80話
同時期。
ガイウスが1人百面相をしている等とは露知らず、凛は楓と2人で木の周りごと地面を掘り起こしている最中だった。
どこから用意したのか、ホイッスル+旗込みの手信号で指示を出す雫監修とのオマケ付きで。
そのまま2人は掘り起こした木その他諸々と共に30メートル程浮き、掘り起こした地面を埋めたが為に若干遅れて上空に上がった美羽。
それと火燐が先導する形で新しい屋敷へと向かう。
見物客達はその一部始終を注視━━━もとい、ずっと口をあんぐりと開けたまま呆け、気付けば終わっていたとの状況。
空を飛び、地上を歩いた者達(旗を前に翳し、ピッピッとホイッスルを吹く雫が先頭)は死滅の森へ何をしに行くのか。
誰かと話していた風に見えた水晶っぽいものは何なのか。
そもそも何故木を運ぶ必要が?
1つとして解決しないまま取り残され、非常にモヤっとした気分に陥った。
そうとは知らない凛達は10分近く掛け、新しい屋敷の中心から少し西側の位置へ。
ゆっくりと地面に降り立ち、運んで来た木を丁寧に植える。
作業を終え、手を取り合いながら談笑し始めた頃に徒歩組が到着。
或いは、ピュルルルルル…との音で気付かされたと言うべきか。
加えて、半数以上が不自然に浮かされ、歩いたと言うよりは運ばれたに近かったとも。
徒歩も悪くはないものの、それだと時間が掛かるから手っ取り早い手段を取った…が、自身も浮いて引っ張った雫の弁。(因みに、旗とホイッスルで説明しようとした為、火燐に取り上げられた)
喜んでるのはナナ位で、残りは程度の差はあれど漏れなく疲れるか意気消沈。
地面に体の一部が触れるや慌てて屋敷へ向かい、次々と後に続く。
凛だけがその場に残り、右手で木を撫で続ける。
「場所が変わって戸惑うかもだけど、これからも宜しくね。」
1分後、名残惜しそうに木を見上げた凛がポンポンと軽く叩き、屋敷の方向へと歩み出た。
━━━━ありがとう。こちらこそ、これからも宜しくお願いするわね━━━━
直後、どこからか女性らしき声が。
「?」
聞き覚えのない。
それでいて1つ上の姉みたく優しさを含ませたトーンに凛の足が止まり、辺りを見回すも自分しかいない。
「マスター?まだ掛かりそー?中で皆がマスターの事を待ってるよーー!」
「はーい!ごめん今行くーーー!!何だったんだろう…?」
不思議に思い、目をパチパチする内に美羽が屋敷の入口から顔だけを出し、彼女の呼び掛けに反応。
首を傾げ、こちらも悶々としたまま屋敷へと足を運ぶ。
凛がダイニングに入るや、困った表情の篝が頼みがあると告げて来た。
何でも、自分の同族がどうなったのか心配だから様子を見に行きたい。
このままただ居候するのも悪いので、自分も(主に戦闘面で)役に立ちたいとの事。
これに、凛は確かに心配だ。
そして無理しなくても大丈夫。美羽達の装備を用意したのは自分で、篝も使いたい武器があれば用意すると返答。
やはり凛は優しいと篝が目を輝かせ、尻尾をぶんぶんと振りながら(憧れを動機に)凛が使っているものと同じ武器が良いと話す。
「それなら…」と言って凛が無限収納から取り出したのは、以前より少しばかり性能が上がった量産型の刀だった。
尤も、少しばかりと銘打ちながらしれっと件の合金も混ざっているが。
それをパァッと花開いた笑みの篝が受け取り、今にも小躍りしそうな雰囲気の彼女を凛や美羽達、エルマ達、紅葉達やリーリアは微笑ましげに眺める。
そんな彼ら彼女らを藍火や玄やナナの子供組が羨ましそうに見詰め、ニーナ達大人組はドン引きした顔付きに。
その延長線とでも言おうか。
今更ながら、彼女が着ている服は未だ奴隷商で購入した時のボロボロなワンピースのまま。
丁度良い機会との判断の元、参考にしたいからどんな服が着たいかを凛が尋ね、火燐みたいな服装で色違いが良いとの返事が。
凛はその場でアクティベーションを使用。
火燐よりも少し色が薄く、明るい赤である朱色のシャツを右手に、共通となりつつある黒のパンツを左手にそれぞれ用意。
それらを篝に見せたところ大変喜ばれ、凛から服を受け取るや即座に着替えて来ると口にし、2階へと駆け上がって行った。
2分程で服を着替え、リビングに戻った篝が居住まいを正し、今でも街の北に同族がいると予想される事。
彼らの安否確認、並びに自分の無事を知らせたいので外出したいと志願。
凛は快諾。
ただし1人ではなく複数を条件とし、場合によっては交渉役を依頼するかもと伝達。
これに篝が不思議がるも、自分達が不在の間、領地や作物の管理を任せたい旨の説明を受け、安全が保証されていれば大丈夫ではないかと返す。
そこへ今度は、村の人達も今より生活が良くなるなら来るかも…とニーナが会話に参加。
狐人達や村人達の出方次第で話の方向性を決めようとなった。
それからも協議は続き、トーマスとコーラル、ジェシカを加えた6人を中心に行われた。
結果、凛、美羽、ニーナ、ナナ、トーマス、コーラル、篝、紅葉の8人で交渉に臨む。
ジェシカは盗賊界隈でそこそこ名が知れているを理由に、ダニー達を連れてサルーンにある警備の詰所や奴隷商を回る事に。(この時、紅葉が暁と旭にジェシカ達の護衛に付くよう命じ、ジェシカは一緒に行動出来ると分かって嬉しいのか、旭を頻りにチラチラ見ていた)
残る火燐と雫を除いたメンバーはアルファと合流。
屋敷周辺、及び一帯の魔物退治をするとの運びに。
話が纏まり、それぞれが行動を開始…の前に。
凛は少しでも話を円滑にとな名目で、ニーナ達の首に嵌まる隷属の首輪を(無限収納へ)撤去。
隷属の首輪は文字通り奴隷の証。
購入時に適宜制限等を課すのだが、凛はニーナ達は疎かジェシカ達盗賊にすら一切設けなかった。
当然、血液を用いた所有者認定も掛けておらず、逃げようと思えばいつでも逃げ出せる状況下にあった。
ただ、仮に逃げ出せたとしても自分達では首輪を外せない。
奴隷=人ではなく物として扱う風潮がそこそこあるを背景に、1人で歩こうものなら調べられ、制限の掛かっていないフリーの状態だと分かり次第上書きされる可能性も。
それが逆に枷となってニーナ達は凛の元から動けなかった訳で。
ここまでの好待遇ですら有り得ないのに、まさか隷属の首輪まで取っ払うとは思ってもみなかったらしい。
首輪がなくなったと認識するまでにしばらく時間を要し、(自由になれた安心感から)ニーナ、コーラル、ダニー達が泣き出してしまう。
未だ理解が追い付かないトーマスとジェシカは呆然とニーナ達を眺め、ナナはニーナ達が泣くのを不思議そうな顔で見入っていた。
改めて凛に忠誠を誓うニーナ達。
大袈裟だと宥められながらポータルで宿直室へ移動、そこでジェシカらと別れ、凛達だけで解体場へ向かう。
「何だ、凛、来てたのかよ。さっきのやつらなら既に解体は終わってるぜ。他に何か解体して欲しいのがあれば追加で受け付けるが…どうする?」
凛の存在に気付き、おっと漏らしつつ歩み寄って来たワッズからの質問。
「もうですか?早かったですね。」
「凛が修理した道具が優秀過ぎるおかげだ。ダイアウルフもキマイラも魔銀級の魔物だし、ここじゃどっちも解体する機会が滅多にねぇもんでな。つい張り切っちまうんだよ。」
「成程。んー…今が午後3時位ですし、明日の今頃に受け取るとした場合、どれ位なら出して大丈夫そうですか?」
「そうさな…今から始めたとしても、軽く昨日の倍はいけるんじゃねぇか?残りの道具達も修理してくれたら更に増やしても全然問題ないんだがな。」
「成程。因みに、希望の魔物とかってあります?」
「可能であればビッグスパイダーだな。あいつら、見た目はあんなだが、焼いて食うとうめぇんだよ。酒にも合うしな。後は何でも構わねぇぜ。」
「(ビッグスパイダーって、向こうで言うところの蟹みたいな感じなのかな?)…でしたら、キラーマンティスとビッグスパイダーを10体ずつ。先程のと、これからお願いする分の扱いはそちらにお任せします。」
「分かった。なら、ビッグスパイダーは俺達の方で買い取らせて貰うぜ。」
「あ、後。ミスリル製のナイフを10本お譲り致しますので、作業の足しにでも使って下さい。」
「マジか!?ミスリルナイフ10本たぁ大盤振る舞いだな!ありがとよ!」
このやり取り後、凛は残りの解体用道具を回収。
続けて、キラーマンティスを12体。
ビッグスパイダー10体を床に置き、ミスリルナイフをワッズ達に渡す。
「ほう、凛が強いのは分かっていたが、まさか空間収納まで使えたとは…!」
「すごーーーい!!」
『………。』
慣れた様子の2人に篝とナナが興奮する一方。
白金貨は下らないミスリル武器をホイホイ渡す凛の神経が理解出来ない、ニーナ達の引いた顔付きが全てを物語っていた。
解体場での用事を済ませた凛は、皆を連れて街の北門に到着。
ポータル以外で街の中に入る時は南側の門を利用しており、北側の門を利用するのは今回が初。
ローテーションか、将又エリア毎に割り振りが決まっているからかは分からないが、北門の前に立つ門番2人とは初顔合わせの凛達。
もしかするとバーベキューの時に会ったかも知れないが…ともあれ、彼らが強い上に大変見目麗しい風貌との情報はサルーン中に広まり、門番2人もそのつもりで構えていた。
…が、そちらを見るなり固まってしまう。
どうやら想像していたよりも遥かに容姿に優れ、呼吸すら忘れる位には見惚れたらしい。
現在対応中である男性との手続きが滞り、向こうから怒られてようやく我に返る2人。
周囲の人達や凛達から、苦笑いだったり笑われたりと散々。
ただただ恥ずかしい思いをするだけで終わった。
「い、行ってらっしゃいませ…。」
消え入りそうな声に見送られ、若干の後ろめたさを感じつつサルーンを離れた凛達は北西方面へ。
2キロ程歩き、森に入って更に進んだところで複数の気配が。
気配の正体は狐人で、彼らは茂みから現れた部外者の存在に警戒心を露に。
「皆、大丈夫。あたしだよ。」
「…メリルか。無事だったのか。」
「ああ、どうにかな。」
しかし篝が前に出、安堵する間もなく彼女から発せられた「皆を迎えに来た」との言葉で俄に騒然。
すると、後ろから掻き分ける形で1人の狐人男性が姿を現した。
「メリル…元気そうで何よりだ。人間に殺されたとばかり思っていたぞ。」
「篝、こちらは?」
「サムと言う。あたしの叔父に当たる人物だ。」
篝からの答えに、凛は成程と思いながら男性へ視線を移す。
男性ことサムは40代半ば位。
篝に少しだけ似た顔立ちで、緊張しながらも姪を見る目付きは優しい。
事情はどうあれ、彼女が生きてくれて嬉しいのだろう。
「それで元気そうと言っていたがな…実は昨日まで死にかけてたんだ。」
『は?』
「体中傷だらけ、手足や耳に至っては片方ずつ欠けた状態だった。」
『………。』
「だが、そんなあたしを凛が治療してくれたんだ。見ての通り、しっかりと歩けるまでに回復してな。良い服も与えて貰った。」
「その…凛と言うのは?」
「あたしのご主人様の事さ。この人がそうだ。」
そう言って、篝は右隣にいる凛の左肩に右手を乗せる。
「ご主人…そうか。メリルは奴隷になってしまったのか。しかし、奴隷の証である首輪をしていない様に見えるが…。」
「仕方がなかったんだよ。サム達と別れた後、襲って来た奴らを追い払う事は出来たんだが、ほとんど死に体でな。色々あってサルーンの奴隷商に預けられ、数日が経った昨日。奴隷商へ来た凛がお金を払うより早く動いてくれてな、その心意気が嬉しかった。あたしの方から頼み、篝の名前を貰ったと言う訳だ。」
もし凛が昨日来なかったら、あたしはここにいないだろうな。
はっはっは、と笑いながら一喜一憂する篝に狐人達が目を見開いた後、心配そうに耳を傾ける。
(…そうか。義理堅いお前の事だ。それは、生まれ変わる為の決意の表れなのだろうな。)
そんな中、篝を生まれた時から知っているサムの眼差しは温かい。
更に眦が緩まるのが分かった。
「それでな、凛は凄いんだぞ?手足がない状態のあたしを回復出来るだけの魔法。今まで食べたものは一体何だったのかと言う位に美味しい食事。それに魔物達を簡単に蹴散らせるだけの腕前も…そう言えば、先程ミスリルナイフや魔銀級の魔物がどうとか言っていたな。」
『!?』
「は…?」
しかし突如齎された爆弾発言。
これにより、あまり良く分かっていない子供達を除いた大人達は驚愕し、サムの動きが停止。
そんな彼らを他所に、篝はふふんとドヤ顔を浮かべるのだった。




