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指輪が重くて  作者: もも


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4/9

 真実

 屋敷に帰ったリアムは父に取り次いでもらうよう家令に頼むと正装を脱ぎ捨てた。

自分の愚かさが嫌になった。ハニートラップに引っかかった。道化だ。


あんなに可愛いオリビアを裏切った罰だ。

役に立たない自分は、暗い地下牢に繋がれて、一生を終えるのかもしれない。

唇を血が出るほど噛み締め拳をぎりぎりと握りしめた時、扉を叩く音がした。







「旦那様がお会いすると仰っています」侍従の声がした。



「すぐ行く」そう告げると思い足取りのまま執務室の扉を叩いた。


父は書類に目を落としていた。


「父上、申し訳ございません。家に泥を塗りました。処分は如何様にもお受けいたします」


「種が明かされるまで気が付かないとは情けない。お前の私費から慰謝料は出す。

何故だ?違う花が珍しかったか?オリビア嬢を愛おしく想っていると思っていたのは私の思い違いだったのか。

彼の方は我らの破滅をお望みかもしれぬな。

我らが結び付いて大きくなり過ぎるとここに来て不安になられたのか。

馬鹿なことをお考えになるものだ。

追って沙汰を伝える。部屋で謹慎していろ」


「考えが足らず申し訳ありませんでした」更に白くなった顔色の息子が答えた。





「このお返しは必ずさせていただく」



息子の出ていった執務室で、そう呟いた侯爵の低い声は壁だけが聞いていた。





















 オリビアは新しく護衛兼侍従になったサムことサミュエルとサラと一緒に領地へ静養に来ていた。

学院へ行っていたがリアムと一緒に学院生活を送ってみたかっただけで、教養に対しては幼い頃から付けられていた家庭教師から教わり全て学び終えていた。




領地では大勢の使用人が久しぶりのお嬢様を迎えて張り切っていた。


「お嬢様お帰りなさいませ。ごゆっくり寛げるよう使用人一同張り切っております。久しぶりに主が戻って来られるのは嬉しいものですな」


「ありがとう。よろしくね。サラは知っているわね。こっちは新しい護衛兼侍従のサミュエルよ。サミュエル分からないことはこのブラウンに聞いてね。我が領地の生き字引だから」


「お嬢様生き字引とは大げさでございます。そんなに年はとってはおりませんぞ」


「年だとは言っていないわ。頼りになると言ったのよ」サラが顔を横に向けて肩を震わせていた。


「それなら宜しいですが」屋敷はオリビアへの温かな気配いに満ち溢れていた。


皆リアムの仕打ちに腹を立てていた。

お嬢様を袖にするなぞ百年早い!と憤る者ばかりだった。



 お嬢様到着の歓迎会は好物ばかりが並べられた物になった。

レタスと木の実に苺を沢山使ったサラダ、肉をとろとろに煮込んだビーフシチュー、領地特製ハーブ入りソーセージ、ナイフの要らないくらい柔らかなステーキ、ローストチキン、チーズの盛り合わせ、苺のケーキ、テーブル一杯に載せられたご馳走はオリビアの願いで、皆で食べることになった。


ビールやワインも振る舞われたが、二日酔いや悪酔いして絡むと首だとブラウンに強く言われていた為、羽目を外す者はいなかった。


王都にいた家族はここにいない。ここで家族と同じに思えるのは仕えてくれる使用人達だった。

ここで笑って暮らしたいとオリビアは未だ悲しみの残る頭の中で願っていた。












 サミュエルはあっさりパトリシアに落ちたリアムの護衛をするのが嫌になり、オリビアのウイリアムズ伯爵家に護衛兼侍従として雇って貰うよう直談判をした。


面白がった伯爵は直ぐに雇ってくれたが半年は試用期間だと言った。

為人を見極める為だった。なおスミス侯爵からは惜しまれ引き止められた。


「ハニートラップだとわかっていたのか?」


「かもしれないとは思っていましたが、言っても止まる感じではありませんでした。もっと踏み込んでお止めするべきでしたか?」


「いや、そこまでさせるつもりは無かった。反対されれば余計に燃えるのが恋だからな。麻疹だ。婚約者で予防していたつもりだったのだがな」


「あんなに強力な予防接種でしたのに残念です」


「全くだ。良い勤め先を紹介しようか」


「いえ、希望する家は決めています」


「そうか残念だが、頑張るように」


「ありがとうございます。失礼します」



「惜しい者を繋ぎ止めることが出来なかった」と言う侯爵の声は誰にも届かなかった。










「サミュエルはこの領地のことはどれくらい知っているの?」


「一通りでございます。こちらに来る前に勉強をして参りました。何処かへお出かけになりたいのですか?」


「ううん、暫く屋敷にいてゆっくりするわ。酪農や苺、薬草作りが特産だから美味しい物が沢山食べられるわよ」


「期待しております。今日も美味しかったですから」出来る侍従はにっこりと笑った。




 半年経った頃にはオリビアの傷も痛まなくなっていた。

思い出して泣くことも夢にうなされることもなくなった。

あるのは指輪が重かった思い出だけだ。


 そろそろ次の縁談を勧められるのかしらと憂鬱になっていた頃、屋敷の前に行き倒れが出た。夜明けと同時に門番が見つけた。

泥だらけで転がっていたその男は骨と皮と言っていい程痩せていて、ぼろぼろの服を纏っていた。



 ブラウンが湯に漬け使用人の制服を着せ、食べ物を与えた。空腹な男はガツガツと食べていたそうだが、所作が綺麗だったので使えるかもしれないと注意深く観察されることになった。


読んでいただきありがとうございます!

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