78話
「はっ。例え武器がどんなに優れてようが…使い手がお前らじゃ俺達には勝てねぇよ!」
そう言って、鬼王は暁の所へ駆け出した。
牙王は旭へ、霊姫は月夜の下へとそれぞれ動く。
「「「!」」」
しかし、そんな彼らの攻撃は暁達によってあっさり防がれた。
鬼王達は攻撃が通らないにしても、まさかここまで簡単にあしらわれるとは思わなかった為、意表を突かれた顔となる。
「…今の言葉、そっくりそのまま返してやるよ!」
「な…くそっ。」
暁は不動を振り抜き、鬼王は空中で体勢を整え、着地。
一拍後、牙王と霊姫も両隣に降り立った。
「悪いが、格上を相手するのは慣れてんだよ。だったら、相応の戦い型も自然と身に付くってもんだろ?」
この場合の格上の相手とは、凛達の事を指す。
しかも最近は、強化されたアルファ、イプシロン、ゼータのいずれかが訓練へ参加する様になり、その分バリエーションが増えたとも言える。
「確かにお前達は強い。だがそれだけだ。攻撃も簡単に防げる位、単調だしな。」
「ざっけんな!俺は最強だ!こんな所で躓くような男じゃねぇ!」
「いえ、貴方はここで終わりです。」
さの言葉を聞いた暁が横にずれ、代わりに紅葉が前へ歩み出た。
紅葉は毅然とした、鬼王は懐疑的な態度で対峙する。
「なんだぁ?女は引っ込んで…って、すっげぇ美人!な、なぁ!」
「お断りします。」
「まだ何も言ってねぇだろうが!」
「貴方の仰りたい事は予想が付きます。大方、自分の元に来いだとか女になれと言った所でしょう。」
「分かってんじゃねぇか。なら…。」
「お断りしますと申しました。私の心と体はあの方のもの。貴方に差し上げるものは何一つとしてございません。」
「ぐ…くくっ、ははははは。良いねぇ、益々気に入った。ならば他の奴らを殺し、連れ去れば良いだけの事!」
鬼王は紅葉から発せられるオーラに怯むも、それが却って食指が動かされる要因となったらしい。
笑い声を上げ、左手で紅葉を掴み掛かろうとする。
「ぐふぉ…!」
「馬鹿が。隙だらけだ。」
しかし暁に腹部を殴られ、壁に激突。
勢いは収まらず、建物の向こうへと飛んでいった。
「「鬼王様!」」
牙王と霊姫が叫ぶと、すぐに鬼王が戻って来た。
「てめぇら…もう許さねぇ!!」
鬼王は飛ばされてから来るまでのわずかの間に、羅刹へ進化して得たスキル『阿修羅』を発動。
元々ある腕の上下に1本ずつ腕が生え、計6本となった。
しかも、それぞれの腕に大鉈を所持している状態で。
鬼王は目を見開いて驚く暁に、右側の腕全部で攻撃を仕掛けた。
暁はこれを防ぐも、鬼王は先程のお返しとばかりに力任せに吹き飛ばす。
「うわ…気持ち悪っ!」
「だな。俺も同感だぜ。」
鬼王はひとまず満足したのか、暁から旭達がいる方向に体を向ける。
だが、今の状態の彼を見た月夜が引き、旭が呆れ、小夜も同意とばかりに何度も頷いてみせた。
「どこがだ!最っ高にイカした姿じゃねぇか!お前らもそう思うだろ、なぁ!?」
「は、はい。」
「…勿論でございます。」
「ほら見ろ!」
牙王と霊姫は不満がる鬼王に話を振られ、咄嗟だった事もあり、少し間を置いて答える。
これに鬼王は納得の表情の後、どや顔を浮かべる。
(違う、あれは嘘だ。間違いない。)
しかし旭達には、牙王達が本心で話したのではない事がすぐに分かった。
或いは、2人が中々羅刹になろうとせず、霊鬼のままでいようたするのはこの辺りが原因なのかも知れない。
2分後
『!』
復帰した暁が鬼王と、旭達も牙王と霊姫を相手に、激しい戦いを繰り広げていた。
すると何かが触れたと思った瞬間に体全体が軽くなり、感覚が研ぎ澄まされる感じがした。
「暁、旭、月夜。いつまでも遊んでいる場合ではありません。早く終わらせるのです。」
紅葉はこちらを向く3人に、開いた圷を口元に当てる形で告げる。
紅葉は自身にマルチキャストを施し、今は発動出来る魔法の数が増えている状態。
そしてオールステータスアップを同時に放ち、暁達の強化を図った。
オールステータスアップは単体で使用した場合と比べ、10倍もの魔力を消費。
しかしこれ1つで、8つの効果が同時に掛かると言う非常に便利なバフでもある。
その効果とは、ストレングス、プロテクション、エンハンス、マジックブースト、マインド、アジリティアップ、レジスト、センスアップで、持続時間は5分。
その間に戦いを終わらせろとのメッセージらしい。
「「「はっ。」」」
暁達は短い返事の後、一気に攻めへと転じた。
今までは豪体と身体強化を同時に使う事で、ややキツいか拮抗状態を維持。
しかも、最小限の動きで攻撃を捌き続け、体力の消費を抑えていた。
反対に鬼王達は疲れが見え始めた。
そこに紅葉からサポートが入った事で一気に劣勢となり、追い詰められていく。
「!」
「…終わりだな。」
暁は鬼王が持つ全ての武器を同時に破壊し、不動を目の前に突き付けた。
「舐めるな…っ!」
鬼王は6本腕で殴り掛かるも、拳が暁へ届くよりも先に悉く切断されてしまう。
「まだまだぁぁぁっ!!」
「ほう。再生出来るのか…だがっ!」
これにめげず、自前のスキル…高速で腕等を再生する効果がある『高速再生』で腕を生やすも、瞬時に斬られてしまう。
以降、腕を斬られては再生するを何度か繰り返した。
「ああ、クソッ!いい加減に━━」
「━━するのはお前の方だ。」
鬼王が焦れ、ムキになった所へ、暁が素早く彼の後ろに回り込む。
「何!?あがっ!」
そして暁は刀の柄頭部分を鬼王の首に当て、意識を刈り取った。
斬られた腕が再生するのは厄介ではあるが、眠らせてしまえば問題ないと考えた様だ。
「「鬼王様!」」
それを見た牙王と霊姫が彼の下に行こうとし、旭と月夜が後ろから武器で殴って気絶させた。
「『…と言う訳でございます。それと、報告したい事が。━━でして。』」
「『成程。それじゃ、今からそっちに向かわせて貰うね。ポータルの用意をお願い出来る?』」
「『畏まりました。お待ちしております。』」
その言葉を最後に、紅葉との念話を終えた。
「ごめん皆、ちょっと話が…って、あれ?人数が少し減ってない?」
「ん?丞が何人か連れてサルーンに行ったみたいだぞ。」
「全然気付かなかった…。紅葉から連絡が入って、これからフーリガンへ向かう事になった。」
凛はフーリガンで起きた内容を皆に説明する。
「…と言う訳で、一緒にフーリガンへ行きたい人ー!」
『はい!』
凛は何となくで言ったつもりが、凛と一緒なら安全だったりや好奇心から、予想を遥かに越える希望者が名乗りを上げた。
これに苦笑いとなり、念の為鬼王達より強い美羽や火燐達だけを連れて行く事に。(この決定で軽くブーイングが起き、近い内に何か埋め合わせするで納得して貰った)
「ん?んん…。」
「目が覚めた様だな。」
「!…俺をどうするつもりだ。」
鬼王は目の前にいる暁の言葉で意識がはっきりし、自分が縛られている事に気付く。
辺りを見渡し、牙王と霊姫も自分と同じ状況だと分かると、舌打ちを交えながら尋ねる。
「俺達の主がお前に聞きたい事があるそうだ。」
「あ?主だぁ?」
「僕です。」
先程の紅葉の時みたく、暁が避ける形で凛が前に出た。
「うぉっ!!なんっだこの可愛…僕?」
「はい。僕は男です。」
「んだよ。これで男とかマジで有り得ねぇんだけど。一瞬女神が現れたんじゃね!なんて思ったのに…。」
鬼王は凛が男だと分かるや否や、思いっきり落ち込んだ。
だが、実際は(女神の弟との意味で)割と正解に近かったりする。
これに凛は苦笑いとなり、他の面々は鬼王の意見に同意とばかりに大きく頷く。
「貴方は以前、日本と言う国にいましたね?」
「! どうしてそれを。」
「勿論言動や立ち振舞いからです。やはりそうでしたか。」
「…つまり、お前もそうなんだな。」
「はい。僕は寝て目が覚めたらこの世界にいました。」
「俺は死んだと思ったらデケェ鬼みたいな魔物になってたな。…で?同郷の誼で仲間になれとでも言うんじゃねぇよな?」
「実際に保護した転生者もいますし、そうしたい所なんですけどね。…ですが、貴方は無理だと判断させて頂きました。」
「…一応訊いておこうか。理由は何だ?」
これに、凛ではなく紅葉が答えた。
「貴方様があまりにも多くの方々を手にかけたからです。無数の…それこそ怨念の塊ではないかと言える程、数多の死者が貴方様の周りに見えます。」
これはクロエからの情報だ。
クロエは1度死んだ経験が影響してなのか、死者の魂が見える様になった。
大きさもビー玉やピンポン玉位のだったり、成人男性よりも一回り上と様々。
彼女は今の姿で甦ってから冒険者ギルドに来るまで、何となくあちこちに霊が見えるなー位にしか思っていなかった。
しかし冒険者ギルドに来ると態度を一変。
鬼王の周りには、数十や数百では利かない様な夥しい数の霊がいたからだ。
彼らは口々に「許さない…」「お前も早くこっちに来い…」「憎い…憎い憎い憎い憎い!」と漏らし、その光景を目の当たりにしたクロエは怯んでしまう。
先程、彼女が紅葉の影に隠れていたのはそれが原因で、凛に伝えたのも同じ内容だったり。
それと、凛達がこっちに来てすぐに軽い自己紹介を行い、その辺の事情も美羽達に伝えてある。
鬼王は少しだけ離れた位置にいる紅葉から凛へ視線を移し、何かを考え込む様にして目を瞑った。
「分かった。俺も男だ、潔く死を受け入れる…訳ねぇだろ!」
そう言って鬼王は力ずくで縄を引きちぎり、凛がいる所へ駆け出しつつ、阿修羅スキルを発動。
ここで凛を捕まえるなりすれば、この状況を打破出来るのではと考えたらしい。
「…は?」
しかしそれが叶う事はなかった。
走りながら手を伸ばしたにも関わらず、いつの間にかひっくり返っていたからだ。
鬼王は背中から床に叩き付けられる形となり、「かはっ…」と声と共に肺の中の空気を強制的に失う羽目に。
「ここにいる全員で掛かっても凛様に勝てないと言うのに、お前如きがどうにか出来る訳ないだろう。…意味は分かるな?」
暁の言葉を受け、鬼王はこの中で最も手を出してはいけない相手に手を出してしまった事に気付いた様だ。
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!」
青ざめた顔になり、恥も外聞も捨ててその場から逃げ出した。
「火燐、暁も。手出し無用だよ。ここは僕に任せて。」
「だがよ…。」
「良いんだ。彼は同郷である僕が引導を渡さなきゃいけない。」
「…そうか。お前がそこまで言うなら止めやしねぇよ。」
凛は今にも追い掛けようとする2人を抑え、展開したビットで後ろから鬼王を撃ち抜いた。
ビットから撃たれた弾は麻酔の効果に加え、血が出ないよう調整したもの。
鬼王は何かが軽く当たった感覚で「え…?」と呟いたのを最期に、そのまま倒れていく。
「鬼王様!」
「おのれ、よく…も………。」
牙王と霊姫は鬼王が倒されたのだと分かり、勢い良く立ち上がった。
それを見計らった火燐と暁が、それぞれの武器に炎を纏わせながら2人の首を切断。
切り口を瞬時に焼く事で血は全く出なかったが、牙王達は対応の早さに驚いていた。
「鬼王は譲ったんだ。残る2人はオレ達が貰っても構わねぇよな?」
火燐の物言いに、凛は「まぁ、そうだね」と苦笑いで答えるのだった。
と言う訳で鬼王達はここで退場です。
一応旧ゆるじあで紅葉達が王都に入った辺りから考えてはいたものの、結局書けずに今となってしまいました。
トラブルの原因だったとも言えますね。
ノアについては当時考えていませんでしたがw
因みに、当作のセンスアップは思考加速の効果もあります。




