63話
ブルーシートの上にちょこんと座るその女性は、身長160センチより少し高い。
背中までのゴールドブロンドの髪をゆったりとした三つ編みに纏め、右肩の上に乗せている。
目はやや垂れ気味。
しかも細目なのかわざと閉じている為に瞳が何色かまでは確認出来ないものの、かなり整った風貌。
年齢は20歳位だろうか?
尖った耳を有している事から、女性はいわゆる亜人。
その中でも、エルフと呼ばれる種族ではないかと推測。
緑と白を基調とした衣服に身を包み、皆の視線が耳や顔。
種族特有の衣装に集まる…かと思いきや、ほとんどの者達が胸を注視。
と言うのも、女性は服の上からでも明らかに翡翠より大きいと分かる位。
それはそれはもう立派なものをお持ちだったからだ。
露出多めなのも相まって、破壊力は抜群…とばかりに強調したそれに美羽達は圧倒。
雫に至っては、黒いオーラを放ち、両手をわきわきと動かした程。
彼女の視線に気付いた女性は、どうして怖い視線を自分に向けているのだろう、と。
天然なのか故意かまでは不明だが、頬に左手を当て、不思議そうに首を傾げる仕草を彼女は取る。
その際、左手が胸に当たった反動でばるんと弾み、更に嫉妬の炎を雫が燃え上がらせたのは言うまでもない。
そんな彼女に美羽達は若干引きつつ、気分を切り替えるのも込め、女性の元へ向かった凛と翡翠を見やる。
女性の存在に凛が何故気付いたのか。
それは改良したサーチを介し、女性をマーキングしていたからとの理由が挙げられる。
凛はサーチを弄り、(魔物を含め)こちらに対して好意を持つ者を青、
悪意がある、或いは何かしらで害を与えようとする者を赤、
無関心な状態の者を白、
亡くなった者を灰、
そして興味を抱いている者を緑の丸で表示するよう調整。
調整の切っ掛けは、自身と紅葉の進化。
鬼姫となった影響でか紅葉は他者の感情へ少し鋭敏になり、報告を受けた凛がサーチへ転用出来るのではと思案。
万物適性上昇のテストがてら、その日の内にサーチの精度も上昇させた。
改良を終え、試しに施行してみたところ、現在地から最も近い集落ことサルーン。
彼の街に住まうガイウス達が好意的な感情を向けているのが分かった。
サーチはそこで一旦閉じられるのだが、当時はサーチの範囲である5キロ圏内に女性はいなかった。
昨晩再び展開し、女性の存在を初めて認識。
そして表示されたのは、こちらに興味や関心がある『緑』だった。
その表記された場所と言うのは、凛が保存食を置いた建物の中。
ガイウスやゴーガンがあれだけ喜んだ食飲物だ、恐らく誰が口にしても似た様な反応を示すだろう。
にも関わらず、何故保存食を置いたのが自分だと分かったのか。
その点が気になった凛は彼女の存在を心に留め、たまにサーチで動向を探っていた。(女性に気を取られるあまり、スプリガン達に遅れを取ってしまったとも)
今朝は屋敷から少し離れた位置にある木の上で休んでいるのが、昼食の用意をしている時は遠くから様子を窺っているのを把握。
因みに、サーチを知っているのは凛とナビだけで、美羽達ですら存在を知らせてはいない。
サーチの便利さに慣れ過ぎた結果、(今の凛みたく)何らかの手段で不意を突かれた時に対処が難しくなるのではと判断されたからだ。
マクスウェルとの最終試験の際、凛は消えたマクスウェルを空間認識能力で探そうとしても見付からず、攻撃を防いだと思った直後に別な角度から攻撃を受けたとの苦い経験を持つ。
彼程の凄腕中の凄腕の使い手とまず遭遇する事はないにせよ、自分の認識外から攻撃を仕掛ける手段は幾らでもあると考えるまでに。
実際、先程のゴブリンアサシンも(殺気を放っていた為に丸分かりではあったが)『気配遮断』と言うスキルを所持。
密かに凛を驚かせた。
この事から、自分の知らない隠蔽スキル保持者が出る→都度組み込むが予想され、「サーチの説明は先延ばしになりそうだな」との考えに至る。
凛自身、サーチを使うのは1日数回程度。
残りは空間認識能力を発動する等で感覚を研ぎ澄ませ、鍛えるとの状況。
今後も役に立ちそうなスキルをゲット次第、組み込ませていく所存だ。
凛と翡翠は自己紹介を行い、女性ことリーリアもそれに応えた。
ほわほわ、ニコニコ、はんなりとした雰囲気を纏う彼女は受け答えに関しても同じ。
「へぇ〜」とか「ふぅ〜ん」、「そうなんだぁ〜」と言った感じで、常に間延びした喋り方だった。
これにエルマとイルマは初めて見るタイプだからか苦笑いを浮かべ、(凛達の中で)せっかちな性格代表こと火燐が段々と苛立った様子を見せ始める。
すると、どこからかくぅーー…と可愛らしく自己主張する音が。
凛達はキョトンとし、食いしん坊である火燐に焦点が定まって「オレじゃねえよ!」と否定。
「ごめんなさぁい、私なのぉ…。」
犯人はリーリアだった模様。
両手を腹部にやり、恥ずかしそうに縮こまる彼女にちょっとした笑いが発生。
火燐もツボに入ったらしく、ゲラゲラと笑っていた。
今回凛が用意したのはややスパイシー気味なカレー。
ジャ◯カレーやゴール◯ンカレーのみたく香り豊かなカレーが好きな彼だが、初めての機会。
並びに少しでも興味を持って欲しいとの意味合いから、敢えてバー◯ントみたく甘めのものを提供。
目論見通り、不慣れでも食べやすく、手が止まらないとして高評価を獲得。
匂いに釣られ、リーリアが吸い寄せられたのもある意味納得。
その彼女へ即座にカレーを盛り、スプーンも添えた凛が手渡す。
ぱぁっと笑顔を浮かべたリーリアは、受け取ったばかりのカレーをスプーンで掬い、くんくんと香りを嗅いだ。
「あ~、コレよコレ〜!久々だわぁ~!」
なんて言いながら口の中に入れ、「んー!この感じ、懐かしぃ〜!」と喜びを爆発させる彼女に凛達が「ん?」と訝しむ。
「…もしや、貴方はカレーの存在をご存知なのですか?」
「Exactly~!あ、でもぉ、こっちに来てからは初めてだけどねぇ~。」
「…え?」
リーリアはカレーの存在に驚いてはいたものの、驚きの度合いとしては渡した側である凛の方が上。
どんな意味なのかと彼がリーリアに追及するも、当人は久々のカレーを堪能するのに夢中。
柳に風とばかりに受け流して答えようとはせず、美羽達の「早く続きを!」と言いたげな視線も無視。
火燐が待ち切れずに問い質そうとして楓と紅葉に抑えられたり、リーリアが事ある毎に『一部分』を揺らすものだから雫が絶えず嫉妬したりと、まるで収拾がつかない。
このままだとカレーが冷めるから、との理由で溜め息交じりの凛提案により昼食の続きをとの運びに。
20分後
カレーを食べ終えたリーリアが再び語り出すも、のんびり口調&微妙に話が飛んだ所為で中々纏まらない。
そこそこの時間を費やし、ようやく概要が見えて来た。
曰く、彼女は(凛と同じで)自分の部屋で寝ていたはずが、ワンクッション挟んだ後に知らない場所で目覚めたらしい。
視界に移ったのは、金髪碧眼で長い耳を生やした見知らぬ若い男女。
それに、自分のものだと思われるやたら小さい手だった。
まさか赤ん坊になってしまったのか。
その割に、やたら意識がはっきりしている。
言葉も自国とは違うが、(リルアースでは日本語が主体)聞き覚えはある。
…的な感じで混乱し、しかしながら父親が自分をあやす目的で使った風魔法を見て、ここは地球とは違う世界にいるのだと認識。
彼女はこちらを見て楽しそうにする両親を他所に、理由は不明だが振って湧いた第2の人生。
折角なので楽しもうと心に決めた。
ただ理想はどうあれ、現実は中々思う様にいかなかった彼女。
3歳頃から運動や魔法の訓練を始める等し、生活を送る分に関しては差し支えなかった。
問題は家の中ではなく、外。
どうやら自分は偉い立場で生まれたらしく、家を出れば周りの者達から畏敬の視線を向けられるか頭を下げられ、非常に居心地が悪かった。
だからなのだろう。
大人は自分を腫れ物扱いし、子供達は大人が近付かない様にと厳命。
おかげで、集落内に友達と呼べる者がいなかった。
唯一、護衛として付けられた少女がそれに近い位で、半ば孤立していると言っても過言ではない状態だったとの事。
リーリアはいつまで経っても環境が良くならない事にストレスが溜まり、10年程前に我慢の限界を越え、護衛の女性にすら黙って集落を出た。
それから気ままに旅をしながら世界を回り、今に至るのだそう。
因みに、彼女は転生者。
前世全ての記憶がある訳ではなく、断片的なものとの注釈が付くが。
嘗ての自分の名前は分からず、辿ったとしてもノイズが走るだけ。
亡くなる前はアメリカの裕福な家に生まれ育ち、両親からの愛情を一身に受けた結果、立派に。
それはもう立派過ぎる程に成長し、自分1人では着替えすら満足に出来なかったのは覚えている。
そんな彼女は30歳を過ぎてしばらく経った頃。
ふと気付けば白い世界におり、目の前に白い女性が微笑みながら立っていた…らしい。
先述のワンクッションがこの部分に当たり、自分はどうしてここにいるのかを尋ね、睡眠中に息が止まり、そのまま死亡。
事実を受け入れるまでしばし時間を要し、やがて落ち込んだのだった。
リーリアは宇◯ママこと◯崎◯さんみたいな感じだと思って頂ければ。




