61話
その頃、ガイウス、ゴーガンは凛の傍にいた。
2人共試食用のカレーライスを所持し、それぞれ口に含んでいる。
「…このカレーライスは美味い。美味いのだが…折角の辛さが後から来る甘さで台無しになってしまうのがな。」
「そうだね。人によってはこの甘さは要らないと思う。」
彼らはイベント開始時や昨日のプレゼンにて、今回出された飲食物を一通り試している。
どちらも微妙な反応を示し、凛が客に行う説明で再び食べたくなったらしいのだが…その顔はやはり微妙なものだった。
香辛料はこの世界だと高級品。
場合によっては、金貨や白金貨を出してようやく1食分と言う物もある。
そんな香辛料をふんだんに使った料理を抵抗なく、それこそ子供からでも食べれる様にと、凛はわざと甘いカレーを試食として出した。
しかしガイウス達はお菓子ならまだしも、料理に…しかも贅沢品であるカレーをわざわざ甘くすると言うのが許せなかったらしく、凛に不満を漏らす。
「お二人が仰るのはごもっともです。今回はカレーそのものを知って貰う為、敢えて甘くしてますしね。ですが販売が開始されれば、今回と同じのを甘口、甘さを抜いたものは普通のカレーとして出す予定なのでご安心下さい。」
「「成程。」」
「それでも辛さが足りないと言う方向けに、反対に香辛料を足した辛口や激辛なんてのもあります。」
「「げ、激辛…?」」
彼の口から出た言葉に、「辛口はまだしも、激辛とは一体どの位の辛さなのだろう」と。
再度疑問をぶつけたい衝動に駆られるも、凛は既に話は終わったとばかりに口を閉じた為、これ以上続けるのは憚られた。
なので自分達の方から尋ねた以上、激辛のカレーライスを食べなければならないのかと思い、共に人知れず冷や汗を流していた。
オズワルドを始めとした商業ギルド員は、商店側に集まって話をしていた。
今回の試食・試飲では、(インスタント食品のカテゴリとして)醤油味ヌードルと和風だしうどんのカップ麺、
紙で出来たカップとセットになった、フリーズドライタイプの卵スープ、コーンスープ、かぼちゃスープ、
一回分ずつ小分けされた複数味の紅茶、緑茶、抹茶、ココア、カフェオレ、レモネードが用意されている。
カップ麺、カップスープ、スティック飲料は種類が多い為、客側はいずれか1つを選んで試す形となる。
彼らは特にお湯を注ぐだけで済むインスタント食品に意識が向いたらしく、並べられた品々に視線をやる。
「このカップ麺、と言う食べ物は凄いですね。熱いお湯を容器の中に入れ、少し待つだけで食べれる様になるとは…。」
「そのカップ麺以外にも、お湯を注ぐだけで食べれる物がこんなにあるのか。しかもこれらはほんの一部…。」
「昨日の魔道具もそうですが、これは革命としか言いようがありませんね。」
ダニエルはカップ麺を様々な角度から覗いて、オズワルドは紙のカップと乾燥状態の卵スープを持ちながら呟き、ダニエルの結論により全員が頷いた。
それと、彼の口から出た魔道具と言うのは、魔石を用いてお湯を沸かすケトルやカセットコンロの事を差す。
ケトルはティ○ァールみたく短時間で水をお湯に変え、カセットコンロは別売で販売予定の片手鍋を使う事で、お湯の作成やレトルト食品の加温にも使える。
凛はマジックケトル、ポータブルコンロの名前で10点程、他にもインスタント食品やレトルト食品、マヨネーズを始めとする調味料や酒を何種類か、それも大量に商業ギルドへ渡してある。
それらを馬車に積んだ状態で今朝1番にサルーンを発ち、それぞれ王都、帝都、商都、獣国王都、聖都へと向かって行った。
それから30分程時間が経った頃。
オズワルドとダニエルが凛の近くへ来たのを期に、ゴーガンは近くでこそこそとつまみ食いを続けているルルに水を向ける。
「ルル君。」
「…!な、なんだい?」
ルルはいきなりゴーガンに呼ばれ、しゃがんだままビクッと体を強張らせた。
「ちょっとこっちに来てくれるかな?」
ゴーガンから呼ばれ、怒られると思ったのか少しびくびくしながら彼の下に向かう。
「オズワルド君。フォレストドラゴンの件だけど、ルル君も一緒に行って貰う事にするよ。」
そう言って、ゴーガンは彼女の背中に手をやった。
これに、ルルは怒る為に呼んだんじゃないの?と言いたげな視線をゴーガンに向ける。
「君も知ってるだろうけど、ルル君は王都で偉い立場にいる人のお孫さんだ。今はまだ大丈夫だろうけど、いずれルル君が怪我した事を知られる可能性が高い。その時に王都へ呼ばれ、叱られ…なんて嫌だから、先手を打っておこうと思ってね。」
「そう言えばあたい、少し前に死にかけたんだった。凛達に助けられてからは楽しいの連続ですっかり忘れてたよ。ゴーガン、あたいの爺ちゃんがすまないね…。」
苦笑いのゴーガンの説明にオズワルドは同情し、ルルは申し訳なさそうに頭を下げた。
ルルの祖父ことロイド・フォンダグウェル男爵は、王都で最も有名な鍛冶職人だ。
同時に王都にあるダグウェル武具店を介し、武器防具の販売、素材の買取、受注や修理等を行う先達者でもある。
ランクはハイドワーフで(サルーンにはないが)鍛冶ギルドのマスターの職に就き、孫であるルルをかなり溺愛している。
その事から、3人共事情を知ったロイドが烈火の如く怒り狂う姿を想像し、堪らずと言った感じになったのだろう。
「それならば、私も一緒に王都へ参りましょう。」
「…!」
オズワルドがそう告げた事で、ダニエルは予想外とばかりに驚きの表情となる。
フォレストドラゴンは久しく見る存在。
今となっては希少価値がかなり上がり、それに比例して素材を王都まで運ぶ道のりも非常に危険度が高いものとなる。
従って、素材を買い取り、ゴーガンを護衛に付いて貰った今でも、危険を承知の上で素材を王都へ運びたいと名乗りを上げる者は誰もおらず、むしろギルド員同士で押し付け合う程だった。
だが、ここでルルが一緒に王都へ向かうとなれば話は変わる。
上手く行けばロイドと顔見知りになれ、ギルド内での地位が今よりも上がる場合もある。
それを見越してのオズワルドの発言であり、ダニエルは出し抜かれたと判断した様だ。
「私はそのまま商業ギルド本部とダグウェル武具店へ赴き、交渉を行おうかと思っております。」
この場合の交渉とは、フォレストドラゴンから出た素材、それと凛が商店で販売する予定の商品についてだ。
そこで凛から受け取った飲食物や魔道具を交渉の材料とするらしい。
「僕が言うのもなんだけど…副マスターである君が抜けても大丈夫なのかい?ユアン君は日々の書類で一杯一杯で、とても動ける状況ではないと聞いてるよ?まぁ、彼よりもオズワルド君の方が実力が上だし、(商業ギルド内で)影が薄いと言う噂は良く聞くけど。」
ユアンは商業ギルドのマスターを務めているのだが、その割に要領が悪く、ギルド内で真ん中位の実力しかない。
体型もメタボで頭が薄く、中々の汗っかき。
それでも街からの彼に対する評判は良く、また田舎にある商業ギルドの代表に就いてもとの理由から、誰もユアンを今の地位から下ろそうとはしていない。
「僕のカバーはダニエル君に任せますし、仮に仕事が溜まっていたとしてもその時頑張れば良いだけの話です。」
「成程。ダニエル君は優秀だね。流石、王都にいただけの事はある。」
「…恐縮です。」
ダニエルはそう言って深く頭を下げるのだが、この時1つの考えに思い至った。
凛はそんなゴーガン達から、少し離れた場所にいるワッズに視線を移す。
ワッズはルルと一緒に来ており、ひたすら飲食するルルと違い、会話に何度か混ざったりしていた。
「ワッズさん。こちら、新しいリストです。今日の散策の分も含まれてます。」
「ん?おう、ありがとな。…あー、分かっちゃいたが、色々増えてやがんな。」
ワッズは凛から渡されたリストを見やり、乾いた笑みを零す。
そこには、昨日以前や午前中に行った散策で倒した魔物に加え、午後からの分となるグレムリンやブラックタイガー、グレートボア、コンバットディア、グリフォンも含まれていた。
グレムリンはインプからの進化で金級、
ブラックタイガーは、虎位の大きさの黒い猫の魔物であるデビルキャットが進化し、金級上位となったもの。
グレートボアは同じく銅級のファングボアが銀級のビッグボアを経て金級上位に進化した魔物。
コンバットディアは銅級のビッグホーンディアが進化し、角と後ろ足が強化されて銀級上位に、
グリフォンは一緒にいたヒポグリフからの進化で、後ろ半分が馬から獅子に変化した魔銀級の魔物だ。
凛達は軽く話して解体場へ向かい、コンバットディア、グリフォン、キラースコーピオン、ソードドラゴン、スパルトイを1種類ずつ出す事となった。
因みに、ブラックタイガーは猫科の黒い魔物であって、地球みたいな海老の一種ではない。
それと、ベヒーモスはまだ解析中の為、ワッズに渡したリストには載せていなかったりする。
その後も試食・試飲会は続けられ、やがて終了の時刻となった。
「…以上で試食・試飲会を終了とさせて頂きます!尚、明日も試食・試飲会は開催致します!時間は午前8時から正午まで、それと本日と同じ午後1時から午後6時までとなっておりますので、奮ってご参加下さい!以上です、お疲れ様でした!」
凛のその声に、残念がったり不満を漏らす者もいたが、明日も食べれると分かり、歓喜する。
そしてもう用はないとばかりに、この場から離れる者が出始める。
他にも、地面に散乱するごみを見てはいるが、面倒に思ったらしく拾うまでにはいかない者、
黙ってごみを拾う者とで分かれた。
幸いと言うか、イベント会場近くに複数のごみ箱の設置した事で、大体の者達がそちらにごみを入れてくれていた。
凛はガイウス達を見送った後にごみ箱を無限収納へ収納。
美羽や(トーマスやニーナ達から片付けはこちらでやっておくと言われた)翡翠達やベータ達に、箒等の掃除道具や大きめのビニール袋を渡す。
すると、それまで1つ1つ手で掴む形でごみを集めていた人達が美羽達の下へ向かい、男女問わず顔を赤くしながら集めたごみを渡す様になった。
彼らからすれば、凛達クラスの美女・美少女を目にするのは初めて、或いは既に見た経験があったとしても遠目からだった。
それが接触する機会が出来たとなれば、例え狼狽えながらでも近付こうとするのは仕方ないと言える。
凛達はそれにきょとんとなり、しかしすぐにほっこりとした様子で彼らのごみを袋にいれ、その後も片付けを行った。
「ありがとうございました。こちら、手伝ってくれたお礼です。後で召し上がって下さい。」
15分程で片付けが終わり、凛達は片付けを手伝ってくれた1人1人に小さな袋に入ったクッキーを渡し、彼らを見送る。
そして美羽達や片付けを終えたトーマス達と共に、屋敷へと帰るのだった。
本日分の修正をするまで、商業ギルドのマスターの名前がユリウスである事をすっかり忘れてました。
後から出る彼と名前が被ってしまう為、こちらはユアンに変更してます。
それと、話にあったカレーの甘口はバー○ントの甘口、激辛はL○Eの20倍位の辛さだと思って頂ければ。




