60話
グレーターオーガ達は彼我の実力差に怯みこそしたものの、立っている状態の3体の内の1体が、自分達は集落内で選ばれた存在である事を思い出す。
自らを奮い立たせる様にして吼え、紅葉をギンッと睨んで走り出した。
はっと我に返った他の3体も遅れて続き、最初の1体が武器を振りかぶる。
対する紅葉は驚きも恐怖もなく、むしろ笑みを更に深める始末。
ゆっくり右手を上げ、魔力を纏わせた颯の先端よりも先に生える、1メートル程の大きな風の刃。
グレーターオーガは初めて見る光景に目を白黒させつつ、最悪自分が犠牲になれば時間稼ぎ位は出来ると踏み、全力で武器を振り下ろ…せなかった。
間もなく接触、との距離で紅葉が腕を下ろし、2メートル近い風の刃が放たれたからだ。
グレーターオーガの思惑虚しく、風の刃はバスタードソード諸共グレーターオーガを縦に真っ二つ。
尚も勢いは衰えず、オーガキングの住処へ一直線。
これには、グレーターオーガだけでなく他の3体のグレーターオーガも予想外。
最初の1体は目を見開いたまま体を左右に分かたれ、他の3体は急ブレーキ後+急いでその場から離脱。
オーガキングの住処を突き抜け、反対側から外が見えた頃にようやく消滅した。
破壊された部分から、身長3メートル以上はあるオーガキングが、身を屈めながら出現。
大きな両刃斧を所持し、正に怒り心頭と言う感じでの登場だ。
改めて、オーガキングはグレーターオーガ達を見る。もとい、睨みを利かせる。
そして「お前達は何をやっている!」とでも表す様な大きめの怒号を飛ばすも、グレーターオーガ達は身を竦ませるだけ。
誰も言い訳どころか弁明すらしない。
オーガキングはそんな彼らの不甲斐なさにより一層不機嫌となり、まずはこの怒りを紅葉達にぶつけてから考える事にしたらしい。
グレーターオーガ達から紅葉に視線を移し、猛烈な勢いで突進。
その迫力に負けたグレーターオーガ達は道を譲り、オーガキングは勢いそのままに紅葉へ斬り掛からんとする。
「お前の相手は俺だ、よっ!」
そんな彼の前に立ちはだかる人物━━━暁。
彼はいつの間にか両手に持った不動でオーガキングの攻撃を防ぎ、短い均衡の後に斧を弾くと、軽い跳躍からの回し蹴りを放った。
「グボァ!」
回し蹴りはオーガキングの腹部に当たり、呻き声を上げながら来た方向とは反対側。
自身の住処方面、しかも結構な速度で以て突っ込み、ただただ穴を増やしただけとの結果に。
暁は追撃目的でオーガキングの後を追い、すぐに住処の中から剣戟の音が響き渡る。
「さて、あちらも戦いが始まった様ですし…私達も再開する事に致しましょうか。」
「「「…!」」」
紅葉がふわりと微笑み、優雅に歩き出す。
これに相手方3体は示し合わせたかの如くビクッと体を震わせ、一瞬だけ倒された仲間を眺め、視線を紅葉へ。
そう遠くない内に自分達も同じ道を辿るのでは…との思いから、自然と体が後ろに。
だが、このままでは住処を破壊されたと難癖を付けられ、どのみちオーガキングから処分されるだろう。
そう判断した1体の。
次に他の2体の足が止まり、互いにアイコンタクト。
やがて、例え自分だけでは無理でも全員で挑めば…との思惑に至る。
意を決した表情で頷いた彼らは、オーガキングが戦闘を終える前に紅葉へ一斉攻撃。
紅葉はそれらを2本の鉄扇で滑らせる。
或いは弾き、時には身を翻したり突っ込んだグレーターオーガを飛び越える場面も。
自分達が良いように遊ばれている事にグレーターオーガ達は仰天するも、このままだと埒が明かない。
それまでの固まったり時間差のやり方ではなく、紅葉の正面や側面、背面へ移動し、同時に攻撃を仕掛けるに移行。
体の向きを変えた紅葉は右、左の順番で攻撃を弾くのだが、左。
元は背後に当たる攻撃を強めに弾いた。
こうも容易く対応するとは思わなかったグレーターオーガは体を大きく仰け反らせ、見るからに無防備状態。
「あら?捕まってしまいました。」
追い打ちすべく前のめりになった彼女へ巻き付く、鎖の様な物体。
それは正面にいた個体が取り出し、投げ付けたものだった。
紅葉はあっという間にぐるぐる巻きとなり、軽く目をパチパチ。
今度はこちらの番とばかりに、先程鎖を投げた個体がバスタードソードの腹部分を打ち付けて来た。
紅葉は慌てる事なく後方へ跳んで回避し、颯越しに喚んだ小さな風の刃で鎖を切断。
彼女の体からスルリと落ち、グレーターオーガ達はあっさりと手段が潰された事にフリーズ。
呆気に取られる彼らに紅葉が圷を突き出すや、彼らに異変。もとい終止符が。
足元から生える、鋭く尖った土の塊が首から下の至る箇所を穿った。
揃って血塗れになり、その内の2体は即死。
残る1体も何とか一矢報いる為に体へ力を入れ、抜け出そうとするが結局叶わずに首だけをがくっと動かし、息を引き取った。
その頃の暁。
彼は無言で、ひたすら喚き散らすオーガキングと打ち合っていた。
虚仮にされ、猛り狂ったオーガキングが斧を振り回し、全て冷静に処理。しかもつまらなさそうな目付きで。
それが却って彼の怒りに燃料を焼べ、もはや住処の事等どうでも良いとばかりに破壊しまくっている。
「はぁ。自分が住む家だってのに、本人の手で破壊しちゃ世話ないな。」
一旦距離を取った暁が、呆れた様子で呟く。
盛大に馬鹿にされたと捉えたオーガキングが上を向き、空気を震わせる程に大きく咆哮。
力を最大限にまで解放し、大斧による横薙ぎ攻撃を暁へ放った。
ギャリイィィィン
対する暁はカウンター。
不動に炎を纏わせ、オーガキングの斧を斜めに切断。
オーガキングは刃の部分が半分近くにまで減った斧を眺めると同時、無意識に数歩後ろへ下がってもいた。
「…お前自身は強いのだろうが、攻撃に重みが全く感じられん。だから俺程度にすら通用しないんだよ。」
逆袈裟の構えだった暁が、ゆっくり体勢を戻す。
そして前へ進むのに伴い、右手に持つ不動へ纏わせた炎が更に勢い付くと、恐れを成したオーガキングが「グゥ…」と小さめに呻く。
オーガキングは進化を終えてからも成長を続け、今では神輝金級を少し過ぎた位にまで強くなった。
それに対し、暁は敢えて黒鉄級上位に届く前で留め、本来であればオーガキングの方が有利。
尚、彼だけは事前に妖鬼の先である闘鬼へ進化済み。
それでも魔素量だけで見たらオーガキングに届かず、強そうに見えないと思われて仕方ない部分はある。
ただ、油断したのに変わりはない訳で。
舐めて掛かったの彼に対し、暁の心はいつでも挑戦者。
先達である凛達から指導やアドバイスを何回も受け、彼らが魔物へ挑む様も幾度となく観察。
こうして、主と同じで相手を視る癖が付いた暁。
いつもみたくオーガキングの動きを注視しながら対応した結果、オーガキングは身体強化を限界まで使った経験が少ない上に動きが荒い…つまり格下ばかりが相手で、体力もそこそこ。
これ以上、学ぶ事はないと判断。
分析終了と見切るや斧を斬り落とし、戦いにいつまでも時間を掛けていられないと一気に距離を詰める。
オーガキングは暁の足の速さに面食らい、咄嗟の攻撃も斬り上げにより跳ね返され、持っていた斧まで弾き飛ばされる。
衝撃の連続でオーガキングは固まってしまい、その隙に暁が踏み込んでからの前蹴りを放つ。
再び吹き飛ばされた挙げ句、壁に叩き付けられたオーガキングが血を吐いて倒れた。
勝てない。
強さは上のはずなのに、まるで勝てる要素が見えない。
ゆっくりとした足取りで近付いて来る暁を前に、オーガキングは悟った模様。
ボロボロとなった体を小刻みに震わせ、どうにかうつ伏せから体を起こした後、命乞いをし始める。
「は?」
巫山戯るな。
情けないオーガキングを前に、暁が思ったのはそれだった。
瞳孔が収縮し、怒りの衝動を抑える為、敢えて歩みを止めた程だ。
「…お前達は命乞いどころか、無抵抗の者達を問答無用で殺しただろうが。何を今更…。」
訂正、抑えられなかった。
全身をワナワナと震わせ、自ずと声が低くなる。
反対に、オーガキングにとってはチャンス。
若干動ける位には体力が戻り、下を向いている今の内に再び攻撃を仕掛けようとし…早々と絶望。
彼の瞳に映ったのは、まるでゴミを見るみたく冷たい目を向ける暁。
侮る気配等、1ミリもなかった。
「お返しだ。」
オーガキングの勢いが良かったのは最初だけ。
今度こそダメだ…と心折れてから一気に力が失われ、蹈鞴を踏み、最後は自身が繰り出したのと同じ横薙ぎで真っ二つに。
「…馬鹿が、だからお前はこの程度なんだよ。」
不動を腰の鞘に収めた暁がオーガキングを一瞥。
視線を切り、興味は失せたとばかりに外へ出る。
5分後
凛達はオーガキングの住処だった屋敷の前にいた。
そこには合流を済ませた紅葉達の姿もある。
「まずはお疲れ様。皆、とても良かったよ。」
「「ありがとうございます。」」
「「(ありがとうございます。)」」
凛が紅葉達を労い、紅葉達もお辞儀で応えた。
「さて。皆も気付いていると思うだけど、小夜がまだ戻って来ていない。」
『………。』
凛が告げた通り、ここに小夜はいなかった。
これに皆が黙り、姉の月夜は不安な顔付きに。
「これから皆で、小夜を探しに…っ!」
話しながら、凛は小夜を探る目的でサーチを展開するよりも早く、(彼から見て)右側から何かが飛来するのが分かった。
急いでビットを展開し、縦3メートル、横10メートルの間隔でビットを配置。
障壁を張った瞬間、複数の矢や中級魔法らしきものが衝突。
飛んで来た魔法はフレイムスピア、アイシクルスピア、ゲイルスピア、ロックスピア、ダークスピアの5種類。
矢を含めた攻撃はしばらく続き、その全てを凛は防いでみせた。
「…そう言う訳か。」
煙が晴れ、視界の先にいたのはゴブリンらしき集団。
その中に捕らわれた小夜が見え、凛は苦い表情を浮かべるのだった。




