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ゆるふわふぁんたじあ(改訂版)  作者: 天空桜
死滅の森開拓&サルーン都市化計画
43/256

39話

いつもありがとうございます。


前話の終わりに屋敷を出てすぐの所にポータルが収められている小屋を建てた風な記載がありますが、今後の事も考えて玄関内にポータルを設置するに変更しました。

凛はポータルでサルーンの冒険者ギルド宿直室に出て解体場に到着すると、入って少し進んだ所にワッズがいた。

他の職人が残された道具で解体の仕事をしている中、彼は同僚と思われる男性と会話をしている。


ワッズは凛の存在に気付き、それまで行っていた話を中断。

男性と別れて凛の方へ歩みを始め、既に移動を行っていた凛と合流する。


「おはようございます。」


「ああ、おはようさん。お前さんが来たってこたぁ、修理は無事に終わったんだな。」


「はい。修理の際にミスリルを使用して強度を上げておきましたので、黒鉄級の魔物でも問題なく使えると思います。」


そう言って、凛は無限収納から大きな肉包丁の様な解体道具を取り出した。


解体用の道具は、見た目こそ変わっていないものの、細長く加工した魔石を圧縮したミスリルで覆う形の魔導具に進化した。

その為、手にした時にほんの少しだけ魔力を吸われる感覚はあるものの、以前より軽く、魔石の補助で切れ味が格段に増している。


凛は変更点等を説明して道具を差し出し、ワッズは「み、ミスリルに変わったのかよ…」と言いながら道具を受け取り、ミスリル特有の軽さに驚いた。

そして軽く辺りを見回し、近くにあったオークで道具の試し斬りを行う。


すると、まるで紙をカッターで切断する感覚みたいにして、ほとんど抵抗なくオークを骨ごと切断。

ワッズだけでなく、近くにいた職人達も切れ味の良さに驚いた。


それから、他の道具もワッズ達に回しては驚かれるを繰り返す事5分。

ワッズ以外の職人達は子供みたいな笑顔を浮かべたり、とても楽しそうな様子で手早く魔物達を解体している。


「こりゃあ、下手すりゃ午前中に今日の予定が終わるかも知れねぇな。手元の道具が少ない分、仕事が遅れる可能性があると思ったから今まで打ち合わせをしてたってのに、全くの無駄になっちまった…。」


ワッズから見て、彼らの解体に掛かる時間は以前の3分の1に減少しているのが分かった。

それ自体は非常に喜ばしい事なのだが、やるせない表情で呟きを漏らさずにはいられなかった様だ。


その後、凛から残りの道具の回収について声を掛けられるまで遠い目をしていた。




凛はワッズを立ち直らせ、追加でダイアウルフを5体とキマイラ2体を置いて解体場を後にした。


去り際にワッズからゴーガンに呼ばれていたと告げられ、ギルドマスター部屋へ向かい、扉をノックして中に入る。


「やあ、よく来たね。それじゃ早速だけど、フォレストドラゴン、アダマンタートル、オークキングの話から始めようか。これが凛君の取り分で、売却額の半分に当たる白金貨40枚と白金板6枚ね。詳細はこの紙に記載された通りだよ。」


「ありがとうございます。」


そう言って、ゴーガンは白金貨と白金板が入った袋、それと1枚の羊皮紙を机の上に置いた。

凛は白金板と白金貨が入った袋を持ち上げ、「これで100億円…」等と思いながら無限収納に入れる。


そして羊皮紙を手に取り、上から順番にフォレストドラゴンの鱗や骨、アダマンタートルの甲羅や肉…と言った感じで読み進めていく。

やがて下から2番目の所で『オークキングの睾丸』と書かれている部分が目に止まり、不思議に思って(用途を知らないとも言う)ゴーガンに尋ね、彼を困らせる場面も。


話に出たオークキングの睾丸は精力剤の1つで、目薬位の大きさ位の小瓶に入ったのがたまに出回る位で数は少ない。

1滴が1回分で100回使用が可能、一晩中衰えないとかで貴族に人気があり、現在ではオークキングのものが最高級品とされる。


その後、凛がワッズから道具の修理を依頼され、先程改修したものと一緒に追加で魔物を渡したと告げる。

これにゴーガンは微笑み、これからも魔物を持ち込むならポータルをそのままにして良い事や、可能ならガイウスに渡したものと同じ映像水晶を譲って欲しいと頼んだ。


凛は了承し、無限収納から映像水晶を取り出して机に置いた。


「あ。そう言えば、先程商国の方からこの様なものを頂いたんですよ。…こちらなんですけど。」


そのついでとばかりに案内状を映像水晶の隣に置き、ゴーガンはそれを左手で案内状を拾い上げる。


「これは…案内状だね。差し支えなければ今すぐここで開けても良いかい?」


「あ、はい大丈夫ですよ。元々意見を仰ぐつもりでしたし。」


「分かった、それじゃ失礼して…。」


そう言って、ゴーガンは案内状の封を開け、中に入った手紙を読み始める。

手紙には長々とした内容が記載されていたが、要約すると3日後にヴォレスでオークションが開かれるから是非参加して欲しいそうだ。

他にも、妖精族の姉妹を目玉とした愛玩奴隷や、元魔銀級冒険者等の戦闘奴隷、珍しい魔道具や武具、素材、魔物等、沢山の商品を出品するので、可能であればそちらからも出品出来る様なものがあれば出して欲しいとも書かれていた。


「…成程ね。オークキングは年に数体しか出回らないし、フォレストドラゴンに至っては最後に見たのがいつか分からない位昔の話だ。サルーンの商業ギルドに肝心な部分を取られはしたが、転んでも商国。ただでは起きないと言う事か。」


ゴーガンは難しい表情で案内状を机に置き、不思議そうにする凛へ説明しつつ、5分程これからについての話を行った。


因みに、ヴォレスと言うのは商国商都に次ぐ大都市で、(商都と交代と言う形で)1週間置きにオークションを開いている。

そんなヴォレスはサルーンから南西に500キロ程進んだ所にあり、今から向かえばギリギリ間に合うとの判断から案内状を渡したのではと思われる。




「それでは、僕は新しい屋敷の引っ越し作業に戻りますね。」


「うん、色々とありがとう。これからも宜しく頼むよ。」


「こちらこそ。」


このやり取り後、凛は会釈して部屋を出た。


凛がいなくなってから少しした頃、ゴーガンは左手で頬杖をつき、物憂(ものう)げな様子となる。

そして凛から貰った映像水晶を右手で転がしつつ、溜め息混じりに呟きを漏らした。


「商業ギルドの人達、フォレストドラゴンの素材を王都で売るらしいけど…大丈夫なんだろうか。ガストン領の人達がグレッグ盗賊団に遅れを取ったのは当然知っているだろうに。」


グレッグ盗賊団と言うのは、ジェシカ達が在籍していた盗賊団の事だ。

火燐に真っ二つにされた挙げ句燃やされてしまったものの、頭であるグレッグは魔銀級の腕前を持っていた。


それと、凛の無限収納の中は時間が止まっている為に入れたままの状態を保持出来るが、普通だと時間が経つに連れて鮮度が落ちていく。

鱗や骨ならまだしも、他の部位はなるべく早く捌く必要がある為、明日か明後日の内にはサルーンを出たい所ではある。


更に言えば、最短ルートで進んだ場合でも、馬車だとサルーンから王都まで通常2週間は掛かる。


「それに最短ルートで王都へ行くなら()()()を通らなきゃだし、どう考えても上手くいかないと思うだよね。はぁ、素材の中でも特に(内臓等の)重要な部分を押さえているし、場合によっては僕が向かわないとかなぁ…。」




「ただいまー。」


「! マスターお帰りなさー…いっ!」


凛は宿直室のポータルで屋敷の玄関に戻ると、リビングにいた美羽が玄関へ駆け寄り、そのまま凛の胸に思いっきり飛び込んで来た。


凛は驚きながら美羽をキャッチし、目を見開いたまま美羽に尋ねようとする。


「うわっ!美羽、一体どうし…。」


「マスター!外に出る時は絶対に1人で行動しないで!」


しかし美羽に遮られただけでなく、何故か注意までされてしまった。


美羽は先程の件で散策する気が失せ、雫や楓と共にリビングで凛が帰るのをずっと待っていた。

しかも雫や楓、散策を終えて合流した火燐や翡翠から声を掛けられるも、心ここにあらずと言った感じで応答がなかったりする。


「…って言われてもなぁ。すぐに戻る位の簡単な用事だったし、その為にわざわざ誰かを呼ぶのは悪いよ…。」


「とにかくダメ!マスターは家にいる時以外、ボク達の内の誰かと一緒にいて欲しいの!!分かった!?」


「えぇ…?」


「それとも、ボク達が一緒じゃ嫌…?」


凛は心配そうだったり、目に涙を溜めながら見上げる美羽にたじたじになる。


そこへ、後から来た火燐ににやにやとした笑みを向けられ、雫には「美羽を泣かせた」とからかわれた。

翡翠と楓からはくすくすと笑われ、「美羽ちゃんは凛くんと常に一緒にいたいんだよ」と諭された事で、凛は何とも言えない表情となる。(その間、美羽は凛の腹部を顔ですりすりしている)


凛は両手を挙げ、困った笑顔で美羽に謝り、これからは出来るだけ一緒にいると話した。

美羽はその言葉を聞いてご機嫌となり、更にぎゅっと力を入れて凛を抱き締める。


凛は更に慌てる様になるのだが、火燐達はそんな凛を申し訳ないと思いつつ、美羽が元気になって良かった方に軍配が上がった事もあって温かい視線で彼らを見守っていた。




凛はどうにか美羽を宥め、皆で外に出た。


「アルファ。」


「はっ。」


そして凛が呟いたと同時に少し斜め上方向の空間に切れ目が生じ、(テストを終えて無限収納内で待機していた)アルファが姿を現した。


「これから僕達はしばらく作業に専念すると思う。その間、アルファは魔物の相手をお願い。」


「畏まりました。」


アルファは頭を下げた後、門の外でうろうろしているフォレストウルフ達の元へ飛翔して行った。


「それじゃ、僕達は(作物の)種を()く作業に入ろうか。」


凛がそう告げ、美羽達はそれぞれの言葉で返事したり頷く形で応えた。


一行は北西エリアへ向かった後、凛は「始めに玉ねぎから植えよう」と言って無限収納から玉ねぎの種を取り出し、それらを美羽達に手渡した。

美羽達は初めて見る種に興味が湧いたらしく、揃って掌の上に乗せては不思議そうに種を転がし始める。


種の観察は30秒を過ぎても続けられ、見兼ねた凛が軽い苦笑いで今取り出したのは玉ねぎの種だと伝え、その場に植えてみせた。

続けて玉ねぎ、それに人参やじゃがいも、サツマイモと言った根菜類の種や種芋を美羽達に渡し、全員で手分けして植える。


北西エリアを終え、次に移動した北東エリアでは大豆、キャベツ、レタス、とうもろこし、苺、メロンを、


その次の南東エリアでは林檎、桃、オレンジ、レモン、葡萄、それにカカオを加えた、狭いながらも果樹園を、


最後の南西エリアでは、小麦や米と言った主食や、様々な料理に使えるスパイスやハーブの植え付け作業を行った。


今回、凛がこれらの作物を植えようと思った理由、それは(苺とメロン、それにカカオと大豆とハーブ系はなかったが)サルーン内をアルフォンスと見て回った際、店頭に商品として並べられたのを見たからと言うのが挙げられる。


凛は小さな頃から小柄なのがコンプレックスで、小学校の時にはよくからかわれていた。

それが切っ掛けで料理に目覚め、最初は学校が終わった後や夕食が終わってしばらくした時等にこっそりと食べていたのだが、(当然ながら)すぐ親にバレた。


それからは(監視も兼ねて)母親と一緒に料理をする様になり、少しでも身長や体格が良くなる事を期待して2人前の量を食べ続けた。(今でもその習慣は続いているものの、凛が望んだ結果になったとはとても言えないが)


そしてどちらの意味でも和食…その中でも凛が特に好物とするのがお米だ。


だがリルアースに来てすぐ、ナビからこの世界には味噌や醤油はおろか、砂糖、塩、それと胡椒を含めた10種類のスパイス位しか調味料がない上、米は存在していないと知らされた。


凛は悲しみのあまりその場で崩れ落ちてしまい、これに何事かと思った美羽とマクスウェルが凛の元へ駆け寄り、しばらく彼を宥め続けると言う場面も。


凛は現代日本にある調味料や料理をリルアース中に普及させようと立ち直り、美羽達はさっきまでの落ち込みぶりから急にやる気を出した凛の姿を見て目をぱちくりしていた。


その後、(載せたメニュー以外)で現在に至るまでに、肉じゃがや豚のハーブソテー、ジャークチキンと言った肉料理、


香草焼きやカルパッチョ、酒蒸し、鮪の漬けや鉄火丼や海鮮丼、サーモンの赤ワインソースと言った感じで、(アクティベーションで用意した)魚の切り身や半身に手を加えた魚料理、


ミネストローネや野菜の卵とじ、かき揚げ(丼)、サツマイモの炊き込みご飯、茄子の煮浸しと言った野菜中心の料理を、マクスウェルや美羽達に出した。


いずれも好評で、彼や彼女らから必ずと言って良い程にお代わりが来る程だった。


それと、今朝の料理を作る時間中に凛達はサルーンで購入した料理等を食べたのだが、普段自分達が食べているのに比べて臭みやえぐみが主張し、美味しいとまでは言えなかった。

凛は下処理がしっかりと出来ていないからと判断し、ガイウスとゴーガンが肉や魚の缶詰を食べた時の反応の良さに納得しつつ、今はサルーンの食事処に料理を覚えて貰うつもりでプランを考えている。




しばらくして植え付け作業が一段落し、一行は屋敷から真っ直ぐ伸びた通路に出た。

凛は満足そうな表情を浮かべ、美羽達は互いに労い、思いっきり背伸びをしたり、肩や首をこきこきと鳴らしたりしている。


そんな中、雫は作物に水を与える役目は自分だと思った様だ。生活魔法プライミングで水を生成し、それに風系初級魔法エアブロウをぶつけて簡易のシャワーにしようと、無限収納からブルーを取り出して前に掲げる。


そこへ、凛が待ったを掛けた。


「あ、雫。水をあげるのはちょっと待って貰って良い?」


「? 分かった。」


「ありがとう。折角だし実験をしてみようと思ってね。」


『実験(ですか…)?』


「うん。半々位の割合で、与える水を分けてみようかなって。水の違いが作物にどう影響を及ぼすか見てみたいんだ。」


そう言って、凛は掌を上に向ける形で肩の位置にまで両手を挙げ、顔と同じ高さでバスケットボール位の水を生成した。

続けて、凛は右、左の順番で水の球を見やり、美羽達に視線を向ける。


「皆、この2つの水の違いは何だと思う?」


この問いに、美羽達は難しい表情で考え込み始めた。

しかし水のエキスパートである雫はすぐに分かったらしく、しばらくしてスッと手を挙げた後、凛から見て左側の方の水の球を指差す。


「一見すると同じ水(に見える)。でも、こっちの方は込められてる魔力の量が全然違う。」


「正解。与える水を変える事で、同じ出来上がりでもどう品質に影響を及ぼすのか見たくなったんだ。」


「ん…面白そう。」


雫の答えに美羽達が驚き、説明の最後に凛が「魔力を沢山込めると、出来上がった水は砂糖を入れたみたいに甘くなる」と話す。

美羽達は半信半疑だったが、試しに凛から飲ませて貰った所、一様に「甘っ!」と言いながら更に驚きを露にした。


その後、雫は普通の水を、凛は超級魔法が放てる位に多くの魔力を注いだ水をそれぞれ生成する役割の元、美羽達と協力して植えた作物に注いで回った。(水田の水は凛が用意した為、既にそこだけは済んでいる)


30分程で作業が終わり、ナビから間もなく正午になるとの報告を受ける。

そして互いに目配せをして頷き合い、一行は昼食を摂りに現在住む屋敷へと向かうのだった。

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