67話
「「土産と土産話?」」
足組みした火燐からの答えに、凛と美羽が声をハモらせる。
「ああ。まず、土産ってのはアレだな。」
火燐は左手の親指を使い、後ろを指し示す。
彼女が指差した先…開けっ放しとなった扉から外の位置に、20人は乗れる大きめのリヤカーが鎮座。
そのリヤカーは現在空で、周りに警備と思われる者達が2人。
それと、やや汚れた服装の男性集団が数珠繋ぎに縛られているのが見て取れる。
警備や縛られた男性達も勿論気にはなったのだが、それ以上に凛の目を奪ったのはリヤカーの存在。
「何で異世界なのにリヤカーが?」と軽く目を見張りながら独り言ちる程だった。
「…凛殿。失礼だがこちらの方々は?」
「…!あ、はい。こちらは僕の仲間で…。」
「雫。」
「火燐だ。」
「僕達が不在の間、彼女達には家の留守を任せていたんですよ。」
「成程…。」
ガイウスは凛からの返事に頷きつつ、改めて火燐と雫に視線をやると、相手も自分を見ているのが分かった。
ちょこんと座る雫は眠そうな表情の為に良く分からなかったが、火燐は自然体でありながら隙がまるで感じられない。
それはゴーガンも同じらしく、どちらも内心で称賛を送っていた。
1分後
(どうして黙ったままなんだろう。先に喋った方が負け的な?)
ガイウス達に火燐達、双方が相手方を見るだけ。
見えない戦いでもするが如くじーーーっと視線を送り、沈黙を貫く4人。
なので話を進ませようと、凛が代表で口を開いた。
「ところで、2人はどうしてここへ?それに何故かリヤカーまであるし。」
「まぁ待て。順を追って話すから慌てんな。」
(いや、別に慌ててるとかじゃあ…。)
解せぬ。
気を利かせて尋ねたのに、左手で制された凛が抱いたのはそれだった。
ただ、彼が犠牲(?)になるだけの甲斐はあったらしい。
逸早く勘付いたと同時、嫌な予感もしたガイウスが大事になるのではとの考えから場所を移す旨を提案。
凛は言及したい気持ちを抑え、渋々承諾。
先程のメンバーに火燐、雫、アルフォンスを加え、ギルドマスター室へ。
到着後、凛は火燐と雫をソファーに座らせつつ、「説明はよ」と言わんばかりのジト目をそちらに向ける。
「さっき倒したスプリガンだがな、どうやら少し離れた位置に別動隊を用意してたみたいなんだよ。」
「別動隊?」
「ああ。だが本隊であるスプリガン達が次々にやられていくのを見て、怖くなったらしい。要は持ち場から逃げ出した訳だ。それだけならまだ良かったんだが、バグベア…だったか?そいつらみてぇにそこそこ強ぇ魔物もいてな。
それを凛達が出て行った後に(ナビから)聞いたオレ達は、流石に放置は出来ねぇっつー意見から動くことにした。翡翠と楓は西と北東に向かって貰い、(念話による知らせで)今は家に戻ってるそうだ。」
「ん?翡翠と楓は別々で行動してたのに、火燐と雫は一緒だったんだ?」
「単純にオレらんところの数が多かったんだよ。それに到着した時、ゴブリン共が黒い鳥の魔物と戦ってたってのもあるしな。」
「黒い鳥の魔物?」
「あー、何つったかな。ス、スカ?何とかって名前だったよーな…。」
初めて聞くタイプの魔物に凛が首を傾げ、火燐は名前を思い出せずに当惑。
そこへ、気持ちいつもより眠そうな表情の雫から合いの手が入る。
「…スカッタークロウとディバウアークロウ。」
スカッタークロウは銅級、ディバウアークロウは銀級の強さに該当。
スカッタークロウは高さ1メートル程。
ディバウアークロウは1メートル50センチ程あり、翼を広げると倍以上の大きさに。
小賢しく、荒々しい性格をしたカラスの魔物で、死肉や作物を漁る害獣との点は地球と同じ。
話は戻り、それだ!とばかりに笑顔で火燐が雫を指差し、説明の続きをと再度凛の方へ体を向き直す。
「そうそうそれそれ。ゴブリン共はそのカラス達と戦ってたってのに、オレ達が来たと分かった途端逃げ出しやがったんだよ。」
「まぁ、最初から敵わない相手だと分かればそうなるよね。」
「だったら最初から逃げに徹してりゃ良いのにな…っと、話が脱線したな。
つまり、カラス達は隙だらけになったゴブリン共に攻撃を仕掛け、オレらが纏めて殲滅。ようやく終わったと思ったら、今度は盗賊が現れやがってよー。ありゃ、出るタイミングを見計らっての行動だな。間違いねぇ。」
スカッタークロウ達がゴブリン達へ攻撃した瞬間を狙って火燐が斬り伏せ、アイスニードルを始めとする水系・氷系の魔法を雫がぶつける等して倒す。
その様子を、盗賊達が(厳密に言えば烏側を)見ていたらしい。
スカッタークロウ達はほぼ赤身の肉。
しかも野性味のある通向けの味で酒に合うとの観点から、盗賊達の好物だったとも。
スカッタークロウ達だけでなく、ついでにゴブリン達も頂いてしまおう。
そしてその後は…と胸算用する盗賊の頭が、仲間達と共に火燐達の前へ姿を見せる━━━までが彼らの最も輝いた時間だったに違いない。
「こっちは丁度眠くなり始めたタイミングでよー。倒した魔物を全て寄越せだの、可愛がってやるから俺の女になれだのと鬱陶しい事ばかりほざきやがる。
一々相手するのも面倒だし、適当にあしらったら、奴ら頭に来たみたいでな。一斉に襲い掛かって来た…まぁ、良い眠気覚ましにはなったか?」
隠れていた時は分からなかったが、よく見ればそこにいるのは(黙っていれば)とびっきりの美女と美少女。
火燐と雫は1撃1殺位の力量しか発揮せず、魔物側も強さで言えば割と良い勝負なのが片方が逃げ腰だった為にもう片方が優勢。
ゴブリンはゴブリン。
バグベアは変わった毛皮を被るボブゴブリン程度にしか思われていない上、更に向こうは2人なのに対しこちらは30人程と。
誤った認識だと気付かないまま、自分達の方が圧倒的に有利な立場だと盗賊達は捉えた。
頭はこれから2人を自由に出来る(と思い込んでる)のが余程嬉しかったのだろう。
下卑た笑みで火燐達に脅しを掛け、仲間達が同調。
火燐達が怯んだり逃げたりしたところを捕まえる…予定となるはずだった。
しかし実際は雫が(眠気との戦いに意識を向けていたが故)無反応、火燐は面倒臭そうにしっしっと追い払う仕草での答えとなった。
思い描いた未来とは全然違う結果に盗賊達は呆然、しばらくして馬鹿にされたと分かり、激怒する。
頭の怒声を合図に、全員で襲い掛かった。
火燐は雫に手を出さない様に告げて正面から突っ込み、殴る蹴るだけで盗賊達を制圧。
地に伏す彼らの目の前でゴブリン達やスカッタークロウ達を無限収納へ直し、盗賊達から悲鳴が上がる。
そんな彼らを無視し、ナビが密かに用意したリヤカーを引っ張り出す彼女。
この場で殺されるかこれに乗るかの選択肢を与え、恐れを為した盗賊達は足早にリヤカーへ乗り、移動を始める…かと思いきや。
火燐が背を向けているのを良い事に、後ろから盗賊の頭が襲撃。
だが、彼女の手にはいつの間にか大剣が。
それも抜き身の状態で握られていた。
ゴブリン達やスカッタークロウらと戦った時は持っていたにも関わらず、自分達の際はいつの間にかなくなっていた事に彼は気付くべきだった。
男は大剣に一瞬視線をやり、戻して見えた女の呆れ顔。
次の瞬間にはそこそこの高さにかち上げられ、地面へ落ちる直前に横へ真っ二つになるとの形で生涯を終えた。
「ん。その後私が怪我が軽そうなのを3人選び、回復してここまで運ばせた。その時にナビが使って欲しいと言ったのがあれ。」
残りの盗賊達は頭の呆気ない死に様に縮み上がり、蜘蛛の子を散らすが如く逃げ出すも…前方に巨大な氷の壁や棘が。
肩を落としながらリヤカーへ向かい、最後に乗ろうとした3人を雫は呼び止め、水系の回復魔法で治癒。
その間に火燐は大きめのファイアーボールを放ち、先程殺したばかりの男を跡形もなく焼失。
その光景を目の当たりにした盗賊達は揃って真っ青になり、向けられた不敵な笑みに卒倒する者まで出る始末。
以降、盗賊達は完全に意気消沈。
音の種類は幾つかあるが、彼らの前を歩く2人の会話がやけに明瞭に聞こえた…とだけ。
そんなこんなで1行はサルーンの西門に到着。
リヤカーや盗賊達の存在に門番達は目が点になり、火燐はそんな彼らをスルーしてアルフォンスを呼ぶよう指示。
門番達はこれに訝しんだ様子となるも、火燐から自分はアルフォンスの知り合いで、本人は(ナビ情報で)今頃冒険者ギルドにいるはずだと明言。
何故アルフォンスのいる場所が分かるのかと目をパチパチするだけで、中々動こうとしない彼ら。
焦れた火燐が呼びに行く係を勝手に決め、反論すら許さずに(後ろから蹴る形で)送り出した。
男性は涙目になりながら渋々冒険者ギルドへ向かい、本当にアルフォンスがいた事に驚きつつ、事情を説明。
アルフォンスは最初こそ意味不明との顔をしていたが、特徴を聞いて色々と察し、西門へ急行。
火燐達と合流を果たしたアルフォンスは、同行した警備の者に追加の人員を冒険者ギルドへ送るよう差配。
笑顔で彼女達を案内し始める。(門番達や見物していた人達は揃ってぽかーんとしていたが)
冒険者ギルドに着いた後、そこで待っていた複数の警備によって盗賊達は引き渡され、盗賊を捕らえた懸賞金の受領も兼ねて談笑。
視界の端に凛と美羽が移り、魔力を感じたから中へ入ったとの流れだ。
因みに、リヤカーはアルフォンスが欲しいを根拠に、そのまま警備が引き取る形となっている。
「…つまり、全てナビの仕業な訳ね。」
苦い顔を浮かべる凛に、ナビが《確かに指令を出したのは私ですが、悪い様に仰せられるのは甚だ遺憾です。納得のいく説明を求めます》と抗議の声を上げる。
(なんてたって前科があるからなぁ)
等と思う内に、何事もなかったかの如く雫が話を続ける。
「ん。メンバーの振り分けもナビの意見を採用した。」
「成程ね。それと、眠くなり始めたって事は…。」
「ああ。どうやらオレと雫は進化の準備に入ったみてぇだ。」
「わぁ!おめでとう、火燐ちゃん、雫ちゃん!これでもっと強くなれるねっ♪」
再びにやりと笑う火燐に、美羽が喜色満面でパンッと両手を合わせ、雫含め満更でもない顔付きに。
念話越しにではあるが翡翠と楓は悔しがり、凛はどう進化するのか興味ありげな、ガイウス達は「事情は分からないが、今よりも更に強くなるのか…」とやや困った表情へ。
「っつー訳で凛、これ食って良い?」
火燐が輝く笑みで(自身の右に立つ)凛の方を向き、テーブルの上に置かれた肉の缶詰めを左手で指差す。
「いや、ダメだからね?これはガイウスさん達に食べて貰おうと思って…。」
「んな固てー事言うなって。ちょっと動いたら腹が減ったんだよ。前祝いみてーなモンだ。」
「さっきカレーを5杯も食べたばかりなのに!?」
「あんなんじゃ全然足りねーって…だから良いだろ?良いよな、よし!頂きます。」
「ちょ、火燐!何がだからなのか分からないけど取り敢えず人の話を…って全然聞いてない。雫も既に(ペットボトルのお茶を)飲んでるし。」
ガイウスとゴーガンがかれぇ?と不思議そうにするのはさて置き。
凛の説明を碌に聞かないまま、火燐は缶詰めを開封。
ガイウス達用にとの目的で置かれたフォークを手に取り、食べ始める。
雫は雫で、お茶のペットボトルを確保。
両手で掴み、可愛らしくクピクピクピ…とわざわざ音を立てながら飲み、凛は一気に疲れた雰囲気に。
それから、凛が腰に両手を当てる等して注意するも、火燐はケラケラ笑いながら別の缶詰めに手を伸ばすだけ。
全く話を聞こうとはしない。
挙げ句、無限収納からスカッタークロウを取り出し、これで何か作ってくれと宣う余裕っぷり。
雫は我関せず。
マイペースにお茶をくぴくぴと飲み続け、美羽が苦笑いで凛と火燐を宥めている。
「何だか、昔の僕達を見ているみたいだね。」
「…そうだな。」
そんな凛達が、若かりし頃の自分達と重なって見えたのだろう。
因みに今回の場合、ガイウスは凛。
美人だが目付きと性格がキツい魔法使いのハンナは火燐、おっとり美人でエルフのフューリエ(弓使いで、誰かさんを彷彿とさせる細目)は雫、ゴーガンは美羽との構図だ。
ゴーガンが微笑ましげに。
ガイウスは恥ずかしい部分を突かれでもしたみたく、照れ臭そうにするのだった。




