84話 12日目
12日目 午前6時半頃
朝食が開始されてから30分が経過した事もあり、火燐と雫だけが未だダイニングで食べ続ける位で残りのメンバーは全員リビング側にいた。
篝を含めた狐人や村人の子供達、藍火、ナナが凛の周りを囲い、大凡が齧り付く勢いで彼の話に耳を傾ける。
それを、斜め後ろにいるカリナが一片たりとも聞き逃すまいと熱心にメモを取ると言う、ある種異様な空間がそこにはあった。(因みに、階段の上がり口、キッチン、ダイニングにメモ用紙とボールペンが置かれ、今回はダイニングにあるものを使用)
違うテーブルでは、ニーナ、トーマス、コーラル、ウタル、サムと言った代表者達が集合。
何やら難しい表情で話し合いの真っ最中。
更に別の箇所では、座る暁と旭に対し、ジェシカとコニーが緊張の面持ちで一生懸命アピールするテーブルも。
ただ2人は少し鈍感な部分があり、抑揚のない声で受け答えをするのみ。
ジェシカ達はそれをアピール不足だと捉え、益々必死な様子で言葉を重ねていく。
その隣、美羽、翡翠、楓、紅葉、月夜の5人のテーブルに於いて、彼女らが村人や元盗賊の男性達から絶賛口説かれ中。
当人達は凛や暁達の元へ向かいたいと思っており、適当に相槌を打ち、困った笑顔で流す。
例外が月夜。
彼女に至っては不満を隠そうともせず、しかも自分から話しておきながら相手の目ではなく体を見ている事に苛立った様子を見せる。
そしてある意味1番目立つであろう人物ことリーリア、彼女は最も端にあるソファーで寛いでいた。
デーモンに進化した玄を自身の胸に後頭部を埋める形で可愛がり、右隣に座る小夜や(美羽達のところから避難して)左隣に座ったイルマやエルマもそれは同様。
そんな彼らの後ろに立つは、玄に似てはいるが少し幼い顔立ち、黒髪を肩下まで真っ直ぐ伸ばした女の子。
少女はまるでキャバクラ接待でも受けるが如く、気持ち良さそうにする玄へじー…っとひたすら目線を送り続ける。
黒髪の少女、元は紅葉が連れて来た雌ゴブリンだったりする。
彼女は紅葉達や玄よりも物怖じ等なく毅然とし、またマイペースで自由が所以で『遥』と名付けられた。
遥は名付けの影響により、ゴブリン→ホブゴブリン→インプ→レッサーデーモンを経て、玄と同じデーモンになる…かと思いきや。
レッサーデーモンからの派生であるサキュバスへと進化。
どうやら、玄がリーリアを気に入ってるとの判断から大人っぽくなりたいと願った結果、玄と同じデーモンではなくサキュバスへと引っ張られた模様。
玄は銀級上位、遥は銀級と。
強さに差が出てしまったものの、遥は『変身』、『魅了』、そして『催淫』のスキルを得た。
魅了と催淫は自分の方が相手よりも格上との制限はあるものの、文字通り相手を魅了したり性的興奮を促すスキル。
変身は自身を思い描く姿に変える効果を持ち、ドラゴンを始めとする魔物や大人の魅力溢れる女性等にもなれる。
翡翠は黒鉄級上位のイタカとなり、『時空間適性』、『滑空』、『加護付与』を。
楓も同じく黒鉄級上位のマイノグーラとなり、『時空間適性』、『眷属召喚』、『加護付与』のスキルをそれぞれ獲得。
翡翠と楓も火燐や雫と同様、ポータルによる移動や自分が司る属性の加護を与えるのが可能となった。
翡翠が得た滑空。
それは何もしなくても空に浮き続けられたり、今まで以上に空中をスムーズに移動が可能。
楓の眷属召喚。
ティンダロスの猟犬と呼ばれる、全長10メートルはある青っぽい犬の様なナニカ(犬ではない)を3体まで呼べるとの効力が。
午前7時過ぎ
「それじゃ早速、翡翠達が得たスキルの検証を行ってみようか。」
屋敷の敷地内にて、全員を前にした凛が告げる。
彼のアイコンタクトを合図に、翡翠が跳躍。
空中で滞空スキルを用い、周辺一帯を滑ってみせるかの様な動きを披露。
地上では、楓が3体のティンダロスの猟犬を喚び出して見せた。
凛達はどちらも関心した様子となる一方。
エルマ達や藍火を含めた一般的なメンタル所持者(主に奴隷+狐人+村人達)は、地上を走る恐ろしい見た目の巨大な犬擬きに震え上がる。
「ナビ。この子達を…そうだな。例えば向こうで言うトイプードル、チワワ、小さな柴犬みたいな見た目にする事って出来る?」
《可能です。》
直後、ポンッと音と共に転機が。
それまでの全長10メートルはあった禍々しい風貌のティンダロスの猟犬達が、全長50センチ程のトイプードル、(ロングコートタイプの)チワワ、柴犬っぽい姿へと見た目が変わった。
3体共青みがかっていたり、尖った舌や尻尾を持つ等。
普通の犬とは色々と様相が異なる…そう、普通の犬ではない。
ないのだが、それでも非常に愛くるしい外見に変わりはない訳で。
「はっはっはっはっ…」と呼吸し、つぶらな瞳を向けながら尻尾を振る仕草に美羽達はノックアウト。
急遽戻って来た翡翠と共に黄色い声を上げ、子犬達を可愛がり始めた。
子犬達は見た目や大きさこそ違うものの、やる事自体は先程と同じ。
地を駆け、土属性。
厳密には岩を用いた隆起だったり棘の生成、及び大きな塊を上空から落下と。
どれもこれも、当たったら一溜りもないものばかり。
にも関わらず、戦闘とはあまり縁がなかったり苦手とする村や狐人の女性や少女達ですら、全く警戒した素振りを見せていない。
それがトーマス達にとっては恐ろしく、女性達、子犬達、そして切っ掛けとなった凛の順で戦慄の表情を向ける。
その凛だが、皆から少し離れた位置で楓と会話中。
やがて楓の「お願いします…」を合図に、子犬達が一吠え。
3体共、地面に吸い込まれる形で消えていく。
突然の子犬達喪失に美羽達は落ち込み、残念がるかのどちらかだった為に凛は彼女達へ謝罪。
その後、改めて変身スキルの検証をするよう遥に促す。
言われた遥はスキルの使い方が理解出来なかったのだろう。
10秒が経っても尚変化は特に見られず、この人みたいになりたいと思えば大丈夫との凛からのアドバイスに頷き、目を閉じて集中。
すると、遥の体が少しずつ大きくなっていき、やがてリーリアに似た、綺麗でナイスバディーな大人の女性の容姿へと変貌。
丁度そのタイミングで服が破れ、全裸状態にもなった。
暁と旭を除いた男性陣は挙って興奮。
反対に凛は嘘でしょ…と青褪め、美羽と共に慌てて彼女の元へ。
当人は事情が分からない上に羞恥心もなく、不思議がるだけだった。
紆余曲折あったものの、どうにかローブを着せる事に成功。
2人が一安心と言った様子を見せる一方、あからさまに気落ちする男性陣。
女性らから冷たい視線を向けられるも、誰1人として気付けないでいる。
「ナビ。遥に『自動換装』スキルの装着をお願い。」
軽く後ろを見、色々と察した凛の苦笑いでの指示に、畏まりましたと告げたナビが早速作業に取り掛かる。
自動換装スキルは、対象者が変身等で見た目を変えた際、適したタイミングで特殊加工した衣服の着脱、或いは変更すると言うもの。
昨晩、凛は藍火が姿を変える度に事故が起きるのを防ぐ目的で創ったスキルでもある。
そんな自動換装スキルの説明を凛は遥に行うも、いまいち伝わらなかったらしい。
ひたすら疑問符が飛び交うだけだった。
困り顔を浮かべた凛は、「実践した方が早いか」と藍火を呼んでドラゴン形態から人間の姿になって欲しいと頼み、2つ返事で承諾。
少し気合いが入った様子でブルーフレイムドラゴンへ姿を変え、すぐ様元の人間へ。
その際、着ているシャツとズボンが破れていない事を確認。
凛と共に喜び合った。
これにニーナ達を始めとした大人達が、本当にドラゴンだったとの意味で微妙だったり顔を真っ青にする中。
笑顔の美羽と火燐が凛達に加わり、そこへ初めて目撃した事でテンション高めの篝や子供達も混ざっていく。
それから、凛は皆を鎮めるも、良くも悪くも興奮冷めやらない一同。
完全に無言となるまで、しばし時間を要した。
「…はい、皆さんが静かになるまで5分掛かりました。」
なんて口上から始まり、自分達もそれなりに大所帯となった。
自分を中心に死滅の森を進む者達とは別で、4つのグループに分ける旨を周知。
その4つのグループとは、凛が昨日建てた屋敷の管理、
オーガキングが支配していた集落を凛の領地とし、領地内に植えた作物の管理、
凛達の世界にある料理等の技術を覚え、
商売や接客を行うと言うものだ。
それぞれ、屋敷の掃除、食事や風呂の用意と片付け等、
凛達が植えた作物の手入れ、及び収穫、
屋敷のキッチンでひたすら料理を作り、物作りを学ぶ。
1番目と3番目のどちらか1方でも良いので凛から合格を貰い、希望するor依頼される形でサルーン等へ赴き、商品の売買や体得したサービスを披露…と言うのが主な役割となる。
それらを凛は出来るだけ分かりやすく皆へ説明。
(暫定ではあるが)屋敷の管理をコーラル、
作物の管理はウタル、
料理はニーナ、
商売はトーマスがそれぞれ代表を務めると告げ、紹介を受けた者達は一斉にお辞儀。
続けて、ジェシカ達元盗賊組は少しの間、領地の安全を守る警備隊になって貰うとの指示が。
代表でジェシカが理由を問うたところ、他の者達よりも戦闘に長けているからと解説。
それならば納得しかない彼女が成程と零す。
続けて、凛が数日から長くても1ヶ月位。
自分達と一緒に死滅の森を進んで欲しいと告げたところ、ダニー達やディックを中心に不満を漏らし始めた。
「何だ?お前等ぁ、凛の決定に文句でもあるってのか?あ?」
火燐の有無を言わさぬ1言。
彼女の言葉により、4人は青い顔で押し黙るしか選択肢は与えられなかった。
凛は火燐+4人を軽く宥め、人と接したり話したりする事が好きな者はトーマス、
料理をするのが好き、又は凛の屋敷に来て知ったものを自分も作ってみたいと思った者はニーナ、
農業に関する作業が好き、或いは得意な者はウタル、
いずれも当てはまらない者はコーラルの元へ向かって欲しいと伝達。
村人達や狐人達は顔を見合せ、若しくは近くにいる者と軽く会話してから移動を開始。
結果、トーマスとニーナが8人、ウタルは24人、コーラルは6人の者が集まった。
ただ、最後まで動かなかった者が2名。
カリナ、それと灰色と黒い髪を持った虎の獣人男性キールだ。
キールは強くなりたい、カリナは凛の役に立ちたいを根拠に死滅の森探索を希望。
凛は快く迎え入れ、2人と握手を交わした。
程なくして、各グループの代表者による決まりごとや注意事項の説明が開始。
ただ1人、ナナだけが悲しげな表情で母親であるニーナを見詰めていた。
と言うのも、ナナは最初ニーナのいる料理のグループへ向かうも「もう少し大きくなってからね」とやんわり断られ、その後コーラルに回収されたからだ。
悲しみのあまり、涙が溢れそうになる彼女。
そこへ雫が「ナナ。屋敷の管理をするなら、メイド服は外せない」と無限収納からヴィクトリアンタイプのメイド服を出して見せるや目を輝かせ、大事そうに受け取る。
テンションが爆上がりしたナナは勢い良く立ち上がり、説明中のコーラルの手を取って一緒に着ようと促すも…恥ずかしいからと断られてしまう。
分かち合える、受け入れてくれるとばかり思っていたナナは、予想だにしない答えに少しの間呆けてしまう。
やがて目に涙を溜め、コーラルに視線を向けたままぷるぷると体を震わせる。
コーラルはたじたじになり、やがて盛大な溜め息と共に(いつの間にか待ち構えていた)雫からメイド服を受け取る。
トボトボと歩く彼女をナナが嬉しそうに付いて行き、2人は屋敷の中へ。
凛は正反対とも取れる彼女達を見送った後、雫に疑問をぶつけてみる。
「…ねえ雫。あのメイド服、どうやって━━━」
「瑠璃を初めて見た時から、いつか役に立つと思って用意しておいたのだ…!」
尤も、言い切るより早く腰に両手を当て、物凄いドヤ顔の彼女に見事遮られたが。
「そうなんだ。(全然答えになってないんだけど、ここまで嬉しそうにする雫は珍しいかも)」
凛は敢えて追求はせず、温かい笑顔を向けるだけに留めた。
5分後
先に着替え終わったのか、ナナ1人だけで先に戻って来た。
メイド服姿のナナは可愛らしく、全員から褒められるやその場でクルッと1回転。
えへへーと口にしつつ、にへらと笑う。
そんな彼女の様子を、半分だけ顔を出したコーラルが観察。
気付いたナナは彼女の元へ向かい、今の姿を皆に見て貰おうと腕を引っ張り始める。
コーラルは「えっ、ちょっと…まだ心の準備が…」等と言いながら手を引かれ、最後は皆の前でナナと横並びに。
顔を真っ赤にして俯き、スカートの裾をぐっと掴む等して恥ずかしさを必死に我慢。
その彼女の肩に凛は手を置き、良く似合っているよと評価。
コーラルは恐る恐る顔を上げ、皆から真っ直ぐな表情で頷かれ、褒められる。
今まで経験した事がない思い、恥ずかしいやら嬉しいやらが湧き上がり、よく分からない様な笑顔(?)を浮かべる。
突発なイベント発生からの終息に凛が安堵。
美羽達はほっこりした気分になり、温かい空気が場を包むのだった。




