53話
屋敷の地下室にて
2人が用意した部屋は高さ5メートル、縦横50メートル程の広さ。
それと四方全てが真っ白で構成されていた。
「わー、真っ白ー!」
「訓練で使う時の部屋みたいな感じだね!」
凛と美羽の次に地下室へ入ったエルマとイルマによる、前を歩きつつ周りを見渡しながらでの感想。
そんな彼女らの後ろに雫達が続き、感心したり興味津々な様相で室内を見回している。
やがて小夜が入ったを最後に、10秒が経った頃。
藍火をお姫様抱っこで抱え、如何にも不満ありげな表情の火燐がやって来た。
「あ、火燐。藍火を運んでくれたんだね。ありがとう。」
「ん?…おう。」
しかし愚痴るより早く凛からお礼を述べられ、恥ずかしさを覚えた彼女がそっぽを向く。
耳は赤く、それが照れ隠しだと誰の目にも明らかだった。
「あー!火燐ちゃんがデレた♪」
「ん。デレた。」
「デレたねー!」
「デレましたね…。」
美羽が右手を口元へ当てて嬉しそうにし、雫、翡翠、楓が同意。
「お前ら!デレたデレたうっせーぞ!」
これに頭に来たのは火燐。
藍火を抱き抱えたまま美羽達の方を向き、思いっ切り地団駄を踏む。
凛達はそんな5人(+藍火)を見てほっこりし、温かい視線を向ける。
「つかよー、皆してヒデーじゃねぇか!こんな状態の藍火をほったらかしにしてよぉ!」
その後もデレたデレてないとの問答が行われ、先に火燐が焦れてしまったらしい。
話題を変えるのも兼ね、未だ抱き抱えたままの藍火を前に突き出した。
「うへへ~、もう食べられないっすってば〜。」
当の本人は相変わらず涎を垂らしそうな安心しきった顔で寝ており、終いには寝言まで。
タイミングが悪いとしか言いようがなかった。
おかげ(?)で火燐がピシッと固まり、笑顔を浮かべながらゆっくり彼女を上へ。
そのまま床に叩き付けるのでは…と逸早く気付いた凛が下から両腕を支え、続けて火燐の後ろに回り込んだ美羽が羽交い締めに。
「ダメ、ダメだからね火燐!」
「ふんぐぐぐぐぐ…離せ!離せ2人共!オレは!コイツを!」
「ただ寝てるだけじゃない!寝言はちょっとアレだけど!確かにアレだけどー!」
藍火を落とさんとする火燐VS阻止したい凛&美羽によるバトルが勃発。
前者が必死、後者は余力はあるものの中々に気を遣うとの謎の構図に。
呑気なのは藍火位。
残る面々はハラハラだったり呆れの目を向ける中、雫が動いた。
「藍火は貴方直属の部下。」
「…!そりゃそうだけどよ、藍火はこれから━━━」
「それに、実は火燐が面倒見が良いと私達は知っている。だから(藍火を)貴方に任せた。」
「…そうかよ。」
済まし顔の雫に火燐は苛立ちを含ませたジト目で見るも、初めて褒められたとの嬉しさが徐々に込み上げて来たのだろう。
皆からも頷く形で同意を示され、素っ気ない口振りで視点をズラす彼女。
恥ずかしさの限界を迎え、明後日の方を向いたのが誰の目から見てもバレバレ。
笑いが起き、最初こそフンッと面白くなさそうにしていた火燐も次第に口元が緩み、結局は笑うとの結果に。
ややあって、もう大丈夫と判断したのか、徐に歩き出す凛。
ただ、進行方向は部屋の中心…からやや右の位置。
向けられる不思議そうな視線を他所に停止した凛が無限収納から取り出すは、キングサイズよりも2回り位大きい布団。
バサッとの音と共に敷き、そこでようやく得心がいった様子に。
続けて反対側。
(火燐達から見て)左へ幾らか進んだ辺りで同様に布団を敷き、戻って来た。
凛曰く、この部屋は元が8畳近い広さだった事。
時間の流れが部屋の中と外では異なり、外での1分が部屋の中だと2分…つまり、名付けや進化に掛かる時間が半分で済むとの説明をされる。
そのあまりの内容に皆へ衝撃が走り、それは火燐も同じだった。
火燐は驚いた弾みで(体勢を戻したばかりの)藍火を床に落としてしまい、美羽の指摘で我に返る。
急ぎ藍火へ視線を移し、丁度眉間に皺を寄せる場面に遭遇するも…そう経たずして安らかな表情へ戻った。
これに1行は安堵。
やんわりと注意を受けた火燐が藍火を抱き直す。
凛はそんな火燐を苦笑いで眺めた後、2人を寝かせるよう指示。
火燐が藍火を、暁が玄をそれぞれ布団の上に下ろし、凛と美羽は無限収納から取り出した大きめな毛布を2人に掛ける。
「これで後は藍火と玄が落ち着くのを待つだけだね。」
「なぁ凛。本当にこの部屋だけ時間の流れが違うのか?」
「うん。どうしても気になるなら━━━」
「いや、大丈夫だ。ただ聞いてみたかっただけで深い意味はねぇよ。」
「そう?あ、そうだ。この部屋についてだけど、間に合わせで用意したから衝撃に強いとは言えない造りなんだ。なので出来れば魔法とか威力の高いものの練習は控えて貰うと助かるかも。」
「ああ、分かった。」
凛と火燐のやり取りに皆が首肯した直後。
くぅぅぅぅ…と、可愛らしい音が聞こえた。
発生源はイルマ。
まさかこのタイミングで鳴るとは思わず、恥ずかしそうに腹部を押さえている。
これにクスリと零す、或いは吹き出す等して笑いが起き、しばらく続いた。
イルマは羞恥で縮こまってしまい、凛が遅めの昼食にしようかと述べ、彼女へ手を差し出す。
イルマは一瞬躊躇うも、折角のチャンス…女は度胸!とばかりに彼の手を取り、引かれる形で歩き出す。
その後ろを、ニコニコ顔の美羽達が付いて行った。
リビングに戻り、凛が何が食べたいかを皆に質問。
決め兼ねる火燐達へ、美羽がサルーンでチャーハンや海鮮あんかけチャーハンを振る舞ったと補足。
味を思い出し、満場一致で海鮮あんかけチャーハンが食べたいとなった。
全員で海鮮あんかけチャーハンを堪能した後、凛はデザートとしてショートケーキやパンケーキ、どら焼き、苺大福。
それと楕円状で一口大のチョコレートを用意。
パンケーキとどら焼きは既に食べた経験があり、ショートケーキはパンケーキと似ているとの認識(どちらも名前にケーキが付くが根拠)から、瞬く間になくなった。
しかし今回初めて見る苺大福は、その大きさや表面に付く白い粉から。
同じく初となるチョコレートは、黒っぽい色と形が美味しそうに見えないを理由に、双方不人気だった。
凛はテーブルの上にあったフォークで苺大福を切り、断面を皆の方へ。
苺大福の大福は、普段食べてるのとは違うお米を使用し、緑茶と相性が良い。
反対の手でチョコレートを掴み、パンケーキやホットケーキのソースに使われた茶色いものの味だと説明し、口の中へ。
火燐達は白い膜の中にソース等の柔らかいものが入っていると思い込んでおり、1口で食べ切らなければ(中身が零れたりして)色々と悲惨な目に遭うと考えていた。
そしてチョコレート。
当時は争奪戦による早い者勝ち。
加えて何でも美味しく感じており、塊ではなくソースだった為に気付かなかった。
凛からの説明を経て恐る恐る食べ始め、その甘酸っぱさや甘さに驚愕。
彼の予想通り、取り合いへと発展した。
当然ながらすぐに皿は空っぽ。
期待の眼差しが注がれた凛は微苦笑を浮かべる。
以降、何回かデザートのお代わりを行いつつ、今日起きた出来事について話し合う。
あっという間に1時間が経過し、それに気付いた凛が片付けに入る。
他の者達も協力もあってか、短時間で終える事が出来た。
夕方手前
「それじゃ、良い時間になったし、僕は街へオークキングの肉を受け取りに行ってくるよ。」
そう言って、ダイニングテーブルの席を立った凛が入口に向かう。
「あ、マスター待ってー!ボクも行くー!」
彼の後ろを美羽が慌てて追い掛け、玄関へ繋がるドアへ着く頃には合流。
揃ってリビングを後にする。
「忙しい奴らだなぁ…。」
「ふふっ、そうだね。」
凛達がいなくなった後、ソファーで寛ぐ火燐はやれやれと言った表情で。
翡翠はくすくすと笑い、リビング中に伝播する。
屋敷を出るや跳躍した凛達は、そのまま飛行で移動。
サルーンから50メートル程手前の位置で着地、門まで歩いて進む。
サルーンの南門には10人程が並び、内7人が冒険者パーティー━━━3人パーティーと4人パーティーの組み合わせ━━━と思しき者達で構成。
他の3名を含めた全員が正面を向いていたからか、背後へ降り立った凛達には気付かず終い。
代わりに門番達(先刻と同じ面子)が酷く驚き、周りから不思議がられはしたものの割とすぐ凛と美羽の番に。
「凛殿は先程拝見したので知ってはいましたが…美羽殿も飛べたのですね。もしや紅葉殿も…。」
「あ、いえ。紅葉はまだです。ワイバーンだった子は飛べたかも知れませんが、まずは歩く練習をさせたかったので…。」
「ソウデスカ…。」
門番は凛の答えにより苦笑いから微妙な顔へ。
しかも片言での返事となった。
どうやら彼の中の危険信号より下された指令により、思考そのものを放棄したらしい。
「あ、それと他にも仲間がいますが…比率的に、飛べる子と飛べない子は半々位ですね。」
『………。』
そこへ更なる追撃。
ふと思い出した表情で話す凛に、警備や成り行きを観察していた者達は信じがたい様な。
疑わしい様な、羨ましい様な、何とも言えない視線を向けるのだった。
凛が用意したチョコレートですが、有名メーカーのアー◯ンドチョコレートみたいな形と大きさだと思って頂ければ。




