84話
「凛殿、そう言えば昨日の件はどうなった?」
朝食が開始されてそれなりに経った頃、ランドルフが思い出した様に告げた。
その言葉に関心が集まり、ランドルフと凛に視線が集まる。
それは翡翠と楓も同じで、今まで食べていた(後日販売予定の)メロンフロートとほうじ茶パフェから手を離した。
残りは別の事に夢中だった。
例えば、火燐は山積みになった唐揚げを皿ごとザーッと口に流し、数回噛んだ後に飲み込んで次の皿を掴むを繰り返す。
彼女が食べているのは(アキュートチキンが進化し、魔銀級となった)コカトリスの唐揚げ。
別な所から「流石凛にゃ!あちしの好みを良く分かってるのにゃああああああ」とか聞こえたが、火燐達の前祝いで用意したものであり、気のせいだ。
別な所では特大サイズのパフェを前にした雫が目を輝かせ、それを(女性が中心となって)羨ましそうに見る。
また、翡翠達とは別のフロートやパフェ、他にも様々な料理を堪能している様だった。
「昨日の?ああ、自動販売機の事ですね。それでしたら既にサルーンの何箇所かに設置が済んでます。」
「ほう。具体的には?」
「新しく建て直した宿の前、それと商店、喫茶店、公衆浴場の横ですね。デザインはこんな感じになります。」
凛はランドルフの問いに答え、自身の後ろに自動販売機を置いた。
商品は500ミリのペットボトルと缶飲料のみ。
お茶や果物のドリンク、(味の付いたものを含む)水やコーヒー類、それとコーラ等の炭酸飲料も並んでいる。
マヨネーズも大概だが、それ以上にコーラへハマった者は多い。
しかし商店に炭酸飲料の類いは置かれていない。
冷蔵ケースがなく、温いや不味いとクレームが来るのではないかと凛が危惧したからだ。
その為、飲める場所が喫茶店や酒場にしかなく、不満の声がかなり寄せられたものの、こうして販売される形となった。
「貴族も利用すると思い、金貨までなら対応出来る様にしています。これは宿の前に置いたのと同じものでして、他の3箇所はそれぞれの店に関係する商品にしました。」
宿に設置したのはこの1台だけだが、他の場所には2台ずつ設けてある。
商店側は少し絞ったラインナップに、レモネードやココア等のホット飲料を加えたもの。
もう1台は(ドリンクタイプやゼリータイプ、ブラウニーにしたりアーモンド等を加え、種類を増やした)レー○ョンを始め、パン類やスナック菓子、チョコレート菓子、ハーフサイズのケチャップにマヨネーズ、(美容にも食用にも使える)オリーブオイルを。
喫茶店は唐揚げ、フライドポテト、フライドチキン、焼きおにぎり、カレーライス、ハンバーガー、ホットドッグ、ホットサンド、たこ焼き、焼きそば、チャーハン、ナポリタン、(白あんと黒あんの)今川焼やたい焼き、フレンチトースト、フォンダンショコラと言った温かい食べ物。
もう1台は各種クレープにケーキ、プリン、カップやバー状のアイス、コーヒーやカフェラテにキャラメルやバニラ等を加えた甘い飲み物|(ホットとアイスの2種類)を。
公衆浴場は冷たいミルク、フルーツや苺を混ぜたミルク、ミルクコーヒーを含めた冷たい飲料にアイス類。
もう1台はトラベルサイズのシャンプーやリンス、ボディーソープや化粧品、美容マスク等を並べている。
これらは凛が起きてすぐに設置し、全て銅貨5枚。
値段に合わせてサイズを小さくしたものもあるが、既にかなりの評判となっている。
特に、現在は朝食時とあって飲食物が人気。
手頃なサイズなのも重なり、かなり長い列が出来る程。
それと公衆浴場横もだ。
アイスやミルクを使った飲み物は勿論。
サルーンから離れても大丈夫な様になのか、清浄効果を持つボディーシートやウェットティッシュが。
他にも、女性からは水の要らないシャンプーやリンス、寝癖直しのミスト、(1枚しか入っていないものの)オールインワンタイプの美容マスクに人気が集まっている。
先程のテーブルに並べられた料理と言うのは、自販機で販売開始になったのものの事で、今回初めて見るからか余計に関心が高かったのだろう。
「成程。その自動販売機なるものだが…こちらでも設置は可能だろうか?後、可能なら野菜と果物、それと卵も融通して欲しい。」
「自動販売機を置く事自体は、お時間を頂ければ可能です。」
自販機は店舗から動力を貰う為、敢えてくっつける形で設置している。
しかし楓が新たに得たスキルの1つである『鉱物支配』。
これを用い、金属に『温める』や『冷やす』能力を付与すれば魔力の消費を大きく減らせる。
後は(商品とは別に)空いたスペースを無限収納に繋ぎ、魔力を流す事でどこにでも置けると凛は考えた。
「おお!」
「野菜等はどうしてでしょう?」
「ん?知らないのか?サルーンで販売される野菜と果物は味が格別。しかも大きい。」
野菜や果物は名前こそ同じだが、片方や原種。
もう一方は、品種改良された種を高濃度の魔力水で育てた逸品だ。
凛の領地では毎朝訓練後に収穫→諸々の後処理→午後から種植えを行い、毎日手に入る状態にある。
「それと凛殿は知らない様だが、卵は貴重品でな。しかも生で食べれる程に安全と来た。」
卵はアクティベーションで用意し、清浄を施したもの。
この世界にも家畜としての鶏はいるが、ストレスに弱く、そもそも産む数が少ない。
そんな貴重な卵も、ほとんどが王族貴族に回され、市場にあまり出ない。
仮に販売されたとしても、今度は品質や衛生面に問題が。
その代用品(?)として、鶏系やハーピー等の魔物の卵が挙げられる。
味はこちらの方が断然上で、強さに応じて食べられる期限も延びる。
卵の採取依頼は依頼主の我儘か要望が主。
冒険者達も卵に興味がない訳ではないが、同じ金額なら肉や酒に充てて楽しむ事だろう。
「それが他と変わらない値段?卵に至っては10個で銅板1枚だ。マヨネーズもそうだが、そんな破格とも言える値段、世界のどこを探しても見付かりはせぬよ。断言しても良い。」
凛が来るよりも前にいた転生者達が色々と挑戦するも結果は芳しく、技術やコストの面から実用化は難しかった。
材料が揃えば作成は出来るマヨネーズでも、500グラム用意するのに銀板以上の費用が掛かる。
しかも日本から来た者達からすれば物足りなく、しかも不味い。
そんな高嶺の花とも取れる卵も、凛のおかげで状況が一変。
先程のマヨネーズを始め、様々な料理やデザートで卵が使われていると分かり、今では非常に関心が高い。
「そうでしたか…すいません。」
凛は日本にいた感覚で卵を、野菜と果物は客寄せと味を知って貰うのも兼ね、販売を開始。
しかし思った以上に反響を呼んでしまい、ガイウスとランドルフに迷惑を掛けたのではと捉え、謝罪する。
ランドルフとガイウスは互いに顔を見合わせ、「ははははは」と笑ってからそれぞれ口を開いた。
「いやいや、むしろこちらとしては礼を言いたい位だ。私がドレスター卿と仲が良いのを理由に、周りの貴族からせっつかれてはいる。…が、逆に言うと、用意さえしてしまえばスクルドは益々発展するとも取れる。」
出会った当時のランドルフもそうだった様に、帝国と王国の貴族は仲が悪く、彼に続いてガイウスと仲良くしようとする者はいない。
反対に、王国側はサルーンの状況はある程度分かっているものの、下手に突いて被害を蒙りたくないらしい。
誰が接触するかで揉め、裏でこそこそとしている状態だったりする。
「それはサルーンも同じだ。ただ、最近は泊まる場所がないのを理由に、街の外で夜を明かす者が多い…と言うのが頭痛のタネではあるがな。」
カリナとかつて仲間だったエイジャ達を始め、泊まる場所がないのを理由にサルーン近辺で野営する者は結構いる。
魔物の強さは鉄級や銅級が主ではあるものの、人同士でのトラブルだったり、チャンスだと捉えた盗賊も増加傾向に。
それに伴い、キャシー達警備も街の外に出張る回数が増え、ガイウスも頭を悩ませているのだろう。
「近い内に対策を立てないとですね。それと、良ければこちらをどうぞ。」
凛はリ○ビタン的な瓶をテーブルに置き、ガイウスの近くにやった。
ガイウスは徐に瓶を手にし、様々な角度で眺めながら「これは?」と尋ねる。
「そちらはバイタルドリンクと言いまして、簡単に言うと元気になる飲み物です。魔力で生成した水にバイタライズを施したのがベースとなってます。」
「ああ、あれか。成程、実に分かりやすい例えだな。」
ガイウスは訓練に熱が入り過ぎて疲労困憊となり、凛にバイタライズを使用して貰った経験が何度かある。
その事を思い出し、「ふむ…こうか?」と言いながらキャップを開け、一気に飲み干した。
「これは…何と言うか独特な味だ…おお?心做しか元気になった様な気がする。」
バイタルドリンクはバイタライズを施した魔力水に、タウリン等の元気が出る成分をプラス。
カフェインも入っており、覚醒作用を促す効果も。
その後、ガイウスに触発された者達が挙ってバイタルドリンクを飲む一幕もあったが、今後についての話は続けられた。
「あ、そう言えば。昨日1日やってみてどうだった?」
途中、凛がアイリとプレシアに問い掛ける場面も。
「ん?そうねぇ、皆良い人ばかりだったからお姉さん助かっちゃったぁ♪」
「…って言ってるけど。この子、片っ端から相手を魅了しちゃうのよねぇ。」
プレシアは来た時はサキュバスだったが、今はエンプーサだ。
もう少しで最高位であるリリスに手が届く位置におり、魅了は相手と強さに開きがある程に成功率が上がる。
また、彼女はサキュバスになった翌日に捕らわれ、オークションへ出品された経緯を持つ。
それらが重なり、気合を入れて臨んだ結果100%…つまり娼館に入って来た者全員を魅了。
男性だけでなく、たまたま付き添いで来た女性までもを落とした。
そのまま全員を夢の世界へお誘い、一斉に搾り取っては「うふふ、ご馳走様♪」と嬉しそうにしていた。
「だから私達は仕事らしい仕事をほとんどしてないのよね。」
合計10人で娼館を運営するとなり、最初はこの少人数で回せるのかと不安で一杯だった。
しかし蓋を開けてみれば、プレシア1人だけで賄える状態。
アイリ達がやった事と言えば受付、出迎え、見送り位で、後はのんびりと過ごしていた。
「そうだったんだ。これなら心配なさ━━」
「にゃ。強いて言うならここの男共を相手した位だにゃ。」
凛が纏めようとした所、キャシーが余計な口を挟んだ。
これに場が微妙な空気となり、プレシアは困った笑みを浮かべ、アイリが半目でキャシーを睨む。
キャシーは良く分かっていない様だったが、今のやり取りを機に、彼女が娼館の仕事から外されたのは言うまでもない。
7時過ぎ
凛、火燐達、ガイウス、ランドルフ達は訓練部屋にいた。
凛はイータ達へ、自分達の代わりに指南するよう指示。
別な訓練部屋にて、他の者達は彼女達から指導を受けている。
そこでキャシーが、ミューを見て「あちしと同じ戦い方…やっぱり凛はあちしの事が好きに違いないのにゃ」とか言っていたが…すぐに撃沈。
やはり気のせいだった。
「ほいっと。」
火燐は鉄で出来た的を袈裟斬りにする。
鎧は切断面を真っ赤に溶かしながら斜めにずれ、ドシャッと音を立てて床に落ちた。
「ザ○とは違うのだよ、○クとは。」
そのタイミングで雫が後ろを向き、何故か誇らしげに告げた。
「雫、どうかした?」
「ん。何でもない。」
「???」
凛は澄まし顔で返答する雫に益々困惑。
「まぁ良いか。」
ひとまず先送りにし、改めて火燐が右手にある大剣に視線をやる。
彼女の大剣はより赤みが増し、燃え盛る炎を象った様なデザインへと変化。
雫の青い杖は先端に翼が飾られ、柄部分に2匹の蛇が巻き付いた。
翡翠の弓は通常とは別に、両端にも持ち手が付いた三日月型に。
楓の枝杖は棒状となった柄に葡萄の蔓が巻き付き、先端には松かさが。
それぞれ、レーヴァテイン、カドゥケウス、フェイルノート、テュルソスと言い、『神器』と呼ばれる存在となった。
「ふ〜ん、中々だな!」
「何度見ても可愛くない…。」
「うーん、出来る事が増えたのは良いんだけど…あたしに上手く扱えるかな…。」
「可愛いです…♪」
4人は性能と親和性が上がった神器を手にし、それぞれ感想を述べた。
午前10時過ぎ
凛達は未だ訓練部屋にいた。
性能が上がったのとは別に、レーヴァテインは炎と氷の吸収・無効。
カドゥケウスとテュルソスは収束と魔力自動回復。
フェイルノートは適当に放った矢でも必ず当たる必中の効果がある事が分かった。
尚も火燐達が検証を続け、それを眺めていた所、紅葉から念話が届けられた。
「『凛様。無事、王都に到着致しました。』」
「『お疲れ様。中に入れた?』」
「『それが…凛様が懸念されました通り、入る事は叶いませんでした。私達が亜人なのが理由だとは伺いましたが…。』」
「『間違いなく、鬼王達が理由だろうね。』」
そう、凛は告げるのだった。
職場の同僚の家族がコロナに掛かったとかで休みが潰れた件orz
更新を減らした意味よ…
翡翠のフェイルノートは烈○の炎で出る、金○暗器のブーメランみたいなものだと思って頂ければ。
それとマヨネーズですが、本場は卵黄じゃなくて全卵でうま味調味料等も入ってないので物足りなく感じたりするらしいですね。
○ューピーさん偉大すぐるw




