62話
それを機にゴブリン達は次々討ち取られ、1分もしない内に残りはスプリガンだけとなった。
「これで残るはジジイっぽいゴブリンだけか。ほとんど動きやがらねぇし、こりゃ楽勝だな!」
ガハハ、勝ったな!とばかりに大剣を肩に担ぐ火燐。
厳密には彼女だけが余裕を見せ、他のメンバーは違うと言うべきか。
美羽、雫、翡翠がぎょっとした顔を火燐に送り、凛と楓は苦笑い。
火燐が不思議がり、スプリガンへ目線を戻した矢先、彼に異変が。
時間が経つに連れ、スプリガンの体が少しずつ肥大化。
10秒程で体長5メートルはある巨人へと変貌を遂げた。
「いやいや、待てって。これ、オレのせいじゃなくね?」
となると、困るのは火燐。
まさか今の発言が元でこの様な局面を迎える等と、考えすらしなかったからだ。
ジト目を向けた美羽達へ言い繕うも、彼女らの態度が軟化する事はなかった。
「皆、冗談は後。まずは対処が済んでからだよ。」
凛が苦言を呈すのに合わせてか、動き出すスプリガン。
未だビシビシと視線が突き刺さり、耐え兼ねた火燐が少し自棄気味に相手をするとの運びに。
スプリガンの体は硬く、動きも大きさの割に速かった。
が、それはあくまでも魔銀級上位としての話。
黒鉄級中位に近い強さを持つ火燐を相手に役不足感は否めず、30秒弱で倒される結末に。
スプリガン討伐後、全員が凛の周りに集合。
火燐だけは彼以外から誂われたとして、不満そうな表情を浮かべているが。
「改めて皆お疲れ様。家は後で建てるとして、先にオーガ達の回収だけ済ませてお昼にしようか。ここじゃ(食べてる最中、匂いに釣られて魔物が来る可能性があるを根拠に)ゆっくり出来ないだろうから、森の外でって形になっちゃうけど。
美羽、エルマ、イルマは西側、火燐と翡翠は東側、雫と楓は南側の回収をお願い。僕はポータルと、ポータルを守る為の小屋を用意するね。」
「凛様、私達は如何致しましょう?」
「紅葉達は今回功労者。すぐに終わるし、そのまま休んで貰って大丈夫だよ。」
「畏まりました。」
指示が伝えられるや、各々が与えられた役目を果たすべく目的地へ。
因みに、凛が中央についての説明を行わなかったのは、既に回収済みだからだったりする。
その本人はその場で6畳程の小屋を土魔法で建て、その中にポータルを設置したかと思うと、北の方角へ飛行。
特に言及等されなかった紅葉達はぽかんとし、それから3分後位に戻って来た━━━ポータルで。
紅葉達はここでも呆気に取られ、タイミング良く(?)やるべき事を済ませた美羽達がやって来た。
「森を出た先にポータルを設置したんだ。時間も惜しいし、このまま皆で向かおっか。」
等と宣う凛が率先して移動。
美羽達は不思議に思いつつ、彼の後を追う。
ポータルの先は平原だった。
しかも何故か10メートル四方の大きさのブルーシートが広げられ、四隅にクーラーボックス等が置かれているとのオマケ付きで。
美羽達はいつの間に…との考えがほんの少し頭を過ったが、すぐに感心はブルーシートとクーラーボックスへ。
そんな彼女達へ、現在はオーガの集落から北へ真っ直ぐ、死滅の森を出てすぐの位置にいると凛は説明。
続けて、火燐、雫、藍火、玄、紅葉達にお昼の用意が済むまで寛ぐ促すも、火燐達4名は軽く手伝いたそうにソワソワ。
しかし凛が(ブルーシートの上に置かれた)クーラーボックスの中に、予め氷で冷やしておいたコーラがあると告げた瞬間、4人はダッシュ。
彼女達は好物(藍火と玄も昨晩ハマった)であるコーラには抗えなかったのだろう。
靴等を履いた(雫だけは浮いた)ままブルーシートの上を走り、早速取り出したコーラを一気飲み。
何故か揃って飲み始め、一様に口から離し、これまた示し合わせたが如く至福の表情へ。
これに困ったのは紅葉達。
火燐達が凛の誘いに乗ってしまった以上、自分も行かなくては失礼に当たると捉えたらしい。
揃って申し訳なさそうに凛へ頭を下げ、火燐達と合流を果たした。(勿論履物は脱いで)
「マスター。お昼って、今朝用意したのを並べれば良いだけだよね?何をしているの?」
次にやって来たのは美羽。
談笑する火燐達から凛へ視線を転じた彼女は、主が急に土魔法で調理台を用意し始めた事を疑問に思い、問い掛けてみる。
「それなんだけどさ、今日はカレーをメインにしてみようかなって思ってるんだ。」
調理台を創り終えた凛が、今度は竈の作製に移る。
「えっ…。」
「「かれー?」」
彼の発言で美羽が固まり、初めて聞く名前に首を傾げるエルマとイルマ。
「うん。カレーなら今朝のと違ってオークキングの肉が使えるし、他にも目的が…って、美羽?聞いてる?」
「………。」
美羽的に、余程ショッキングな出来事でも起きたのだろうか。
目の前で「おーい」と凛が手を振る等しても、何の反応も示さなかった。
その後、凛はあくまでもカレーがメインであって、他は全く出さない訳ではない旨を伝達。
単なる早とちりだったと分かるや美羽は顔を真っ赤にし、何度も何度も頭を下げた。
「それじゃ改めて、まずは下拵えから始めようか。僕は材料を用意するから、皆は洗ったり適当な大きさに切ったりしていってね。」
『はーい!』
美羽達の元気な返事に頷いた凛が、無限収納からじゃがいもや人参を始めとした野菜を取り出す。
説明しながらボールに貯めた水で洗い、手本がてら包丁でスルスルッと皮を剥き、直径3センチ位の大きさになるよう切って見せた。
美羽達は真面目だったり感心した様子で見た後、思い思いに野菜を手に取る。
彼女達が野菜を切る様子を眺めつつ、凛は空いている調理台に移動。
無限収納からオークキングのブロック肉を取り出し、手早く一口大の大きさにカット。
予め用意した圧力鍋を竈にセットし、火を点けてから肉を炒め始める。
「凛さーーん!」
「? どうかしたー?」
すると、凛は何やら必死な様子のエルマから名前を呼ばれた。
直ちに火を消し、エルマの元へと向かう。
「目がっ、目がーーーーーっ!!」
エルマは若干不器用、しかも近い位置で玉ねぎを切ったのが災いしたのだろう。
思いっきり目を閉じ、ひたすら涙を流す彼女に凛は苦笑いを浮かべる。
「あー、玉ねぎを一気に切ったからだね。イルマ、落ち着くまで休んで貰ってて良いからさ、エルマを火燐達の元まで案内してくれる?」
「うん、分かった。」
「ごめんなさい…。」
イルマに背中を押されたエルマが、調理場から離れて行った。
そんな彼女達を見送った後、凛は焦点を美羽へ。
「ふっ、ふふっ…目が、目がって…。」
下を向き、右手に包丁を持ったまま小刻みに体を震わせると言う。
非常に危ない状態へ美羽が陥っていたからだ。
「…美ー羽ー?間違っても変な事を言ったりしないでよー?」
それ以前に危ないけどね…と呆れた目で凛が突っ込みを入れ、美羽を更に困らせたのはご愛嬌。
10分後
火を消し、ルーを鍋に入れた凛がお玉をぐーるぐる。
鍋の中が段々と茶色くなり、スパイスの芳しい香りが周辺に広がっていく。
「わー!凄く美味しそうな匂い!」
凛の後ろから顔を出した美羽が、如何にも興味ありげな顔付きに。
「本当!見た目は変な色なのに不思議ー!」
「お腹空いた…。」
「何々ー?もう出来たのー?」
「早くないでしょうか…?」
「今回は簡単なやり方で作ったからね。後は少し寝かせたら完成だよ。」
『おー!』
復活したエルマやイルマ、翡翠、楓の4人も輪に加わり、談笑。
カレーの臭いは火燐達にも届き、気になるのか凛達の方を何回もチラ見している。
「それじゃ、完成って事で昼食にしよっか。」
『賛成〜!』
「カレー以外にも食べたい料理とかあれば(ブルーシートに)並べて良いからねー。」
最後にお玉を1周させた凛が手を離すや、美羽は待ってましたとばかりに目をキランと光らせ、無限収納から1つの皿を取り出す。
その皿は、豚のスペアリブに黒酢等で味を付けて焼いたものだ。
スペアリブの横には長ネギが添えられ、先程凛からカレーを作ると聞いて落ち込んだ要因とも。
因みに、長ネギが乗っているのは美羽の分だけで、他の人はスペアリブのみ。
調理後、彼女は丁寧に長ネギを焼いた事もあり、人一倍楽しみにしていたのかも知れない。
他にも、無限収納に手を入れた翡翠と楓がエルマとイルマと意見し合い、豚ロース肉を塩ダレや味噌に漬けて焼いたものや、冷しゃぶサラダ、豚の角煮、トンカツと言った料理を取り出す。
それらをブルーシートに並べ、火燐達が興奮したのは言うまでもない。
これらの料理は、昨日凛がサルーンでオークキングの肉を受け取ったのが発端。
視界の端にバケツを大きくした様な容器。
それと容器から少しはみ出す形で骨らしきものが見え、ワッズに許可を貰い、覗いてみる。
肉が少し付いた状態の骨が幾つも中に入っており、料理したい衝動に駆られる凛。
交渉して譲って貰い、今朝美羽達へ経緯を話しつつ豚肉を使った料理も幾つか作ろうとの結論に至った。
やがて、皆の前にカレーライスが並べられ、「頂きます」を合図に一斉に食べ始める。
「何だこれ!変な色なのにうんまっ!」
「火燐、変な色とか言わないの。これはカレーって名前の食べ物で、僕の国では国民食って言われてる位に人気がある料理なんだ。そこにあるトンカツをカレーの上に乗せた食べ方もあるよ。」
「マジか!」
「一応、コーラとも相性が良い。」
「マジかー!」
凛からの説明で早速カツカレーにし、コーラを呷る火燐。
他の者達も火燐に倣うか違う飲み物を選び、美羽だけは真っ黒に染まった長ネギを幸せそうに堪能。
全員から好評を得、凛は突発ではあるが作って良かったとの実感を得る。
食べ始めてから5分程が経った。
全員が笑い、尚も料理に舌鼓を打つ。
「…ずっと座らせたままも何ですし、宜しければこちらでお昼をご一緒しませんか?」
「あ、私の事はお構いなく~♪」
そんな中、凛が視線を変えると、ブルーシートの端に1人の女性が。
凛からの問い掛けに右手をひらひらと振り、人の良い笑みでやんわりと断る。
『(誰!?)』
今のやり取りで美羽達も女性の存在に気付き、思いっ切り度肝を抜かれるのだった。




