反逆者たち
「ここはどこだ」
「病院さ。――もっとも、ここは政府には手が出しにくい、わたしの協力者の病院だがね」
博士は病人用のベッドの傍に立ち、その人物を見降ろしながらそう言った。
だが、ベッドの上で横になり、様々な点滴や器具をつけた彼は、納得していない。
「政府には手が出しにくい……だと? 貴様、いったい何者だ。何故わたしの命を救った? 何の目的で――」
と、その追及を博士は遮った。しーっと指で、彼に静かにするように諭す。
「落ち着きたまえ。今は小康状態だが、つい先日まで生死の境を彷徨っていたのだ。今血圧を不用意にあげれば――今度こそお陀仏だよ? なにせ君は、魔動機のコックピットで右腕をペシャンコにされ、他の部位を潰される寸前まで圧迫されていたのだから」
――そう、ベッドの上の人物は、第三交易都市で死んだはずの海堂だった。
「だから、せいぜい傷が治るまでおとなしくしていたまえ。せっかく政府と取引してまで君たちを引き取ったんだ。何かを成す前に死なれてはたまらない。こっちだってそれなりの対価を政府に支払ったのだ」
それを聞いた海堂は、ギリっと奥歯を噛み締める。
「情報を引き出そうと言うのなら、いっそ――」
「違う」
海堂が言おうとしたことを博士が遮った。
「わたしはね、君の持つ情報など欲しくはないのだよ。欲しい情報など、とうの昔に全て手に入れた。――魔動機の成り立ち、九年前の惨劇の真実、――そして、この世の裏側に潜む、破滅の悪魔のこともね」
「な……に?」
海堂の顔が驚愕に歪む。
今この女は何を言った?
真実?
全てを知っていると言ったのか?
「わたしに協力してくれるのなら、――その全てを、君に開示すると約束しよう」
博士はジロリと海堂を見る。
「その上で君に問うが、――わたしの私兵になる気はないかね?」
「……」
沈黙が場を包む。が、海堂が口を開く。
「……どういうことだ?」
「いや、なーに、計画の第一段階が無事に済んだのでね。フェイズⅡへの移行準備を整えているのさ。そしてそのためには、わたし個人で動かせる駒が何かと必要でね。そこで、ぜひ君たちにお願いしたいと思ったのさ。……わたしと同じで、悲劇の目撃者である君たちにね」
「……君たち……ということは――」
「君の部下たちもこの病院にいるよ。生き残ったのは僅かだが。……確か、その中には金髪の女性がいたかな。まあ、今は会わせられないがね。誰もかれも、集中治療室を我が物顔で占拠しているんだ。……ま、いずれ目を覚ますさ」
それを聞いた海堂は少しだけ安堵すると、思案顔で黙りこんだ。
そして、
「……少し……時間が欲しい」
「いいとも。――ああ、一つ言っておくと、別に断ったところでペナルティなどはないよ。わたしはそういった胸糞悪くて意地の悪いシステムが嫌いなのでね」
そこで思い出したように言う。
「そうだった! ――君の右腕の代用品だがね、特注品をオーダーしておいたよ。きっと本物の腕と大差なく動かせるはずだ。それについての施術は、届き次第、主治医がしてくれるだろう」
そう言って、白衣を翻す。
「――では、存分に悩み、養生してくれたまえ」
それを最後に、博士は病室を去っていった。




