73話 23日目
23日目 午前6時半過ぎ
「因縁の相手との決着を付けようと思うの!だから私と一緒に来て!!」
凛の横に暁が立つ形で今日の予定を話していると、仁王立ちのシーサーペントの代表の女性がそう言い放った。
ここ最近は毎日の様に人が大量に増え、そろそろ凛に良い所を見せて自分の評価を上げようとの腹積もりらしい。
そうかとは知らない2人はきょとんとし、
「凛様。それで今日の終着点となる街についてなんですけど。」
「あ、うん。」
すぐに何事もなかったかの様に話を再開。
これに女性が息巻いた。
「ちょっと!無視しないでくれる!?」
「はぁ…凛様、話はここまでに致しましょうか。」
「うん、何かごめんね?」
「いえ。それでですが…俺も一緒に向かった方が良いのでしょうか?」
「どうなんだろう…。その因縁の相手って強い?」
「強さは私と同じ位だから大丈夫!」
「成程…。でしたら俺はあちらに戻り、紅葉様と話を詰めさせて頂きますね。凛様、また後程。」
「あ、うん。ありがとう。暁達なら大丈夫だとは思うけど、十分に気を付けてね?」
昨晩、暁達は盗賊に扮した刺客に襲われた。
勿論彼らにとって脅威となる訳もなく、すぐに叩きのめされて縛られる結果となった。
しかし、野営中に刺客が来たのは初めて。
しかも刺客は野営地からそう遠くない都市から放たれたもので、その目的は紅葉達の身柄の確保。
暁が向こうを発つ前に刺客達を門の前に置いて来たので、今頃は慌てふためいている頃だろう。
何しろ、送った刺客を無力化され、突き返されただけでなく『次はありません』との張り紙までされていたのだから。
「はは、俺達があの程度の者達に遅れは取りませんよ。ですが、そうですね。何があっても対処出来る様に致します。」
「うん、お願いね。行ってらっしゃい。」
「はい。凛様も。」
凛は軽く手を振って暁を見送り、暁も会釈で応えた。
紅葉達は、遅くても明後日には王都に着くらしい。
これまで散々寄り道をし、(ソアラ等の)街や都市に訪れては盗賊の引渡し、及び助けた人達の解放や買い物までしているのに、だ。
それだけ紅葉達の移動速度が速く、旅が順調だとの現れでもあるのだろう。
尤も、最近ではゴーガンも一緒に走る様になり、暁達は弱体化を掛けた負荷トレーニングみたいな事もやっているとか。
また、本日は夕方まで予定が詰まっており、場合によっては凛の助けがいるとの話で打ち合わせを行っていた。
「私達がいた湖から東の所にハーピィの群れがあるのよ。あいつら、空が飛べて風魔法が使えるからっていい気になり過ぎ!今日こそぎゃふんと言わせてあげるわ!」
(ついこないだ自分が言ってなかったっけ…?)
死滅の森中層の湖に出てすぐに代表の女性が自信満々に言い、凛達は内心で突っ込みを入れる。
しかし女性は気にしないとばかりに歩き出し、その後ろを凛達が追う。
今回のメンバーは凛、美羽達、エルマ、イルマ、藍火、篝。
それとシーサーペント代表の女性、女性のサポートと言う役目で副代表の男性の計12人だ。
ポータルは中層に入って少しした所に何箇所か設置しているものの、湖へは凛がベヒーモスを倒した時以来訪れていない。
なので、ここに来るのは軽く久しぶりだったりする。
だからなのだろう、魔物の構成が以前来た時と変わっていた。
湖では、魚に腕と足が2本ずつ生えたサハギン…それらを纏めるサハギンキングにサハギンコマンダー、ハイサハギンが、
それ以外だと、タートルドラゴン、メタルセンチピード、ハイオークに(ヴァリアントオークと同じ強さである)クルーエルオーク、ヘルライガーがいた。
勿論他にも見知った魔物は出たのだが、今回初めて見るのは以上となる。
サハギン達は大きさや形状は異なるものの、全員が銛を所持し、突きや水魔法を。
タートルドラゴンは棘付き甲羅で体当たりだったり高速回転を、
メタルセンチピードは達磨みたいにして節をバラバラに、
ヘルライガーは長く伸びた牙を主体にした攻撃を。
それと、クルーエルオークに進化した事で灰色がかった体に。
目が赤くなり、所持する武器も禍々しくなっていた。
因みに、サハギン達は猛攻を仕掛けて来た訳なのだが、凛が雫に彼らも仲間にするか尋ね、雫が可愛くないからと却下したのが理由…かも知れない。
そんなこんなで、凛達はそれらを倒しつつ2時間程進み、目標であるハーピーを見付けた。
そのハーピーは、15メートル程の高さの木の枝に止まっていた。
下半身と腕は鳥で、それ以外は人間の女性の見た目。
胸部分は何も身に付けておらず、腰まで伸びた茶色い髪のおかげにより辛うじて隠れているだけだった。
すぐに美羽が両手で凛の目を覆い、凛は「ちょっとー、見えないんだけどー」とやや不満げに話す。
「あら、お客さんかしら?」
本来なら「キ、キキッ?」と聞こえるはずの魔物の言葉も、『対話』スキルの効果で流暢に聞こえる。
おかげで(先程のサハギン達は別として)魔物とのやり取りが楽になり、仲間に出来る可能性が高くなる効果も。
「見付けた!そこのハーピー、私をクイーンの元に案内しなさい!」
「失礼ねー。いきなりやって来て女王様に会わせろとか…有り得ないわ。」
そう言って、ハーピーはこちらを指差す女性に向け、ウインドアローを発射。
ウインドアローは女性の頭を少し掠める形で着弾し、木の枝に立ったまま4本のウインドアローを展開してみせる。
しかし、女性は全く臆する事なく毅然とした態度を取る。
「うるさいわね!あんたなんかに用はないの、さっさとあいつの元へ案内しなさい!」
「あいつ?…貴方、私達の女王に対して何様のつもり?」
「ふん、私がシーサーペント代表だからに決まってるじゃない!今日こそは私があんた達の女王に引導を渡してあげるわ!」
女性はやたら「私が」の部分を強調しながら告げ、これにハーピーが「代表?何言ってんだこいつ」的な視線を彼女に向ける。
「シーサーペント?…え、貴方、あのシーサーペントだったの?あはっ、あっはははは!いつも無様にやられてるじゃない。なのに引導って…あ、分かった。今日も私達を笑わせに来たのね。それなら納得だわ。」
「ぐぐ…ふっ。いつまでも私をあの時のままだと思わない事ね。」
ハーピーが我慢出来ないとばかりに盛大に笑い、女性は悔しそうにする。
しかしすぐに自信満々の顔を浮かべ、髪を右手でかき上げながら言い放った。
「蛇風情が偉そうに!貴方なんて私1人でも充分だわ、今ここで殺してあげる!!」
ハーピーは女性の余裕ぶった態度が頭に来たらしく、目を見開き、牙を剥き出しにしながら翼を広げる。
そして枝から飛び降り、左足にある爪で攻撃しようと急降下して来た。
「甘いわね!」
「ガッ!?ガボ、ガボボ…。(何!?くる、苦しい…。)」
女性はにやりと笑い、嘗て雫がやった時よりも大きな水球を進行方向に生成。
それにハーピーが突っ込む形となり、体全体を水球が覆う。
ハーピーは苦しそうにもがくも中々抜け出せず、30秒を過ぎた辺りから動きが急激に鈍くなった。
やがて動かなくなり、女性は止めを刺そうと右手を上に突き出す。
「はいはい、そこまでだよ。」
だがその前に、凛がパチンと指を鳴らした。
すると水球が弾け、ハーピーはずぶ濡れのままゆっくりと落下。
彼女は噎せながら息を吹き返した後、ぜはーぜはーと息を荒くして上体を起こす。
これに、女性は不服とばかりに凛へ詰め寄った。
「ちょっとー!!何し━━━」
「火燐。」
「はいよー。」
「まだ私が話して…ぎゃふん!!」
凛から名前を呼ばれた火燐が移動を開始し、尚も言い募ろうとする女性の後ろからチョップする。
チョップは前回よりも強く、女性は衝撃のあまり白目を剥いて崩れ落ちた。
しかしすぐに痛みが襲って来たらしく、「頭がー!頭がー!」と叫びながらごろごろと転がるのだった。
いつもありがとうございます。
参考までに、
サハギン(銅級)→ハイサハギン(銀級)→サハギンコマンダー(金級中位)→サハギンキング(黒鉄級)
ランドドラゴン(金級)→シェルドラゴン(魔銀級)→タートルドラゴン(黒鉄級)
(出て来てはいませんが)ジャイアントセンチピード(銀級)→メタルセンチピード(魔銀級)
ブラックタイガー(金級上位)→ヘルライガー(黒鉄級)
クルーエルオークはヴァリアントオークと同じの為除外。
それと、バリアントをヴァリアントに、旧ゆるじあのハーピィをハーピーに修正致します。




