45話
「言われてみれば、少し腹が減った気がするな…まぁ、私達に内緒で誰かさん達だけが美味しい思いをしたのも関係あるやも知れぬが。」
視線を落とし、左手で軽く腹部を擦った後、ガイウスはとある方向を睨み付ける。
しかしアルフォンス側からすれば慣れたもの。
ガイウスの動きに併せて明後日を向き、誤魔化す様にして口笛を吹く。
「此奴め…」と青筋を立てるガイウスを物ともせず、この場をやり過ごす気満々なのが有り有りと窺えた。
凛は上手く話を逸らせた事に安堵。
ただし満足はせず、一気に畳み掛けるつもりで口を開く。
「でしたら、僕が昼食をご用意致します。是非皆さんで召し上がって下さい。」
そう言って、無限収納から少し深めの皿に乗った状態のチャーハン。
それと、食べる為のレンゲ等を取り出す彼。
如何にも出来立て…と言わんばかりに主張するチャーハンは1人前の量で盛られ、綺麗な半円球状で整形。
それらをテーブルの上に置き、先程と同様サルーン側と凛側で分かれて座る。
ワイバーンの女性は凛側におり、メイド達+αは(テーブルに座るのは憚れるを理由に)深皿+受け皿を所持しているとの状態だ。
ついでに、何故か美羽の分だけネギがてんこ盛りに。
その量たるや、メインであるはずのチャーハンよりも多く、ちょっとしたタワーとも。
目を輝かせる本人とは裏腹に、その見た目から皆の注目を集めていたのが印象的。
やがて作業が終了。
美羽、紅葉、アルフォンスの3人がチャーハンを目の前にして笑顔を浮かべる一方。
ガイウス達やワイバーンの女性は、揃って不思議そうにしていた。
「凛殿、すまないが…これは食べ物なのか?食欲をそそる良い香りはするのだが…。」
「この世界って、『お米』を食べる習慣がないそうですね。」
『お米?』
凛が着席するや質問したガイウスを始め、アルフォンスやワイバーンの女性、(凛達を除く)他の面々が不思議そうにする。
「はい。この茶色く色付けされた粒状の物体。元は白い色をした米と呼ばれるものでして、僕達の世界では主食の1つになります。勿論小麦もありますが、僕はお米の方が好きですね。
こちらはそのお米に卵、ネギ、豚肉等を混ぜて炒め…掻き混ぜながら焼いて作った料理、チャーハンと申します。」
そう説明を受け、ガイウスは手にしたレンゲでチャーハンを掬ってみる。
レンゲごと持ち上げ、収まり切らなかった粒が幾つか零れるのを目の当たりにした為か「ん?」との呟きと共に全て戻す。
その後掬っては戻すを何度か繰り返し、「お米か…掻き混ぜながら焼くとこの様な感じになる、のか?謎の多い食べ物なのだな…?」等と言いながら、まじまじとチャーハンを見やる。
『………。』
そんな彼を、アルフォンス以外の警備の男性達。
それとメイドが息を殺して注視。
彼らは未知なる存在ことチャーハン(若しくは料理とのワード)が気になる。
凛と紅葉は見守るとの意味で視線をそちらへ。
美羽は既に知っているから。
アルフォンスは絶対に美味しいに違いないとの確信を元に、早く食べたくて2人はウズウズ。
ワイバーンの女性も同様にウズウズ…ではなく、その芳しい香りに涎をだらだらと流す。
「チャーハンは冷めても全然食べられますが、温かい方がより美味しく感じられますよ。遠慮されてるみたいですし、先に僕達から食べさせて頂きますね。それでは、頂きます。」
やがて、自分達が先に食べる事で安心感や手本に繋がると考えた凛は。
自身の顔の前で手を合わせ、美羽と紅葉も「頂きまーす♪」「頂きます」と彼に倣う。
『?』
こうしてチャーハンを食べ始めた凛達。
「ん〜♪」と嬉しそうな反応を示す美羽とは対照的に、凛と紅葉は静かに。
且つ、手を添える等して上品に喫する。
だが彼ら以外の面々は初めて見る食べ物、及び所作に理解が追い付かず、大半が目をパチパチ。
残りは呆気に取られ、しかしアルフォンスだけが冷静だった。
彼は視点を凛達からガイウスに移し、未だ固まるばかりで食べようとしない姿にヤキモキ。
何とか我慢しようとするも、そう時間が経たずして限界を迎え、凛達に倣ってチャーハンをレンゲで掬い、大きく口を開ける。
その様子を、ガイウス達は固唾を呑みながら。
凛達が笑顔で眺めていると、何回かの咀嚼の後にアルフォンスの動きがピタリと停止。
これをガイウスが不思議に感じ、何事かと尋ねようと思った瞬間。
アルフォンスは左手で皿をがっと掴み、物凄い勢いでチャーハンを食べ始めた。
ガイウス達はポカーンとし、やがて手を震わせながらチャーハンを1口。
想像したよりも遥かに美味しい。
それを体現するかの如く、レンゲを咥えた状態で彼らもフリーズ。
10秒近くが経ってからようやく再起動。
目を見開きながら咀嚼を行い、かと思えばやはり勢い良くチャーハンを食べ進めていく。
「これ程までに美味い食べ物があったとはな…。」
チャーハンを食べ終えたガイウスが1言。
その表情は見るからにリラックスしたものであり、感動や余韻に浸りまくっていた。
それはアルフォンス達や女性も同じ考えで、満足そうな様子でこくこくと頷いてみせる。
因みに、女性は人間となって以降、初めての食事。
当然テーブルマナー等知る由もなく、しかし今回は幸い(?)にしてレンゲで掬いながら食べると言うもの。
彼女なりに頑張ってはみたが、それでも上手く食べる事は叶わなかった様だ。
口の回りに付いていたり、皿から零れたチャーハンがズボンや床の上にポロポロと落ちていた。
ただ当の本人は全く気付いておらず、ただただまったりするだけ。
苦笑いの美羽が女性の口周りを拭き、紅葉はメイドへ謝る羽目に。
「因みに…まだ食べれるよって方います?」
その光景を凛が微苦笑で眺めた後、笑顔に切り替えての発言に美羽が仰天。
「マスター、まさか…まさかあれをやっちゃうの!?ダメだよ、皆戻れなくなっちゃう!!」
作業の手を止め、主のやろうとする事も止めようとし、しかしながら軽くにやりと笑った凛によって制される。
((((あれって何だ!?))))
(あれって何っすか!?)
そんな2人のやり取りに、ガイウス達は揃って戦慄。
紅葉は優しく微笑み、唯一アルフォンスだけが期待を込めた眼差しを凛に送っていた。
その本人はと言うと。
無限収納からナニカを取り出し、再びテーブルの上へ。
身構えたガイウス達は警戒し、どんな危ないものが出るのかと身構えるも、出されたのが先程と同じチャーハンだった為か「ん?」と固まる。
「次に提供しますは…こちら。」
続けて、凛は白い丼の様な器。
反対の手でお玉を取り出し、皆の注目を集める。
彼が持つ器には、冷凍のシーフードミックス。
小ぶりの海老、帆立、いかの切り身をメインに、解した蟹の身を追加。
それらを中華スープで味付けして旨みを出し、片栗粉でとろみをつけた海鮮あんが入っている。
その海鮮あんをお玉で掬い、チャーハンへ掛ける事で海鮮あんかけチャーハンへと昇華。
心の中でお上がりよ、なんてね。
実際には「どうぞ…」と言って、凛は海鮮あんかけチャーハンをガイウスの目の前にやり、彼らが固まっている内にアルフォンス達の分も準備。
サルーンの面々は始めこそなんて事をしてくれたんだ…!とばかりに苦い表情となったものの、次の瞬間には乗せられたあん。
付け加えるならば数々の海鮮物の存在に目を輝かせる。
ここサルーンは内陸部に位置。
川ですら数十キロは離れたところにあり、魚介類の入手は困難。
それが海産物ともなると更に難易度は増し、下手すると一生目に出来ない者も。
アルフォンスもその1人で、瞠目する彼に届けられる、美羽が漏らした「あーやっぱり『海鮮』あんかけチャーハンだった」との言葉。
やはり…との想いを抱きつつ、希少品である海鮮あんかけチャーハン。
目の前に鎮座し、海産物がふんだんに使われたそれに全神経が注がれ、生唾を飲む。
そこそこお腹が膨れたはずなのに、体がこの料理を欲している。しかも全力で。
心裡で断言した彼は緊張した面持ちで両腕を伸ばし、皿ごと海鮮あんかけチャーハンを持ち上げる。
「こ…こんな…あまりにも贅沢で美味しそうな食べ物…食べない方がどうかしてる。俺はこのチャーハンも食べるぞ!!」
アルフォンスは海鮮あんかけチャーハンを掬い、意を決した顔で口の中へ。
「美味い…しかも、食べれば食べる程幸せに…まるで夢でも見ている気分に…!なんと罪深い料理か…!」
先程のチャーハンよりも美味しそう…と言うか、食べ進める毎に至福の表情と必死な形相を交互に浮かべ、何故か忙しそうな彼。
『凛殿(様)!私にも!』
「主様!自分も!自分も食べたいっす!」
それに触発されてしまったのだろう。
サルーンサイドが漏れなく立候補→凛から渡された順に食べ始め、全員が感動。
「やっぱりこうなっちゃうよねぇ…この世界で一番マスターの料理に慣れてるボク達でも、このコンボはダメだもん。」
「ですね…。」
具材から出る旨味に、あんのベースとなる中華風出汁。
それらの相乗効果にガイウス達が抗えるはずもなく、まるで親の仇を前にしているかの如き形相で挑む、海鮮あんかけチャーハン。
結果は火を見るより明らかで、誰1人例外なく食事に夢中。
美羽と紅葉は苦笑いを浮かべ、凛共々彼らが落ち着くまで見守るのだった。




