72話
火燐は黒鉄級上位のフサッグァと言う種族に進化。
『時空間適性』、『冷炎』、『加護付与』と言うスキルを得る。
冷炎は炎に氷属性を混ぜられるスキルで、体が燃えているのに寒いと言う謎の感覚や体験を相手に与えられる。
加護付与は対象者に自らの属性の加護を与え、適性を伸ばすと言うスキルだ。(加護付与は里香や白神も所持、凛へ施している)
雫も、同じく黒鉄級上位であるクティーラへ。
得たスキルは火燐と同じ『時空間適性』に『加護付与』、それと『全属性適性』に『並列思考』だった。
凛と美羽は最初から全属性に適性がある反面、得たスキルも属性を含めた適性値を上昇させるものの為、『属性』に絞られたは何気に初めてだったりする。
ともあれ、雫は『全属性適性』のおかげで水属性以外の魔法が扱えるまでに。
しかもそこに2つ以上の事を同時に考え、処理出来る『並列思考』が加わり、戦略の幅がぐっと広がったらしい。
どうでも良い事だが、進化して早々。
火燐は雫の『姫』と言う部分が似合わないと、彼女を指差しながら爆笑。
雫はそれにイラッとし、氷系中級魔法のアイスボール(直径1メートル位の大きさの雹)を火燐にぶつけたのを機に喧嘩が勃発。
収めるのに少々時間が掛かり、本来であれば到着するのがもう少し早かった…とだけ。
それと先程凛と視線をやり取りした少年少女の内、男の子の方は少し明るめなオレンジ色の髪を持ち、それをミディアムに伸ばした髪型をしている。
そして人懐っこそうな面構えを根拠にか、先程からジェシカがチラチラと視線を向けていたり。(意外に、彼女は可愛いもの好きなのかも知れない)
女の子達の方は姉妹の様に良く似た顔立ちで、どちらも紫がかった黒髪。
姉と思われる者は背中までのストレートヘアー、且つ真面目な感じが窺える風貌。
もう1人の妹と思われる者は、肩上でスパッと真横に切った(所謂おかっぱの)髪型で、穏やかな笑みを浮かべていた。
その少年達は旭、月夜、小夜の3人。
いずれも妖鬼となり、紅葉から渡された和服を着用。
暁は黒鉄級の闘鬼へと進化を遂げ、後から目覚めた火燐達と共にここへやって来た次第だ。
因みに、美羽達は屋敷から歩いてここまでやって来たのだそう。
門番達は発言が本当になったと震え上がり、街の人々は何の集団だろうと視線を集めたらしい。
凛は美羽、翡翠、楓、エルマ達、紅葉達、藍火、リーリアと玄、火燐と雫の順番で紹介を行う。
…と言っても比較的さらっとで、凛達以外の女性陣はエルマ達の背中に生えた翼や羽を、男性陣は主にリーリアの胸をそれぞれ注視している。
しかし最後に雫が紹介した際。
自分は凛の女だと話すを発端に、美羽、楓、イルマ、紅葉の4人から待ったが。
顔を真っ赤にした火燐が口をもごもごさせ、リーリアも然り気なく便乗。
これに、ナナを除くニーナ達は凛の見た目から同性が好きなのかと邪推。
(既に凛が男性だと聞いている)ワッズ以外の解体職人からは、美女美少女達に好かれて羨ましいとの視線を凛に向ける。
「美羽殿と紅葉殿だけではなかったのか…凛殿は神輝金級の強さを持つ男性だから仕方ないとは言え、この様子では今後益々増えそうだな。」
「言わないで下さい…勿論、好意を抱いてくれるのはありがたいんですけどね。」
微苦笑で誤魔化しつつ、凛は火燐達がイフリート達の子供みたいな存在。
藍火を指し示し、名前を与えた旨を伝達。
ニーナ達はガイウスの口から出た凛が男性の部分で「ん?」となり、ワッズ達も引っ掛かる箇所こそ違うものの、概ね同様。
イフリート…ってあの大精霊の?や、青い髪の少女に名付け?と言いたそうな眼差しに。
「流石は凛殿、大精霊と呼ばれる方々とも面識があるのだな。そう言えば、藍火とやらの髪色が異なっている風に見えるのだが…俺の勘違いか?」
「それは名付けによる影響ですね。僕も最近知ったのですが、魔物に名前を与えると成長や進化を促す効果があるとか。ただ、これは魔物が持つ潜在能力にもよりますし、特殊な場合もあるみたいです。」
「特殊な場合?」
「はい。藍火は名前に『藍』…つまり青系統の名前が入っていたのが関与し、ブルーフレイムドラゴンに進化したのでは…と。」
「ブルーフレイムドラゴン?聞かぬ名だな。ゴーガンは知っているか?」
「いや、僕も聞いた事がない。凛君、ファイアドラゴンとは違うんだよね?」
「そのファイアドラゴンに、風属性を加えたのがブルーフレイムドラゴンだと思って頂ければ。ブルーフレイムドラゴンは炎と風を併せ持った複合属性龍と呼ばれる存在で、単純な強さはファイアドラゴンよりも上。高い火力を意味する青いブレスを吐き、青い炎を纏う姿は格好良いですよ。」
「「ほう。」」
凛とガイウス達が楽しげに話す一方。
ワッズ達は尚も大精霊なる響きに驚き、ニーナ達は藍火へ「ド、ドラゴン…?」とドン引きした目を向けたタイミングで届けられる、凛の催促の言葉。
本来の姿に戻るよう告げ、応えた藍火がドラゴンに変化。
ニーナ、コーラル、ダニー達3人は気絶し、トーマスとジェシカはへたり込みながらもニーナとダニー達をフォロー。(コーラルは近くにいた暁が支えた)
解体職人達もほとんどが引く中、ガイウスとゴーガンは満足げな、ワッズとナナは恐怖よりも好奇心が勝ったのか鼻息荒い。
青い顔のトーマスがこちらへ戻るよう促すも全く聞き入れる素振りは見せない事から、意外と彼女は大物なのかも知れない。
そんなこんなで説明を終えた後、凛は無限収納から先程受け取ったフォレストドラゴンの肉を取り出し、街の皆を元気付けるのにこれを使うと言い始めた。
ガイウス達やワッズが(振る舞うには余りにも上等過ぎる理由で)かなり慌てた様子で止めようとするも、有無を言わさぬ彼の笑顔に気圧され、沈黙。
ニーナ達を起こし、ストレスが原因か前後不覚に陥る彼女達を連れ、外に出る。
「それではガイウスさん、しばらくの間ギルドの前をお借りますね。」
「それは構わんが…凛殿、これから一体何を始める気だ?」
「今回はバーベキューを行いたいと思います。」
「バーベキュー?」
「はい。簡単に説明しますと、家の庭や山、川等で楽しむ調理法の事です。」
「ほう、その様なものが。」
「皆でやるととても楽しいですよ。本来は野菜や麺等も一緒に焼くのですが…今回は突発で時間もないので肉だけと言う事で。」
ギルド前にて。
ガイウスへの説明に併せ、凛は無限収納からバーベキューグリルや金網等の道具を取り出す。
それらを美羽達へ渡し、共同作業込みで少しずつバーベキューの準備を進めていく。
その光景がギルド前の通りを歩く者達の目に留まり、自然と動きも止まるを繰り返して段々人が集まっていく。
やがて、(土魔法で作成した)肉を切る為の調理台が横にセットとの形で、4台のバーベキューグリルが完成。
ギルドの入口に最も近い調理台の上に、凛は10キロ程にカットされたフォレストドラゴンの肉の塊を置く。
周りいる者達はざわつくも、普通に無視。
厚さ2センチ位となるよう、セット時に置いた肉用包丁で丁寧にスライス。
その肉を熱した鉄板に乗せて焼き、ジュウ…と小気味良い音。
更に香ばしい匂いが辺りに広がる。
ミディアムレアの焼き加減を合図に、ナイフで一口大にカット。
追加で塩と胡椒をまぶし、軽く馴染ませてから皿に移した。
周りが固唾を呑んで━━━特に火燐、藍火、ダニー達3人は食い気味で━━━見守る中。
凛はカットされたフォレストドラゴンの肉を、ゆっくりと口へ運ぶ。
「…!!(美味い、美味過ぎる。たまにお姉ちゃんが調達して来たA5ランクの牛肉を焼いて食べたり、何回か高級レストランへ連れて行って貰った事があったけど…正直段違いだ。しかも沢山食べても大丈夫な位にさっぱりしてるし、流石は黒鉄級上位と言うべきか…。)」
つらつらと凛はそんな事を考え、沁み入った様相で2口、3口…と食べ進めていく。
ただ、フォレストドラゴンの肉に意識を向けるあまり、割と近い位置にまで人々が来ている事に全く気付けないのはマイナス。
「マスター、周りにいる皆さんが物凄く見てるよ?」
美羽の言葉ではっとなり、同時に知らない人の顔が視界に。
それもすぐ目の前の位置にいる、との二重の意味で驚いた。
咳払いの後に居住まいを正した彼は、何事もなかったかの様にしてガイウスの方を向く。
「…ガイウスさんすみません。これからバーベキューを始める前に、1言お願いしても宜しいですか?」
「む?分かった…皆の者、聞け!」
『!!』
ガイウスの言葉に人々は面食らい、その弾みで後ろへと下がる。
「ここにいる凛殿は先日、ワイバーン事件を瞬時に解決した英雄だ!しかもそれだけではない!凛殿が死滅の森で得た黒鉄級のドラゴンの肉を、無償で!なんと無償で振る舞ってくれるとの事だ!数には限りがある!決して肉の取り合い等せず、ありがたく食べ━━━」
「待て!!」
ガイウスによるスピーチの最中、西の方から遮る声が。
凛達やガイウス達は不思議そうに、待ったを掛けられた人々は不機嫌な様子でそちらを向く。
凛達から見て50メートル程離れた先、50歳位の見た目の男性が立っていた。
その男性はアクセサリーをジャラジャラと付け、高級そうな服に身を包み、茶髪をそこそこ短く切った髪型。
ただ、急いでここまで来たのだろう。
男性は息と服装に乱れが生じており、彼の後ろには(同じく息が荒い)鎧姿の兵士が70人程いる。
「私の荷物が襲われたと聞いた時は慌てたものだが…どうやら運が回って来たらしい。そのフォレストドラゴンとやらの肉、全て私に寄越すのだ!」
息を整え、話しながら服装を直した後。
男性が左手を前に突き出し、そう言い放つのだった。
火燐をアフーム=ザーにしようかとも考えたのですが、髪色や体が青、緑、灰色のいずれかになるのではと思い、フサッグァに致しました。




