54話
それから、凛は何回かシンシア達にシミュレーション訓練を行わせ、自分の下に集めた。
「…とりあえず、今の4人の強さは分かった。」
この言葉に、シンシア達は固唾を呑み、それを美羽達が見守る。
彼女達は既に適性を調べられ、火燐達の手で強さが底上げされている状態。
ただ、リリアナは現役冒険者で戦闘の経験があったものの、他の3人は素人より少しマシと言う程度だった。
それでもシンシアは兎の獣人で足腰が強靭、エラは魔法が得意とあって教えるのにそう苦労はしなかったのだが…ミラは違っていた。
魔法を使わせたら右に出る種族はいない、とまで言われるフェアリーなのに魔法があまり得意ではなかった。
むしろ物理攻撃…つまり力が強く、試しにゴブリンを出した際、真っ直ぐ顔面に突っ込んで殴り飛ばした程。
その脳筋っぷりな戦い方に凛達は唖然とし、妹であるエラはやっぱりかとの視線を彼女に向けていた。
魔物は強くなるに連れ、体もメートル単位で大きくなるものもそれなりにいる。
まさかその様な相手に30センチにも満たない者が剣や槍等で挑むのもとなり、ミラに対してはひたすらハンマーの扱い方を教える事に。
「あーーーはっはっは!楽しいねぃーー!」
そして、ハンマーの扱いとの事でドワーフのルルが呼ばれ、現在はお役御免とばかりに凛から離れた場所でハンマーを振り回している所だ。
そのハンマーはミラと同じ(ただし大きさと見た目は異なる)ミスリルとアダマンタイトの合金製。
彼女が良い笑顔で振り回す度にゴブリンやオーク、オーガと言った魔物が吹き飛び、或いはかち上げられ、叩き付けられる等して消滅。
シリアスな空気を見事にぶち壊しながら暴れ回るルルだが、まだまだ足りないらしく、次々に魔物を出現させては手当たり次第に倒していった。
「わきゃああぁぁぁぁぁぁぁ。」
それで調子に乗ったのか、はたまた勢いづいたのかは分からないが、魔銀級中位のハイトロールの次に呼び寄せたのが黒鉄級中位のオーガキングだった。
ルルはオーガキングに挑むもすぐに返り討ちに合い、バキッと音と共に吹き飛ばされ、その後をオーガキングが追って行く。
そして吹き飛ばされた勢いのまま壁に激突…はせず、マシュマロやスポンジの様に衝撃が吸収された後、プロレスでロープを使った時みたいにして戻された。
美羽達はまさか壁に跳ね返されるとは思わず、ルルも驚いた表情で壁がある方を見る。
しかしそうしている内にもオーガキングは迫り、ルルは慌てて体勢を整えて挑むも、後方へと吹き飛ばされる。
再び壁に跳ね返り、オーガキングはそこを見計らったかの様に、ラリアットを仕掛けた。
ラリアットはルルの鎖骨部分を中心に綺麗に決まり、「ぐぇぇぇぇぇ」との呻き声の後、その場に倒れ込んだ。
ルルは白目を剥いて体をピクピクと震わせ、とても戦える状況ではなくなった事で戦闘不能と見なされた様だ。
オーガキングは右手を上に掲げる形で勝利のポーズを取り、そのままゆっくりと消えていった。
そんな彼女達を全員が微妙な顔で見やり、凛は話を戻そうと咳払いをする。
「こほん。とにかく、これで4人共戦える様になったし、明日から宜しく頼むよ。」
『はい!』
元はシンシアが鉄級、ミラとエラは銅級、リリアナは銀級の強さだった。
そこに適性上昇や装備品等の効果が加わり、それぞれ2段階ずつ強さが増したと言える。
そして職業だが、シンシアは蹴りを中心とした蹴闘士、ミラはハンマーを使った戦士、エラは魔法をメインとした魔法使いに。
リリアナはリーリアみたく精霊の加護や協力を得てはいないが、それまでの剣とショートボウに魔法が加わった魔法戦士…と言う形で落ち着いた。
ただ、ミラは魔法を諦めた訳ではないらしく、しばらくしたらまた挑んでみるとの事。
「シンシアだけ強さが離れちゃってるけど、近い内…いや明日には同じ位になると思う。だから心配しなくても大丈夫だよ。」
「わ、分かりました!ありがとうございます…。」
他者を強くする為に与える魔素はまだまだ余裕が…と言うか、現在も領地の外を巡回中のアルファやティンダロスの猟犬達が次々に魔物を狩る影響で中々減らない。
むしろ、凛が持つ魔力自動回復の効果も相まって、無限収納内で増える一方だったりする。
説明の途中でその事に気付いた凛は苦笑いとなり、シンシアは少し不思議に思いつつ頭を下げた。
午後2時半過ぎ
「「「お待ちしておりました。」」」
凛が美羽を連れ、ポータルでサルーンの宿直室へと向かう。
そこでメイド服を着た銀髪の少女3人に迎えられ、頭を深く下げられた。
凛から見て左にいる少女は17歳、真ん中と右に立つ少女は15歳位で双子と言う様な見た目だ。
「「「マスター、ご命令を。」」」
「確かに昨日の帰り際に今頃来るとは伝えたけど、わざわざ出迎えに来なくても良かったのに…。」
「ベータちゃん、ガンマちゃん、デルタちゃん。お勤めご苦労様♪」
「「「美羽様、お疲れ様です。」」」
凛は困った笑みを、反対に美羽は満面の笑みでベータ、ガンマ、デルタと呼ばれる少女達へ話し、ベータ達は無表情のまま美羽にも頭を下げる。
彼女達はアルファの妹分で、それぞれベータ、ガンマ、デルタと言う名前だ。
先程ランドルフに渡したインフェルノドラゴンをベースに創り上げたエクスマキナで、昨日の昼過ぎに完成。
夕方手前に接客の勉強と言う名目で冒険者ギルド内にある酒場へ配属、本来であれば今も仕事中のはずだった。
「君達、いつまでもここに━━━」
「ここにいたか!」
不思議に思った凛がベータ達に尋ねようとした所でドアが開かれ、1人の男性が姿を現した。
その男性の名前はナザーロフ、ロマンスグレーの似合う酒場のマスターだ。
ナザーロフは普段、落ち着いた雰囲気で仕事をこなすのだが…今は何故か息を切らし、必死な様子なのが伺えた。
ナザーロフは息を整え、発言しようとして口を開き━━━
「あれ?ナーさんさん?」
「ナーさんさんは止めてくれ…。」
その前に凛の首を傾げながら出た言葉に力が抜け、がくっと肩を落とした。
昨日、冒険者ギルドに併設された酒場に、新しい酒類が置かれる事となった。
これはワッズを始めとした解体場の者達からの要望で、酒類はガイウス達が凛の屋敷で飲んだビールやウイスキー等に当たる。
ただ、凛は酒場を訪れる機会や経験が今までなかった為、ゴーガンを仲介役とし、彼に連れられる形での紹介となった。
「凛君、彼はナザーロフ。一見すると愛想がない様に見えるけど、ナザーロフ、ナザー、ナーさんって愛称で親しまれてるんだ。実は面倒見が良いしね。」
「…愛想がないは余計だ。」
ナザーロフは銅製のグラスを…それも光沢を放つ位に綺麗なのにひたすら磨いていた。
だが、ゴーガンから褒められて嬉しかったのだろう、磨く速度が増した。
「そう言う訳だから、凛君も呼びたい様に呼ぶと良い。」
「うーん…なら、ナーさんさんで。」
凛が少し考える素振りを見せて出た答えに、美羽は吹き出し、彼の後ろにいるベータ達を除いた全員がずっこけた。
「な、ナーさんさん…だと………?」
「…ホント、凛君と一緒にいると面白さが尽きないよ。」
「おいゴーガン、いくら何でもナーさんさんは酷くないか。」
「ダメ…ですか?」
「いや、ダメも何も、さんを続けて2回言う意味が分からん…。」
「違います。ナーさん、さんです。」
「…おい。」
「いや、そこで僕に振られても困るんだけど。」
と言った感じのやり取りが行わ、最後まで「ナーさんさん」以外の呼び方に変わる事はなかった。(その間、美羽は「マスターが天然過ぎる」と言いながら爆笑していた。)
「お前達、いつになったら戻るんだ。ツマミが来るのが遅いと客達が激怒しているぞ。」
凛はベータ達をナザーロフに預けた際、ガイウス達が飲んだ酒を客達に試飲させ、いくらまでなら出せるかのデータ取りを。
ベータ達へはこの世界になく、酒に合う様なツマミや料理を(アクティベーションで)出す様に頼んだ。
そして客達の状態が落ち着いたからこそ、ベータ達がここにいるのだろう思っていた。
だがそう言って戻ったナザーロフの言葉に、ベータ達が職務を放棄してこちらに来たのだと判断。
美羽と共に驚きを露にし、無表情のままのベータ達の手を掴む形で宿直室を出て行った。
「…今のは何だったんだろう。」
「あたしに言われても分からないよ。」
「あの子達、10分位ここにいたもんね。」
そう話すのは、酒場で働いているウエイトレス達だ。
彼女達3人にマスターのナザーロフを加えた計4人で回し、普段は夕方より少し前から夜までの勤務となる。
だが昨日から急に忙しくなった影響で朝から出勤し、客が中々引かないのもあって今頃の休憩。
そこへいきなりベータ達が来たと思ったら、何も言わずそのまま佇み始めた。
10分が経過し、ナザーロフだけでは流石に店を回せないのではと話した所で門の形をした置物が光り、凛達が到着したと言う流れとなる。
その後、凛と美羽は客達が出した注文を捌き、ベータ達へ勝手に酒場から離れないよう厳命。
冒険者ギルドを後にし、今度は商業ギルドにある会議室へ向け、早歩きで移動する。
凛達が会議室へ入ると、既に20人程が座っていた。
その中には、ガイウスやゴーガン、それと商業ギルド員のダニエル、商業副ギルド長のオズワルドの姿も含まれている。
ダニエルは昨日、凛と美羽が冒険者ギルドの向かい側にある物件を購入しに、商業ギルドを訪れた際。
商談を終え、凛達が早速物件を建て替えようと入口に向かった所へ、オズワルドがゴーガンに絡んで来た形でそれぞれと知り合った。
ゴーガンは話が長くなりそうとの事でその場から離れ、凛、美羽、ダニエルの3人は購入した建物へ向かい、ブレードサイクロンで粉々に粉砕。
その後土魔法を用い、左右で赴きの異なる建物を建てた事でダニエルを始めとした周囲の者達から感嘆の声が上がった。
凛は軽く手を挙げるガイウスとゴーガン、頭を下げるダニエルに頷きを返し、時間になるまで美羽と過ごす。
「…それでは、時間になりましたので始めさせて頂きます。」
午後3時になり、凛は30人にまで増えた人数の前に立ち、話をし始める。
その日の夕食後。
「エルマ、イルマ、篝、リーリア、玄、遥。新しい武具を渡すから、後で僕の部屋に来てくれる?」
「やった!」
「ありがとう凛さん…!」
「楽しみにしているよ!」
「ありがとぉ~♪」
「分かった!」
「私も!?嬉しい!」
エルマと遥はガッツポーズを、イルマは両手を重ねてお祈りをする様に、篝はキリッとしながらも尻尾をぶんぶんと揺らして、リーリアはほんわかとした笑顔で、玄は元気良く返事した。
「凛さん、来たよー。」
「お、お邪魔します…。」
しばらくして、エルマとイルマが最初に凛の部屋へやって来た。
凛は天使のイメージから、白神が着ていた白いワンピースドレスの事を思い出した。
そのワンピースドレスを膝丈まで短くした服、それと盾に収まった状態の剣をエルマへ渡す。
その剣は柄の部分と盾の表面に天使の翼をモチーフにした装飾を施しており、どちらも白を基調としている。
「この盾は鞘の役割もあって、剣がそのまま収納出来る様にしてある。それで、剣を収めるとそれぞれの翼が合わさって、4枚になるようデザインしてみたんだ。名前は…盾がハナ、剣がレイアで、合わせると僕の世界の言葉の1つで活発な天使って意味になる。エルマにピッタリな名前だと思ってね。」
「ちょっとそれ酷くない!?…でも嬉しい、ありがとう凛さん。」
エルマは軽く憤慨しつつ、すぐに笑顔でハナレイアを抱き締める形で受け取る。
イルマはエルマのワンピースドレスとお揃いのデザインを真っ黒にした物、それと先端に水晶を付け、水晶の下の部分に2対4枚の小さな蝙蝠の羽をあしらった黒い杖をイルマに渡す。
「イルマは悪魔なのに小動物みたいに可愛らしいでしょ?だからこの杖はリリィアクアって名前にした。リリィは小さい、アクアは神って意味だけど、悪魔みたいな存在もいたみたいでね。リリィアクアだと長いから、リリィで良いかも。」
「私が可愛らしい…?あああありがとうございます凛さん!」
イルマは顔を真っ赤にしながら2品を受け取り、足早に部屋を後にする。
これに凛とエルマは苦笑いとなり、エルマは改めてお礼を告げ、部屋から出て行った。
次に、篝がやって来た。
服は以前のがあるので、篝が来てから尋ねようと考え、先に武器を渡す事にした。
その武器だが、凛は刀に炎を纏わせる形で訓練を行っていた事を思い出し、鍔と鞘だけを黒、残りは朱色の刀だ。
「篝は刀に炎を纏わせていたから、この刀…炎刀・焔を渡すね。前に使っていたのよりも色々と扱いやすくなってるよ。服はどうする?」
「服は今のが気に入っているし、このままで充分だ。これからももっと頑張るからな!」
そう言って、刀を持っていない左手でぶんぶんと手を振り、凛も軽く手を振る形で応える。
「来ちゃったぁ~♪」
すると、入れ替わる様にしてリーリアが入って来た。
リーリアの弓は死滅の森に生える木を用い、枝を絡ませ、所々に葉っぱをあしらった物を。
それとリーリアは痩せているのに色々と肉付きが良い為、油断すると見えてしまう時がある。
なので凛はリーリアが普段着ている様な、若草色の衣装を少しだけゆったりさせたデザインの服と白いニーソックスを、セットでリーリアに渡す。
「リーリアさんは風の精霊と一緒にいるから、風や葉っぱって意味でリーフと名付けた弓を渡すね。防具は今着ているのと同じ様なデザインだけど防御力は上だよ。」
「嬉しいわ~、凛君ありがとぉ~♪」
リーリアは少し首を斜めに傾け、はんなりとしながら部屋を出る。
「あれ?玄と遥が来ない…。」
それからいくら待っても玄と遥の姿が見えなかった為、凛は一緒に寝泊まりする暁達の部屋へ向かった。
「凛様?こんな夜分遅くにどうされましたか?」
既に時刻は午後11時過ぎ。
暁が不思議に思うのも仕方ない時間と言える。
「夜遅くにごめんね?いくら待っても玄と遥が部屋に来なくてさ…。」
「ああ、先程武具を受け取りに来るよう仰ってましたね。ですが…。」
「寝ちゃってる、か。」
「はい…。我々が来た時からこの様な感じと申しますか…。」
暁と旭が部屋に来たのが午後9時頃。
その時から既に寝てしまっている状態だった。
「玄を起こしましょうか?」
「いや、大丈夫だよ。となると、遥も…。」
「恐らく、似たような状況かと。」
「だよね。それじゃ暁、悪いんだけど、これを明日にでも2人へ渡して貰える?」
「畏まりました。」
そう言って、暁は凛から玄達の武具を受け取り、この日は終わりを迎えるのだった。




