61話
凛達と対峙するゴブリン達の内、3割位は歴戦の戦士と言った風貌。
手前にモサッとしていたり赤い帽子をかぶった個体、次に熟練の弓師や術師風の者等が控え、最後尾に小夜の姿が。
小夜はゴブリン達に殴られたのか口元に血が付着し、心做しか弱っている風にも見える。
『(凛様、申し訳ありません…。)』
『(ううん。むしろ僕の方こそゴメン。周りに気を配れば君が傷付けられる事はなかったんだ、だから小夜は悪くない。すぐに助けるから待ってて。)』
『(はい…!)』
ビットの配置はそのままに、凛は障壁を解除。
念話越しに小夜の無事を確かめ、ようやく安堵した表情へ。
小夜を捕らえ、凛達に攻撃した者達は混成部隊だった。
筆頭、且つ彼女の隣で堂々とするスプリガンはホブゴブリン→マーダーゴブリンを経て進化したもので、黒鉄級の強さを持つ魔物。
一般的なゴブリンよりも小さく、亀○人を思わせる立派な髭や眉を蓄えた老人…と言った感じの見た目をしている。
更に、魔銀級のゴブリンボウマスター、ゴブリンセージ、ゴブリンアサシンはゴブリンシューター、ゴブリンウィザード、ファントムゴブリンから進化した個体。
マーダーゴブリンの先、文字通り赤い帽子を被った魔銀級のレッドキャップが数体ずつとの割合だ。
ゴブリンボウマスター達は、ゴブリンとホブゴブリンの中間位の大きさ。
ここにゴブリンやホブゴブリン、アーチャー、メイジやその進化系が加わる。
スプリガンはそんな彼らよりも小さく、パッと見老人と化したゴブリンにも感じられるからか一際目立つ存在とも。
他には、バグベアと呼ばれる銀級の魔物が15体程いた。
モサッとと先述した彼らは、巨人になりかけたゴブリンとでも言おうか。
グレーターゴブリンからの派生、且つ身長が2メートル程にまで伸び、多少毛深いながらも逞しい体付きをしていた。
どうやら、スプリガンが指示し、ゴブリンアサシンが斥候。
レッドキャップとバグベアが近接、ゴブリンボウマスターとゴブリンセージが遠方攻撃を仕掛けるとの役割でこの1団は構成された模様。
彼らはオーガキングと協力関係にあり、森の外で仲間を集めながら戦力の増強を図っていた。
そして先程、かつて紅葉達がいた集落から2キロ程離れた地点を通り掛かり、スプリガンはオーガキングがいずれ『姫』を手に入れる予定である事を思い出す。
進行方向を変え、彼女がどんな様子で過ごしているのかを見に行くとなった。(ゴブリンキングは凛達に倒される翌日か、翌々日にオーガキングに紅葉を差し出すつもりでいた為、顛末をスプリガン達は知らない)
スプリガンは1体のゴブリンボウマスターに指示を出し、遠くを見れるスキル『鷹の目』で集落の様子を視察。
だが、ゴブリンどころか人の姿さえ発見出来ず、その事を知ったスプリガンは少し考えた後、配下達と共に集落へ。
1行は集落内を回り、(埋葬等の)処理がされている事から、既にこの集落は放棄されたと判断。
報告の為、オーガキングの元へ向かうとなった。
西側から集落に入ってみたところ、 (小夜の手によって)既にオーガ達が倒された後だった。
警戒しながら中央方面へ進み、少しふらついた様子のオーガを発見。
目の前にいる、変わった装いのオーガが何か情報を持っているかも知れないと考えたスプリガンは、集落の西側で何が起きたのかを訊く目的で声を掛けようとする。
しかし、オーガが持つ短槍に付く血痕。
並びに問題の西側から中央へ移動中との観点から、このオーガが協力関係にあるオーガ達に刃を向けたのではと思案。
斥候役となるゴブリンアサシンへアイコンタクトを送り、小夜の元へ向かわせ、すぐに追手だと捉えた彼女と戦闘になった。
しかし(暁、旭、月夜もそうだが)オーガ達を倒して得た魔素で進化の兆候が見られ、倦怠感に襲われた状態では流石に分が悪過ぎた。
しかも大体の者が自分より体が小さく、動きが速かった為に翻弄され、あっさり捕らえられてしまう。
捕縛後、中央でも何か異変が起きてるのではとの判断から急行。
轟音から凛達発見へと繋がり、今に至る。
ゴブリン集団と凛達による睨み合いはしばらく行われ、その間凛と小夜は念話越しに経緯を話し合う。
すると、最も奥にいたスプリガンが徐に歩き出し、1番外側にいるバグベアより前の位置で停止。
右手を挙げるを合図に先程より多くの攻撃が放たれ、凛は再びビットでの障壁を展開。
攻撃を無効化した。
そして煙が晴れた先。
凛達の視界に映ったのは、バグベアから羽交い締めにされる小夜だった。
しかも、レッドキャップとゴブリンアサシンに短剣を突き付けられると言うオマケ付きで。
スプリガンは小夜の後に凛へ顔をスライド、それまで閉じていた目をスッと開く。
「これ以上抵抗を続ければ…分かるな?」と言いたそうな視線で見、再び攻撃開始の動作を取る。
攻撃は凛達がいる地点に当たり、都度爆発が発生。
堪らず小夜が叫び声を上げて暴れ出すも、思う様に力が入らず(スプリガンから指示を出された)3体のバグベアによって抑え込まれる始末。
スプリガンは鼻を鳴らし、今の攻撃で凛達にどれだけの被害を与えたかを見定める為、視線を小夜から正面に戻す。
だが、爆発によるクレーターや氷の柱等。
魔法を含めた名残が広がるだけで、まるで神隠しにでも遭ったみたく行方を晦ませた。
これにスプリガンが目を見開き、他のゴブリン達も動揺。
どこへ…と思うより早く、後ろから声が聞こえた。
「小夜は返して貰うよ!」
直後、小夜の背中に乗っているバグベアが吹き飛んだ。
彼女の左右にいた者達も同様の道を辿り、いずれも他の個体とぶつかるのだが…スプリガン達はそんな事どうでも良いと思える程、驚きに満ちていた。
3体を蹴り飛ばし、空中で体勢を整えた人物━━━凛は小夜のすぐ横に着地し、彼女を確保。
後方へ跳び、そこで待機中だった美羽達と合流する。
「小夜、お待たせ。」
『(凛様、それに皆さん。ありがとうございます…!)』
凛が回復と同時に話し掛け、小夜は凛→美羽達の順番で視線を動かし、感極まった様子に。
凛達は笑顔を浮かべ、彼女を温かく迎えた。
先程攻撃を受けた際、凛達は着弾する直前に魔力障壁をピンポイントで展開。
或いは避けたりして凌いだ。
そして発生した煙に乗じ、使い捨てポータルでスプリガン達の背後に移動したとの流れだ。
尚、小夜奪還作戦に伴い、美羽は万一失敗しても大丈夫なよう、シールドソードビットで主を追尾。
帰還に併せ、彼の頭上にあったそれらを自身の近くに戻したとだけ追記しておく。
話は戻り、憂いがなくなったと分かった火燐が前に出た。
ニヤリと笑い、左拳を右手で受け止める形でパンッと音を鳴らす。
「よっし!これで遠慮なくあいつらをぶちのめせるってもんだな。」
「ん。人質を取るなんて卑怯者がやる事。遠慮はいらない。」
これに雫が感化され、火燐の横へ移動と同時に6本のアイシクルスピア、高速回転する水の円盤ことアクアエッジを6つ展開。
魔法を使うゴブリンセージが中心となって驚くのを他所に、反撃開始とばかりに12全ての魔法が発射された。
着弾後、ゴブリン側からお返しとばかりに数本もの矢が。
反応した火燐が「よっ、はっ、とっ」と言いながら叩き落とし、残りは美羽がシールドソードビットであっさりと防いでみせた。
「…ちったぁ骨がありそうだな。こりゃ楽しみ…。」
火燐が嬉しそうにする傍ら。
彼女の前を(地上から軽く浮く形で)雫がすぃ~〜~と横切り、翡翠と楓が追走。
「出遅れた!」と慌てて駆け出す火燐を見た美羽、エルマ、イルマの3人がクスリと笑い、後ろを付いて行った。
因みに、凛と紅葉はこの場に残る係。
スプリガン達の攻撃から暁達や藍火の身を守る為だ。
玄が背中に抱き着き、藍火が左手を右肩に添える形で凛を頼り、小夜へ話し掛ける。
そこに紅葉達も加わりつつ、先方に意識を向ける。
1番前を進む雫が、同じく先頭を走るレッドキャップやゴブリンアサシンとぶつかるまで残り10メートルを切ろうとした頃。
短剣による同時攻撃を仕掛けようと、相手方2体が地面を蹴る。
それを見計らい、雫は氷系中級魔法アイスウォールを発動。
わずか1秒と少しの間で高さ3メートル、横10メートルの氷の壁が生成。
まさかここまで速い時間で完成に至る等と、予想だにしなかったレッドキャップとゴブリンアサシン。
挙げ句、ご丁寧に足元まで凍らせたのも重なり、対応が間に合わず体を激しく打ち付け、ダウン。
続けて、あちら側の面全てに雫は氷の棘を生やす。
激突した2体は気絶させられた上に体を貫かれると言う、何とも悲惨な終わり方を迎える羽目に。
直後、氷の壁を飛び越える形でゴブリンアサシンとレッドキャップが2体ずつ姿を見せた。
嘗てのアイシクルショットよろしく、撃ち出された氷の棘への対処とも。
「火燐ちゃん!」
「おう!でぇやっ!」
尤も、他の面々は既に雫の元へ到着済み。
火燐が前方に跳び、美羽はシールドソードビットを向かわせる形でゴブリンアサシン達を討伐。
「今度はこっちから行くよ!」
地上10メートル位の高さへ浮き、右手の指と指の間に挟んだ翡翠が計4本のウインドアローを射出。
それらは2体のゴブリンボウマスター、及びゴブリンセージの眉間へ吸い寄せられる様にして刺さり、驚愕の表情で後方へ倒れるのだった。




