64話
「今となっては朧気でぇ〜、どんな見た目だったかもあやふやだけどねぇ〜。」
所謂、睡眠時無呼吸症候群が原因で亡くなったと聞かされた彼女。
その後も説明は続けられるも、残念ながら自分が死んだからここに来たとのショックが原因で、全く耳に入らない。
否、心が受け付けなかったと言うべきか。
それを女性…白神は途中で気付いたらしく、適当なところで話を切り上げた後。
未だ呆然としたままの彼女に2つのスキルを施し、下界に降ろした。
1つは『風舞』。
風の適性と親和性を上げ、(魔法を含め)風に関するものの魔素消費量を抑えるとの効果が。
それと生まれ持った才能も合わさって、『風に愛された者』と敬われ、畏れられたのだそう。
「…それで、旅の途中でその風の精霊に会い、意気投合。行動を共にする様になったと言う訳なのですね。」
「そうなのぉ~。」
凛が締めくくり、リーリアが肯定。
そして彼女…ではなく右方向。
すでに美羽達が見ている、翡翠の方へと視線を動かす。
「~♪」
「あははっ!もー、くすぐったいよー♪」
そこでは、同じ風属性を根拠に懐かれたのだろう。
翡翠の周りを風の精霊が飛び回り、ひたすらじゃれている姿が。
風の精霊は低位ながら、それでも見るのは初めて。
皆が皆、揃って珍しそうにする。
「少し前にこれを見付けてねぇ。まさかこの世界にあるなんて思わなかったからぁ、驚いちゃったぁ~。」
そう言って、リーリアは服のポケットから取り出したのは凛が用意した非常食。
それもカ◯リー◯イト擬き(チョコ風味)だった。
「風の精霊さんがキミの魔力だって教えてくれてねぇ〜、近くにいれば会えるんじゃないかと思ってぇ〜。」
「成程…。」
「最後は我慢出来ずぅ、私の方から来ちゃったけどねぇ~。」
あはは〜と笑うリーリアを前に、凛が考え込む一方。
精霊って便利なんだな、が美羽達の抱いた感想だった。
その間、リーリアの膝の上には玄が座っていた。
微妙に物欲しげな眼差しを送り続ける玄を招き、頭を撫でる等する内に気に入られ、本人も久しく頼られたからとご満悦。
途中から、藍火が羨ましそうな視線を向けられるも気付かない位には。
「リーリアさんはこれからも旅を続けるんですか?」
「そうねぇ。そう思っていたんだけどぉ、風の精霊さんが翡翠ちゃんと仲良くなっちゃったみたいだしぃ、離れるのも悪いかなーってぇ。私も玄君や皆と離れるのは寂しいかもぉ…。」
リーリアが物憂げな顔で玄をギュッと抱き締め、付随して凶悪なものがむにゅりと変形。
抱き着かれた玄が柔らかさに覚醒を余儀なくされ、眠そうだった目をカッと見開く。
「翡翠は風の大精霊の子供みたいなものですからね。風の精霊と相性が良いのも当然と言えば当然かと。」
「そうなのぉ~?全然そんな風には見えなかったぁ~。」
「それとリーリアさんさえ良ければですが、これからは僕達と一緒に行動しませんか?」
「ん~でもぉ、私戦闘が苦手でねぇ…お邪魔するのも悪いかなってぇ。」
「戦闘が嫌なら無理強いはしないので大丈夫ですよ。ただ、やる気があるのであればお手伝い致します。あちらにいる紅葉達はゴブリンからのスタートで、今は立派に成長してくれましたし。」
言葉の最後、凛は紅葉達を指し示す。
突然の紹介に彼女らは照れ臭そうにし、リーリアや美羽達が温かい眼差しを向ける。
それと、リーリアは戦闘を苦手と申し出たが、それは近接戦闘での話。
金級の強さを持ち、自身の隣に置いた弓、それと魔法や風の精霊との連携はそこそこのもの。
風の精霊越しに凛達は強者であると伝えられ、1歩引いた目線での報告となった。
凛の言葉が決め手となり、リーリアと握手する形で同行が確定。
再び2人は話をし始めるも、凛はそれまでリーリアの方が年上だと思い、敬語で話していた。
反面、リーリアは自分が加わらせて貰う立場だから。
敬語ではなく普通に話して貰えると気が楽だからと告げ、皆も了承。
雰囲気が大分柔らかくなり、残るもう1つの秘密。
何故彼女は目を閉じたままなのか、との話題へ。
要約すると、今の状況でも困っていないから。
瞼を開かずして見えるが答えで、その正体は━━━
「この、『翡翠眼』のおかげなのぉ〜。」
本物のエメラルドを思わせる、鮮やかで透き通った緑色の瞳。
2つ目のスキルこと、翡翠眼の存在に凛以外から『おぉ~!』と感嘆の声が。
「成程、オンオフ機能付きで瞼を透視出来る能力があって、魔力の流れも視える…と。かなり目立つ点を除けば便利だね。」
「そうなのぉ〜。」
「にしてもエメラルドの瞳か、まるで翡翠みた━━━」
「あたしがどうかしたー?」
等と話しているところへ、風の精霊を連れた翡翠が戻って来た。
凛は顛末を話し、1人と1体はこれから一緒に過ごすと知って喜びを露にする。
続けて、瞑目に戻ったリーリアに翡翠が詰め寄り、興奮した様子で弓に関する話をしようとする。
一目見た時から(同じ弓使いと言う事で)気になっていたらしく、鼻息荒い彼女を凛達は珍しい目付きで見やる。
対するリーリア。
下手ではないものの、話が盛り上がれる程に上手くもないからと申し訳なさげにし、ならば自分が教えると翡翠がリーリアの腕を掴み、「あらぁ~〜~?」との声と共に去ってしまった。
「あらら、凄いやる気…余程嬉しかったんだね。」
一同呆然。
微苦笑の凛から出た呟きが全てを物語っていた。
その後デザートを軽く食べ、片付けまで済ませた凛達が翡翠とリーリアを呼びに行こうかと話し始めた頃、2人が戻って来た。
片や嬉しそう、片やどこか疲れた様子ではあったが、労いの言葉と共に差し出したブラウニーで両方ご機嫌に。
揃って「ほいひぃ〜♪」と頬を綻ばせ、周りが釣られて笑顔になったのはお約束。
続きは明日を名目に、1行は使い捨てポータルで帰宅。
その安心感から、眠そうな表情となった暁達に凛は休むよう告げ、流れる様な足取りで彼らは地下室へ。
「わぁ〜〜~、ふかふかぁ〜~♪」
「~♪」
例に漏れず、初めて体感するポータルにリーリアと風の精霊はそわそわとした様子で後ろへ付き、ソファーを見るや即座にダイブ。
今はそれぞれ寛いだり、跳び跳ねる等しながらソファーを楽しんでいるところだ。
「それじゃ、僕はサルーンの街へ行ってくるよ。美羽も一緒に来る?」
リーリアを見てほっこりした凛はが火燐、美羽の順で視線を移し「もっちろーん♪」「長くなるのか?」との答えに、凛も頷きで応える。
「ガイウスさんと色々と話をしたりするから…多分5時位かな?遅くても6時過ぎには戻るよ。」
「分かった。それまではリーリアみてぇに…は流石に無理だが、適当に寛ぎながら待ってるわ。」
火燐が話しながらリーリアの方を向くも、だらけ切っている彼女の真似は出来ないと諦めたのだろう。
肩を竦め、凛も苦笑いで「まぁ…程々にね」と告げるに留まった。
屋敷を後にした凛と美羽。
そこにナビを交えてあーでもないこーでもないと話し、やがて門付近に到着。
若干距離はあるものの、門番の男性から声を掛けられた。
「こんにちは。」
「こんにちは。今日は冒険者ギルドと、ガイウスさんに用があって来ました。」
「そうでしたか。誰か案内に付けましょうか?」
「いえ、多分長くなると思うのでお気持ちだけで十分です。」
「そうですか…。」
「あ、それとですが、近々…最短で今日の夕方か明日に、僕達以外で14人位来るかもです。先にお伝えだけしておきますね。」
「「じゅっ!?」」
「それでは、僕達は失礼させて頂きますねー。」
驚愕する男性2人への挨拶もそこそこに、街の中に進む凛達。
彼らの相手をした門番達は、昨日と全く同じ組み合わせ。
慣れた感じになったのはそれが由来で、凛達が遠ざかるや相手をした男性が険しい顔付きに。
「…ばっか!お前が変な事言うから本当の話になっちまったじゃないか!」
「ちょ!俺のせいじゃないだろ!不可抗力だ不可抗力!!お前こそ、今は冒険者ギルドが慌ただしい状況だって伝えそびれてるじゃないか!」
「そうだった!…なぁ、これって後で長や隊長に怒られるんだろうか?」
「知らん。俺に聞くな。」
男性は相方からの素っ気ない返事に困り、上手い言い訳を考えようとするも全く浮かばず、1人で頭を抱える羽目に。
一方の凛達。
街を進むにつれ、何やら人々が不穏げな面持ちで話をしているのを目にする2人。
顔を見合わせては不思議そうにし、結論が出ないまま冒険者ギルドに到着。
「「…!」」
ギルド内は、大勢の怪我人や冒険者達でごった返していた。
冒険者は怪我人に手当てや回復魔法を使い、現在進行系で治療の真っ最中。
凛達はその光景に2度3度と目をパチパチ瞬かせ、驚きを露にするのだった。




