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双天の共鳴者  作者: 月山
第二章-1「キメラ襲来」
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鬼術部隊


 日本軍鬼術部隊及び、鬼甲部隊の本部は、東京都近郊の山中にある皇居、その近くに存在している。

 それは、この二つの部隊はあくまでも政府の懐刀(ふところがたな)であり、古来より日本を支配してきた『四神の宗家』と、その四つの家を統べる『黄竜』と呼ばれる名家――九条家の手足だからだ。


 そんな彼らに仕える鬼術部隊・鬼甲部隊が従事するのは、あくまでもこの国の『長』たる権力者たちの命のみであり、それ以外の事象など瑣末なことである。


 構成員は多少の例外を除けば、誰もが魔術と魔動機に関連した教育機関で優秀な成績を修めた者たち――つまりは高位魔術師とエースパイロットであり、この特殊部隊の総合的な戦闘能力は大艦隊に匹敵するとまで言われている。


 本部の様相としては、両部隊の人員が駐留する建物はそれなりに大きなビルとなっており、その脇に、鬼甲部隊専用にチューンされた魔動機と、それを輸送するトレーラーと飛空挺、人員運搬用のヘリなどの格納庫が設置されている。


 そんな場所で、断神善十郎は渋い顔をしながら職務に勤しんでいた。


「チッ、どいつもこいつも……! 書類仕事を適当に済ませるなど、言語道断だっ!」


 毒づきながら、机の上に山のように積まれた書類――本来ならとうの昔にお上に提出されていなければならない任務の報告書を整理し、時には訂正していた。


 基本的に鬼術部隊には自由奔放な人物が集まっており、決まり事などに対する無頓着さが目立つ。「ここ置いとくぞ、善十郎」「後はよろしく、善十郎」などと、人に仕事を任せっきりにして何処かへと消えていく職員など、ザラだ。


 この国の『長』に最も近しい場所に勤める者たちがそんなことでいいのかとも思うが、有事の際にはその能力を如何なく発揮してくれるため、『長』たちも大概のことには目を瞑ってくれている。


 そんな中で比較的気真面目な部類に入り、尚且つ三つある鬼術部隊の内、第一部隊の隊長を務める善十郎は、こういった訂正仕事にたびたび駆り出されるのだ。


 本音を言ってしまえば逃げ出してしまいたいが、このままお上に提出しても、監督不行き届きとして怒られるのは結局、隊長である自分なのだ。だからといって部下たちに文句を言おうとも、自分勝手なやつらは真面目に報告書を書こうとはしないだろう。どうにもお手上げである。


「ええい! この忙しい時にっ!」


 苛立ちが口を突いて次々と外界へ顔を出す。だが、それでも苛立ちはなくならない。

 と、そこへ、


「やっほー、善十郎」


「元気元気―?」


 どこか暢気そうで、それでいて溌剌とした二つの声が善十郎の耳に届いた。書類へと落としていた視線をジロリと持ち上げ、その声の主を見やる。


「――和葉に優葉か。仕事の邪魔をする気なら、とっとと次の任務へ行け」


「えー、ひどいなー、善十郎は」


「そうそう、せっかく善十郎が頼んできた任務を済ませてきたってのにねー」


「労いの言葉くらい欲しいよねー」


「ねー」


 和葉と優葉と呼ばれた女性たち。背丈は一六○位で、顔立ちは二十代半ばのわりに子どものように若く、おまけに瓜二つである。

 それもそのはず、彼女たちは双子の魔術師なのだ。戦闘も、生活も、二人で揃ってあらゆる物事をこなすのをポリシーとした変わった人物たち。

 彼女たちは鬼術部隊第一師団に所属する高位魔術師であり、その外見に似合わず、強大な戦闘能力を秘めた希代の魔術師なのだ。


 善十郎は苦々しげに表情を歪め、


「それがお前たちの仕事だろう。仕事を怠けるのなら、給料から差っ引くぞ」


「仕事だから部下を労わなくていいっていうのは、偉そうな上司の勝手な理屈だよねー」


「頑張ればその分給料が上がる時代はとっくの昔に終わったんだからさー」


「適当に、やるべきことだけやっとけばいいんだよー」


「それが、賢い大人ってやつだよー。善十郎もわたしたちを見習うべき!」


「黙れ、能なしども」


「「善十郎、酷い」」


「ハモるな、鬱陶しい」


 こめかみに手を当て、忌々しげに呟いた。が、和葉と優葉はそんな善十郎を愉快げに笑いながら見ており、二人の頭からそれぞれ違う方向に突き出ているサイドポニーが、揺ら揺らと動いた。


「あはは、善十郎こわーい。どうしたのー?」


「あはっ、なんか、この前リンカに怒られて帰ってきた時みたいだねー」


 リンカとは楠瀬燐火――戦修学園で博士と呼ばれている人物のことである。彼女は以前鬼術部隊に所属していたことがあり、その時に和葉と優葉も彼女の部下だったのだ。


 未だ脳裏を過る、数週間前に起きた苦い経験を思い出した善十郎は、ただでさえ不機嫌そうだった顔をさらに顰めた。


「貴様ら……いいかげんにしろ。わたしでも、感情任せに暴れたくなる時はあるぞ」


 ギロッ、と視線を二人へと向ける。すると彼女たちは申し訳なさそうな顔をし、


「ごめんごめん、善十郎をからかうのは楽しくてねー」


「ねー。リンカが善十郎をからかってた気持ちがよく解るよねー」


「うんうん。――あ、それとね、善十郎。この前のことを気に病むことはないよー」


「善十郎も一般人を巻き込んでしまったのは不本意だったんだよねー、わたしたちはちゃーんとわかってるからねー」


 と、そこで二人は揃って善十郎へと無邪気に笑いかけ、


「「きっと、リンカもね!」」


「……」


 これ以上言っても無駄だと判断したのか、善十郎は彼女たちには取り合わず、書類へと視線を戻した。――と、その時に見ていた書類が、彼女たちが以前自分に提出したものだということに気付く。


「和葉、優葉。この報告書はなんだ?」


 言いつつ、その報告書を彼女たちの目前に突きつける。が、その報告書に目を通した彼女たちは疑問符を頭の上に浮かべ、


「なになにー? わたしたちの報告書がどうかしたのー?」


「なんだー、ただの報告書かー。エッチな写真をわたしたちに見せて、楽しむつもりなのかと思ったのにー」


「やん、善十郎のエッチー」


「……わたしが言っているのは、この報告書の内容だ! なんだ、この『たのしかった、にんむ』とは! 何も報告できていないではないかっ!」


「それを受け取る善十郎も善十郎だよねー」


「ねー」


「――勝手に机の書類の山に紛れ込ませたのは貴様らだろうッ!」


 飄々とした態度を一向に崩さない和葉と優葉に対し、善十郎は机を殴りつけながら怒号を飛ばした。しかし、それでも彼女たちの不遜な佇まいは乱れない。というよりも、善十郎に怒られることに慣れてしまっているのだ。

 それほど彼女たちは善十郎に苦労を掛けてきた、ということである。


「いーじゃん。適当に直しといてよ、善十郎」


「そーそー。代わりに書いてよ、善十郎」


「……内容は」


 不機嫌そうに唸りながらペンを手に握り、新しい紙を引き出しから引っ張り出した善十郎。それを見た和葉と優葉は嬉々として任務内容を述べ始めた。


「えっとねー、東京港に密入国しようとしていた不届き者がいたのでー……」


「その船の背後にこっそりと忍び寄ってー……」


「「ドッカーンと、やっちゃいましたー」」


「……はぁ……ちゃんと筋道を立てて話せ。愚か者ども」


 身ぶり手ぶりで壮大な任務内容を述べた二人を見た善十郎は、ついに本格的な頭痛に襲われ始めたようで、頭を抱え、心底困ったように溜息をついていた。



 それからしばらく――

 ようやく和葉と優葉の報告書を書き終えた善十郎は椅子へと沈み込むように腰掛け、彼にしては珍しく疲れたような表情を浮かべていた。

 そんな彼の左右には、和葉と優葉がニマニマと笑みを浮かべながら佇んでいる。


「お疲れ、善十郎」


「まいど、善十郎」


「……終わったのだから、さっさと次の任務へ行け……」


「それがそうもいかなくってねー」


「報告しなきゃいけないことがあるのよー」


「……なに?」


 和葉と優葉が真面目に『報告』などと言うのはいつぶりだろうか。少なくとも、この数ヵ月の内にはなかったことだ。

 このような出来事は、善十郎が「……今日は槍でも降っていただろうか……」と、窓の外を眺めながら現実逃避しかけるほど、本来はありえないことなのだ。

 ちなみに今日は雨が降っているが、槍は降っていない。


 ――そもそも、彼女たちの『力』は世に跋扈する魔術師たちの中でも一際異端で物珍しく、そして、それに見合うほどの強大な破壊力を有している。なので、大概の問題ならば力技で押し通してしまい、任務後にわざわざ『報告』などという形を取らなくても全てがきれいさっぱり、文字通り『終わって』しまうのだ。


 であるにも関わらず、彼女たちが報告の体を取るなど、余程の事態なのだろう。

 善十郎の疲れていた表情に凛々しさが戻り、眼孔に光が戻る。


 それを見るや否や、和葉と優葉は先ほどとは打って変わり、真面目な雰囲気で言う。


「今回行ってきた任務でさー」


「ちょっと気になる情報を手に入れたんだよねー」


「気になる情報?」


 コクリ、と二人同時に頷き、


「今回は善十郎に言われた通り、不穏分子を掃討したんだけどさー。その集団の頭を尋問したらねー、キナ臭い動きの組織があるって裏の界隈じゃ噂が立ってるらしいんだよー」


 今回彼女たちが引き受けていたのは、先日、治安維持部隊から鬼術部隊に委託された任務、『都内で発見された、ある地下組織の撲滅』だった。


 数日前、治安維持部隊がその組織を独自に調査したところ、世界基準で比較すると平穏な部類に入る日本に存在するテロ組織としてはなかなかの規模を誇っていた。

 しかも、どうやら魔術師も複数召し抱えているようであり、場合によっては治安維持部隊の手には余る可能性が考えられる相手だった。

 よって彼らは、日本内部で相当の実力を誇っている鬼術部隊に業務委託してきたのだ。


 テロ組織の解体に向かった和葉と優葉は、複数人の魔術師と、携行火器で武装した数十人の非魔術師を相手にたった二人で奮戦。――数分とせずに鎮圧し、全ては終わったかに思われた。だが、その組織の頭が気になることを言っていたのだ。


 それが、裏社会に流れている噂についてだった。


「必死に命乞いしながら言ってきたから、口から出任せじゃないだろうねー。そういう噂が流れてるってことは間違いなさそー」


「……噂の組織の名は?」


 問われた二人は顔を見合わせた後、重苦しくその名を口にする。


「「……『キメラ』」」



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