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ゆるふわふぁんたじあ(改訂版)  作者: 天空桜
死滅の森開拓&サルーン都市化計画

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87話

午後1時過ぎ


昼食を済ませたカリナはポータルを抜け、スクルドから1キロ程離れた木の茂みへと移動。

周囲を見渡し、問題ないと判断した彼女は入口の方に向かう。


程なくしてスクルドへ到達。

通常であればここで門番から身分証だったり、冒険者ギルドから発行される冒険者ライセンスの提示を求められる。

ただ、彼女は現在奴隷の身。

その時に冒険者ライセンスを取り上げられたらしく、今も手元にないとの状況。


故に、今は身分を証明出来るものを持ち合わせていない訳で。

当然、ここで門番からストップが掛かる━━━


「よし、次…お、カリナじゃないか。」


「お疲れ様です。」


「最近見なかったな?怪我や病気でもしたのかと心配だったんだぞ。」


━━━事はなかった。


奴隷落ちしたのを門番の男性が知らなかったのもあるが、つい最近まで毎日の様に。

仮に見ない日があったとしてもせいぜい2、3日で、ここま(6日も)で長く(会わな)空けた(かった)のは今回が初めて。


男性の優しさにカリナは少しばかり胸が熱くなり、口角が自然と上がる。


「ありがとうございます。ですが見ての通り、私は元気です。」


「そうみたいだな。ん?少し見ない間に雰囲気が変わったか?」


そう言って、彼はカリナが羽織(はお)るネズミ色のローブを凝視。

彼女のローブ姿は初めてで、剣の数も何故か1本から2本に増えている。


数日見ない間に何か…と多少の引っ掛かりを覚えるも、壮健そうなのは変わりない。

むしろ顔色が良くなった事で密かに胸を撫で下ろし、これまで何度となく行われたやり取りを経緯に考えるのを放棄。


「…まぁ、特に追及する必要はないか。通って良いぞ。」


結局最後までカリナは疑われず、しかも今では当たり前となった顔パスで許可を得た。


「ありがとうございます。」


少しだけ表情を和らげたカリナが会釈。

気持ち面食らった気もする男性の横を抜け、中へと入る。




(さて、始めるか。)


門から50メートル程進み、ローブに備え付けられたフードで顔を隠すカリナ。

最初の目的地こと、孤児院がある方向に歩みを進める。


これは火燐と雫からの依頼。

先日ここスクルドを歩いた際、経営が苦しいとの噂を耳にしたのだそう。

子供達や先生達に食事等を提供する様にと言われ、久々に向かう場所でもある。


カリナは駆け出しの頃、お使いのクエストで何度か伺い、それっきり来ていない。

なので、今回の訪問を実は楽しみにしていたり。


孤児院の前に着いたカリナ。

勿論アポは取っておらず、何と言って中に入ろうかと考え始めたところ、左方向から声を掛けられた。


「当孤児院に何かご用ですか?」


声の主は60代と思われる女性。

両手に袋を抱え、少しだけ不思議そうにしている。


(ひるがえ)ってカリナ。

一目で知り合いだと分かり、懐かしさ嬉しさが込み上げて頬が緩む。


(でも、前に会った時より少し痩せたか。)


女性は(以前会った時と比べ)全体的に細くなり、白が目立つ髪はボサボサ気味。

それでも元気そうで良かったとの想いを抱きつつ、質問に答える。


「アマンダさん、お久しぶりです。」


「確かに私はアマンダですが…どちら様でしょう?」


「私です。カリナです。」


そう言って、カリナはフードを下ろす。


「まぁ、最後にこちら(孤児院)へ来たのは5年以上前になりますし、覚えてないかも知れませんが…。」


「え?カリナだったのかい。」


「はい。」


「まあまあまあまあ!どこの綺麗なお嬢さんかと思っちゃったじゃないか!」


「いえ、私なんて全然…。」


カリナは母に似て綺麗なのに加え、やや厳しめの両親に育てられたのもあるものの、元々自分より綺麗な人は沢山いると認識。

故に(おご)らないよう控え目に徹し、冒険者となって以降も男性から持ち上げられたり、口説かれる様になっても全く靡く事はなかった。


それを並やそれ以下の見た目のトレイシー達が組み始めた当時から今に至るまで、気に食わないとする理由の1つでもある。(尚、当の本人は全く気付いていない模様)


そして本当の美(凛達の存在)を知った今、自分なんかが褒められるのは畏れ多いとでもカリナは思ったのだろう。

言葉少なめ、との注釈付きでやんわり濁そうとする。


高齢の女性ことアマンダはこれを奥ゆかしいと捉え、(再会する前から高かった)彼女へ対する好感度が更に増した。


「とにかく久しぶりだねぇ!ここに立ってたのは中へ入る為だったんだろう?」


「はい。忘れられていたらどうしようかと思い、中々踏み出すまでに至りませんでした。」


「そうかいそうかい。ささ、いつまでもここで立ち話もなんだし、続きは中でしようか。」


「分かりました。」


アマンダが動くより早く、颯爽とした足取りで扉を開けるカリナ。

「気が利くねぇ」「いえいえ、当然の事をしたまで。あ、遅くなりましたがお荷物お持ちしますね」「本当、良い子だわぁ」と、双方笑顔のまま孤児院内へ。




2人はそのまま子供達がいる部屋…ではなく、1番奥の院長室(応接室とも言う)に向かう。

そこでアマンダはカリナを椅子に座らせ、自らお茶を淹れる等して彼女を持て成す。


「まず始めに、同じスクルドにいながら中々顔を出さなかった事、申し訳ありません。」


カリナはアマンダが座ったのを確認するや、深くお辞儀。

アマンダはきょとんとするも、すぐに「良いんだよ」と相好を崩す。


「それより、あんたの活躍は聞いてるよ?知り合いとして鼻が高い位さ。」


「その話ですが…私、冒険者を続けられそうにありません。」


「? どうしてだい?」


「今の私は奴隷だからです。」


「ど、奴隷…ってあんたがかい?何だってまた…。」


慌ててカリナの顔、首の順で視線をやるアマンダ。

目の前の人物に怯えた様子が見られない事から、暴力を受けてはいなさそうだと判断。


ただ、首元はローブで隠れており、一見すると分からない状態。

問い詰めたい気持ちを抑え、どうにか踏み止まる。


「信じていた仲間に裏切られたからです。疲れて眠っていたところを縄で縛られ、気が付いたら既に奴隷商の中でした。冒険者ライセンスは手元になかったので、運ばれた時に剥奪されたのかも知れませんね。」


そう言って、カリナは呪いや凛に関する説明をぼかしつつ、最近起きた事情を語る。

アマンダはこれを黙って聞くも、終始(うれ)い顔だった。


「…まさか、そんな事になっていたとはねぇ。」


「はい。ですが、そのおかげで良い主人と巡り会えました。とても奴隷とは思えない様な厚待遇を受けさせて頂いてますし、切っ掛けを作ってくれた彼女達へ逆に感謝した程です。」


「へぇ…今のあんたをそこまで言わせるとは、主人とやらは余程出来た人物なんだね。それじゃ、裏切った仲間達に復讐するって考えはない訳だ?」


「まさか。再び私を捕らえようとするなら返り討ちはしますが、こちらから動く(復讐する)気は全くありません。今が幸せですから…本日伺わせて頂きましたのは、援助が目的です。」


「援助って…どう見ても手ぶらじゃないか。」


訝しむアマンダ。

カリナは「ふふっ」と笑い、白い紙で包まれた袋の様なものをテーブルの上に置く。


そのまま袋を広げ、中から姿を見せたのはコッペパン。

数は全部で10、しかも1つ1つが紙で包まれた状態で入ってるのが分かった。

アマンダは袋の中身をまじまじと見、ふわっとした香りを元にパンだと結論付ける。


試しに1つ空け、しかしここまでふっくらとしているパンを見るのは初めて。

だからなのだろう、やや自信なさげに口を開いた。


「これは…パンで合ってるのかい?」


「はい。こちらは私の主人を始めとした、料理の得意な方々が今朝焼いて下さったものになります。」


「料理が得意なご主人様とやらに興味が湧いて来た…けど、それよりもだ。カリナ、あんたこれをどこから出した(・・・・・・・)?」


「実は私、空間収納(アイテムボックス)が使えるんですよ。あ、これは内緒でお願いしますね?」


話の最後。

カリナは右手人差し指を口に当て、左目を閉じるとの茶目っ気を見せた。




彼女の口から出た空間収納と言うのは、真っ赤な嘘。

実際は凛とのリンクで使用可能となった、無限収納だったりする。


下手に荷物を抱え目立つよりは…との意見から、空間収納持ちである事を前面へ出そうとの運びに。


まさかカリナが希少な人材(空間収納持ち)だと、全く予想だにしなかったアマンダ。

「なんてことだい…」と天を仰ぐ彼女の思いを知ってか知らずか、カリナは白い紙袋の両隣に透明な袋に入ったクッキー、それと数枚の金板を置く。


音に反応したアマンダは金板。

次に袋に入ったクッキーの順番で視線を向け、再度金板を。

それも確認の意味合いで何回かの瞬きの後、目をこれでもかと見開く。


「…は?金板?」


「必要かと思いまして。」


「いや、確かに必要だけど…は?そんな理由でこれ(金板)を置いたってのかい?」


その後も、アマンダは信じられないとばかりにカリナと金板。

え、本気?ねえ本気?とばかり交互に視線をやり続けた。




2時間後


先程の3点をカリナは無限収納へ一旦直し、我に返ったアマンダと共に別室へ移動。

そこで子供26人、アマンダ含む大人5人に食事やお菓子をお腹いっぱい食べさせ、衣服、絵本、積み木等の簡単な玩具を提供。


全員に喜ばれ、惜しまれつつもまた近い内に来ると孤児院を後にした。


それから早足で10分程移動。

第2の目的地である貧民層(スラム)へと到着。


「ニコラス。」


「…! おお、カリナか。」


そこで街中や雑用等でたまに話をする内に仲良くなった、30代後半の男性ニコラスと会う。

彼女はニコラスに簡単な食事を提供、ついでに雑談を交えながら情報交換も行った。


ニコラスは生まれも育ちも貧民層で、スクルド内に限って言えばそれなりに顔が広い。

その伝もあってカリナと仲が良いのだが、彼女以外のメンバーであるエイ()ジャ()カサンドラ(魔法使い)トレイシー(呪術師)は違う。


彼女達が自分達を見る態度から、あまり良い印象を抱いていない事に気付いたからだ。


カリナの為を思い、自分と関わらないよう促す。

尤も、良い笑顔で申し出を断られ、何回やってもそれは変わらなかったのだが。


そんなこんなで、先に折れたのはニコラス側。

ただ、渋々注意喚起するだけに留まった結果、カリナは呪いで死に掛けると言う。

笑い話にすらならない、壮絶な終わり方を危うく迎えるところだった。


しかし驚くことに彼女は火燐と雫、凛に救われた事を美談化。

しかも誇らしげにニコラスへ聞かせるものだから、もっと真剣に止めるべきだったと嘆く彼を逆にポカーンとさせた程だ。


それだけ話がぶっ飛んだとの表れでもあるのだが、第3者の視点からの意見込みで2人は逐次質疑応答を繰り返した。




「あいつら、いつかお前に何かやらかすんじゃないかと思ってはいたが…まさか死ぬ呪いをぶつけるとはな。しかも疲れて寝ている隙を突くとか、やり方が卑劣過ぎる。」


「同感だ。ただもう関わる気はない。近付こうとも思わんがな。もし会う事があっても無視するだけだ。」


「ああ、それが良い。」


互いが笑い合うを合図に、近況報告が終わる。


今でこそ朗らかな雰囲気だが、(ニコラスから見て)偶然に偶然が重なった産物。

危なかった、生きててくれて良かったとの安堵から来る疲れより「ふー」と溜め息をつく彼にカリナから(もたら)される、こちら(うち)へ働きに来ないかとの提案。


善い主人=食いっぱぐれる心配はない。

俄然乗り気となり、少し年下の妻や特に仲の良い知り合い10人に声を掛けるとのセリフを残し、その場を去る。


その間、カリナは念話で顛末を凛に報告。

可能であれば住み込みで来ても良いとの返事を、戻って来た彼らに伝達。


ニコラス夫妻、及び知り合いの者達は急いで支度。

家族を迎えに行ったのもそれなりにおり、やがて準備を終えた1行は人目のない場所へ移動。

ポータルを展開し、驚く彼らを他所に屋敷へと向かわせた。




貧民街を出たカリナ。

スクルドに存在する、もう1つの方の孤児院へと向かう。


(…付けられてるな。)


新たに移動を始めてから3分が経った頃、自分が尾行されている事に気付く。


離れた位置からコソコソと様子を窺う人物、つまり後ろ暗い性格の持ち主。

今すぐにでも問い(ただ)してやろうかとも思ったが、予想以上にアマンダ(孤児院)ニコラス(貧民層)で時間を費してしまった。

残るもう1つの孤児院でも同様の可能性がある為、これ以上は勿体ないとの考えに至る。


なので、彼女の取った行動。

それは現在の大通りから、人の少ない方向へと歩みを進める事だった。


(アク()セラ()ーション())


裏通りに入ってすぐ。

凛から施して貰った強化魔法の1つ、アクセラレーションを発動。

残像を残し、その場から一瞬で彼女は裏通りを駆け抜けた。


少しして、後ろを付けていた男性が裏通りに到着。

しかし既に彼女はおらず、500メートル程離れた場所から悠然と出、曲ったところだ。


そうとは知らない男性達は舌打ち、急いで周辺を捜索するも徒労で終わる。


それ以降は何事もなく、今回が初めての訪問となるもう一方の孤児院へも赴いたカリナ。

先程と同様に食事等を提供、ここでも全員から感謝と信頼を得られた。


1時間程で孤児院を出たカリナは、周りに誰もいない地点で使い捨てポータルを展開。

(はばか)る事なく直接屋敷へ帰り、役目を終えたポータルは消え失せるのだった。




午後6時半頃

スクルドのとある宿の1室にて


「なートレイシー。カリナが呪いで死ぬ日、確か今日か明日じゃなかったっけ?」


「そのはずだけど…どうかした?」


「いやさ、貧民層の入口からローブ姿のあいつが出るのを見たって奴がいるんだ。裏通りに入ってすぐ見失ったらしいけどな。」


「冗談でしょ。昨日の午前中まで奴隷商を見ていたけど、誰もあの子を買わなかった。そこから治療なんて、それこそ帝都にある教会のお偉いさんでもなきゃまず無理だわ。」


「だよな。ただの勘違いか。」


「…けど、ただの見間違いじゃない可能性もある。念の為、調べた方が良いかも知れないわね。」

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