54話
数秒後。
我へ返った門番から案内を付けるかの申し出を凛達は断り、街の中へ。
道中注目の的になるのを自覚しつつ、敢えてスルーを決め込む内に冒険者ギルドへ到着。
解体場に入り、待ってたとばかりにワッズから声を掛けられ、彼との会話中にオークキングの肉が。
それも2キロ毎に分けられたものを計20個、わざわざ職人達が手ずから持って来てくれた。
曰く、やりがいのある仕事を提供した凛への感謝の表れらしく、全員が全員実に良い笑顔。
嬉しくなった凛は『これからも宜しく』との意味やお礼を込め、その内の1割である2個とファイティングチキン2羽を提供。
これをワッズ達は断ろうとするも、機会さえあれば補充可能と告げられ、気持ちだからと言われれば受け取らざるを得ない。
次々に感謝の言葉を述べながら握手を求め、応える凛を美羽は優しい眼差しで見詰めた。
ファイティングチキンは鉄級上位の魔物で、1メートル程の大きさの鶏っぽい見た目。
普通の鶏よりも発達した腕、それと足による格闘を中心とした戦い方を仕掛けて来る。
攻撃による威力や衝撃は中々のもので、単独を好み、群れても少数。
しかも目標とする相手にしか意識が向かない為、別な者が左右や背後に回って倒すが定石となっている。
尚、今しがた渡したファイティングチキン。
凛達が1度屋敷へ帰った際、残り100メートルとの距離で遭遇した者達だったりする。
藍火は碌に動けない為、戦力外。
代わりに美羽と紅葉が迎撃態勢に入るも、凛が自分1人で大丈夫だからと前に出た。
2羽のファイティングチキンは左右から羽を突き出し、蹴りを放つも悉くを凛の両手により簡単に捌かれ、コマを回すみたく空中で高速回転。
どちらも回転中に繰り出された凛の手刀で首の骨を折られ、口から泡を吹く形での最期となった。
因みに、ファイティングチキンが進化、150センチ程となったものがアキュートチキン。
アキュートチキンは金級に近い強さを所持、金級昇格試験に使われる事もしばしば。
本日の予定が全て済み、ワッズ達と談笑中にガイウスとゴーガンが合流。
更に話が弾み、30分程を解体場で時間を過ごしてギルドを出る。
そこから街の外へと向かうのだが…来た時よりも多くの人から見られている事に気付く。
凛が歩きながら耳を傾けてみたところ、風魔法を巧みに使って空を飛んだ、ガイウスのお気に入りらしい。
(見た目の良さから)どこかの令嬢だろうか?と言った内容がチラホラ。
内心苦笑いを浮かべつつ、特に危害を加えるとかではなさそうかな?との判断から、再度スルーが決定。
本日何度目かの南門に訪れた凛と美羽。
門番との挨拶もそこそこに体を浮かせ、自分の屋敷がある方へ飛んで帰った。
「…凛さんは他にも仲間がいるって話していたが…その内来たりしてな。しかも全員が飛べる様になったとか挨拶とか言って…。」
「止めてくれ!さっきの戦いもまるで本気じゃなかった凛さんの仲間?怖くて笑い話にすらならん。本当に連れて来たらどうすんだよ、対処どころの騒ぎじゃないぞ?」
「ははっ、悪い悪い。冗談だって。」
「冗談ねぇ…冗談で済めば良いが…。」
凛達がいなくなった後、半笑いで話す門番に、凛の相手をした方の門番がうんざりした面持ちに。
どうも楽観的と言うか、相方は本気で考えない節が見受けられる。
先程アルフォンスが先頭でやり取りを行った際、凛達の強さを伝えたにも関わらず軽く受け止め、笑いながら流す始末。
凛がワイバーン達と戦った時も、実際に目の当たりにしたのに凄いなー位しか感想を抱いていなかったり。
しかし、凛と相対した男性は違う。
どれ位いるのかは不明にせよ、凛の仲間が全て手練れ揃い。
大騒ぎになるのは必須、相方のあっけらかんとした態度に(別な意味で)危機感を覚える。
約4時間後の午後7時頃
「オークキングの肉が手に入ったので、今日の夕食はしゃぶしゃぶにしようと思いまーす!」
全員が揃うダイニングに凛の声が響き、拍手や歓声で以て応えられた。
ダイニングにあるテーブルが6つの内、3つを今回使用。
1つを凛、美羽、藍火、火燐が、
1つを雫、翡翠、楓、エルマ、イルマが、
最後の1つを紅葉、暁、旭、月夜、小夜、玄が囲む形で座る。
テーブルの中心にカセットコンロの様な見た目の、簡易式魔導コンロが設置。
その上に、しゃぶしゃぶ用の鍋が置かれているとの構図だ。
既に出汁用の昆布が水と共に用意され、鍋の両隣に肉や野菜の乗った皿もスタンバイ済み。
皆が皆目を輝かせ、その中に藍火。
それと少年の姿となった玄も含まれる。
玄は午後4時頃に、藍火は10分程前にそれぞれ目を覚ました。
藍火は名付けよって進化したものの、目覚めた際にドラゴンの姿に戻った…等と言う事はなく、見た目も特に変更はなし。
強いて述べるなら、髪色が少し濃くなり、より青に近付いた位だろうか
対して玄。
身長130センチと小柄、凛よりも少し短い黒髪となり、小学校高学年か中学生になりたてにしか見えない。
そして種族だが、玄が寝始めた頃に皆で話し合った結果。
実験も兼ねて悪魔族に進化させようとなり、(ナビの誘導もあって)下級悪魔へと進化。
藍火は多少寝ぼけてはいたものの、自力で地下室を出てリビングに向かう事が出来た。
しかし玄は幼いが故かパニックに陥り、泣き出してしまう。
ナビから報告を受け、何事かと思って来た凛を一目見るや、いきなり抱き着いて来た程。(勿論素っ裸で)
凛から頭を撫でられた玄は安堵の表情へ。
藍火が目覚めるまで時間が掛かるだろうとの予想から、先に入浴を済ませる事に。
いざ浴室に来たは良いものの、ここからが問題。
カメラが仕掛けられている訳でも何でもないのに、誰かしらが必ず突撃して来るからだ。
しかも、早ければ1分後位に。
何度も止めるよう伝えても聞き入れては貰えない。
ならばと自室で個別に設けるなんて話したら、逆に止められた。女性陣総出で。
これには不本意と言わざるを得ず、凛の口から「解せぬ」と漏れ出たのも仕方ないのかも知れない。
話は戻り、今日こそはとの想いを抱いた凛が玄の手を引きながらきょろきょろと探り、誰もいないリビングを抜け、浴室へ。
そして手早く、且つ丁寧に玄の体を洗っていると、案の定突撃する者が。
「マスター来たよー!」
「来たよー…って誰?」
美羽と翡翠だった。
バスタオル姿の2人に驚いた玄が凛の影に隠れ、ひょこっと顔を覗かせれば何故か凛が困惑気味。
「マスターが体を洗ってると言う事は…もしかして玄君?」
「うん、そうだよ美羽お姉ちゃん!」
「お、お姉ちゃん?美羽ちゃん、玄君にお姉ちゃんて言わせてたの?」
「少しでも玄君が気を遣わない様に済むって意味でね…それにしても玄君、見た目に似合わず中々のものをお持ちですなぁ~。」
「…美羽ちゃん。乙女としてその発言はどうかと思うんだけど…。」
玄のとある部分を見てほほうと感心する美羽に、翡翠がドン引き。
出来ればスルーないし口に出して欲しくなかった凛も、更に微妙な反応へ。
コレが凛が人目を忍び、困った理由。
玄は小柄な体型なのに相反し、一部分だけが中々に凶悪。
ウチは女性が大半を占め、混乱を避けたいとの想いが軽く無駄になった瞬間だった。
余談ではあるが、凛は玄以上。
純粋に男らしさを象徴したいが為か。
将又里香によって成長が無理矢理止められ、他に向かい先がなかったからかは不明。
ともあれ(今は排除しているが)神界で修行を行った際、不慣れな美羽に風呂の使い方を詳しく教え、その時に腰に巻いたタオルが外れたのを未だ覚えていたらしい。
今度は違う理由で凛を困らせた。
そんなこんなで無事に全員で夕食の時間を迎え、火燐と藍火は今すぐにでも食べたそうにする。
「…この様に、肉を鍋の中に通し、ここまで白くなったら食べ頃になります。肉への味付けとして、今回はポン酢とごまだれの2種類を用意しました。さっぱりと食べたいならポン酢、濃い味がお好みならごまだれと言う感じでお願いします。」
説明を行いつつ、薄切り肉を昆布出汁が入った鍋の中へ何度か潜らせ、食べ頃になった肉を持ち上げて見せる凛。
近くにある小さな皿を左手で指し示し、ポン酢が入った皿の上にオークキングの肉を乗せ、箸置きに箸を置いてから両手を合わせた。
「それでは頂きます。」
『頂きます。』
「「「(頂きます。)」」」
挨拶が済むや否や、皆一斉に動き出す。
「うんまっ!柔らかいのに肉の味がしっかりとしててたまんねぇ!…ご飯とも良く合うしよ!」
火燐は手当たり次第に肉を鍋の中に入れ、食べ頃になるのを見計らってはポン酢やごまだれに付けて食べていた。
ご飯は茶碗ではなく丼、更に山盛りも山盛り。
ただ食べる速度が尋常でなく、見る見る内にその量が減っていく。
「全くっす!主様に付いて来て正解だったっす!」
火燐より少しペースは劣るものの、藍火も(フォークにしては)中々の早さで肉とご飯を食べ進め、
「はい、玄。」
「(食べて食べて。)」
「~♪」
玄は可愛がられる末っ子ポジション宜しく、自身の両側に座る紅葉と小夜から交互に食べさせて貰っていた。
他の者達も肉を野菜で巻いたり、タレの食べ比べをしたり、潜らせた野菜を食べる等してしゃぶしゃぶを堪能。
凛と美羽は箸の使い方を皆に何度か教えてはいるが、一部の者。
特にオーガ組である旭、月夜、小夜が使いにくそうにしていた。
なので本日仲間になった藍火と同じ、フォークでの食事となっている。(本人達は不服そうだが)
その後も凛達は食事を楽しみ、1日を終える。
しかし、翌日にちょっとした騒動に巻き込まれるとは、この時の凛は想像すらしていなかった。




