46話
海鮮あんかけチャーハンも食べ終えたガイウス達は、先程よりも更に至福な。
それこそ溶けているのではと錯覚しそうな位、全員が緩み切った表情に。
それはガイウスも例外ではなく、初顔合わせ時の厳格な雰囲気はどこかへと飛んで行った模様。
もうゆるっゆるだった。
「(はっ!いかんいかん、あまりにも美味くて浮かれておったわ。)…凛殿、昼食を用意して頂き、感謝する。誠、美味であった。」
しかし、流石は元冒険者で街長。
いの一番で我へ返り、(椅子に座ったままではあるが)迷いなく凛に頭を下げた。
それを見たアルフォンス達も冷静さを取り戻し、軽く慌てた様子でガイウスに続く。
「どう致しまして。ただ、今の海鮮あんかけチャーハンも、僕からしたら『普通』の美味しさなんですよ。」
「何と…!これ程のものがか!」
苦笑いで話す凛に、ガイウスは信じられないとばかりに目を大きく開き、アルフォンス達。
それと美羽と紅葉までもが「えっ」と驚いてみせる。
日本にいた頃、凛こと八月朔日家は里香プロデュースの元。
年に数回の頻度で某有名ホテル(帝◯等)の豪華ディナーだったり、海の幸山の幸を現地で味わったとの経験を持つ。
食に対するレベルが高い日本に生まれ、里香のおかげで肥えた舌を所持するに至った八月朔日家。
里香がいなくなるまでは(少し良い食材を使うとの意味で)プチ贅沢を送る…なんて事も多々。
長期休みに併せての海外旅行もそこに含まれる。
故に『普通』では満足出来ず、更なる高みを凛は望む。
「チャーハンに使ったお米を始め、使用した材料は一定の品質のものまでしか出せませんからね。なのでこれ以上を求めるのであれば、自分で育てるしかないのかなと思ったりもします。」
「成程。それが凛殿の能力の1つであり、この世界の住人でないとする所以なのだな?我らからすれば羨ましい限りだが…。」
「ええ。ガイウスさんの仰る通り、便利ではあるんですけどね…僕個人としては全然現状に満足していません。まだまだ上を目指したいですし、皆で分かち合いたいとも思っています。」
「成程…彼の地を所望するのはそれが理由か。」
「はい。家の近くで色々育ててみようかなと。」
「相分かった。許可を出そう。他ならぬ、街を救った英雄殿なのだからな。」
「ありがとうございま…英雄?」
椅子から立ち上がった凛がガイウスへ深くお辞儀をしようとするも、途中で停止。
気付いた様にして頭を上げ、ガイウスから「気にするな」と返されただけで終了。
これ以上語る気はない様だ。
「今以外に、何か申し出はあるか?」
「んー…取り敢えず今のところはないですね。後は実際に街を見て、何か思い付く事があればと言った感じでしょうか。」
軽く考える素振りを見せるも、特に何かある訳ではなかったからかガイウスはどこか残念そうに「そうか」とだけ。
「しかし…重ねて問うが、本当に冒険者へならなくて良いのか?買い取り額が半分に減ってしまうのだぞ?あれだけ立派な屋敷だ。維持費も相当なものだと思うが…。」
「あ、お金の事でしたらご心配なさらず。あの家は僕が魔法を応用して建てただけなので、費用は一切掛かってないんですよ。」
「は…?いやいきなり建ったのはそれが理由…と言うか、魔法であれ程の大きさの屋敷が用意出来るもの…なのか?」
「他は分かりませんが、僕からは出来るとしか。それと先程の料理でお分かり頂けたと思いますが、大抵のものは魔法で創り出せます。家具とか食器とか…あ、今着ている服もそうですね。なので僕自身、あまりお金が必要だとは思わなかったり。」
凛はあははーなんて笑っているが、ガイウス達は違う。
魔力さえあれば衣食住全てが賄えるなんて能力、見た事も聞いた事もないからだ。
これまでの常識を引っ繰り返すとの事態に唖然とし、凛はそんな彼らを他所に何か思い出した顔付きに。
「あ、でも。フォレストドラゴンの肉は興味あるので、食べられる部分は譲って頂けるとありがたいです。他の素材を売却して出たお金は、この街の発展にでも当てて貰えれば十分かと。」
「…私は魔法に詳しくないから何とも言えんが、変わった使い方もあるものなのだな。」
「あー、恐らく僕が少し特別なだけなので、余り参考にしない方が良いかもです…えっと、話を戻しますがフォレストドラゴンはどこに出しましょうか?大きさが大きさですし、庭等の広い場所の方が向いてると思います。」
「そうか…ならば解体も兼ね、ギルドの解体所にでも向かうか。」
「ギルド?分かりました?」
可愛らしく首を傾げる凛。
これからの行動が決まっただけでなく、凛の行動に軽くやられそうになったガイウス。
それを取り繕う形で、彼から案内役の警備の男性に視線をシフト。
「今更だが、案内ご苦労。後はアルフォンス達が引き継ぐ。お前は持ち場に戻って良いぞ。」
「はっ、分かりました。」
指示を受け、男性は右の拳を胸の前へ運ぶ仕草を取り、その場を後にした。
何をどうすればそうなったのか、首筋に米粒を1つだけ付けた状態で…。
「…さて、それでは皆で冒険者ギルドに向かうとするか。アルフォンス、先頭を頼むぞ。」
「はっ。」
「凛殿達は私の後ろに付いて来てくれ。」
「分かりました。」
警備が部屋からいなくなった(ついでに米粒は見なかった事にした)を合図に出されたガイウスの指示に、アルフォンスと凛が従う。
尚、ほんの少し前に凛達の良過ぎる見た目を指摘→簡単且つコッソリではあるが、会話の合間に認識をズラす処置を用意。
屋敷を出てすぐ施す予定だ。
「…凛殿、何をしている?」
ただ、移動開始前に凛の取った行動。
それはワイバーンの女性を抱き抱える事だった。
美羽が「良いなー」と漏らし、紅葉は少々ハイライトの消えた目でそちらを見やる。
尋ねた側であるガイウスやアルフォンス達が不可解そうにし、凛と女性だけがキョトン顔。
「あ、これですか?この子、早い話が人間になったばかりで上手く歩けないんですよ。立つのがやっとと言う感じでして…なので移動のお手伝いをと。」
凛の説明に、ガイウスが返したのは「…そうか」と1言のみ。
いやどう見ても子供が大人を…とも思ったが放棄し、色々諦めた瞬間だった。
それからはアルフォンスを先頭にガイウスが続き、凛&ワイバーンの女性、美羽、紅葉、もう1人の警備の順で街の中を進む。
道中、行き交う人々全てが真剣に話をしており、その声に凛が耳を傾けてみる。
内容は10以上ものワイバーン達をあっさり倒した人物がいる。
その人物は珍しいタイプの顔立ちで、小柄ながら物凄い美少女。
そこからは空を駆けた?だとかワイバーンの1体を従えた?
少女なのにテイマー?肝心の美少女はいずこへ?との噂だった。
「小柄…美少女…。」
「ま、まぁ良いんじゃない?マスターが可愛いのは事実だし。」
先程の処置…認識阻害の効果で注目されないのはまぁ良いとして。
課程はすっ飛ばされ、結果と容姿ばかりが持ち上げられた事にショックを受ける凛。
項垂れ、微苦笑の美羽がヨイショするもヨイショ足り得なかった。
「美羽?それ、何のフォローにもなってないからね?」
「あ、あははは…。」
二十歳を超えた男性に、可愛いは褒めた内に入らないからだ。
凛のジト目に美羽はたじたじになり、列から少しずつ遠ざかっていく…なんて1幕も。
5分後
1行は大きな建物に到着。
その建物は剣と盾が交差する看板が目印。
煉瓦で組まれ、入口の扉は木で出来ている━━━冒険者ギルドだ。
中へ入ると、左側が仕事を斡旋する受付。
右側が酒場で分かれ、後者は何やら盛り上がりを見せている様だった。
アルフォンスと立ち位置を変わったガイウスは、脇目も振らず真っ直ぐ受付側へ。
作業中の為か、下を向いていると思われる男性職員に声を掛ける。
「君。すまないが、ギルドマスターを呼んで来ては貰えないだろうか?」
「これは長!分かりました、ギルドマスターですね。すぐに呼んで参ります。」
「うむ、頼んだ。」
男性職員は急いで立ち上がり、挨拶もそこそこに2階へと駆け上がって行った。
そんなガイウスのやり取りを、ギルド内に設けられた複数のテーブルから、冒険者と思われる男女が観察。
「(おいおい、街長がギルドマスターに一体何の用だよ。)」
「(いやいや、そんな事よりあの美女達だろ!見るからに普通じゃない。取り敢えず言えるのは、お近付きになりたい…これに尽きる!)」
「(本当本当。何故こんな場所にってのは少し気になるが…俺的には全然有り。むしろ凄いラッキーとすら思う。)」
「(4人が4人共レベルたけーしな。あんなの知っちまったら、大抵の女なんて見れたもんじゃない。)」
「(全くだ。)」
そのテーブルの1つ。
男性2人組が、女性を抱える凛を見る等してコソコソと話し合う。
だからこそなのだろう。
自分達の世界へ入り込み、周りの女性達から厳しい目を向けられている事に全く気付けないでいる。
「(ちょっとあんた達!聞こえてるんだからね!)」
「(うぉっ、すまねぇ!)」
「(そんなつもりはなくてだな…。)」
『(良いからあんた達は黙ってなさい!)』
「「(は、はいぃ…。)」」
隣に座る女性冒険者達3人の内の1人から突っ込まれ、最後は女性全員からダメ出しを喰らい、縮こまってしまう。
1分後
1人の男性が、男性職員に連れられる形で2階から来訪。
その男性はガイウスと同じ位の年齢で、身長が190センチ程。
かなり鍛えられているのが分かる位、がっしりとした体型。
肩までの長さに伸ばした灰色の髪を1本に纏め、細目ながら柔和そうな雰囲気を携えている。
「よう、ゴーガン。面白い者と知己を得てな、紹介がてら来てやったぞ。」
男性…ゴーガンが階段を降り切ったのを確認するや、ニヤリと笑うガイウス。
告げたい内容だけ告げ、周囲を驚かせるのだった。




