41話
戦闘後。
凛はフォレストドラゴン達と遭遇時の教訓を元に用意した、視認するだけで対象を無限収納へ送る遠隔収納…ではなく、普通に触れる形で。
それも、ホバークラフトみたくほんの少しだけ浮いた状態で滑らかに移動。
討伐を終えたワイバーン達を次々に収納していく。(本人はこれでも控えめな行動のつもり)
1分程で作業は終了。
呆然とする周囲を置き去りに、凛は降伏したワイバーンの元へ。
そして一緒に━━━━と言っても、ワイバーン側はトボトボと元気なさげだが━━━━歩き始め、段々と門が近付いて来る。
すると前方から、3人の男性が。
警備と門番の構成で、いずれも戦闘に参加したメンバーだ。
先頭を走る警備の男性は手を振り、浮かべるは好意的な笑み。
反対に、後ろの門番2人は真顔。
凛の後ろにいるワイバーンへ対し、明らかに警戒しているであろう素振りを見せる。
「簡単にワイバーン達を倒したのもですが、まさか空間収納までお使いになられるとは…恐れ入りました。」
合流後、警備の男性から告げられたのがそれ。
相変わらずの笑顔だが、その奥にある雰囲気は至って真剣。
一瞬だけ瞳が揺れ動き、しかしながらわざとワイバーンを見ない様にしているのがその証左でもある。
「いえ、無事に街を守る事が出来て何よりです。」
「ありがとうございます。それと、先程空を飛んで行かれた風にお見受けしましたが…?」
「あれは風魔法を応用したものでして。実戦レベルにまで育てるのは苦労しました。」
当然ながらこれは嘘で、自前の飛行と天歩スキルを使用。
正直に伝えても信じられないだろうとの観点から、敢えてこの様な言い回しとなった。
「成程、凛殿は武勇だけでなく魔法にも精通していらっしゃるのですね…ところで。」
それまでの、にこやかな雰囲気だった男性の態度が一転。
スッと目を細め、射貫かんばかりの視線でワイバーンを見やる。
「…!」
門番2人に加え、警備の男性からも刺す様な目を向けられる事となったワイバーン。
怖さの限界に達したのだろう。
体を強張らせた後にブルブルと震わせ、凛を盾にする形で隠れようとする。
しかし、体の大きさ的にどう考えても無理。
身を縮こませても尚、大きめの普通乗用車位の体積はあるからだ。
ましてや凛は小柄。
その彼の両肩に両前足をそっと乗せ、男性達の様子を窺う様にして顔の左半分だけをチラリ。
『………。』
その光景は有り体に言ってシュールでしかない。
何なら左側に加え、少しではあるが顔の右側部分もハミ出ており、最早隠れる意味を成していないとすら。
警備を含めた3人。
更には街を守る為の戦いに参加した冒険者達が、挙って『普通、(ポジションが)逆じゃね?』等と思っても全く不思議ではない。
むしろ、少数ではあるが可愛いとの声が上がった程だ。
追求するつもりが、すっかり毒気を抜かれる結果となった警備の男性。
それでも話を進めない訳にはいかず、こほんと咳払いをする。
「えー…そちらに隠れていらっしゃるワイバーンですが、これからどうされるおつもりでしょうか?」
男性は軽い笑みを携えつつ、目だけは剣呑そのもの。
仮令恩人が相手だろうが、サルーンに被害が及ぶのであれば戦闘行為も辞さないとの心構えでいる。
「ワイバーンをどうするか、ですか…。」
男性の心境を知ってか知らずか、目を閉じ、うーんと考える凛。
このままワイバーンを渡した場合、彼女は間違いなく殺されるだろう。
それは自分としては望むところではないし、サルーン側に託すのも違う気がする。
何より、恐怖を与える形にはなったものの、この子はこちらを信じて降ってくれた。
ならばそれに応えるのが人情と言うもの。
ワイバーンは翼竜、つまり空を飛べるので騎竜にするのも1つの手。
家の前に小屋を立て、番犬ならぬ番竜(どちらにせよペット枠)として飼うのもアリではないかとも考える。
「…取り敢えず、このワイバーンは僕が引き取ろうと思います。」
ゆっくりと目を開けた凛が、男性を真っ直ぐ見据える。
続けて右手でワイバーンの頭を撫で、これに少しだけビックリされるも、すぐに瞑目。
クルクルクル…と甘える様な声を出し、されるがまま。
これに驚いたのは男性達、それと周りにいる冒険者達だ。
ワイバーンが懐いたのもそうだが、引き取るとの選択が新たなトラブルを引き起こすのではとの考えから来ている。
「ワイバーンを引き取る、ですか。それは構いませんが…このまま街の中に入られた場合、ほぼ間違いなく大混乱に陥りますよ?」
「その前に入れさせませんけどね」と苦言を呈する男性の心情は至極真っ当なもの。
凛は「あー…確かに」と言いながら少し困った反応を見せ、一旦屋敷に戻って火燐達に預けようかな?と考える。
《ご報告します。ワイバーンがマスターを主と認めた事で簡易的な主従関係となり、リンクが発生しました。》
「ん?」
そこへ届けられる、ナビからの報告。
ワイバーンが凛に縋ってでも生きたいとの願いや、自分の主になって欲しいとの想い。
それと凛がワイバーンに対して生まれた情が交錯し、リンクが発生したとの流れだ。
《ですのでそのリンクを利用し、予め用意しておりました『人化』スキルを強制的に入力致します。》
(えっ…予め用意していた?)
凛が動揺したタイミングで、隣のワイバーンに変化が。
因みに、人化スキルはワイバーン達襲来が分かった時点で創作を開始したものだったりする。
いくら有益だろうが、今後を見据えてだろうが主の許可もなしに黙ってなのは頂けず、後に怒られる結果となった。
「な、なんっすか!?頭に直接何かが入って…あが、あががががががが!?」
話は戻り、(ドラゴンの言葉で)突然両前足で頭を抱え、その場に崩れ落ちるワイバーン。
「何だ!?新手の戦術か何かか!?」
それを、警備や門番達は脅威だと捉えた様だ。
慌てて武器を抜き、臨戦態勢に入る。
「あー…警戒しているところ申し訳ないのですが、恐らく大丈夫かと。武器も収めて貰って結構ですよ。」
周りも釣られて武器を構える中、唯一凛だけが困った笑みに。
「そう、なのですか? まぁ、貴方が仰るのでしたら…。」
最大戦力である彼に宥められては従わざるを得ない、警備の男性。
この場にいる誰より強く、もしサルーン側全員で掛かったとしてもあっさり返り討ちに遭う。
そんな未来を幻視したからだ。
何より当人に止める気も戦意もない以上、こちらが口を出すのはお門違い。
やや不承不承ながら剣を鞘に収めるを機に門番2人も顔を見合わせ、彼に倣う形でひとまず警戒を解く。
「痛いっすー!頭が割れそうっすーーー!!」
一方のワイバーン。
未だ翼付き両前脚で頭を抱え、辺りをゴロゴロ転がるが続く。
かと思えばブリッジみたく体を仰け反らせ、ビクンビクンと痙攣したりなんて事も。
「あの…本当に大丈夫なのでしょうか…?とてもそんな風には…。」
「ええと、多分…?」
戦略云々から、新手の拷問か何か?と考えを改め始めた1行。
様子見から見守りに観察の仕方が変わり、凛も初めての経験を根拠に曖昧でしか答えられなかった。
3分後
正座の状態で踞ったのを最後に、段々とワイバーンが小さくなり始めた。
そして見た目も、ドラゴンから人間へと変化。
やがて人間の女性を思わせるシルエットになったところで完全に停止。
全容は分からないが、真っ直ぐ伸びた水色の髪は腰位まであり、何も着ていない。
つまり全裸である事は確認出来た。
『………。』
凛はその様子を興味深そうな表情で。
他の面々は『何故ワイバーンが人間に?』とでも言いたそうな、非常に面食らった顔で見入る。
「…ん?」
そんな中、女性は頭を抱えたままピクリと動く。(ついでに警備と門番の男性達も)
続けて「んん?」と何かを確かめ、頭の上に置いた両手はそのままに、顔を少しだけ上げる。
「あ、頭が痛いのが収まったっす。本当、死ぬかと思ったっすよ…。」
やがて女性はがばっと上半身を起こし、正座の体勢へ。
その反動により、火燐よりも少し大きい双丘がブルンと揺れた。
しかし、長い髪のおかげ…とでも言おうか。
大事な部分は髪で隠れ、大きさと迫力だけが分かる状態なのは不幸中の幸いと取れなくもない。
女性は中々…いやかなり整った顔立ちをしており、(さっきまでの口調や醜態で色々台なしだが)クールなお姉さん的な容姿。
安堵の表情は人受けしそうな雰囲気を醸し出し、柔らかい印象を与える。
加えて、座りながらにして分かる見た目やプロポーションの良さ。
もしこれが地球なら、グラビアアイドルが裸足で逃げ出すレベル。
今この瞬間に立ち会わなかった者は、彼女がワイバーンが変化した存在だとまず思わないだろう。
「へー。人化スキルって、こんな感じになるんだ。」
個体差はあるんだろうけど、と凛が興味深げに呟く。
彼の発言は感心から来るもので、疚しい気持ちはこれっぽっちもない。
だがそれは偏に女性の体は見慣れているからが念頭にあり、他は異なる。
ハッと我に返った警備の男性が急いで後ろを向き、気付いた門番の2人も慌てて回れ右。
女性の裸を直視し続けるのは取り締まる側の観点から見て不味いと、今更ながら気付いたからだろう。
対する女性。
未だ頭痛の余韻が残るのかボーッとしており、凛から大丈夫?と声を掛けられるも何のリアクションも示さない。
そして周りにいる者達。
彼らは尚も女性から視線を外す事が出来ず、今後の展開が気になって仕方ない様子。
その大部分が男性。
女性の整った顔や立派な胸部、くびれた腰。
シミ1つなく、スラリと伸びた綺麗な手足を前に、ごくりと生唾を飲む音が幾つも聞こえた。
他にも、連れと思われる女性から頭を叩かれ、頬を引っ張られるか体のどこかを抓られる。
中には怒鳴られる者もおり、場がちょっとだけ混沌と化すのだった。




