56話
視点はアルフォンス達へ。
サルーンに行き着く前。
正確には出発して20秒も満たぬ間に凛は空中で体を捻る等して体勢を整え、アルフォンスの後ろに乗馬。
と同時に美羽が真横の位置へ追い付き、アルフォンスは改めて凛と美羽の身体能力の高さに頬を引き攣らせた。
しかしそれが功を奏し、落ち着きを取り戻す切っ掛けにも繋がる。
然程時間を置かずして3人は南門へ到着。
門番達は一瞬警戒体勢に入るも、騎手がアルフォンス。
傍らに美羽が走るのが見え、構えを解く。
進路をクリアしたと捉えたアルフォンスが「このまま失礼するよ」と門を抜け、馬に乗ったまま街の中へ。
時刻が午前7時過ぎと早く、人もまばら。
おかげで速度を落とさず、駈歩のまま冒険者ギルドへ到達。(それでも時折見掛けた通行人は驚き、何事かと思った住民が窓を開けたりしていたが)
凛と美羽は「冒険者ギルド?」と言いたそうな表情で建物を見上げ、アルフォンスが中へ入って行くのが目に留まり、後を追う。
そして凛達が冒険者ギルドに入ると、受付カウンターの前に4人の男性。
彼らの様子を窺う形で、ガイウスやゴーガンを始めとした者達が立っているのが分かった。
4人は1対3の組み合わせで、1人の方こと商人風の男性は何やら得意げ。
しかしもう片方である3人。
内2人は身形が良く、残る1人は得意げな男性と同じ商人風の装い。
どう言う訳か、揃って━━━中には歯ぎしりまでして━━━相手の男性を睨んでいる。
凛達は不思議に思いつつ、まずはガイウスの元へ。
2人が来たと視認するや明らかに重圧から解放された表情に変わり、経緯を話し始める。
曰く、彼らはサルーンにある商業ギルド員と商国の商業ギルド員。
それとサルーンの隣(と言っても、いずれも数十キロ離れた地点)にある都市を治める領主の関係者で、いずれもそれなりに高い地位にいるとの事。
身形の良い男性2人が両隣の都市から来た使いの者で、2人の近くにいるのが商国の商業ギルド員。
そして得意げな表情を浮かべているのが、サルーンの商業ギルド員らしい。
事の発端は、昨日凛がオークキングの肉を受け取ってから2時間が経過した頃。
ワッズ達職人は初めて体験する、フォレストドラゴンの解体に気分が高揚。
定時を過ぎ、解体場から出た後もそれは変わらなかった。
その中の1人が、待ち合わせをしていた知人にご機嫌な理由を尋ねられ、余程自慢したかったのだろう。
ワッズから口止めされていたにも関わらず、フォレストドラゴンを解体している旨を伝え、知人が大声で叫んでしまう。
それが瞬く間に拡散し、フォレストドラゴンの噂が商業ギルド。
加えて、周辺からワイバーン急襲の噂の真偽を確かめに来た者達にまで波及。
周辺から来た者達は上の者へ伝えに急いで自分の国や都市へ戻る→夜中や深夜過ぎに帰途。
事情を説明した後、最速で代理の者を派遣。
代理の者達は門が開かれる6時より早くサルーンへ着き、開門と同時に冒険者ギルドへ向かうも…既に昨日の内にサルーンの商業ギルドが唾を付けている状態だった。
代理の者達はこれに激怒。
討伐者である凛が不在にも関わらず、フォレストドラゴンを購入する権利をこちらへ寄越すよう命令を下す。
だがサルーンの商業ギルド員は涼しい顔でこれを拒否。
再三警告しても聞き入れる素振りがない事から、いつ暴動に発展してもおかしくない状況に。
顛末を聞いたガイウスが冒険者ギルドに来てはみたものの、下手に仲裁をしたが故に誰かしらの顰蹙を買い、街に攻め入れられたり流通を止められる可能性が。
実際、来て早急に執り成そうとするも自分の領地(或いはギルド)を敵に回すつもりかと反論を食らい、黙って引き下がる事しか出来なかったのだそう。
いくらガイウスやゴーガンが魔銀級の腕前を持つ手練れだとしても、都市が相手では些か…いや、かなり分が悪い。
もし本当に流通を止められたりでもしたら、街に住む者達の生活がとの懸念から、少しでも早く凛が来てくれる事を願っていたと告げ、説明を終えた。
聞き終えた凛が苦渋の表情を浮かべていると、ワッズとうっかり情報を漏らしてしまった職人男性が来訪。
男性は当事者、ワッズは解体場の代表との立場で赴き、男性は顔面蒼白。
ワッズは非常に申し訳なさそうにしている。
「凛、無理矢理呼び出す形になっちまってすまねぇ…ったく、この馬鹿がやらかしたばかりに、よぉ!」
そう言って、ワッズは男性の頭をスパァァンと実に良い音を響かせて叩いた。
男性は動じず、泣きそうな声色で「本当にすみません…」と頭を深く下げる。
そして今度はワッズからの説明に入るのだが、どうやら彼も被害者の1人だった模様。
いつもならまだ寝ている時間に叩き起こされ、急いで(解体場に)来てみれば、複数の職人とは別に何故か商業ギルドの者まで。
ワッズはこう見えて妻や子供がおり、家族を大事にしている。
いつもの如く仕事から真っ直ぐ帰ったが為に、昨日の騒ぎを知らなかったとも。
そんなワッズが商業ギルドの者にここへ来た理由を尋ねたところ、「フォレストドラゴンがここに持ち込まれたと街中で噂になっている。本当にあるかどうかを確かめに来た」との返事が返り、衝撃のデカさによろめいてしまう。
しかしすぐ憤懣やる方ない面構えへ。
誰が漏らしたのかの追及を行うまでもなく、即犯人が分かった。
それから怒声混じりの説教が始まるのだが、そこへ制止を振り切った他の3人が解体場に押し入って来た。
解体途中のフォレストドラゴンを目撃した3人が心震わせるも、(ワッズが来るよりも前にいた)商業ギルド員が先に目を付けたから自分に購入権があると主張。
それを聞いた他の3人は商業ギルド員を非難するも、彼は早い者勝ちの一点張りで譲ろうとはしなかった。
そこから誰が購入するかで揉めに揉め、(解体の仕事を始めたいからを理由に)冒険者ギルドへ場所を移した後も言い争いは続く。
後から来た3人は何を言っても聞き入れて貰えないと諦め、今度はワッズやガイウスに商業ギルド員よりも高く買い取ると告げる。
フォレストドラゴンを討伐したのは自分達ではなく、討伐者の断りなしに勝手に決めるのもとなり、結局話が進まず困っていたのだそうだ。
「…ったく、本当に参っちまうぜ。折角(黒鉄級の魔物を解体する)機会が出来てやる気も増したってのに、この馬鹿がやらかしたせいでよぉ…本当にすまねぇ。」
「まあまあ。取り敢えず事情は理解しましたし、僕は全然気にしていません。今後も解体をお願いするのでご安心下さい。」
「おお!そうかそうか、そりゃ良かった!ありがとうな!」
今の今までの意気消沈から一転。
凛の言葉により気分を盛り返したワッズが呵々大笑する。
人心地ついた凛がワッズを見ていると、件男性4人が訝しんだ視線をこちらへ向けている事に気付く。
商国の商業ギルド員が彼女は誰かとガイウスに尋ね、フォレストドラゴン討伐者だとの返答に併せ、凛が軽く会釈。
すると途端に彼らの目の色が変わり、突如アピール合戦が開始。
少しでも好印象を与え、どうにかしてフォレストドラゴンを売って貰おうとの腹積もりらしい。
ガストン領ガストン子爵にスクルド領ジラルド伯爵、それと商国の商業ギルドからの遣いだと名乗った後、オークションみたく値段の釣り上げ込みで必死に説得。
まさかの事態にサルーンの商業ギルド員は焦った様子へ。
凛がお金には困っていないと答えた事で胸を撫で下ろし、代わりに3人が物凄く悔しそうな顔付きに。
ならばと、解体は済んでいるものの放置されていたオークキングを買い取りたいとの要望が。
しかもそれだけに飽き足らず、売れるだけの強い魔物が他にないかとの追及までされる始末。
彼らに肩を掴まれ、結構な力で揺さぶられながらどうしたものかと困る凛。
見兼ねたゴーガンから助け船が入り、あまりにも酷い様であればギルドから叩き出すとの言葉まで出してくれた。
3人はゴーガンに気圧されて距離を置くものの、やはり手ぶらでは帰れない。
転んでもただでは起きるつもりはない、とばかりに彼を睨み付ける。
「…ガイウス。確か…まだアレがあったよね?アレ。」
すると、横を向いたゴーガンがいきなりそんな事を口にする。
言われたガイウスは一瞬分からない顔をしたがすぐに視点を変え、
「…そうだったな。凛殿、アレを彼らに譲っても宜しいだろうか?」
凛にパス。
どうやら、ゴーガンは凛が空間収納持ちだと伏せると共に、敢えて明確にしない事で凛に選択肢を与え、同時に負担も減らすつもりでいるらしい。
彼らの意を汲んだ凛は、アレ?と呆ける4人を尻目に2つ返事で了承。
1度席を外し、少ししてから再び姿を見せた。
両手で持つ、ラグビーボール位の大きさの黒く光る鉱石と共に。
「それは…まさか!」
「はい、アダマンタイトです。」
『アダマンタイト!?』
4人が仰天。
先程までのはブラフの為、当然知らされていないガイウス達も危うく叫びそうになる。
それをどうにか飲み込み、開いた目でのアイコンタクトは笑顔で。
つまり肯定=本物であると言外に告げ、2人程天を仰いだ。
このアダマンタイトはアダマンタートルから…ではなく、死滅の森中層でのポータル回収時に見付けたもの。
ダメ元で凛がサーチを行い、発見した小さな鉱床から掘り出して固めた結果とも。
大きさに多少バラつきはあるものの、席を外した隙に計8個を解体場の隅に用意。
アダマンタイトはこれで以上にはなるが、情報自体は収集済み。
必要になれば後日改めて創ろう…との考えから、凛は全て放出を決めた。
話は戻り、案内された3人+αは積まれたアダマンタイトに驚愕。
無理もない。
これだけの量は数十年、下手すると百年を超える可能性が。
それ位珍しいとの表れでもある。
見えない様に布を被せてたから気付かなかったかもですね〜、なんて宣う凛に美羽以外の全員が色んな意味で戦慄→嘗てない程真剣に誰がどの位の量を買うかを論争。
サルーンの商業ギルド員も混ざりたそうにしていたが、にべもなく一喝。
オークキング込みでどうにかバランス良く分けるに落ち着いた。
その間に凛達は凛達で集合。
小声による口裏合わせを行っていた。
ついでに軽く責められもしたが、ごめんなさいと舌を出す彼にやられたのは言うまでもない。
そしてこれからについても協議。
今回の件で、現在凛達が住んでいるのは王国…つまり王国に所属していると公に捉えられた。
要は目を付けられてしまった。
可能であれば数ヶ月。
どんなに短くとも1ヶ月は持つだろうとの見通しは覆され、期間中に街の基盤云々を強固にするとの計画も崩れ去った。(計画はガイウスとゴーガンによるもので、後日凛と詳細を詰める予定だったらしい)
今後ガイウスにではなく凛本人に直接無理難題を突き付け、場合によっては有無を言わさずに強い魔物や貴重品を献上しろとの指令が来る恐れがとも告げられた。
これにゴーガンが頷き、住む場所を変えた方が良いかもと提案。
折角住民票を貰ったばかりなのに…と凛が残念がる場面も。
住む場所が変わっても関係が途切れる訳ではない。
穏やかな表情で告げるガイウスに、凛は複雑ながらも納得の意を示し、ひとまず話が纏まったとして解散。
ガイウスは執務室へ、ゴーガンは冒険者ギルドへ、凛と美羽は自分達の屋敷にそれぞれ向かう。
帰宅後、凛はリビングに皆を集め、サルーンで起きたエピソードを話した。
「…と言う訳で、住む場所をどの国にも属さない死滅の森に変えようと思う。その為には森を拓かなければいけないんだけど、適した場所に心当たりがって人はいるかな?」
凛からの質問を受け、火燐達は互いを見るも、目を瞑ったり、首を傾げたり左右に振る等するだけ。
誰も意見を述べる者はいなかった。
「…凛様、宜しいでしょうか?」
発言したのは暁。
瞑目し、沈黙を貫いた彼がゆっくり目を開けるや、視線を真っ直ぐ凛へ。
軽く驚いた素振りを見せつつ、話すよう促された。
「…! お、暁が意見するのは珍しいね?どうぞ。」
「ありがとうございます。候補…と言う程ではありませんが、オーガの集落は如何かと思いまして。ナビ様に確認しましたところ、ゴブリンキングがいた洞窟からそう遠くない位置に集落があるそうです。それに━━━」
「因縁があるから、でしょ?」
「…!やはり、お見通しでしたか。」
「うん。元々、候補地の1つとして僕も考えてはいたんだ。尤も、君達の集落を滅ぼしたゴブリンキングと無関係ではないだろう…との懸念から敢えて触れなかったし、誰からも提案がなければ黙るつもりでいた。」
『………。』
「暁はどうしたい?」
「どうしたい、とは?」
「出来れば、自分達だけで片を付けたいとか言い出すんじゃないかと思ってさ。」
その言葉に暁は押し黙る。
図星以外の何物でもなかった。
「復讐…いや、ゴブリンキングが勝手に先走っただけだから私怨に近いのかな?ただ、個人的には反対。復讐は何も生まないとの言葉があるように、悲しみや憎しみの連鎖が生まれる可能性があるからね。
とは言え、被害を受けたのも、感情を抱いたのも君達だ。何より、ここで泣き寝入りなんて出来ない。許されない立場に僕達はいる。管理者なのに管理されるとかあってはならないからね。まぁ、僕としては少しでもリスクを減らす為に皆で臨みたいんだけど…それだと納得しないでしょ?」
「はい。出来ましたら我々だけで…。」
「うん、分かってる。だから戦闘は任せるよ。でも危険だと判断したら、遠慮なく介入させ貰うからね?」
「勿論です!絶好の機会を与えて頂き、感謝致します!」
「紅葉達はどうする?」
「言われるまでなく。私達も、暁と一緒に参ります。」
「分かった。それじゃ時間も惜しいし、早速オーガの集落へ向かおうか。今から10分後、屋敷の前に集合ね。」
『はい!』
今後の方針が決まり、火燐達は準備目的にそれぞれ自室へ。
しかし凛と美羽は特に準備するものはない為、一足先に外へ出る。
10分後
屋敷の前に火燐達が集まるも、そこに凛達の姿はなかった。
代わりにいた、もとい設置されたのはポータル。
まさか…と思い始めた頃、向こう側から凛と美羽が姿を見せる。
この先がオーガの集落近くに繋がっていると伝え、先行する形で再びポータルを通る凛。
美羽達もそれに続くのだが、藍火と玄はポータルを見るのが初めて。
物珍しそうな目をそちらへ向ける隙にメンバーが次々いなくなり、何これ何これ!?と必死の形相で見て周る2人。
やがて彼女らだけになり、不安から手を繋ぐ、且つ慎重な足取りでポータルを潜って行くのだった。




