37話
5分後
美羽は新たな2振りの剣━━━白と黒の双剣に、同じ色を基調としたリボン、シャツ、ミニスカートを装着。
それとお気に入りの黒いニーソックスに身を包んでいた。
そして部屋に設けられた姿見越しに、おかしい箇所がないかをチェック。
「ふふっ、今日から宜しくね♪ブラン、ノアールっ♪」
確認を終え、笑顔を浮かべた彼女はクルッとその場で1回転。
左右の腰に差した双剣の鞘をポンポンと撫でる。
火燐はワインレッドのシャツ、黒いパンツ姿なのは変わらず。
彼女のお気に入りのスタイルであり、単純に性能アップだけを求められた形だ。
「…オレは凛を、そして皆を守れる位に強くならなきゃいけねぇ。だから…お前も応えてくれよ?ルージュぅ。」
そして赤い刀身の大剣を黒い鞘から抜く等し、静かにやる気を漲らせていた。
雫は何故そうなったのかは分からないが、セーラー服が良いと申し出た。
なので凛は赤いリボンが付いたセーラー服一式に加え、薄水色でフェルトの様にふわっとしたベレー帽を彼女に進呈。
それらを着用した雫が、両手で青い長杖を持ち上げる。
「ん。ブルー…一緒に頑張る!」
ふんす、と鼻息1つ。
相変わらずのジト目無表情ながら、こちらもやる気に。
翡翠は白い服に黒のジャケット。
若葉色のミニスカートに、黒いニーソックス姿だ。
加えて、何やらご機嫌らしく鼻歌交じりに着替えていた。
「んっふふー、ヴェールー♪これからたっっくさん活躍の場を用意するから楽しみにしててねーーー♪」
左目を閉じ、左手で持った緑色の弓を顔の近くへ運んだ後、バーーンと右手で軽く射る仕草を取る。
楓は白い長袖のシャツに薄茶色の上着。
ややミニの赤いフレアスカートに黒いタイツに加え、(こちらは毛糸だが)雫の色違いとも言える白いベレー帽を着衣。
「少しでも皆さんのお役に立てる様に頑張りましょうね…?マロンちゃん…。」
茶色い枝の様な形をした杖を両手で掲げた彼女は、犬や人形と話すみたいに優しく語りかける。
黒地に紅葉の刺繍が施された和服を纏い、肩の上に桃色の羽織を乗せる紅葉。
腰に巻いた金色の帯には、鮮緑色と樺色の鉄扇が閉じた状態で刺さっている。
鮮緑色の鉄扇を颯、樺色の鉄扇を圷と言い、どちらも風と土属性に特化した魔力媒体を使用。
魔力媒体は、フォレストドラゴンの宝玉から得た情報を元に創られている。
「凛様から頂いた期待に応えなければ…颯、圷。私に力を。」
紅葉は目を閉じ、まるで2本の鉄扇に祈りでも捧げるかの如く右手を添える。
白い羽織付きの赤地の和服を着た暁が、刀身だけでも120センチ程はある大太刀を左手で所持。
「不動…揺るぎない信念、か…凛様、貴方様から頂いた想い。この暁、決して無駄にせぬとここに誓わせて頂きます。」
やがて、顔の前に大太刀を移動。
紅葉と同様、目を閉じ、不動越しに自らを律していた。
凛は白いシャツに黒いジャケット、黒いパンツ姿となり、最後に玄冬と名付けた刀を左手で持つ。
「…ん。魔力を糸みたいに細く伸ばした生地を元に服を用意してみたけど…案外悪くないかも。それじゃ、行くとしますか。」
そして姿見で確認を済ませ、軽く気合いを入れた表情で部屋を後にする。
因みに、凛の口から出た『魔力を糸みたいに』と言うのは、魔力を極細繊維にまで細く伸ばしたもの。
『魔力糸』と名付けたそれを凛が頭の中でイメージし、ナビが無限収納内で編んで完成。
こう見えて、防弾ベストの数倍の防御力を誇る。
それと凛、美羽、火燐、雫、翡翠、楓の武器に関しては(里香から託された)ヒヒイロカネを使用。
残念ながら紅葉と暁の分までは行き渡らず、2人だけ武具創造スキルを用いる形となったものの、なるべく早く彼女らにも渡そうと決意する。
「しかし今朝は驚いたな。美羽から何故か怒られる羽目にもなったし。」
起床時、いつの間に潜ったのか右腕に美羽が、胴体の左側部分に雫が抱き着いていた。
しかも雫に至っては、うにゅう…と涎を垂らしそうな顔で寝ており、どうしたものかと思いながら入口の方を見やれば、そこには紅葉の姿が。
ドアの隙間からハイライトの消えた瞳が覗く様は、ある種ホラー。
凛は驚きのあまりつい声を上げてしまい、それにビックリした美羽と雫が目を覚ます。
しかし何事もなかったの如く再び寝ようとする雫に、3人して突っ込みを入れたのは記憶に新しい。
当時を思い出し、1人ふふっと思い出し笑いをする。
それから1時間が経った午前9時頃
1行は死滅の森の中を散策。
凛から新装備を賜った者達は使い勝手の良さ、動きやすさにニッコリ。
それに比例して魔物の討伐数も以前の倍以上に増え、エルマ達や旭達の負担軽減へ繋がってこちらもニッコリ。
また活躍して自分達にもとの思いから、今まで以上に連携を密に。
結果多くの魔物を屠り、比例して沢山の魔素を得るとの好循環へ。
そして今も、エルマとイルマが手を取り合いながら喜ぶ一方。
そのすぐ近くで暁が一太刀でバトルマンティスを切断。
首を斬られたバトルマンティスは小さく断末魔を上げ、ゆっくりと地面に倒れていった。
暁は刀身に付いた血を地面へ振り払い、不動を納刀。
そのタイミングで凛に見られているのか分かり、斜め前にいる彼の方を向く。
凛は今の姿の暁を気に入っており、1つの理想像として認識。
妖鬼に進化してすぐ…それこそ昨日だけでも何回か彼の元を訪れ、その度に暁は嬉しいやら恐縮すると言った感じで応えていた。(その様子を旭がにやにやとした目付きで見、後でしっかりと拳骨を貰っていたが)
日付が変わった今日もそれは変わらず、凛は落ち着いた様子の暁に納得。
首肯を交えながら彼に話し掛ける。
「うん。不動の扱いにも結構慣れたみたいだね。」
「はい。凛様から頂いた助言のおかげです…と同時に、まだまだ遠く及ばないのも理解しました。」
「この世界に来る前から何となくは分かってたし、こっちに来てからはずっと訓練を続けてるからね。流石に慣れた…と言いたいところなんだけど、僕も師匠に勝てる気は全くしなかったり。」
「え…。(凛様がこうもあっさりとお認めになられるとは…一体、凛様のお師匠様はどれ程の御方なのだろうか?)」
暁は凛の衝撃発言に呆けそうになるものの、次の言葉で否が応でも現実へと引き戻される。
「…ん?屋敷に誰か近付いてる?」
「…!」
凛は探索の合間合間にサーチを使用。
強い魔物や大きな群れ等の危険がないか、具にチェックしていた。
今しがた、屋敷の周りに数体の魔物がいるのとは別に。
誰かがサルーン方面から、それも結構な速度で移動している事が判明。
「…!」
「この方角は…サルーンか。となると、アルフォンスさんかな?」
大凡の見当を付けた凛は、昨晩開発した使用後に消滅するタイプのポータルをその場に設置。
「皆ー、森の探索は中止!屋敷に戻るよー!」
『はーい!』
そう促すと真っ先に美羽が突っ切り、火燐達も次々と通り抜け、最後に殿役の凛が潜る。
それを合図にポータルは役目を終え、小さな粒子となって消滅した。
屋敷の敷地内へ移動後、「おぉー、帰って来たー」とちょっぴり感動する一同。
苦笑いを浮かべた凛が、1人門を出たタイミングでアルフォンスと遭遇。
サルーン側からだと屋敷の正面へ向かうには回り込む必要があり、お互いが顔を覗かせた形だ。
アルフォンスは前回と異なる部下が2名。
それと馬車や牽引する為と思われる、馬2頭と一緒だった。
「お、おぉ…凛殿!わざわざ出迎えありがとうございます。」
まさか出迎えて貰えると思っていなかったのだろう。
やや大仰気味にアルフォンスが驚き、それでもやはり嬉しいのか自然と口角が上がる。
「いえいえ。今日はどうされました?」
「それがですね、街長…領主から凛殿を迎えに行けと遣いに出されまして…。」
「あらら…それは災難でしたね。」
「本当ですよ…。」
本来であれば、アルフォンスは本日非番。
妻と過ごす予定が、突然の呼び出しによりパーになってしまった。
凛からの慰めはありがたいが、こうも良い様に使われては納得いかないと言うもの。
口にこそしなかったものの、その顔には不満が有り有りと映っていた。
「ですので申し訳ありませんが、私達とご同行願えないでしょうか?」
それと、どうやら昨日のやり取りが功を奏し、心の距離は大分近いものとなった様だ。
アルフォンスはやや申し訳なさそうにするも、どこか柔らかい印象であるのが見て取れた。
「分かりました。昨日の話についてですね?」
「恐らくは。ですが私が見る限り、長は箱を大事にしている様子でしたし、意外とすんなり許可が下りるかも知れません。それと昨日のクッキーですが、嫁に渡したところ大変喜ばれました。貴重なものをありがとうございます。」
そう言って、アルフォンスは深々と頭を下げる。
サルーンにも一応クッキーと呼ばれるものはあるものの、材料はほぼ小麦粉と水のみ。
砂糖は非常に高く、入れたくても中々入れられないのが実状だ。
故に、甘さをほとんど感じる事が出来ず、舌を通じて分かるのは素材の味のみ。
食感も、ボソボソとするか硬いかのどちらかだったりする。
水と小麦粉以外の原材料である牛乳やバター等の乳製品、それに卵も砂糖と同様、この世界では貴重。
しかも(砂糖を含め)取引は大都市や王都で行われる傾向にあり、街や村にまでは滅多に行き渡らない。
そんな高級品の数々を。
しかもふんだんに使ったクッキーを、追加のお土産としてまで渡した凛に物凄く感謝していた。
それこそ、アルフォンスと一緒に来た部下2人が同僚へ自慢し、奪い合いの喧嘩にまで発展する位には。(部下2人の顔ぶれが昨日と異なるのはそれが原因)
話は戻り、凛はアルフォンスを宥めつつ、話の続きを促す。
「喜んで頂けて何よりです。えぇっと、向かうのは勿論構わないのですが、馬車は何人乗りになりますか?それと、僕達は違う服に着替えた方が良いのでしょうか?」
「3人ですね。なので、凛殿とは別に2人…と言う事になります。」
「成程。」
「それと服装についてですが、長は元冒険者でして。本人も堅苦しいのは嫌だとよく仰ってますし、特に申し付け等はありませんでした。以上の観点から、私としましてはこのままでも宜しいのではないかと。」
「分かりました。」
あれ?昨日と格好が違いません?何なら自分らの鎧よりも遥かに高そうに見えるんですけど…との思惑を抱かれたのはさて置き。
最低限聞きたい事を終え、納得の意を示した凛は、視線をアルフォンスから美羽達へ。
「…それじゃ、誰が一緒に行く?」
「勿論オレが…と名乗りを上げたいところだが、それは皆同じ想いだろう。」
火燐の意見に、旭、月夜、小夜以外の全員が当然とばかりに頷く。
最近…それこそ先日、身を削られる想いを彼女達はしたばかり。
凛だから大丈夫、との考えは間違いだったと思い知らされたのが未だ強く根付いているのだろう。
「だから、ここは舐められない為にも、強い順で行くってのが妥当じゃねえかとオレは思う。」
「と言う事はー、ボクとー!」
美羽が勢い良く右手を挙げ、
「私ですね。」
両手を軽く前に組んだ紅葉がスッと前に出た。
「…特に反対意見はないみたいだし、美羽と紅葉で決まりかな?」
凛は「他に何か?」と見回すも、皆口を閉ざしたまま。
敢えて例えるなら、火燐と翡翠が仕方ないかぁと言いたそうな仕草を。
唯一の男性と言って良い暁が苦々しい顔をした位で、残りの面々は同意とばかりに首肯。
「迷う事なくすぐに立候補なさるとは…お2人共大変お美しいだけでなく、とてもお強いのですね。」
これに感心したのはサルーンの面々。
凛、美羽、紅葉以外にも綺麗所が。
更に言えば翼(若しくは羽)の生えた天使と悪魔、唯一のイケメン男性こと暁の存在も勿論気にはなるものの、それらを差し引いて見た目トップの3人がそのまま強さでも上位を占めた事に驚いたのかも知れない。
「ええ、まあ。美羽様と私は、共に黒鉄級を超えておりますし…それでも凛様へは遠く及びませんが。」
「紅葉ちゃん。今の『鬼姫』に進化してから、更に可愛くなったもんね。」
「も、もう、美羽様…誂わないで下さい。そ、それでは、私は先に馬車へ向かわせて頂きます…!」
「あ、紅葉ちゃん!待ってー!」
衆目を浴びたのが悪かったのだろうか。
恥ずかしさを隠す様にして紅葉が足早に馬車へ向かい、その後ろを美羽が慌てて追い掛ける。
因みに、紅葉は黒鉄級だと申したが、実際は鬼姫へ進化した事で黒鉄級上位に。
見た目が更に良くなっただけでなく、『降霊術』なるスキルを取得。
その彼女より上である美羽は、まだまだ進化の兆候は見られないものの既に神輝金級の強さだったりする。
「え…どちらも黒鉄級以上…?となると、フォレストドラゴンを倒したのはもしや…。」
ただパッと見、3人が3人して戦闘とは全く無縁そうな風貌。
凛は少々幼いが男装をした麗人、美羽は如何にもお姫様、紅葉はやんごとなき身分…みたいな感じだろうか。
強くなる目的で死滅の森へと宣う位なのだから、足繁く通っているのは想像に難くない。
だから良くて(鬼人が魔銀級なので)相応の腕前だと思いきや、世界中で鑑みても絶対数が少ない黒鉄級と来た。
しかも紅葉の口振りからして、凛は今となっては伝説の存在である神輝金級の可能性が。
その凛に視線を向けてみれば、彼女は火燐達と談笑中。
何やら美羽に促され、はいはいと言いながら苦笑いで足を動かす始末。
(軽い視察のつもりが、もしや途轍もない御方と知己を得たのでは…?もしや長はこれを見越して…?)
重ねて言うが、外見上は信じられない程に整った美女・美少女(ついでに暁も加えれば美男)の集まり。
にも関わらず、実際は自分どころかそんじょそこらではまずお目に掛かれない程の実力者集団であると分かった。
分かってしまった。
未だ外見や玄関、客間しか確認していないが、冷静に考えればあんなレベルの屋敷が短時間で建つのは明らかにおかしい。
フォレストドラゴンの宝玉のインパクトに意識が持っていかれたものの、彼女らはそのドラゴンですら圧倒出来るだけの強さを持っている事になる。
五体満足どころか、見た感じ傷1つ負っていないのがその証左。
宝玉であの大きさなのだ、本体も相応のものになるはず。
鱗、皮、骨、血…ドラゴンに捨てる場所はないと言われているが、まさか処分したのだろうか?
他にも気になるのが死滅の森だ。
かの森を狩り場とするならば、フォレストドラゴン以外の魔物も相手にしたはず。
それら(の死体)は一体どこへ?
その場に放置?
実は自分達が知らないだけで、屋敷内に保管する場所があったとか?
それとも近隣へ売りに?
しかしそれだと騒ぎにならないはずがない…等々。
一度考え出したら止め処なく疑問が生まれ、急に恐ろしくなったアルフォンスはぶわっと大量の汗を掻く。
「アルフォンスさーん!早く行かないと長さんに怒られますよーーー!」
そこへ、馬車の中から顔を出す形で凛が声を掛ける。
「…!あ、はい!すぐに向かいます!」
我に返ったアルフォンスは急いで馬車へ走り寄り、凛達と共にサルーンの街へと戻る。
(凛殿達は大丈夫。私にですらこれだけ気を回して下さるのだ、長に…いや、街にとって益となるに違いない。)
そう、半ば言い聞かせる様に考え、自らを納得させるのだった。
凛「長さん」
雫「次いってみよー」
凛「それはちょうさん。僕のはおささん…って何やらせるの。と言うかどこからそのネタを。」
雫「内緒」
親と一緒にDVDを観たので凛は知ってるとの設定で。
雫は…謎ですね(笑)
美羽の衣装ですが、『を』から始まる方の世界の終わり的なデュエット曲っぽい感じだと思って頂ければ。
それと魔力糸について。
ニュアンス的にマジックストリングとしたかったのですが、ストリングはどちらかと言えば細い糸単体よりも重ねた紐とかの意味合いの方が強そうなのでスレッドにしました。




