90話 14日目
旧ゆるふわふぁんたじあでは楓の魔法はボルダーストライクでしたが、今作でロックストライクに変更してます。
名前こそ違うものの効果は同じとの設定です。
2日明けた14日目
まず、一昨日開かれた飲み会の後の話から。
屋敷にある温水洗浄(所謂ウォシュ○ット)機能付トイレ、それを取り付け出来ないかとの相談を凛は受けた。
発案者はガイウス、ゴーガン、ルルの3人で、大層気に入ったからが根拠らしい。
ルルに至っては、便器に抱き付いたまま眠ろうとする程だ。
この世界のトイレ事情は汲み取り式、拭くものもそこそこの大きさの葉っぱか質の悪い紙なのが関係しているのかも知れない。
なので昨日、凛はガイウスの屋敷と冒険者ギルドに赴き、トイレを改装。
使い勝手の良さに、屋敷の関係者やギルド職員が感動。
もうコレじゃないとダメだ、販売の機会があったら絶対に買うとすら言われた。
ついでに、出発前に2日酔いをキュアで治し、朝食を食べさせたところ、今後も屋敷で朝食を摂りたいとの要望が。
凛は報告・連絡・相談も兼ね、話が出来ると承諾。
サルーンと屋敷間でポータルが使用可能となる、『パスカード』を3人に配布した。
因みに、ナビの恩恵を受けた者はアルコール…つまり毒に対する耐性が上昇。
昨晩の飲み会だろうが酔う事はないか、あっても減少傾向に。
にも関わらず、早々に潰れてしまった人物こと藍火。
仮令アルコール度数が高かろうが、条件自体はガイウスら3人と同じ。
それらを鑑みるに、彼女は相当お酒に弱いのかも知れない。
一方で、酒にめっぽう強いのが凛。
リルアースに来る以前から、いくら飲んでも全く酔わない体質だったりする。
凛が20歳になった際。
家族から受けたお祝い、及び知人友人や(3月末生まれの為に)就職先で知り合った職場仲間で集まった飲み会にて。
彼ら彼女らが酔い潰そうと凛にガンガンお代わりを注ぐも、当人が酔う素振りは一切見せなかった。
むしろ反対に潰され(或いは自爆)、翌日酷い2日酔いになるとの地獄を見た例は少なくない。
それ以降、若しくは何回かの経験を元に、凛と仲の良い者達は酒を程々にする様になったとかなんとか。
午前7時前
動きやすそうな服装に着替えた凛達。
そこにガイウス、ゴーガン、ルルの3人を加えた一行は、神界の大部屋を思わせる様な真っ白な空間にいた。
ただ、部屋の造りは少し異なり、大部屋は縦横の長さが同じなのに対し、こちらは奥行き200メートル、それと凛達がいる地点を中心に左右へ500メートル程と横長。
壁際から少し手前の位置には、鉄と思われる金属で出来た鎧の上半身部分が30メートル間隔で置かれているのが特徴と言えよう。
話は変わり、この場所にガイウス達がいる件について。
昨日は仕事の準備やワッズとの打ち合わせがあるとして、朝食後すぐに帰った。
だが先程凛がパスカードを渡したタイミングで、Tシャツにジャージとラフな服装に着替えた火燐が階段を降りて来る光景をガイウス達は目撃。
他の者達も次々と階段から姿を現し、ガイウスが凛にこれからの予定を尋ね、訓練だとの答えに是非見せて欲しいと乗り気になり、今へと至る。
ここは凛が『訓練部屋』と称した部屋。
外からの視線を気にせずに訓練を行いたいとの理由で、昨晩の内に時空間操作で用意したものだ。
壁はマットレスみたいに柔らかく、且つ自動修復と魔力吸収の効果を併せ持っている。
凛は訓練部屋、それと壁際に設置された鉄鎧を模した的についての説明を行う。
鉄鎧は斬られ、打撃により凹み、破壊される等で原型を留めなくなったとしても10秒程で元に戻る仕様だと話し、皆をざわつかせる。
「…と言う訳で、誰か試してみたい人ー?」
凛は実際に見て貰う形で理解を得ようと希望者を募るも、示されるは微妙な反応。
話し合うだけで誰も行こうとはしなかった。
「はぁ…わーったわーった。オレがやってやるよ。」
そうこうしている内に何故か火燐━━━1番の強メンタルだからかも━━━へ視線が集まり、溜め息混じりで前に出た。
やがて立ち止まり、徐に右手を前へと突き出す。
「グランエクスプロージョン」
彼女は炎系超級魔法グランエクスプロージョンを発動。
前方にある的から周囲150メートル近くを巻き込む、大きな爆発が発生。
最悪ファイアボールでも構わなかった凛は苦笑い、美羽達は感心した様子を浮かべる。
雫だけは美味しい場面を逃したとばかりにやや不満そうにし、それに気付いた火燐がニヤリと笑う。
反面、初めて見る規模の爆発に開いた口が塞がらないのはカリナやガイウス達冒険者。
昨日新たに加わった新参組を含めた大人達は真っ青な、子供達はキラキラとした表情をそれぞれ火燐に向ける。
程なくして、まるで逆再生でもしたかの如く、元の姿へ戻る的。
これに、凛以外の全員が驚きを露にする。
火燐がグランエクスプロージョンを放ったのを機に、次々と的に攻撃を仕掛ける様になった。
「…メイルシュトロー厶。」
部屋の中心付近にて、氷結の長杖を前方に雫が掲げる。
彼女は水系上級魔法メイルシュトロームを唱え、的を中心に大きな渦潮が。
「…ブレードサイクロン!」
その隣、凛達を挟んだ反対側に立つ翡翠は、チラリと雫を見て風系超級魔法ブレードサイクロンを発動。
雫と同じ規模の竜巻が生まれ、中心にある的を風の刃で斬り刻んだ。
「…ロックストライク…。」
雫がいた場所に戻り、今度は楓が的の前に立つ。
楓は頭上に豊穣の枝杖を掲げ、土系上級魔法ロックストライクを発動。
直後、彼女の頭上に直径3メートル程の大岩が出現。
彼女が杖を振り下ろすと同時、真っ直ぐ落ちて来る。
楓の反対側、意を決した様子でそれぞれ的と対峙するはエルマとイルマ。
「ようやく念願だったアークエンジェルになれたんだ!もっと上を目指さなきゃ…ジャッジメント!」
彼女達は昨日、魔銀級中位の強さを持つアークエンジェルとアークデーモンに進化。
エルマは両手を前にやる形で光系上級魔法ジャッジメントを唱え、的の真上に魔方陣が出現。
そこから白いレーザーの様なものが、真下にある的へ降り注がれる。
「私だって!…アビス!」
その隣にいるイルマは闇系上級魔法アビスを発動。
的が黒いドームに包まれる。
しばらく経ち、2つの魔法の効果が同時に切れると、どちらの的も綺麗に消失。
光と闇の魔法が同時に行使されたからか、場は荘厳な雰囲気に包まれ、2人は面目躍如を少しは果たせたかと安堵の表情に。(魔法が得意でないエルマは若干疲労も混じってもいた)
再び反対側。
的の前に立つ藍火は、エルマ以上に気合いの入った顔付きで人間からブルーフレイムドラゴンへと姿を変えた。
何故かポーズの動作込みではあったものの、ドラゴンへの急な変身に周りが騒然となる。
「グォォオオオ(自分も行くっすよ)!!」
しかし藍火はそんな事お構いなしとばかりに咆哮を上げ、全力のブレスを放出。
青いレーザーを彷彿とさせる太いブレスは的に当たり、巨大な青い火柱を巻き起こす。
ドラゴンの姿のまま、藍火は「まあまあかな?」と首を傾げつつ的を見やる。
これにニーナ達やガイウス達だけでなく、自分より威力高めだし目立ってる…との意味でエルマ達も白目を剥く中。
彼女の隣に立ち、左右の手に颯と圷を持つ紅葉が静かに佇む。
「…参ります!」
すっと目を開け、それまで閉じていた颯、圷を開き、前方へと扇ぐ。
それぞれの先から、ピンポン玉位の大きさの緑と茶色の光が生まれ、螺旋を描きながら的にヒット。
刹那、翡翠が放ったのと同規模の竜巻が出現。
その中で様々な大きさの石や真空の刃が飛び交い、またぶつかるを繰り返し、やがて跡形もなく消滅した。
全員の注目が紅葉に集まり、彼女の反対側にいる美羽が笑顔でうんうんと頷く。
「それじゃ、次はボクの番だね!…行けっ、ミーティア!!」
やる気の表情で右手の人差し指を真上に掲げ、無属性最上級魔法ミーティア発動と共に振り下ろす。
すると、彼女の真上に巨大な魔方陣が形成。
楓の時より一回り大きい岩の様な物が、しかも赤熱した状態で次々に姿を見せ、前方の広い範囲に落ちていく。
それから魔法の効果が切れる30秒間。
着弾しては爆発を繰り返し、凛達以外の者全員を唖然とさせた。
(ナビ。改めて聞くけど、ミーティアは炎や土属性…ではないんだよね?)
《はい。あれらは遠方より招いた隕石…とする為に扱いが異なり、無属性魔法に分類されております。同様に、ビッグバンとブラックホールが光属性や闇属性ではなく、無属性での最上級魔法となります。》
(やっぱりそうか。異世界は謎が多い…。)
美羽の後ろ姿を眺めつつ、凛の心の中で行われるやり取り。
どうでも良い事だが、空間収納が使える者は無属性魔法に適性があるとされ、初級でマジックアロー、中級でマジックスピア、上級でマジックバーストが放てる様になる。
しかし、空間収納持ちは存在そのものが貴重。
無理して強くならなくてもお金に困る事はないとされ、ほとんどの者が空間収納だけで一生を終える。
それと、範囲内の全てを焼き尽くすビッグバン。
同じく範囲内を全て超重力で飲み込むブラックホールが最強魔法ではあるのだが、使えるのは凛と里香のみ。
一般的には美羽が放ったミーティアが最強魔法とされ、火燐達や紅葉達は納得顔。
それ以外の大人達全員は萎縮し、青ざめたりする。(一部子供達の中で怯える者もいたが、ほとんどが興奮していた。)
「終わったよー♪」
美羽が満面の笑みで合流するも、流れがそこで完全に止まってしまったらしい。
遠慮どころか、彼女の後に続こうとする者は皆無だった。
「…誰も行かないみたいだし、ちょっとやってみようかな。」
軽く見回した凛が、皆から少し離れた位置に立つ。
続けて、施した改良により少し大きくなったビットを展開。
円を描きながら数を増やしていき、最大数である20基を召喚。
その様子を、美羽達、エルマ達、藍火、篝や子供達は興味ありげに。
火燐は既にちょっとの域を超えてるじゃねぇか…と呆れ顔、翡翠はホントだよねーとやや困り顔で眺める。
初めてビットを見る者達については、これから一体何が始まるのだろうとの思いで満ち、どちらとも付かない様子。
「ビット展開完了…エネルギー充填開始…。」
凛の集中力が時間を追う毎に増し、比例してビットの回転速度も少しずつ早まっていく。
やがて高速回転に併せてそこそこ激しい風、周囲には赤黒いプラズマが発生するまでに。
「エネルギー充填完了…ハイパーブラスターキャノン、ディスチャージ!!」
凛は右腕を前に突き出し、的に向けて超極太のビームによる砲撃…ハイパーブラスターキャノンを発射。
ビットから撃ち出された超高エネルギーは的を軽ーーく通り過ぎ、壁に激しくぶち当たった。
その影響で部屋全体が大きく振動、誰一人として立つ事は叶わなくなってしまう。
『………。』
凛はビットを解除。
呆れや微苦笑、畏怖、驚愕、憧憬の視線を全員から浴びる。(それまで全く動じなかったリーリアですら、流石に今回は驚いた模様)
《…マスター、やり過ぎです。ほとんどの方が威力を抑えて下さったのに、マスターが張り切っては…。》
「ごめんごめん。ハイパーブラスターキャノンって、用意したは良いけど撃てる機会って今までなかったでしょ?だからつい…皆さんもごめんなさいね?」
ナビからの苦言に、凛は少しだけ反省。
あくまでも少しだけで、ようやく撃てたとの達成感でむしろ一杯だった。
なので、後ろを向いて謝る時も笑みを携えてのものに。
『………。』
ほぼ全員が呆気に取られ、美羽達ですら困惑。
火燐のほらな、との呟きが全てを物語っていた。
因みに、凛はビットを団子みたく4基重ねた状態の射撃をブラスター。
それを3つ重ね、三角形状にしたものをブラスターキャノンと呼んでいる。
それから、7時50分になるまで訓練を実施。
的に向けて魔法を放ちたい者は変わらずここに。
武器や組手等を行いたい者に関しては、別に設けた大部屋みたいな訓練部屋へ向かうとの構図だ。
移動後、ガイウスとゴーガンは凛に手解きをお願いしようと歩みを進めてすぐ、暁から待ったが掛かる。
ガイウスはそれに苛立ったが、すぐに理由が明らかに。
美羽から「久しぶりに本気でやりたい」と手合わせをお願いされ、2つ返事で了承した彼と共に部屋を後にしたからだ。
暁はそんな彼らを見送ってからガイウスに「まだ何か?」と言わんばかりの目で見やり、揃って首を左右に振られる。
結局、時間になるまで暁に扱かれ、2人掛かりでも勝てないどころか掠りすらしなかった…とだけ。
時間になり、1行は汗を流す為に浴室に向かう。
朝から疲労困憊となったガイウスやゴーガン、月夜の相手をしたルルも同様だ。
そこでの設備は勿論の事、初めて見るボディーソープ等に驚く3人。
リルアースにボディーソープやシャンプー等はなく、体を洗うのは専ら石鹸のみ。
その石鹸もオリーブオイルを始めとした高級品の植物性、それとオーク等の魔物や家畜を用いた安い動物性とあり、動物性のものは獣臭いのであまり好まれない。
トーマスとニーナから使い方を学び、泡切れが早く、しかも洗い上がりサッパリで香りも良いとして喜ばれた。
午前8時
凛、美羽、火燐、雫、翡翠、楓、カリナを加えた6人はリビングにいた。
フォーマルな装いの彼らは風呂から上がったガイウス達や他のメンバーと話し、商国にある都市ヴォレスで1時間後にオークションが開かれる旨を共有。
事情を知らないルルを他所にそう言えばそうだったと2人は相槌を打ち、未だ不思議がるルルを引き摺る形でサルーンへ帰って行った。
彼らを見送った凛達は後の事を紅葉。
それと(ハイオークの時からルルに包帯を巻ける位に器用だった等を理由に)教育係へ任命した丞に任せ、ポータルでヴォレス近くへと向かうのだった。
ディスチャージ…厨二っぽくて好きな言葉ですw




