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双天の共鳴者  作者: 月山
第二章-1「キメラ襲来」
33/126

戻ってきた日常


 男は荒く息を継ぎながら山道を歩いている。いや、これはもう道などではないかもしれない。言ってしまえばただの茂みだ。

 足元など草に隠れ、地面の一辺を視認することさえできない。

 木々は行く手を阻むように立ち塞がり、枝で道を遮り、根は大地を隆起させ、地面はあらゆる場所に凹凸を生み、その奥へと、もっと先へと、男の目的とする場所への到達を妨げるように存在している。


「……はっ……はっ……」


 茂みを掻き分け、ひたすらに歩く。

 歩き続ける。

 そして――


「……ここが、……はっ……っ……指定……ポイントっ……」


 山々の中に存在する拓けた小高い丘の中心。辺りを一望できる高台。未開の土地。誰の手も着いていない、未踏の大地。


 男はしばらく目を瞑り、息を整えると、その場にしゃがみ込み、背に抱えていたリュックから何か、漆黒に染まった手のひら大の球体を取りだした。

 それを右手に握りしめ、


「……ゲノム照合……代替者によるアクセス認証。…………術式、起動」


 『起動』の言葉と共に、その物体が脈動を始める。ドクン、ドクン――と、まるで人の心臓であるかのように、静かに拍動を刻む。球体の中で淀んでいた漆黒が乱雑に渦巻き始め、怪しげな雰囲気を醸し出す。


 その物体を、男は地面へと叩き込んだ。


 そしてそれは、まるで始めからそこに納まっていたかのように、乾いた大地に染み込んでいくかのように、ズブズブと呑み込まれていく。

 その様を男は狂気に歪んだ満足げな顔で見届け、その後ポケットから端末を取りだした。

 画面に表示されているのは地図。『彼ら』の準備が済んだ場所のマーカーが赤く発光している世界地図だ。


 それを見た男は端末を仕舞い込み、愉快そうに呟く。


「……これで、九九○個目……あと……少し……」


 男は嬉しそうに口元を歪ませると、その場に横たわった。

 まるで、埋め込んだモノを護るように、誰にも邪魔をさせないように。

 彼はそのまま待ち続ける。計画の始まりを。



 大神敏也の朝は早い……こともない。現在の時刻は六時きっかり。

 目覚まし時計が盛大に鳴り響き、眠っている家主に、さっさと起きろ、と告げてくる。


「……ん」


 胡乱な眠りの中にいた敏也が耳障りな音に反応し、ベッドの上で僅かに身じろぎすると、その直後、枕元に置いてある目覚まし時計のスイッチを高速で平手打ちした。

 バンッと音がし、目覚まし時計はその雑な扱いに対し、心底不服そうに黙り込んだ。


「……ねむっ」


 そして、瞼を半分ほどまで上げた敏也が、ベッドの上に横たわったままでそう呟いた。

 彼がこのような学生の身分としてはやけに早い起床時間を設定してあるのは、ひとえに彼が一人暮らしだからであり、やるべきことが多いからだ。

 それには、朝食の準備、それの後片付け、衣類の洗濯などが含まれ、さらに、数日前から始めたある日課も組み込まれている。


「……行くか」


 緩慢な動きで身を起こし、寝間着としていた古めかしいシャツと丈の短いズボンを脱ぎ捨てる。そして箪笥を開け、ジャージとラフなシャツを引っ張り出し、身に纏う。

 それから歯を磨き、顔を洗い、気分がさっぱりしたところで玄関を出た。


 外の景色は、時間のわりにはかなり明るくなってきている。

 これは、夏が近づいてきている証拠なのだろうか。だが、そんな明るい空の所々には黒い雲が疎らに目につき、昼ごろには雨が降り出してもおかしくないように思えた。


 エレベーターに乗り、そのまま一階まで降り、学生寮の厳重なセキュリティが張り廻らされた玄関を出る。と、玄関を出る際に男子寮の寮母兼管理人の女性と鉢合わせたので、敏也は適当に挨拶をしていた。


 ぼんやりとした頭のままで道を歩き、学生寮一帯の南側にある高台の丘に辿り着く。

 ここは戦修学園の近くにある海が一望でき、なおかつ涼しげな風が吹き抜ける素敵スポット。しかも、群生している芝生の真ん中に一本の大樹が聳え立っているという、いかにもな雰囲気を放っている場所である。

 そしてなによりも、敏也とエリーネが初めて喧嘩をした場所でもあるのだ。


(うん、今日は誰もいないな。……ラッキー)


 だがこの場所は、性別:男が頻繁に出入りしていると変態のレッテルを貼られてしまうことでも有名である。

 ――なぜなら、女子寮が近くにあるから。

 迂闊に視線を向け、数十メートル先にある女子寮、そのベランダにいる女生徒と目と目が合いでもすれば悲鳴確定……とまではいかなくても批難の視線は確実。


 ということで、ここに出入りする人物は大概女子、もしくは所帯持ちもとい恋人関係の男女が占めている。

 しかし、それは普通の人間が活動を始める昼間の時間に限ればである。

 こういった人気の少ない時間帯は、時々静けさを求めた男子生徒がひょっこりと顔を出す穴場の刻なのだ。決して厭らしい目的のために参上しているわけではない。


「……よっと」


 大樹の元まで辿り着くと、その南側に腰を下ろし、陣取る。

 そして、敏也は目を瞑った。


「集中……集中」


 これは楽な姿勢のまま魔力を練り上げ、それを魔術に変換せず、一定時間保つ訓練。

 この訓練を地道に繰り返すと、魔力の制御能力に磨きが掛かるのだとか。

 それを数日前にエリーネを通して知った敏也は、それからほぼ毎日、この場所で、この時間に訓練を行っている。


 魔術に関する訓練をしたい場合、学園が設置している魔術師用のトレーニングルームを使用してもいいのだが、そこはよっぽど遅い時間か早い時間以外は必ず誰かが居るため、こういった集中力を必要とする訓練には向かないのだ。


「……っ、……うぁ」


 しばらくそうしていると、急に敏也の身体がぐらりと揺れ、前のめりに倒れた。

 が、間一髪で両手を地面に着き、なんとか体勢を立て直す。


「またかよ……くそっ」


 悪態をついた後、背中側にある大樹に背を預ける。そして、怪我をしなくて済んだことに安堵の息を吐き、額に浮かんだ冷や汗を手の甲で拭った。

 と、その時、


「……うまくいかないようですね?」


「っ! ……見てた?」


「ええ、バッチリ」


 敏也のもたれている大樹の東側に、眠そうな顔をしているエリーネが立っていた。寝ぼけ眼を擦る仕草が実に可愛らしい。が、彼女自身にその自覚はないのだろう。


 恥ずかしいところを見られたからか、敏也が顔を少々赤く染め、照れ隠しに言う。


「こそこそ覗き見なんて、良い趣味してるな、エリーネ」


「……なんです、その言い草。せっかくコツを教えてあげようかと思って早起きしてあげたのに……その様子だといらないみたいですね? 残念です」


 にやりと笑みを浮かべながら、エリーネが言った。


「あっ、嘘です。よくよく考えてみればエリーネが覗きなんて下衆な真似するはずがないよねっ! だから教えて!」


「なんて変わり身の早さ……。私、なんだかあなたのことが可哀そうに思えてきました……」


「……やめろ、憐れまないでくれ。そんな目で見るな。藁にも縋りたい現状なんだよ」


 しくしくと泣きながら敏也は懇願し、エリーネは呆れたように溜息を吐く。


「だったら、うまくいかないことが分かった時点で言ってください。コツを教えることを渋ったりしませんから……。だから、強がらないでください」


「それは……無理というか、なんというか…………男の意地?」


 女性に恰好をつけたがるのは男の本能だ。仕方ない、実に仕方ないことだ。なので、正当性はこちらにある。

 ――などと敏也は考えているが、当然、彼と同年代であり、男心の機敏を知る由もないエリーネに伝わるはずがなく……。


「……そんな小さなプライドに構っていられるほど、あなたは強いんですか?」


「うっ」


「そもそも、学業に身を入れ始めたのがつい先日のあなたが、小難しい説明を一回されただけで理解できるんですか?」


「くっ」


「それに、基本的に魔術のセンスがないあなたに、つまらない意地を張っていられるほど伸び代があるんですか?」


「い、今のはひどいっ! ひどいぞっ、エリーネ! さすがに俺でも傷付――」


 と、敏也が涙目になり、言いかけたところでエリーネが手のひらで制す。そして、その優しげな空色に染まった瞳で、話は最後まで聞け、とでも言いたげに敏也を見据えた。


「――ですから、一人で頑張ってもあなたが伸びていくことはないんです。だってあなたには伸び代がないんですから。では、どうするべきだと思いますか?」


「……わかんねえよ」


 敏也のいじけたような言い方に、エリーネは、ふう、と息を吐き、


「……それはですね、自分よりも優れた人から教わることです」


「教わる?」


 得意げな表情をしたエリーネが言った言葉に、敏也は首を傾げた。


「そうです。無いならどこかから持ってくればいい、の考え方です。……今、私が言った伸び代とは、なにもあなたという存在の限界を指したわけではありません。私が言ったのは、あなたが自力で伸ばしていける部分はもうないということです」


「……」


「いいですか。私だって、初めから攻撃魔術が得意だったわけではありません。障壁魔術を高度に使いこなせたわけでもありません。――それはひとえに、母様から師事を受け、今あなたが実践している訓練を重ねて身に付けたものなんです」


「エリーネの……お母さん?」


「はい。私の自慢の母です。……つまりなにが言いたいかと言いますと、日常の中でも、戦いの中でも関係なく、自分より強い相手から技量を盗むんです。相手の技を見て、聞いて、受けて、それを経験として自分に組み込む――それが強くなる秘訣なんです」


「ふうん……」


「だから、あなたが今するべきことはただ我武者羅に足掻くことではなく、誰かに師事を仰ぎ、誰かに助けを求めることなんです」


 言われてみれば確かにそうだ。

 無い頭で「うんうん」と唸りながら考え込んだところで、自身を取り巻く事態が好転したことなどまったくといっていいほどなかった。そして、そういう時こそ周りを素直に頼ったほうが物事はうまくいくことが多い。


 ただ、人がそこまで素直になるのは難しい。

 他人に弱さを見せるのは恐ろしいことだ。自らの足場が崩れていくような――そう、言ってしまえば、今まで積み上げてきた人生が全て水泡に帰してしまうかのような。

 しかし、それは所詮幻想であり、あるいは被害妄想だ。


 積み上げてきた時間と経験は決して無駄ではない。無駄に成りはしない。

 それを無駄にして腐らせてしまうのは、いつだって自分自身の『人に弱さを見せたくない』という小さなプライドに他ならないのだ。


 だが、今の自分はそうではない。もう、意地と虚勢を張っていた頃の自分とは違う。


「エリーネ」


「なんですか?」


 エリーネが柔らかく微笑み、耳に掛かっていた長い銀髪を掻き上げながら応えた。

 そんな彼女に対し、敏也は自分の照れた顔を少し逸らしながら、横目で伺う。


「コツ、教えてくれ」


「……ふふ。――ええ、もちろんいいですよ」


 エリーネはそう言いながら、敏也の隣に腰を落ち着け、海のほうへと目を向けた。

 ――その姿が朝焼けを受けて輝いているように見え、その美しくも可愛らしい風貌が一層磨かれたように映り、そんな彼女を見ている敏也は心拍数を際限なく上昇させていた。


(ああ……こいつ、ほんと綺麗だな……)


 その在り様も、その容姿も、全てが高潔に、美しく見えてしまう。だから、自分などが彼女に世話を焼かれているのは本当に分不相応に思えてしまう。

 でも、突き放すことはしない。なぜなら、それはきっと彼女を傷付けてしまうから。


 ならば、いつか来る別れの時まで、この関係を続けよう。

 彼女が満足するまで、戦友で……友達で居続けよう。

 それが、無暗に彼女を傷付けてきた自分にできる、唯一の罪滅ぼしのはずだ。


「エリーネ」


「……?」


 首を傾げ見てくるエリーネに、敏也は半眼を向け、


「ところでさ……そんな寝間着でこんなところまで来て、恥ずかしくないのか? そもそもなんで着替えてこなかったんだ?」


「っ、こ、これは…………うっかりしていたといいますか……」


 彼女の恰好はネグリジェ。白を基調とした色合いで清楚さを演出し、その上から羽織っている桜色のカーディガンが一種の防壁となっている。

 上質な繊維で編まれたその服は彼女の身体を護るためにはやや貧弱で、その類稀なるボディラインをうっすらと浮かび上がらせている。


 なんでもエリーネが言うには、起床してから窓の外を見てみると敏也の姿が見え、自分が起きるのが少し遅かったことに気付き、ここに急いで来たのだとか。

 顔を俯けたまま真っ赤にしたエリーネに対し、敏也は呆れた風にしながらも、その眼差しだけは優しげに微笑んでいた。



 それからしばらくの間、エリーネからの指導を受けながら訓練を積んだ敏也は、時刻が七時近いこともあってか、そろそろ引き上げることにした。

 重い腰を上げ、ゆっくりと立ち上がりながらジャージに付いた土を払いのけつつ、


「じゃあ、そろそろ帰るか? メシの準備とかもしないといけないし」


「そうですね。授業の支度も――」


「ん? ……どした?」


 途中で思案顔になり、顎に手を当てて黙り込んでしまったエリーネに対し、敏也は首を少しだけ傾けながらその様子を伺った。

 その視線に気付いたのか、エリーネが敏也の視線へと自らの視線を合わせ、


「……あの、もし良かったら、……私が朝ごはん、作りましょうか?」


「え?」


 その『え』は、きっと濁点が付いていた。



 そして現在、大神敏也とエリーネ・フリートハイムは女子寮のエレベーターに乗り、エリーネの自室――最上階の角部屋まで向かっている。


 ちなみに、女子寮に入り込んだ際に摘み出されるのではないかと敏也は怯えていたのだが、女子寮の寮母と出会った直後、「あらあら、朝からだなんて……」などと、非常にまずい誤解を抱かれてしまったようで、おまけに見逃されてしまっていた。

 さらにそれは、寮母に捕まれば逃げることができるかもしれないと内心で僅かながら期待していた敏也としては、ある意味残念な結果だったりするのだ。


 そんな複雑な思いの敏也は、パネルの前に佇むエリーネの背中に声をかけた。


「なあ、エリーネ。寮母さんたちは両学科の男子寮・女子寮揃ってアレな人ばかりだからあの反応はいいとしてもさ、俺が女子寮に入って大丈夫なのか?」


「なにがですか?」


 なにがですか、じゃない。エリーネには危機感というものがないのだろうか。

 敏也は眉間に出来てしまった皺を揉み解しながらエリーネに向かい、


「だって俺、男だぞ? ある意味じゃ女の敵だぞ。ホントにいいの? 良からぬこととか企んじゃうよ? やらしいこと考えるよ?」


「……今更、というものですね。あなたがいやらしい人だということはわかりきっていますし、それに、何か問題を起こそうとしても不可能ですよ」


「どういうことだ?」


 ――答を貰う前に最上階に着いたため、二人は話を進める前に降りることにした。

 そして、最上階特有の強い風の吹く通路を進みながら、エリーネが言う。


「ここ――魔術科の女子寮には寮生間、そして寮母さんとの間で、ある鉄則と約定が制定されているんです」


「……なにそれ」


 その物々しい言葉に敏也は、頬にタラーっと一筋の冷や汗を流した。


「そう気負わなくても内容はそうややこしくなく、簡単ですよ。

 ――一つ、男子を連れ込むことを基本的によしとする。

 ――二つ、男子が不届きな行いを働いた場合は女子全員で対処する。

 ――三つ、微かでも隣室に異常を感知した場合は即座に突入する。

 これぐらいですね。あといくつかあった気もしますが、久しく思い起こしたことがなかったので忘れてしまいました」


「……ああ、そう。なんとなくわかったよ」


 つまり、アレだろう。

 お呼ばれされた男子、もしくは警備網を掻い潜って侵入してきた不届き者が何かしら女子に不利益を齎す行為に及んだ場合は、その際に発するであろう肉体強化に使用した魔力の揺らぎを即座に誰かしらが感知し、救援に訪れると。

 そして、その男は女子数十名――あるいは魔術科女子寮を現在利用している二百名近い女子たちから完膚なきまでの袋叩きに遭い、最終的にはボッシュートされてしまう、と。


 なんという世紀末世界なのか。自業自得だとはいえ、あまりにも容赦がなさすぎる。ここは秘密の花園などではなく、悪鬼が蔓延りし魔の巣窟ではないか。


「……そういや忘れがちだけど、女子一同も肉体強化使えるんだもんな……」


「ええ、その通りです。だからこその緩い取り決めなのでしょうね。いざという時でも最低限自分の身を護れますし」


「でもさ、お前はもうちょっと気を付けたほうがいいんじゃないか?」


「どうしてです?」


 小首を傾げながら問いかけてきたエリーネに、敏也は呆れたような視線を向け、


「あのな……お前は肉体強化使えないだろ? もし……その、あれだ。誰かがお前を襲おうとして、もし助けが間に合わなかったら大変なことになるじゃないか」


 敏也はそう言いつつ、脳裏に想像した光景が、腸が煮え繰り返るほど不快だったのか、途中からはとびきりの苛立ちを表情に浮かべていた。

 そんな彼の顔を見つめていたエリーネはふっと笑みを零し、


「……心配……してくれてるんですか?」


「……当たり前だろ。俺たちは……実験のパートナーなんだから」


「ふふ、そうですか」


 くすくすと、エリーネは上機嫌に笑いながら歩いている。だが、敏也はその笑いがまったく不愉快でなく、むしろどこか安心感を覚えていた。


 そして、二人はエリーネの居室の前に到着した。

 エリーネは桃色のカーディガンに備え付けられている小さなポケットから鍵を取り出すと、それを鍵穴に射し込んだ。さらに、それを回すとカチャリと音がし、鍵が外れる。


「大神くん、先ほどのお話ですが……」


 扉を開き、先に部屋の中に入ろうとしているエリーネが呟く。


「たぶん、そう心配する必要はないと思います」


「どうしてだよ?」


 訊かれたエリーネが敏也へと、横顔から万年働き続けたかのような疲れた視線を送り、


「……この部屋の下、八咫神さんなんです……」


「……あー……」


 その一言で納得できてしまった。

 エリーネ大好き人間の八咫神奈々。それが居を構えているのがこの真下だという。

 だとすれば奈々は、もしもエリーネの居室でなにか異常があったのなら犬よりも早くそれを嗅ぎ付け、野次馬よりも早く聞き付け、エリーネの部屋に突撃することだろう。それはもう冗談抜きで扉や壁、果てには窓ガラスすらもぶち破る勢いで。

 つまり、エリーネには心強いもとい、いろんな意味で恐ろしいボディーガードが四六時中付いているようなものなのだ。そんな物騒な相手をいったい誰が襲えるというのか。


「まあ、それだけではないとは思いますが……」


「へ? まだ他にもあんの?」


「いえ、もしかしたら違うかもしれませんし、これは言わないでおきます」


「? そう。……取り敢えずさ、入ってもいい?」


「あ、ごめんなさい。どうぞ」


「おう、お邪魔します。……そういや、お前の部屋入るの初めてだな」


 暢気な声を上げながらエリーネの部屋の中に消えていく敏也はまだ知らない。

『エリーネ・フリートハイムに手を出せば、大神敏也が地の果てまでも追いかけてくる』

 などと実しやかな噂が、彼を除く魔術科全生徒間で囁かれているということに。



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