71話
火燐達を見送った凛は、3階にいる美羽のところへ。
ワッズを訪ねに再びサルーンへ赴く旨を伝え、美羽は一緒に付いて行きたそうな顔付きに。
ただ、自分までいなくなっては皆への説明。
そして屋敷の守りが手薄に…との判断から、止むを得ず残るとの事。
凛から少し申し訳なさそうに頭を撫でられるや首を左右に振り、笑顔で送り出した。
凛は先程通ったポータルで宿直室に戻り、そこから通路を経て解体場へ。
部屋の中心付近には、フォレストドラゴンを観察するワッズの姿が。
ただ、その顔はどこか物憂げ。
疑問を覚え、同時に先ずは合流を済ませてからだと凛が駆け寄る。
「ワッズさーん!すみません、お待たせしましたー!」
「おー凛、来たか!フォレストドラゴンの解体はついさっき終わったんだが…腹ん中からちょっと変わったモンが出てよ。どう扱うか頭を悩ませてたところだったんだ。」
「変わったもの?」
ワッズに促されるまま、視点を変える凛。
そこには、高さ1メートルから2メートルに掛け、仄かに青みを帯びる銀色部分が露出した鉱石の塊が4つ。
加えて直径1メートル程の、黒い光沢を放つ丸い鉄と思しき塊が1つ鎮座。
程度に差はあれど、いずれも丸みを帯びた三角や四角だったり、球状に近くなるまで溶けた形跡が。
フォレストドラゴンでなく、これらをワッズは見ていたらしい。
「片方はミスリルが含まれ、もう片方はアダマンタイトで出来ててな。恐らく、このどっちか。俺個人としては黒い丸の方が原因でフォレストドラゴンは争ったんじゃねぇかと思うんだよ。こいつらは取引に含まれてねぇし、どうしたもんか…。」
実は、討伐されたアダマンタートル達は夫婦。
フォレストドラゴンの胃から出て来た黒い球ことアダマンタイトの塊は、彼らの子供だったりする。
そうとは知らないフォレストドラゴンはミスリルが含まれた鉱石を摂取後、単体で行動したアダマンタートルの子供を発見。
ミスリルと同様、おやつ感覚で捕食。
その光景を目の当たりにしたアダマンタートル夫婦が怒り狂い、格上だろうが関係なくフォレストドラゴンへ挑んだタイミングに凛が遭遇したとの運びだ。
「ともあれ、こいつらは凛のもんだ。売るのも引き取るのも自由だが…どうする?」
ワッズの腕を組みながらでの問い。
興味ありげな様子で複数の塊を見る凛は一転。
目線をズラし、考える仕草を取る。
「そうですね…。(ナビ、全部押さえた方が良い?)」
《いえ、10センチ四方の塊が1つずつあれば十分かと。解析に回します。》
(確かに、再現さえ出来れば全部引き取る必要はないもんね。)
《左様です。予想外の出来事に一時はどうなるかと思いましたが、おかげであれの開発が一気に進みそうです。》
「(分かった、解析が終わるのを楽しみにしているよ。)…それでは、ミスリルとアダマンタイトを少しばかり頂いて、残りは全て売却しようと思います。」
「本当か!?本当に売ってくれるのか!?」
「うわっ!ビックリした!」
凛の返答が余程嬉しかったのだろう。
彼のすぐ目の前の位置にまでワッズは身を乗り出して叫び、盛大に驚かせてしまう。
顔を少し赤くしたワッズが数歩下がった後、左手を後頭部へやりながら話をし始める。
「いやー、悪ぃ悪ぃ。フォレストドラゴンの解体に熱が入り過ぎてよ、幾つか道具を駄目にしちまったんだ。時間は掛かっちまうが、王都の知り合いに頼んで道具を新調しようかと考えてな。しばらく不自由にはなるが、丁度良いっちゃあ丁度良い時期でもあるしな。
だから可能であればアダマンタイトを…いや、ミスリルが含まれた部分を幾つか俺達に譲っては貰えねえか?」
「あー…そうか。鱗はヒビが入っただけで、完全に割れたのはなかったですもんね。その時点で気付くべきでした。僕がフォレストドラゴンの解体をお願いしたばかりに…すみません。」
討伐時、フォレストドラゴンの体にはアダマンタートルとの戦闘の激しさを物語るかの様に、何箇所か凹んだ部分が。
そこに生えている鱗にヒビが入ってはいたものの、それでも完全に砕けたものはなかった。
上記から、フォレストドラゴンの鱗は軽い上、かなりの強度があると推測。
ついでに、ワッズがアダマンタイトを断念したのは、貴族からあらぬ疑いを掛けられるのを避けるが目的。
ほとんど産出されず、ミスリルならまだ誤魔化しが効くとの判断から来ている。
「いやいや。俺らの方こそ、黒鉄級。しかも上位の魔物なんざ、おとぎ話でしか聞いた事がなかったんだ。それがまさか、自らの手で解体させて貰える日が来るなんてよぉ。ここで燃えなきゃ職人の名が泣くってもんだぜ…なぁ、そうだろお前ら!」
ワッズが周りを見渡す。
彼の叫びに、他の解体職人達は良い笑顔で応え、親指を立てたり右手の人差し指で鼻の下を擦る等する。
彼らの様子から、後悔は微塵も感じられず、むしろ満ち足りているのが読み取れた。
「っつー訳だ。ついつい張り切っちまった俺達が悪いのであって、凛に文句はねぇ。むしろ感謝してもしきれねぇ位だ。あいつらも、最後に良い仕事が出来て本望だろうよ。」
ワッズは解体用の道具があると思われる方向を見、穏やかな笑みを浮かべる。
「どちらにしても僕が原因です。この後の予定は?」
「ん?ああ、今日はもう何もねぇが…。」
「それなら良かった。一旦道具をお預かりした後、今晩にでも修理しようと思いまして。」
「修理?お前さんがか?」
「はい。先程ガイウスさんにお話はしましたが、これからも黒鉄級までの魔物の解体をお願いするつもりです。その為には道具達を生まれ変わらせる必要があるかと。」
「そりゃ確かにそうだがよ、どうやって生まれ変わらせるってんだ?」
「それは内緒です。」
「んだよ、その肝心な部分が聞きてぇってのに…まぁ良い。そんじゃ、使う頻度の高ぇやつから頼むとするぜ!」
「分かりました。」
イマイチ要領を得ない凛の口振りにワッズは若干戸惑うも、すぐににかっと笑い、解体用の道具が置かれている場所へ案内。
凛は12ある道具の内の半分を預かり、(欠片として置かれた)アダマンタイトとミスリル共々無限収納へ。
解析と道具の修理を始めるよう、ナビに促した。
それから、少し出て来ると言って解体場を後にする凛。
1時間半程掛けて先程の店を一通り回り、店主達は最初こそ漏れなくまた来たのか…と言いたげな表情を浮かべるも、(アルフォンスから貰ったお金を元に)複数個。
下手すると10以上もの商品を会計すると分かるや、目玉が飛び出る程に驚愕。
漏れなく最後は笑顔でお見送りされたとか何とか。
買い物を終えた凛が解体場に戻ると、フォレストドラゴンの前にガイウスとゴーガンが。
彼らはワッズと話しており、凛の存在に気付いたゴーガンが振り向き、次いでガイウス達も彼を出迎える。
それから約1時間が過ぎた午後4時半頃
凛がガイウス達と談笑していると、入口側から美羽の声が聞こえた。
「マスター!」
「美羽!それに皆も!」
美羽は凛に抱き着き、凛は軽く目を見開きながら彼女を支えつつ視点を変える。
火燐達やエルマ達、藍火、玄、リーリア、ニーナ達、紅葉、(見た目の変わっていない)暁とは別に。
和服姿の、中学・高校生の見た目の少年少女を確認。
3人は額に(暁と同じ)1本角を生やしており、凛はその子達に少しだけ瞠目。
次いで美羽の方を向く。
「美羽、皆を連れて来てくれてありがとう。」
「いえいえー♪」
美羽の笑顔に笑みで応えた後、凛は改めて皆の紹介をガイウス達に行うのだった。




