92話
同時刻、凛達は外…ではなく再び応接室にいた。
しばらくしてマルコとアップルを連れたダンが姿を見せ、実に良い笑顔で凛に握手を求める。
「いやー、ホズミ様。非常に有意義な時間を過ごす事が出来ました。ありがとうございます。」
「こちらこそ。色々と勉強になりました。」
挨拶もそこそこに部屋を後にし、受付で奴隷達と(落札額からオークション主催側の取り分である2割を引いた)お金を受け取る。
そのまま正面から出ようと体の向きを変え、しかしながらドラゴン2体の剥製による影響で無理だと判断。
どうしたものかと視線を巡らせ、考え始めた凛達を見兼ねての事だろう。
裏口を案内され、係員の誘導により無事外へと出た。
「あー、やっと終わったぜぇ…。」
帰宅してすぐ、リビングに設置されたソファーへダイブする火燐。
それを見た凛が苦笑いを浮かべつつ奴隷達を椅子へ座らせ、互いに自己紹介。
「凛様、お呼びでしょうか。」
一通り終わった頃、念話越しに呼んだ丞と灯が顔を見せる。
凛は彼らに事情を伝え、奴隷達を案内するよう頼んだ。
「それじゃ、ボク達は着替えてくるねー。」
「あ、はーい。」
リビングから彼らが去るを皮切りに、美羽は雫達を連れて2階へ。
5人を見送った凛は、視線を未だうつ伏せのままの火燐へと移す。
「…火燐、いくらドレスに疲れたからってだらけ過ぎ。」
「えー?たまには良いじゃねーかー。」
主からの苦言を受け、火燐はやや面倒そうに横向きへと体勢を変更。
「それとも何だ。オレのドレス姿に興奮でもしたか?ん?」
「興奮した興奮した。だから早く着替えて来てね。」
ニマニマと笑い、スカート部分を摘まんでピラピラと動かしてみせるも普通に返されてしまう。
「へーいへいっと。んだよ、ノリわりーなー…。」
対応の悪さに唇を尖らせ、本人は不満を隠そうともせず階段を上がっていく。
だがもしも、もしも本当に凛が迫って来た場合。
ドギマギし、テンパる形で逃げて終わるとの結末に本人は全く気付いていなかったり。
(だが、全く興味ないって訳ではなさそうだ…ったく、オレでなきゃ見逃しちゃうね。あれは。)
むしろ、そんな勘違いからくくく…と笑い声を漏らす程だった。
「あ、あの…。」
「?」
火燐、何か知らないけどご機嫌だったなー。
なんて思いに耽る凛に、話し掛ける人物が。
聞こえた方向に顔を向けると、先程ヴォレスで購入した奴隷。
兎人族のシンシア、エルフのリリアナが立ち、背中に生やした蝶の見た目の羽でパタパタと飛ぶ妖精姉妹のミラとエラがこちらを見ているのが見て取れた。
4人は丞達と共に一旦離れるも、凛に何か用事でもあるのか舞い戻って来た。
「ん?シンシア、リリアナ、それにミラとエラも。どうかした?」
「あ、あの…!私、す、少しでも凛様のお役に立ちたいと思いまして…!」
シンシアは兎人族の少女で、先程凛に声掛けた人物。
身長170センチ弱とモデルの様な長身なのに対し、幼く可愛い顔立ち、豊満なバストと中々に不釣り合いな体型。
スイートピーを思わせる鮮やかな薄紫の髪色は珍しいが故に今回出品されたのだそう。(現在のところ又聞きの為に真偽は不明)
その当人はパッチリとした目を潤ませ、耳はぺたんと垂れ下がり、体を震わせながら必死に怖いのを我慢している様だった。
「私は同族と精霊の気配を感じたの。だから挨拶にと思って。」
涼しげな目のリリアナはシンシアよりも少しだけ背が低い、やや緑み掛かった金髪ボブカットのエルフだ。
ただリーリアがおかしいのか、それとも種族特有なのかは分からないが、リリアナはスレンダーな体型をしていた。
しかしそんな事は気にならない程、整った綺麗な顔で穏やかに笑ってみせた。
因みに、こちらも肌面積多め。
「私達も精霊がいるのを感じたのが理由です!精霊とは仲良しだけど、同時にライバルでもあるので!」
「負けられないの~ん。」
ミラとエラは身長が30センチに満たない程に小さな妖精だ。
どちらも見た目は10歳位の可愛らしい外見。
ミラは背中までの水色の髪を2本結びに、エラは腰までの薄緑色の髪を1本の三つ編みにした髪型。
種族特有の少し変わったドレスの様な服を着用。
精霊とはどうやらライバル関係にあるらしく、凛の周りを元気良く飛び回るミラ。
エラはじと目でのんびりした口調とは裏腹に、空中でキレの良いシャドーボクシングを披露。
この場にいる全員の注目を集める。
「エルフと妖精ってそういうのが分かるんだ。リーリアは…訓練中か。他の皆もそこにいるみたいだし、彼女達の紹介も一緒にしようかな。」
関心した表情の凛がリンク越しに所在を特定、念話で呼び出しを掛ける。
程なくしてリーリア、エルマ達、暁達、篝、キールがリビングに集合。
同タイミングで着替え終わった美羽達もリビングへ降りて来た。
するとまるで見計らったかの如く、いつの間にか凛の傍に控えていた紅葉がクッキーや紅茶を用意。(凛達も手伝おうとしたがやんわり断られた)
それらを摘まみながら話をするとの運びに。
「お菓子ー!」
「お菓子なのんー!」
尤も、ミラとエラはクッキーの乗った皿がテーブルの上に置かれたのが分かった瞬間。
物凄い勢いで飛び付き、そのまま貪り始めたのだが。
「藍火ー。」
リビングの端に置かれたソファー、そこで猫みたいに丸くなって寝る藍火に凛は水を向ける。
「…ん、んんっ、何っすかぁ…?」
「君の事も紹介するからこっちにおいで。」
「分かったっすぅ…。」
藍火はふらふらと起き上がり、寝ぼけ眼のまま凛の元へ。
流れる様にして彼の太ももに頭を乗せる形で床に座り、そこで満足したのか再び寝てしまう。
「zzz…。」
「あらら、また寝ちゃった。この子は藍火。こんな感じではあるけど、一応はドラゴンなんだ。」
『ド、ドラゴン!?』
「…!!」
凛の紹介にシンシア達は大声で叫び、その声にビックリした藍火が顔を上げる。
しかしすぐにうつらうつら。
再び凛の太ももに頭を預け、眠り始めてしまった。
「僕の太ももは枕とかじゃないんだけどなぁ…。」
苦笑いながらも、優しい手つきで頭を撫でる凛。
藍火が気持ち良さそうに「ふへへ…」と漏らし、大凡の者の頬が緩む。
「藍火ちゃんにはそこが居心地の良い場所なんだよきっと。こうして見るとお母さんみたいだね、マスター♪」
『…!』
ニコニコ顔の美羽が告げ、凛とシンシア達を除く全員が雷にでも打たれたみたいに目を大きく開いた。
「いや、僕は男だよ?せめてお父さんとかでしょ。」
「え………?」
「「?」」
凛があの見た目で男だと知ったシンシアが驚愕し、リリアナは絶句する一方、キョトン顔を浮かべるミラ&エラ姉妹。
それぞれ両手でクッキーを持つ彼女達の頬はクッキーで満たされ、可愛らしくもっきゅもっきゅと口を動かしている。
「…凛ママ。私も甘えて良い?」
「雫。だから僕はお母さんじゃないって。」
「なぁかーちゃん、小遣いくれよー。」
「かーちゃん!?人を肝っ玉母さんとかみたいに言わないでくれる!?」
「良いなそれ。つか大体合ってるじゃねぇか。」
「どこが!?いくらなんでもこの見た目じゃ無理があり過ぎだよ!」
「オレらが知らないだけで意外にいるかも知れんぞ?何なら探し出さ━━━」
「なくて良いから!それに昨日、火燐には個別で(小遣いを)あげたばかりでしょ!!」
「あー…あれね。全部使っちまった♪」
「嘘でしょ!?白金貨5枚もどこに使ったの!!後、イルマに紅葉!そこで変な相談をしない!」
凛は軽く物欲しそうにしながら近付いて来る雫、にニヤついてからのてへっ☆と誤魔化す火燐に全力ツッコミ。
それとリビングの隅で隠れる様に寄り添い、何やら小声で「ここは…で」「成程。でしたら…とかはどうでしょう」と話し合うイルマ達にも指摘。
「あ、はい。すみません(申し訳ありません)」と謝られた。
(あたしの場合、凛くんはお母さんじゃなくお兄ちゃんって感じなんだけどなー。)
(凛君、可哀想です…。)
ただ、苦労も虚しく翡翠と楓にそんな視線を向けられ、火燐や雫を中心とした皆からは誂われ続ける羽目に。
話は変わり、火燐の件について。
昨日凛がサルーンで買い物をする機会があり、その時に小遣いをねだった。
白金貨5枚を貰った彼女はスキップ交じりでその場から離れ、(サーチで調査した)周辺の貧しい街や村へ直行してはあちこちに配って回ったと後に判明。
「…ちょっと良いかしら。」
しばらくして、皆から弄られ過ぎて凹んだ凛を美羽が慰めていた頃。
リリアナが斜め向かい側に座るリーリアへと話し掛ける。
「ん~、何かしらぁ~?」
「違っていたら申し訳ないのだけど、貴方…もしかしてスコイラの出身じゃない?」
「その通りよぉ~!良く分かったわねぇ~!」
「やっぱり…。」
複雑と納得が綯い交ぜになった表情のリリアナ。
対照的な反応の2人が気になった(立ち直ったとも言う)凛も会話に混ざる。
「リリアナ、リーリアの事について何か知ってるの?」
「知ってるも何も、この子はスコイラの(エルフの)集落を治める長の孫…つまり貴方達人間で言う一国のお姫様みたいなものよ。」
「金に近い髪色程、エルフは位が高いのよ」と語るリリアナ曰く、獣国には南東、南西、北の3ヶ所にエルフの集落がある。
それぞれスコイラ、ヤッコム、ダバーニャと言い、リーリアは北のスコイラ、リリアナは南東のダバーニャで生まれ育ったとの事。
リリアナは一般的なエルフ、集落の代表に連なる者がリーリアに当たるらしい。
まさかリーリアがそんな高い身分だと知らず、一同は驚いた。
「…リーリア、お姫様だったんだ。」
「たまたま生まれた先が長の孫だったってだけよぉ~。」
「いや、たまたまって…それ絶対他のエルフに言っちゃダメよ?」
「?」
「あ、これ分かってないやつだ。スコイラのお姫様が変わってると言う噂は本当だったのね…。」
エルフは少しでも優秀な遺伝子を次代の長に残す習慣があり、集落内で最も優れた相手を長の伴侶として選ぶ傾向にある。
こうしてリーリアも長の子供として生まれた訳なのだが、本人からすればお姫様と言う肩書きは邪魔以外の何物でもなかったり。
ともあれ、リーリアが特別である事を良く分かっていないとしてリリアナは頬を引き攣らせ、非常に勿体ないと頭を抱えた。
ややあって、購入した奴隷達の緊張が解けたと考えた凛。
4人を代表し、シンシアに声を掛ける。
「…シンシア。」
「は、はいっ!何でしょう…?」
「良ければなんだけど、僕に買われるまでの経緯を教えて貰っても良いかな?」
「…そう、ですね。こんな事を言っても信じられないかも知れませんが…普通に歩いていたところをいきなり襲われました。」
突然話を振られた為に目を丸くし、まさかの質問で一瞬体を強張らせるシンシア。
ただ、一拍置いた事で幾許か冷静になったのだろう。
この主人なら…との想いも重なり、神妙な面持ちでそう告げるのだった。
お気付きの方もいらっしゃると思いますが、火燐がドレスから着替える前に出た言葉は某ハンター漫画に出るモブさんのセリフですw




