90話 28日目
それから3日経った28日目
午前4時過ぎ 訓練部屋にて
「はぁっ!ディメンションスラッシュ!!」
凛がそう叫びながら玄冬を振り下ろす。
と同時に、彼から離れた場所にあった鎧姿の的に空間の切れ目が発生し、そのまま斜めへ真っ二つに。
「ボクだって!ディメンションダブルスラッシュ!!」
続けて、美羽も離れた的に向け、交差させる形で振り下ろしを行った。
すると、凛より少し小さいながらも、斜め十字の形で斬撃が起き、鎧を4つに斬り裂いてみせる。
「すっげぇ…!」
「…私も負けてられない!」
「2人共凄いねー!」
「流石です…!」
これに、火燐、雫、翡翠、楓が大興奮。
かなりやる気となり、4人だけで話し合いを始める。
一方、凛と美羽は自らが攻撃した的を見続けていた。
空間に現れた斬撃は的を斬り落とした後もしばらく残り、やがて消えてから10秒後に的は通常の姿へと戻る。
今回使用した的の素材は強硬石。
鉄より幾分か軽く、それでいて強度は数倍と言う性質を持っている。
強硬石はアダマンタートルの手前であるハードロックタートルの甲羅から採取したものであり、離れた場所にはアダマンタイトで構成された的も用意。
また、凛は見た目こそ変わっていないものの、改良を施した玄冬。
美羽は進化に伴い、神々しいデザインとなった2振りの剣に魔力を纏わせ、それぞれ次元を跳躍する斬撃を的へ放っていた。
美羽はヨグ=ソトースへと進化。
『時空間支配』、『全適性上昇・特大』、『ステータス操作』、『スキル付与』と言うスキルを獲得した。
先程、2人が空間すら斬ってみせたのは『時空間支配』の一端。
他にも(行った事があるとの条件が必要だが)短距離〜長距離の転移だったり、亜空間をカスタマイズしたり、今以上に時間を引き伸ばしたり。
それと、森や平原、(浜辺を含めた)海、砂漠、雪原と言った部屋も作成出来る様に。
『全適性上昇・特大』は戦闘、魔法、スキル、料理等の適性が上がると言うものだ。
彼女は凛から生まれた影響からなのか、彼の7割位のスペックしかなかった。
しかしこのスキルにより、彼と同じ100%にまで引き上げられる事に。
『ステータス操作』は力や魔力、俊敏性等を調整出来るスキル。
(ステータスの総量は変わらないものの)力を減らす代わりに魔力を高めたり、敢えて調整せず一方的に減らすだけ…なんて真似も。
一見するとそれだけだが、一般の人達からすれば凛達の強さは化け物以外の何物でもない。
下手すると少し小突いただけで相手を傷付ける可能性も十二分に有り得る為、使い方によっては有用性が高いとも言える。
『スキル付与』は相手や物にスキルを与えるスキル。
それなら既に凛がやっているじゃないかと思われがちだが、適性がない者。
例えば魔法が使えず、しかも炎属性しか扱えないカリナに、雫から加護や水神化スキルを与えようが、何の意味もなかった。
しかしこれからはその限りではなくなり、全ての属性に適性を持たせる…なんて事も普通に出来る様に。
それと美羽の双剣だが、ブランはライトブリンガーに。
ノアールはダークブリンガーに変化。
性能が上がったのは勿論、ライトブリンガーは魔力を纏わせなくても魔法を弾き、ダークブリンガーは魔力を用いた攻撃(魔法含む)を吸収し、自らのエネルギーへと変換が可能に。
また、美羽の進化を期に服を一新。
服の素材は、繊維状にしたクリスタルドラゴンの水晶を紫水の糸で覆ったものを採用。
動きやすさはそのままに、防御力が格段に上がったとして喜ばれた。
一昨日の午前5時半頃…つまりディレイルーム内で丸3日(実際時間で12日間)以上が過ぎ、ようやく美羽が姿を現した。
「マスタぁ~。」
美羽は左手でこしこしと目を擦り、右目も開いているのは半分程。
動きもかなりふらふらとしていた。
そんな危なっかしい様子で1階へと上がって来たらしく、凛をかなり驚かせた。
「美羽!?進化から目覚めたんだね!体は大丈夫?どこか変な所はない?」
「ん~?多分大丈夫だと思うよぉ〜?」
「そっか…ともあれお疲れ様。ずっと寝っぱなしだったからお腹空いたでしょ?先に簡単なの作るから、美羽は座りながら待ってて。」
「うん♪」
その光景を翡翠達が見ていた。
全員が「過保護…」と苦笑いになりつつ、彼に温かい目を向ける。
これに少しの間凛は不思議がったものの、すぐに料理作りを再開した。
その日、夕方に美羽や火燐達の進化を祝う盛大なお祝いを行った。
ネギ好きの美羽にはネギ尽くし。
肉好きの火燐は肉尽くし。
スイーツ好きの雫はスイーツ尽くし。
洋食と和食好きの翡翠と楓は洋食&和食を主体にし、いずれも現在出せる最高の食材を用いたメニューを用意。
若干名、雫の前に並んだ沢山のスイーツを見て気分を悪そうにする者もいたが、概ね羨ましそうにしていた。
「わーい!ボクの好きなものばかりー!幸せ一杯ですーー♪」
「うっめ!やっべこれうんめっ!」
「………!」
「ん〜幸せだねぇ♪」
「本当ですね…♪」
火燐と雫はひたすら貪り、美羽達は幸せそうに食べていた。
お祝いが済んでしばらくした後、パジャマ姿で枕を抱いた状態の美羽が凛を訪ねて来た。
「マスター、久しぶりに一緒に寝ても良い…?」
「美羽?…分かった。」
凛は作業の手を止め、彼女の要望に応える。
「こうやって一緒に寝るのは、マクスウェル様との訓練の時以来か。そうか、あれからもう1ヶ月以上経つんだね。」
照明を消し、美羽と共にベッドの上で仰向けになった凛がそう零した。
凛は生まれたばかりで右も左も分からない美羽と昼夜を…それこそ風呂や就寝を共に過ごした。
初日は疲労困憊で倒れ込む様にして眠り、2日目からは(例え裸になろうが)無邪気にはしゃぐ彼女に四苦八苦しながらだったが。
ただ、それを行ったのは最初の半月程だけ。
残りの期間は独り立ちとの名目で断る様になり、当時彼女はそれに納得いかないとして酷く反発したりもした。
しかし凛の意志は固く、美羽の方が渋々折れる形に。
「そうだね。あの時、ボクはまだ生まれたばかりの雛みたいな感じだったのに…マスターってば、無理矢理部屋から追い出すんだもん。すっごく寂しかったんだからね…?」
そう言って、美羽は横向きに体勢を変え、凛に抱き着いた。
人間で言えば、(体はまだしも)心が幼稚園から小学生位の時にいきなり家の外へ放り出されたみたいなもの。
美羽からしたらあまりにもいきなりで、しかもこちらの言い分を聞いて貰えなかった為に面食らった。
例えナビのサポートがあろうが、到底納得出来るものではなかっただろう。
これに凛が謝り、美羽も許した事で小さな笑いが起き、そこから軽く話した所で就寝。
翌朝の昨日、雫がニヤニヤとしながら「夕べはお楽しみでしたね」と2人をからかい、揃って赤面するまでがオチとなった。
それと、凛達がこの時間から訓練を行っている件について。
早い話が配下達の訓練に時間を取られるあまり、自分達を鍛える余裕がなくなったからと言うのが理由だったり。
最初は凛だけ(実は紅葉達がサルーンを発った当日、しかも30分程度)で、昨日から美羽が加わり、今日から火燐達が参加の流れとなる。
「なぁなぁ凛。オレ達だけってのは久しぶりだし、たまには手合わせでもしよーぜーー!」
「私も私も…!」
「あ、ならあたしもお願いしちゃおっかな?」
「それでしたら私も…。」
「勿論ボクもー♪」
「良いよ。個別と全員で一斉、どっちでする?」
「個別は分かるが全員一斉って…お前大丈夫なのか?」
「多分ね。皆のおかげで僕も強くなったみたいなんだ。」
火燐、雫、翡翠、楓、そして美羽の進化で得たデータをフィードバック。
結果、ナビの性能が上がり、検索やアクティベーションの機能が向上。
より詳しい検索が行え、複雑だったりより大きな機械が再現可能に。
また、これまで一世代しか栽培出来なかった作物が二世代以降も栽培可…つまりこれからは品種改良が出来る様にも。
それと、凛の適性値が100%→150%に。
折角美羽が強くなったのに、縮まるどころか余計突き放される形となった。
「それに、僕が全力出す機会って中々ないでしょ?」
「そりゃまぁ、な。(つか、凛が本気なんて出したら、世界の方が持たないんじゃね?)」
「うん。…それじゃ、まずは火燐達から。それで、慣れて来た頃に美羽も加わるって感じで良い?」
「良いぜ。」
火燐は返事と同時に、ソフトボール位の大きさで赤く光る球を自身の周りに3つ展開。
それは凛がよく使用するビット…その色違いにも思われる様な見た目をしている。
続けて、翡翠は同じ大きさで緑色の球を4つ、雫と楓は水色と薄茶色の球を5つずつ出現させてみせる。
「それは?」
凛は火燐の右肩の上でふよふよと浮かぶ赤い球を見ながら尋ねる。
「凛が使うビットを真似たものでな。オレのはフレアビットってんだ。」
「アクアビット。」
「ストームビットだよー!」
「ガイアビットです…。」
「炎神化スキルの応用で用意してみたんだよ。」
「凄いじゃん!」
「いや…全くだ。ナビに最適化して貰ったってのにこれだけしか扱えねぇ。しかも戦いながらってなるとてんでダメになる。」
「ん、難しい…。」
「ううん、十分だと思うよ?僕も最初の時は4つだったし。」
「そうなのか?ま、そんな訳でお手柔らかに頼むぜ。」
「分かった。」
それから、凛による火燐達の手解きが始まった。
火燐達はまだ浅いながらも、今まで凛と美羽がビットを操作するのを見ていたからか、それなりに動きは良かった。(あくまでも、始めたばかりとの意味で)
雫、翡翠、楓の3人は中〜遠距離からの為、凛に距離を詰められても再び離れれば取り敢えず難は逃れられる。
しかし火燐だけは違う。
彼女は魔法を使う事もあるが、大剣による近距離を主体とする。
なので攻撃と攻撃の間に射撃を挟もうとするも、それが却ってタイミングをずらしてしまう姿が目立つ。
また、火燐のフレアビットは威力重視らしく、着弾の度に小さな爆発が起きていた。
それもまた攻撃を躊躇させる要因なのだろう。
対する雫達はあくまでも補助としており、威力よりも牽制や繋ぎが目的の様だった。
美羽は訓練に参加せず、ひたすら火燐達にアドバイスを送る。
そして多少慣れた頃に参戦し、彼女達を差し置いて凛へ肉薄。
その後もしばらく一騎打ちが続いた。
火燐達は一気に美味しい所を持っていかれたとして悔しがり、戦列に加わる。
約1時間半後
空中にて、凛と美羽が激しい戦闘を行っていた。
美羽は左右に白と黒の剣、それとシールドソードビットを8基展開。
凛は右手に玄冬、左手に鞘、それとビット4基だ。
凛が操作するビットの数は美羽の半分しかないが、それでも浮かべるのは余裕の表情。
むしろ、苦しそうなのは美羽の方だった。
火燐達は既にダウンしており、やや苦い顔で凛達の戦闘を眺めている。
「…(ヨグ=ソトースに)進化したら自身が持てると思ったのになぁ。マスターってば強過ぎだよぉ…。」
「え?そう?むしろ皆が強くなってて僕の方が驚いたんだけど。」
「えぇ…。」
凛の予想外の反応に美羽ががくっと肩を落とし、火燐達はぽかーんとする。
「まぁでも、密かに彼女と訓練したのはあるかもね。」
『彼女!?』
「ねぇねぇマスター!?彼女って誰!?ボク達の知ってる人!?」
「美羽、ちょ、近い近い。」
「あ、ごめんなさい…。」
美羽は凛に詰め寄った後、恥ずかしそうにしながら離れる。
「勿論、皆知ってるよ。むしろ知り過ぎてると言っても過言じゃないかも?」
『え…?』
凛の言葉に、彼以外の全員が困惑。
美羽は頭を抱え、「誰〜?誰なの〜??」と言いながら目を回す。
火燐達はその場で集まり、神妙な面持ちで話し合うも、答えは出なかった。
「分からないみたいだから答え合わせするね…アルファ。」
「はっ。」
凛の呟きと共に、アルファが地上に姿を現した。
これに美羽達が驚きを露にするのだが、凛は何事もないかの様にして降り立つ。
「アルファ。トゥルーアーマメントモード、リリース。」
そして、彼女の方を向き、そう言い放つのだった。
おや、アルファの様子が…。




