているのが見える。


《……そんなもので》


 機体各所のスラスターを限定的かつ変則的に噴かせることで、自機に身を捻らせるような動きをさせる。そうすることで、アンカーを避けることに成功した。

 しかし、


《そうして一撃を避けたら気を抜く――だから小娘だと言うのだ!!》


《……っ、しま――》


 気付いた時には、右手に持っていたアサルトライフルが両断されていた。確認した直後にそれは爆散し、破片と火炎を内包した暴風が紫苑機を打ち据える。


《……ぐぅぅ……!》


 ヴラド、そしてアナスタシアによる強襲だった。彼は、アンカーを避けることに専念した紫苑の隙を突き、また、そこで彼女が油断すると踏んだ上で急接近を試みていたのだ。


(……動きが読まれている?)


 疑念が紫苑の脳裏を過るが、それを考えている暇などなかった。

 爆風から飛び出すと、そこにはまたしても紫苑の行動を見越して移動していたアナスタシアの姿があった。

 アナスタシアが今まさに腰部から引き抜いた対魔剣が、横薙ぎに振るわれる。


《……そう何度も易々と……っ》


 が、辛うじて紫苑はそれに反応し、自機の左手の対魔剣で受け止める。

 対魔剣と対魔剣とのぶつかり合い。軋むような音が両者の剣から漏れ出る。剣の強度・切断力自体はそう大差がないため、破損するという事態には陥らない。

 ヴラドはコックピット内で笑みを深める。


《本当の格の違いというものを教えてやるぞ、小娘》


《……大口を叩けるのは今の内だけ》


 剣を押し離し、両機は空を駆けていく。



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