74話
彼女は簡単に説明したが、良く見ると炎に覆われたのは鎧部分だけ。
肌には一切触れていないのが見受けられた。
ダメージを与えたのは鎧のみ(それでも肌に触れた箇所は熱いのだが)、転がった時に出来た擦り傷や軽い火傷位だったり。
「…終わったか。全く、馬鹿な真似をしたものだ。」
ゴーガンを伴ったガイウスが姿を現した。
「ガ、ガイウスか。私は…馬鹿では…。」
「見たところ、兵士達は銀級…良くて金級と言った感じの強さだろう?それじゃあまるで足りないよ。」
「何、だと…。」
「火燐君と雫君は最低でも黒鉄級、凛君に至っては神金級以上の強さだ。フォレストドラゴンに付けた傷は首だけ、と言う卓越した技術の持ち主でもある。今は更に増したのかな?外見からはとても判断出来ない点についてだけは同意するよ。」
凛は敢えて口にしなかったが、現在ならば武器すら使わず軽めの身体強化だけでフォレストドラゴンを制圧可。
しかしそれを知った場合、(ガイウス達も含め)漏れなく卒倒するだろうが…。
「だから本気で勝つつもりで攻め込むのだとしたら、数万規模で兵を用意しなきゃ…それに、上を良く見てごらん。」
「上…?」
アダムが若干苦しそうに上を見てみれば、沢山の…最低でも人数の倍以上はある、氷で出来た棘が。
尖った部分が全てこちらを向き、その1つ1つがボウリングのピン位の大きさとかなりの殺傷力を保持。
見上げる兵達にもそれは否が応でも伝わり、揃って浮かべるは絶望の表情。
「これで分かったろう?これだけの魔法を行使しておきながら、まるで疲れた様子がない。それだけの差がある…つまり、君達位の実力ならどれだけ集まろうが余裕と言う訳だ。」
「そん…な……。」
ゴーガンの言葉がトドメとなったのか、気絶するアダム。
兵達も戦意喪失し、終わったと捉えた凛が雫に氷の矢を引っ込めさせ、エリアハイヒールを行使。
彼らの怪我や、(副次効果として)麻痺状態を治療してみせた。
大半が驚いた弾みで飛び起き、ガイウスは折角箝口令を敷いたのに…と落ち込み、ゴーガンに慰められる始末。
凛はそんなガイウスを苦笑いで一瞥しつつ、目を覚ましたアダムへ改めて話し合いを持ち掛けた。
向こうは向こうで、この規模の回復魔法を使っても顔色1つ変えない凛に戦慄。
ここで断りでもしたら先がないとの判断から、快く(?)正座で応える。
やたらと凛達を褒めちぎる場面はあったものの、購入予定のフォレストドラゴンの交渉云々で来訪した旨をアダムは説明。
バーベキューで振る舞われる肉については、過去にランドドラゴンの肉を食べた経験から間違いなく絶品。
それを下々の者に食わせるなぞ言語道断、奪い取ってでも確保しようと行動を起こしたとの事。
かなりしょうもない話は以上で終わるも、何故か凛を庇う様にして前へ立つガイウスとゴーガン。
3人は揃って不思議がり、ガイウスが微妙そうな表情で咳払いする。
「…今は宴の席だ。私としては不本意だが、凛殿は貴様の行いを許し、しかも催し物に参加していけと話す━━━。」
ガイウスが説いている途中。
いつの間にか「ありがとうございます!このアダム、感謝の極みにございます!」と、凛の右足にアダムがしがみついていた。(一応、凛とアダムの距離は5メートルと少しあり、しかもガイウス達が立ち塞がっているにも関わらず)
凛達は目を見張り、ガイウスがアダムを畏れ多いとして引き剥がそうとするも、妙な力強さで中々離れなかった。
最後は火燐が拳骨で物理的に黙らせ、ようやく距離を取る事に成功。
捨て置いたガイウス達が、少し疲れた様子で説明し始める。
「こいつは自分よりも立場が上の者に媚びを売るのだが、その度合いが半端ではないのだ。」
「見ての通り、数人がかりで対処しないと収まらなくてね。相手からすれば迷惑この上ないから困っているんだよ。」
この様にして媚びを売られた場合、大抵の相手は折れてアダムの言い分を聞く。
それなら会わなければ良いだけの話ではあるのだが、ストーカーの如く手紙を送り続けられたり、お茶会に誘われる等で結局折れるなんてのもしばしば。
兵達は申し訳なさそうにペコペコ頭を下げた後、抱えたアダムごとその場から去って行った。
「…まさか、凛が不覚を取られるなんて思わなかった。」
「本当にね。僕も凄くビックリしちゃったよ。」
なんて話しつつ、1行はバーベキュー会場へ。
その会場だが、物凄い熱気と歓声に包まれていた。
美羽達がひたすら肉を焼き、食べ頃になったら縦へ6つへカット。
味付けは凛と同じく塩と胡椒だけ。
エルマ、紅葉、月夜、ニーナが2切れずつ皿に乗せ、残りのメンバーが列に並んだ人達へ配るとの構図だ。
そしてその列だが、女性は暁、旭、玄。
男性はリーリアを始めとした女性陣へ群がる傾向に。
彼らから肉が乗った紙皿と、プラスチック製と思われるフォークを受け取る際。
お近付きになる目的で話し掛けようとしたり、偶然を装って接触を図ろうとする者が結構数いた。
だがその前に(騒ぎを聞き付けた)アルフォンス達警備から止められ、がっかりした面持ちで離れてからの肉の美味さで復活するまでが一連の流れになりつつある。
その後、凛達も美羽達のフォローに回るのだが、夕方からバーベキューが始まったのが影響したのだろう。
仕事上がりや飲みに繰り出す者。
それと外部から来た者達や気絶から復活したアダム達も重なって、今までに経験した事がない程の大混乱が起きた。
しかも1度受け取ってるにも関わらず、再び体感したいからとこっそりと並ぶ者が。
しかも一定数いた。
その度に暁達や警備から注意を受け、中には不服を理由に暴れ出す者まで出る始末。
その様な輩は漏れなく火燐から鉄拳制裁を食らうか、雫の(威力を弱めた)パラライズボールによる麻痺で強制連行させられるまでがセット。
最初こそ様子を窺っていたアダム達も、高そうな服や鎧姿は目立つを理由に火燐と雫からジト目を向けられ、居心地が悪くなったのかそそくさといなくなった。
やがて、食べ終わった者の1人が全然足りない、もっと寄越せと叫んだのを機に人々が同調。
得も言われぬ美味さに気を大きくしたのか、この機を逃したら一生食べれないとの思いから来たかは不明。
ともあれ暴動の1歩手前にまで発展し、これに警備達が落ち着くよう促すも全く効果がなかった。
我慢出来なくなったガイウスが牢屋へぶち込むぞとの圧に人々は怯み、叫びこそしなくなったものの「何か納得出来るだけのものを用意しないのであれば、ここから動かん!」との目付きでガイウス達を見、真っ向からぶつかる形に。
両者の睨み合いは1分が経っても全く収まる気配がなく、見兼ねた凛が1週間後に再び行う旨を伝達。
人々は歓喜し、反対に(申し訳ないを根拠に)落ち込むガイウス。
そんな彼を宥め、凛は今日のところは帰るよう促すを切っ掛けに、人々は笑顔で去って行った。
開始してから4時間後の午後9時過ぎ
誰も列に並んでいないのを見計らい、凛が今回のバーベキューはこれで終了だと発表。
残った人々の何割かは拍手で応え、そうでない者達はこのまま残っていてもこれ以上何もないと踏み、離れて行く。
凛が指示し、本人込みでバーベキューの片付けを最低限だけ行い、時間も遅いから残りは明日へ…とのやり取りで開始された片付け。
時間が経つに連れ、残った人々の中から手伝う者がぽつぽつ現れ、その分だけ早く終わる事が出来た。
感謝の印として、凛は1人1人にクッキーが入った袋を手渡し。
警備とガイウス達へはステーキ肉が乗った皿等を渡し、軽い挨拶と共に別れて家路に就いた。
帰宅後、凛は限界を迎えたらしいナナを自室に休ませ、皆をダイニングに集めた。
テーブルの上には各種ペットボトル飲料、それと先程と同じステーキ肉等が置かれてある。
「まずは皆さん、今日のバーベキューお疲れ様でした。」
そう言って、凛は頭を下げた。
「ニーナさん、トーマスさん、コーラルさん、ジェシカさん、ダニーさん、エディさん、カーターさん、購入したばかりなのに早速扱き使ってすみませんでした。特にニーナさんは最も大変な場所でしたし。」
翡翠が肉を焼いてカットし、ニーナが皿に移して次に託した相手…それはリーリアだった。
そこらではまずお目に掛かれない美貌+圧倒的破壊力見たさにダントツの人気、にも関わらず彼女はのんびりな性格の持ち主でもある。
配るまでに人一倍時間を要し、ニーナはかなり忙しそうにしていた。
「…いえ、御主人様。気になさらないで下さい。私も途中から何だか楽しくなってきた位ですし、お役に立てて光栄です。」
(固いなぁ。)
若干含みを持たせつつも恭しく頭を下げるニーナに凛は微苦笑を浮かべ、表情を真面目なものに変えて話を切り出す。
「では改めまして、僕の名前は凛と言います。まず始めに、僕はリルアースとは違う世界から来ました。」
『違う世界?』
「はい。魔法や魔物は存在しませんが、その代わり道具が発達した世界になります。」
こうして始まった凛の説明に分かった様な、良く分からないが入り混じった状況に陥るニーナ達。
エルマとイルマが「ですよねー」と共感するのを尻目に、凛は困り顔で追加だったり補足を行う。
ただ、一流の実力者且つ教養のあるガイウス達ですら理解出来なかったものを、ただの村人であるニーナ達や一介の盗賊ことジェシカ達が理解出来る訳がなく。
コーラルとダニー達3人は目を回して混乱、トーマスは難しい顔でぶつぶつと呟き、ニーナとジェシカは最早考えるのを止めたのか揃って遠い目をしていた。
「…ナナちゃんはまだ幼いので屋敷で過ごす事が多いと思いますが、ニーナさん達はサルーンが主な勤務先になる予定です。」
この説明にニーナ達ははっとなった。
「その勤務先は商店や公衆浴場等ですし、覚える事は沢山あります。なので、すみませんがそのつもりでお願いしますね。」
「ですが御主人様、恥ずかしながら俺…いや私は右腕が…。」
「ええ、勿論分かっています…少し失礼しますね…エクストラヒール。」
凛は申し訳なさそうなトーマスの元へ歩み寄り、彼の右上腕部分に両手を添える形で超級回復魔法エクストラヒールを施行。
トーマスの右腕を白い光が覆い、10秒程で(事故により失う前の)健全な状態へと戻っていた。
『!?』
これに美羽と火燐達を除く全員(ただし紅葉は瞑目して何度も頷き、暁達は感心した様子)が驚愕。
その中でも特にトーマス本人、未だに中級までの光魔法しか扱えないエルマが衝撃を受けている様だった。
その後、凛は右腕が戻ったとの実感を得たトーマスからお礼を述べられ、何度も何度も頭を下げられる。
そんな彼を宥め、時間が遅いを理由に食事と並行との形で自己紹介をし合う。
尤も、フォレストドラゴンの存在は凄まじいあまり、凛から水を向けられるまで完全に意識が肉に向き、その結果一拍遅れた上に噛む者が何人か。(イルマとか藍火とか)
途中、ジェシカが紅葉達は鬼人族かを尋ね、紅葉が肯定して鬼人族に知り合いがいるのかと返し、ジェシカはいや…とだけ答えて黙ってしまう場面も。
最後は揃って笑顔。
凛が明日も忙しくなるから今日はここまでと締め、1日を終えるのだった。
前述にあった、凛にとって予想外の出来事はアダムが足に抱き付いたとの光景になります。
目の前にいたはずが足元に…とw




