92話
旧ゆるじあでは翠の年齢を700歳超えとしていましたが、900に変更してます。
「元々身に覚えがなかったけど、今ので確信に変わった。ならどこで?そもそも何故部外者がここに?どこか見落とした部分が…。」
凛は難しい顔でぶつぶつと呟き、不思議に思った美羽が「マスター?」と尋ねる。
「うん、やっぱりおかしい。」
「何が?」
「さっき、昨日も会ったって言ってたでしょ?」
「うん?うん、そうだね。」
「それはね、有り得ないんだよ。」
「どうしてそう言い切れるの?」
「美羽、良く思い出して。昨日の僕に誰かと会う余裕が会ったと思う?」
「昨日…昨日…あ、そっか。とてもじゃないけど誰かと会うのは難しいかも。」
昨日は訓練後、ガイウスとランドルフを伴い、サルーンやスクルドで打ち合わせ等を。
それらを終え、帰宅してすぐに夕食。
夕食が済むと入浴の為に一旦解散し、再び集まっては就寝近くまで話し合いを行っていた。
美羽は昨日は一緒に入浴出来なかったものの、それ以外全ての行動を凛と共にしており、だからこそ彼のアリバイが証明出来たとも言える。
「…貴方は誰ですか。」
「あらあら、すっかり警戒されちゃったわね。」
凛の冷たい眼差しに、女性は何をするでもなくコロコロと笑うだけ。
全員が毒気を抜かれる中、凛だけが未だ警戒した様子で口を開いた。
「それにおかしいと思った点はもう1つあります。先程お姉さんは僕をちゃん付けで呼びましたよね?」
「ええ、そうね。」
「その呼び方をする人は、僕が知る限り2人しかいません。」
凛を凛ちゃんと呼ぶ人物…それは姉である里香、それとプレシアだ。
プレシアの場合、基本は凛ちゃん。
しかし彼を訪ねる時に限り、『凛ちゃん凛ちゃん』と2回重ねて呼ぶ。
それ以外は呼び捨て、もしくは君、さん、様、殿のいずれかとなる。(ただし美羽、ナビ、藍火だけは例外)
ただ、里香、プレシア、女性の3人は、ほんわかお姉さん気質なのが共通点として挙げられる。
「あら、そうなの?でも、1ヶ月位前から貴方の事を知ってるのは本当よ。まぁ、見た目は今と違うし、会うのは毎回朝なんだけどね。」
「見た目?朝?」
「ではここでクイズです!」
「クイズ…?」
困惑する凛を他所に、女性は「デデン!」と効果音を口にする。
「1ヶ月…厳密には27日前。凛ちゃんは何をしましたか?」
「27日…偉く具体的だな…ええっと、その日は…。」
《マクスウェル様との修行を終え、降臨された日です。》
「そうだった。エルマ達や紅葉達を助けた日だ。」
「正解♪それじゃあ、エルマちゃん達の近くにいたのは?」
「エルマ達以外だと、襲って来たオークと背の高…まさか!?」
「そう!その考えで合っているわよ!」
女性は立ち上がり、キメ顔でビシッと凛を指差した。
その仕草は、さながら逆○裁判の異○あり!みたいにも見える。
「だからか…。どこかで聞いた事のある声だと思ったんですよね。」
凛は今になって気付いた様だが、(引っ越しの後に行った)木の植え替え作業が終わってから聞こえた声は彼女のものだった。
それと、彼女達は白いワンピースを着用。
これは浴室の入口付近に設置した6段の衣装ケースの中にあり、上3段が男性もの、下3段が女性ものとなっている。
「それに、貴方がその木だと仮定した場合、確かに毎日会ってます。」
通常、訓練の後に汗を流す目的でシャワールームへ向かうのだが、凛達は汗を掻かない体質だ。
故にその時間中は木の所へ向かい、水やり等を行っていた。
女性は「あら?」と言って座り直し、再びにこにこしながら話し始める。
「凛ちゃんには恩しか感じていないのよ?なのに嘘なんてつく訳ないじゃない。貴方は見てて面白いし、優しさに溢れているんだもの。」
「いや、そんな…。」
「ただ背が高い木でしかない私を気に掛けてくれる人なんて、これまでいなかった。それが何よりの証拠よ。純粋に嬉しかったしね。凛ちゃんは毎日私に話し掛け、雫ちゃんと共に魔力の籠もった水を与え、楓ちゃんが土を元気にしてくれた。
そのお陰なのでしょうね。ついさっき、私の根元に生えていたこの子達と共に、今の姿になったの。だからそのお礼をと思ってここへ来たって所かしら。あ、悪いとは思ったのだけど、服を拝借させて貰ったわ。」
「成程、そうだったんですね。それにしても、良く衣装ケースと服の事が分かりましたね。」
「あら、流石にその位なら分かるわよ。私、これでも900年以上は生きてるのよ?」
『きゅっ、900年!?』
女性が見た目に反し、実はかなりの高齢だった。
その事実に凛達が驚き、女性はそんな彼らに深く頭を下げる。
「…改めてお礼を。凛様…そして楓様のお陰で、私達はこうして進化する事が出来ました。ありがとうございます。」
「「ありがとう、ございます。」」
「え…私もですか…?」
女性は頭を下げ、たどたどしいながら少女達も頭を下げる。
凛はきょとんとし、楓は何故自分もお礼を述べられるのかが分からないと言った表情に。
女性は長く生きた影響で半妖精化し、植え替えを行った事で吸収する魔素の量が増え、後数年もすれば進化する所だった。
しかし美羽達が進化し、より魔力の籠もった水を与えられ、(楓は気付いていない様だが)『土神化』スキルの後押しも受けている。
そのおかげで一気に成長し、女性はドライアドへ、少女2人は女性の余波でアルラウネへと進化。
ドライアドは樹妖精と呼ばれ、進化して得た『結界術』スキルで魔物の侵入を防ぎ、『成長促進』スキルで場所を選ばず作物を育成出来る。
なので、この女性みたく顕現した例はないものの、エルフ達はドライアドがいる場所を集落として選ぶと言われている。
アルラウネは妖花と呼ばれるモンスターの一種。
本来は肌が緑色で、上半身が人間の女性、下半身が花だったり蔓で構成されている。
しかも食欲と性欲が旺盛で、種族を問わず雄を食らうとか。
しかしドライアドとなった女性の根元に咲いた影響からなのか、元々は1本の花だったはずが2人に分かれ、金髪と銀髪の少女へと変化している。
また、彼女達は進化した事で『薬液生成』スキルを得ている。
「…さて、見た所貴方達は色々な作物を育てている様だし、私達もそのお手伝いをしようと思ってるの。」
女性の言葉に、少女2人はこくこくと頷く。
「どうやら私は(成長促進スキルの効果で)成長を早められるみたいでね?それに植物と話が出来るから、きっとお役に立てると思うの。」
「「私達もお手伝いする。」」
「…つまり貴方達は僕達の仲間になりたい、と言う事で宜しいのでしょうか?」
「そう言う事♪なのでこれから宜しくお願いしますね?あ、ご主人様って呼んだ方が良いかしら?」
「「よ、宜しくお願いしま(ガンッ!!)痛い…。」」
女性はくすくす笑い、少女達は出遅れたとばかりに慌てて頭を下げる。
しかし勢い良くテーブルへ頭をぶつけてしまい、揃って涙を浮かべながら痛そうにする。
これに彼女達以外の全員が驚き、「うわ、痛そう…」との視線を向けた。
それから軽く話し合いを行い、女性は『翠』。
金髪の少女が『金花』、銀髪の少女は『銀花』と名付けられ、それぞれ休む事となった。
午前11時頃
凛はベータに呼ばれ、サルーンのとある建物へ向かった。
どうやらトラブルが起きたらしく、ベータの案内で部屋に入る。
「ホズミ様!!これは一体どう言う事ですか!?」
到着してすぐ、トラブルの主であるダンに詰め寄られた。
ダンは商国の首都に継ぐ大都市ヴォレスの代表で、ヴォレスにあるオークションの支配人でもある。
彼の後ろ…と言うか、テーブルに秘書のアップルの姿もある。
「ダンさん、落ち着いて下さい。」
「これが落ち着いて等いられますか!!何故田舎街でしかなかったサルーンがここまで発展するのです!?もはや我が国の首都エクバハ以上ではありませんか!!」
一昨日、サルーンは凛達の手で大幅にリニューアル。
街を北西方面へ延ばし、元々直径2キロもなかった街も今や15キロ以上の面積へと拡大。
そしてサルーンの真ん中辺りに1階建て、2階建て、3階建ての屋敷を。
その周りに和食、洋食、中華、レストラン、喫茶店と言った高級料理店。
それとあちこちに1LDK、2LDK、3LDKのマンションに小さな一軒家や多種多様な店。
最後に、それらを取り仕切る『ホズミ商会』の建物を建てた。
不動産の契約は全てホズミ商会の窓口で行われ、屋敷やマンション等の部屋は所謂オール電化住宅みたいな仕様に。
魔道レンジ、魔道冷蔵庫、魔道洗濯機、魔道食器洗い乾燥機、温水洗浄機能付きトイレを完備。
それらに併せ、商店では新たな商品を追加。
浴槽はスイッチ1つでお湯張りが行え、しかも使用後は自動的に清浄までしてくれる。
そのモデルルームが各マンションの1階にあり、体験した者がホズミ商会で契約が出来る事を知るか、そのまま直行する流れに。
家賃は1LDKだと月に銀板1枚、2LDKだと銀板1枚に銀貨5枚と言った感じ。
それとは別に、ハウスキーパーを派遣するサービスも。
ホズミ商会が営業を開始したのは昨日の午前8時から。
そこからひっきりなしに客が訪れ、既に1万件以上もの契約を済ませている。
他にも、A4サイズのコピー用紙やボールペン、様々なサイズのメモ帳やノート等の一般的な文房具や、良い素材を使用した高級文房具。
2階では宝石等の貴金属や(強い魔物を使用した)高級な家具、性能の良い魔道具も取り扱っており、そちらも賑わいを見せているとか。
凛達が現在いるのはそこの応接室。
部屋はベヒーモスの革を使用した黒いソファーに、死滅の森に生えた木を使ったアンティーク調のテーブルや椅子、クリスタルドラゴンの水晶を用いたシャンデリア等。
かなり高級感に溢れた仕様となっている。
ダンは生まれ変わったサルーンを一通り見て回り、いかに世界最大都市と言われるエクバハでもここまでのものを揃えるのは厳しいと判断したのだろう。
「オシャレで機能的な服!」
衣料品店も複数展開。
見た目は普通だったり可愛らしい服なのに、下手な防具よりも防御力が上との事で人気。
「どこよりも美人が多い!」
衣料品店内に化粧品コーナーがあり、新たにファンデーションや日焼け止めを追加。
各店にリーリアを筆頭としたメイクアップアーティストが数名在中し、彼女らからやり方を教わった結果、化粧美人が増えた。
また、リーリアはビューティーアドバイザーも兼任しており、外面だけでなく内面の助言まで行っている。
それと、小規模ではあるが男性用化粧品コーナーも設置。
どうやら、トーマスを始めとする(凛の配下の)男性達がスキンケアをしているとの噂が広がったらしい。
彼らは清潔感があり、肌も普通の男性から比べるとかなり綺麗だ。
故に女性客から声を掛けられる事が多く、それを見た男性客達が自分も肖りたいとの要望が多数挙がった。
尤も、そう言った不純な動機から始めた者程気を逸らせる等のミスに陥り、逆に嫌われてしまうと言うケースも。
「食事はどこも美味しい!特に中心付近が!」
飲食店の数や種類が増え、それにより食事のバリエーションも増した。
特に、屋敷が建ち並ぶ住宅街を囲う様に設けられた高級料理店に至っては、魔銀級の素材を利用している。
それだけならカムレノア、ダグラス、エクバハにも一応は存在する。
だが調理技術は凛達と比べて拙く、味付けに使用する調味料もほぼ塩や胡椒だけの一辺倒。
それがこちらだと半額以下で食べられ、しかも比べ物にならない位に美味しいと来れば、自然と行列待ちが出来る程に人気となるのも仕方ないと言える。
因みに、会計が金貨超えはざらで、紅葉が女将を勤める高級和食店は今日から営業開始。
暁を含めた鬼人達もここで働いている。
「そして街の中心部にございますは、とても辺境にあるとは思えない程に立派な城!」
その中心に、ガイウスが住まう5階建ての屋敷━━━と言うか、最早ちょっとした城と見紛う程に壮麗な建物━━━を新たに建てた。
ガイウスとしては元々住んでいた屋敷より少し大きい位で十分だったのだが、これにランドルフが待ったをかける。
サルーンは各国の首都と同じかそれ以上に栄える可能性があるのに、治める領主が小さな屋敷で満足するとは何事か、と。
これに凛が同意し、辺境の片田舎にはまるで似つかわしくない超豪邸が建てられた。
庭も勿論立派で、屋敷を含めた面積は現在のサルーンの10分の1を占める程に広大。
また、門から屋敷に向かう通路の途中にベヒーモスとリヴァイアサンの像が立ち、見る者を圧倒させる。(満足したのはランドルフと凛達だけで、ガイウスとアシュリン達は青ざめ、ダン達は見た瞬間卒倒したとか)
余談だが、2体の像を見たランドルフがガイウスの家紋(盾の後ろに剣と斧が交差する形)をベヒーモスかリヴァイアサン、又は両方が描かれたものに変えてみては?と提案。
これをガイウスは全力で拒否するも、最終的にベヒーモスが描かれたものへと変更させられた。
リヴァイアサンは既に使用済み。
ベヒーモスは家紋とした者が何故か不幸な事故で亡くなり、誰も使用したがらない為に枠が空いていたのも背景としてあったり。
「これらは謎の誘導員と共にいきなり現れ、まるで地面から生える様にして次々に建物が建ったそうです!どうせなら、この様な場所でなく商都とかなら良かったのに…。」
どこからともなくフードを被った者達が出現し、直接触れる形で人々を誘導。
すると高い防壁や石畳の道、店や家と言った建物が次々に建ち並び、一通り終わったら次の場所へ向かう。
その様子を、そこにいた者達は唖然とした様子で見ていた。
「と、とにかく!ホズミ様は私達と協力すべきです!現に、こちらで販売される品々が欲しいと思う方は沢山いらっしゃるのですから!」
椅子に座ったダンがバンッとテーブルを叩き、身を乗り出しながら叫んだ。
「申し訳ありませんが、その件は先日お断りしたはずです。」
ダンがサルーンへ赴いたのは、実は今日が初めてではない。
数日前にも来ており、今回みたく街を回った後、(オークションへの出品依頼を含め)商国が有利になるような契約を持ち掛けた。
凛達が商品やサービスを提供し、しかも既存の値段があまりにも安いからと2倍や3倍に値上げ。
そこから更に、手数料を含めた倍の値段で世界中に販売するとの名目で。
凛からすると、いくら商品自体は魔力さえあればタダで生み出されるとは言え、商国からいいように使われるのは当然面白くない。
加えて、(日本で培った価値観もあるが)あらゆるものが表示された値段通りとはとても思えず、敢えてその価格設定にした部分もある。
凛はそれを理由に断り、ダンは「また出直します!」と悔しそうにその場を後にしていた。
ダンは一瞬苦い顔の後、懐から1枚の羊皮紙を取り出してテーブルの上に置いた。
「これは商国の代表から賜った委任状です。つまり、私の発言がそのまま国の意思決定だと思って頂ければ。その上で申し上げます。ホズミ様、私達と契約を結んで下さい。何でしたら、私の権限で多少は勉強させて頂いても━━━」
「お断りします。」
「…何故、でしょうか?この話は、ホズミ様にとっても良い話のはず。世界が取れるのも全く夢ではないのですよ?」
「正直、世界がどうとかの興味は全くありません。」
「ならばどうして…。」
「その話へ入る前に、ダンさんはあちらの女性に見覚えがありますか?」
そう言って、凛はドアの所で静かに佇む女性を指し示した。
その女性は年の頃が17歳位。
腰までの青いウェーブヘアーでビジネス用のシャツとタイトスカートをピシッと着こなしている。
女性は目を瞑っているだけだが、それでもどこか気品の様なものが感じられた。
「非常に綺麗な方でございますね。さぞや名のあるご令嬢とお見受けしますが…どちら様でしょう?」
「シルヴィア、こちらへ。」
「はい。」
凛は女性ことシルヴィアを隣に座らせる。
(シルヴィア?どこかで聞いた名だな)
「彼女はシルヴィアと言いまして、10日程前にヴォレスのオークションで購入しました。」
「…!成程。当オークションで、でしたか。ですが申し訳ありません、やはり見覚えが…。」
「見た目を変えていますからね。分からなくても仕方ない部分はあるのかも知れません。」
「見た目を?」
「シルヴィア、悪いけど元に戻ってくれる?」
「…はい。」
その呟きの後、シルヴィアの耳が鰭に、スカートの先が魚らしきものへと変わった。
「…人、魚?」
「はい。ダンさんの仰る通り、彼女は人魚です。」
「思い出しました。確かに、前々回のオークション時に人魚を出品した覚えがあります。…それが何か?」
ダンは凛を見てからシルヴィアに視線を移すのだが、彼女が人間ではなく人魚。
つまり亜人だからとの理由で一気に興味を失い、冷たいと言うかかなり蔑んだ目をしていた。
何故凛がここでシルヴィアを招いたのか、彼は本気で分かっていないらしい。
「それが何か…ですって?いきなり捕らえただけじゃ飽き足らず、まるでモノみたく雑に扱ったではありませんか!!」
「!? どうしてその内容を口に…首輪が付いてない、だと…?」
オークション開催の際、奴隷達は首輪を付けられた状態で出品される。
これは首輪を介し、購入者が奴隷の飼い主である事を登録するのと同時に、こうして出品されるまでに至った経緯を漏らさない為の口外措置の役目も担っている。
彼らの首輪は特別製で、1度嵌められたが最後。
首輪に何らかの不具合でも起きて壊れない限り、一生そのままになる…はずだった。
しかし何故かシルヴィアの首には首輪が付いておらず、ダンだけでなくアップルまでもが困惑気味に。
「…まぁ良いでしょう。たまたま運良く首輪が外れたみたいですが、たかが亜人1匹。聡明なホズミ様でしたら、どちらの言を信じるかは一目瞭然で━━━」
「…凛様。私決めました。」
(ん?私?)
「お父様へ直談判し、今後一切商国の者と取引しないよう申し付けます。」
「良いんだね?」
「ええ。この様な失礼極まりない者が商国代表代理とは…非常に残念でなりません。」
「ちょ、ちょっとお待ち下さい。一体何を━━━」
「伝えるのが遅れましたが、彼女はシルヴィア。シルヴィア・エルネストが本名です。」
「エルネスト…エルネスト!?人魚達を纏める一族の名前ではありませんか!!」
「そうです。彼女はそのエルネスト家の娘、つまり人間で言う所の王族や皇族に当たります。」
シルヴィアはエルネスト家の四女。
末っ子と言う事もあり、家族全員から可愛がられている。
尚、先程出たリヴァイアサンが家紋として使えなかったのは、エルネスト家が既に使用していたからだったり。
「そんな、そんな馬鹿な事が…。」
「なのに貴方方は彼女を蔑ろにした。他の亜人達と同じ様に。」
「で、でしたらその様に仰って頂ければ…。」
「貴方方は!碌に話を聞こうともせずに私を捕らえ、一方的に従者達を殺したではありませんか!!」
商業ギルドは世界中に存在する。
それは勿論シルヴィアが住む獣国も同様で、彼らは真っ当な商売人を装い、裏で亜人・獣人を攫っては各国に売り飛ばしていた。
シルヴィアは4人の従者と共に海面近くを泳いでいた所、漁船に扮した密漁船に捕まった。
そしてすぐに猿轡を噛まされ、動揺した隙に従者達(いずれも男性)は「男の人魚は不要」との理由で殺害。
亡骸はそのまま海に捨てられた。
その光景を見たシルヴィアはすっかりと怯え、自分がエルネスト家の者だと伝えて下手に刺激するのもと思い、購入の手続きが終わるまでおとなしくする事にした。
やがてオークションの日を迎え、凛の代わりに参加したフレデリックが彼女を購入。
支払いの前に危害を加えない旨をこっそりと告げ、緊張を和らげた。
その後、一旦は家族の元へ返されるも、凛が実はやんごとなき身分だと知り、そのまま献上するとの名目で預けられた。
これで、リーリアに続き、2人目の王族を凛は配下に加えた形となる。
「貴方はご存知か分かりませんが、お父様と獣王様は旧知の仲。ですのでお父様を介し、獣王様にも取引を止めるよう進言させて頂きます。」
「そんな!その様な事をされては困ります!」
自国を除き、獣国は帝国、王国に次ぐ3番目の売上を出している。
なのでその分の利益がそっくり失われ、責任追求をされたら堪ったものではないとダンは判断したのだろう。
「知りません!自業自得が招いた結果ではありませんか!」
「シルヴィアの言う通りです。」
「ホズミ様…。」
「ダンさん、貴方は選択を間違えた。先程は冷めた目や物言いをするのではなく、丁寧な謝罪を行うべきでした。ですが貴方はそれを怠った。何故なら、相手が人ではなく亜人だったから。貴方方はそれを理由に、これまで何度も何度も亜人や獣人の人達に対し、酷い扱いを繰り返して来ました。」
「私共は酷い扱い等…。」
「してますよね?言ってませんでしたが、首輪をしていないのは彼女だけではありませんよ。」
「ま、まさか…?」
「ええ。そちらへお邪魔した時に落札したシンシア達を含め、これまで購入した奴隷で今も首輪が付いている人はいませんよ。誰一人としてね。」
凛は最初に購入したニーナ達を始め、過去に購入した奴隷全ての首輪をわざと外している。
そしてオークションで落札したシンシア達から、自分達は拉致され、訳が分からないまま商品として売られた事を聞かされた。
それは奴隷商で販売された者達も同様で、自らのミスが原因で奴隷落ちしたのはキャシー位だった。(元々、性格的に問題なさそうな者ばかりを購入したからなのもあるが)
凛は同じ悲劇を繰り返さない為にと思い、多数の配下を獣国へ配置。
亜人や獣人を無理矢理捕まえ、他国で捌こうとする違法奴隷を未然に防いでいる。
だからさっき、凛が「他の亜人達と同じ様に」と言ったのはそこから来ていたり。
「信用出来ないんですよ。」
「え?」
「僕は貴方方が信用出来ない。それがそちらの申し出を断る理由です。もし本気で提携を組みたいのでしたら、最低でも拉致や誘拐等で強制的に奴隷化させるのは止めて頂かないと話になりませんね。」
「そんな…。」
凛は項垂れるダンを無視し、椅子から立ち上がる。
「これ以上、僕の方から話す事は何もありません。次にいらっしゃる際は、その条件をクリアしてからにして下さい。あ、そうそう。僕達に妨害の類は無意味です。やらないとは思いますが念の為お伝えしておきますね。」
凛の決定を不服として何らかの妨害工作を行おうが、既にエルネスト家と親交のある獣国の漁業都市やスクルドにホズミ商会や複数の店舗を建ててある。
その中にスーパーを含む小規模のショッピングセンターを設け(勿論サルーンにもあり、漁業都市で捕れた新鮮な魚介類がこちらに届けられる形)、営業を開始したのは今日にも関わらず、既にかなりの売上を叩き出している。
今後もジラルドと漁業都市には出店予定で、凛達の流れを止める事はほぼ不可能と言えるだろう。
また、あちらではハウスキーパーの代わりに戦力の貸し出し(しかもかなり良心的な価格で)をしており、既に何十組もの契約を結んだとか。
「シルヴィア。嫌な思いをさせてごめんね?」
ホズミ商会を出てすぐ、凛は一緒に出て来たシルヴィアに水を向ける。
彼女は鰭と足を人間のものに変えており、人間にしか見えない。
「いえ。確かに腹は立ちましたが、最後に落ち込んだ所を見てスカッとしました!」
「それなら良かった。全く、亜人だから人間より下だ、なんて。一体誰が余計な事を考えたんだろうね。」
「本当ですね。ただ、凛様と出会えたおかげで、悪い考えばかりではないと最近は思う様になりました。」
「そ、そう?」
「うんうん♪ボク達家族だもんねーー♪」
「はい♪私達は大事な家族です。そこに種族の垣根はございません。」
「「ねーーー♪」」
凛は美羽とシルヴィアの息の合ったやり取りを見て笑い、そこから談笑して進む。
「なぁ、ちょっと良いか…でしょうか。」
その途中、カサンドラとトレイシーを伴ったエイジャに声を掛けられるのだった。
元々この日は2話で終わってたので頑張って纏めてはみましたが…正直翠達とダンの所を書き過ぎた感はあります(苦笑)
後、ダン君サルーンをディスり過ぎ、アップルに至っては完全に空気になってる件w




