36話
高級そうな服に身を包んだ男性ことアダム・フォン・ガストン子爵の言葉により、場が静寂に包まれた。
(ちっ、アダム本人が来たか。代理で済ませれば良かったものを…しかしどうやって?奴が治めるケイレブから、ここまで来るのに普通だと1日掛かり…そうか、小心者でありながら金や欲にがめつい奴の事だ。早朝にでも報せを受け、急ぎ赴いたが正解だろうな。)
ガイウスの想像の通り、アダムは自身が治める領都ケイレブから東。若しくは南東。
コースト、シャウエ、コーリンを経て、ここサルーンに到達。
日が昇るよりも前の時間に緊急との名目で伝達が入り、最低限の準備を済ませ、都市や街毎に早馬を乗り継ぎ、西門にいる門番達の制止を振り切るとの形で。
尚、彼の頭の中はフォレストドラゴンで一杯。
何が何でも接収し、爵位向上の糸口にする気満々とも。
無論、その様な自分勝手な真似を凛が許すはずもなく。
「…美羽。悪いんだけど、翡翠、楓、イルマとでバーベキューを進めて貰っても良いかな?残りのメンバーは美羽達のフォローをお願い。」
「マスターはどうするの?」
「僕は火燐と雫と一緒にちょっとお話して来る。ガイウスさん、後はお任せしますね。」
「うむ、相分かった。それでは、ただ今を以て今回の催し物を開始とする!」
『……ウォォォォォォオオオオオオオオ!!』
アダムを眺めながら美羽やガイウスに指示や提案を出し、上がる大歓声。
その間、前方にいる彼は「巫山戯るな!私が許可していないのに出来る訳ないだろうが!」
「許さんぞ!今すぐ発言を撤回しろ!アレは私のものだ!」等と宣うも、誰1人として相手にされずただただ雑音として掻き消されるだけ。
人々はお目当てのグリルへ向かうのに全神経を注ぎ、そのグリルを担当する翡翠達が点火。
続けて調理台の上に肉の塊を…とのタイミングで美羽が慌てて駆け出し、凛はそんな彼女を見送る。
振り返り、アダムがいる方向へ踏み出すや、不敵な笑みの火燐。
澄まし顔の雫が後ろに付く。
凛はアダムから20メートル程手前で停止。
顔を真っ赤にする彼から、怒りをぶつけられた。
「貴様ぁ…私の断りもなしに勝手な真似を━━━」
「何故、貴方の許可がいるのですか?」
「何故…だと?はぁ、これだから下賎の者は…その様な事も分からんとはな。」
「そりゃこっちのセリフだっつーの。あの肉は凛がフォレストドラゴンを倒して得たってのに、なんでてめぇなんぞに渡さなきゃいけねぇんだ。つか、そもそもお前誰だよ。」
この言葉にアダムは「は?」と固まるのだが、(美人に関心を持たれたと勘違いし)仕方ないなぁと言いたげな様子で話し始める。
因みに、彼は美女に目がない。
しかも━━━黙ってればとの注釈は付くが━━━目の覚める様な美しさとあって、美少女枠の凛と雫に靡こうとしないのはそれが所以。
「ふん、この私を知らないとはな。良いか、私は━━━。」
「あ、いや。別に、お前の事が知りたいとかで言った訳じゃねぇんだけど…。」
しかし火燐が気まずい様な。
ほんのちょっぴり居た堪れなさそうな呟きにより一帯を覆う、何とも言えない空気。
体をぷるぷる震わせるアダム。
羞恥と憤りから来るもので、兵達は「あんた何してくれてんの!?」も表現せんばかりの目を火燐に向ける。
「これは酷い…」と凛が苦笑いになるのも仕方ないと言わざるを得ず、火燐が強引に話を進める。
「取り敢えず、引き取った肉をどう使おうがオレ達の勝手。」
「ん。これから開かれるのは、落ち込んでる(街の)皆を励ます為のバーベキュー。」
「「関係ねぇ(ない)部外者(貴方達)は引っ込んでろ(黙ってて)。」
さも自然な風に乗っかった挙げ句、ハモらせる雫。
「えっと…今日はお祝いみたいなものですし、肉が欲しいのでしたら人数分お渡し致します。なので折角来て頂いたところを申し訳ありませんが、このままお帰り願えないでしょうか?」
ちょっとだけ困惑気味の凛が齎すは、一見すると提案。
実際は楽しい気分なのに水を差すな、素直に引けば見逃すとの譲歩に他ならない。
その点に気付いたのだろう。
視線の先を火燐から彼に変えたアダムが、徐々に苛ついていく。
一方の兵士達。
「ドラゴン?」「あの子達の内の誰かが倒したのか?」「まさか」「とてもそんな風には見えんぞ」「だよな」と言った感じで楽観視。
ざわついているだけで、全く緊迫した様子は見られなかった。
むしろ凛達の容姿から、たまたま弱り切った状態のフォレストドラゴンを倒した程度にしか思っていない。
アダムもそれは同じ。
女3人だけで何が出来ると踏み、やがて自分を馬鹿にした(と本人は思っている)事への怒りから身の程を分からせ、彼女らを捕縛。
見せしめも兼ね、手元に置くか奴隷にして売るとの皮算用を立てる。
「構わん。お前達、やれ。」
アダムの中で既に勝ちは確定。
これだけの人数差は覆しようがないとの考えから来ている。
怒りを鎮める目的でなのだろう。
顔を左手で覆い、反対の手でしっしっと追い払う仕草で兵達に指示。
兵達は「あまりにも多勢に無勢では?」との考えから顔を見合わせるも、下された命令は絶対。
すぐに正面を向き、掛け声と共に走り出す。
今のやり取りで幾分か落ち着いたのか、アダムが(左手で顔を覆ったまま)首を左右に振る。
「全く…この私の手を煩せるから惨めな結果に━━━」
『うわぁぁぁぁぁぁぁ!!』
しかし言い切るよりも早く悲鳴が聞こえた。
凛、火燐、雫の3人ではなく兵達の、だが。
「…は?」とアダムが顔を上げた瞬間。
前を走っていたはずの複数の兵が頭上を飛び、そのまま後ろへ向かうとの光景を目の当たりに。
数秒後、ややぎこちない動きで視線を正面へ。
そこにはいつの間にか水色の髪の少女がおり、右手に持つ杖をこちらへ向けているとの状況だった。
「ひ、怯むな!相手はたったの3人だぞ!」
1人の兵士の叫びで我に返った兵達(ついでにアダムも)が忙しなく足を動かすのと対照的に、余裕の表情でてくてく歩く雫。
「喰らえ!」
先頭にいた兵士が繰り出した攻撃が当たる━━━かと思いきや、少し重心を動かす形でスッと回避。
「せいっ!」
「はぁっ!」
「だぁぁぁ…がっ!」
立て続けに攻撃を仕掛けるも軽々と躱され、3番目の者に至っては風系初級魔法エアブロウによる反撃を喰らう始末。
「…クソ、馬鹿にしやがって!」
直径50センチ位の風の塊をぶつけられ、10メートル近く吹き飛ばされた兵士が上体を起こし、忌々しそうな表情で再び挑む。
その後も、雫はまるでアイススケートみたくスイスイ~と兵達の攻撃を避け、隙あらばドウドウドウッとエアブロウを発射。
兵達の体力を奪い、弱らせ、やがて戦闘不能へを繰り返して数を減らす。
「囲め!囲んで集中攻撃だ!」
1人の兵士が息を荒げながら叫ぶを合図に、兵達は雫を取り囲んでの一斉攻撃を敢行。
「なっ!飛んだ!?」
だが、同等クラスならまだしも、格下も格下が相手だと対処も容易。
雫がふわりと浮いたかと思えば10メートルを超す高さにまで上がり、虚しく空を斬るだけの結果となった。
「まさかあの黄色い球は…不味い!」
上空にて、雫は雷系中級魔法のパラライズボールを投下。
直径1メートル程の微弱な雷の塊であるその球は、(雫から見て)前方斜め下に着弾。
雫の真下にいた兵士は当然として、アダムやその周辺にいた兵達までをも巻き込んだ。
彼らは麻痺状態に。
全員が地面へ倒れ伏す形で動けなくなり、雫はそんな彼らを見下ろしつつゆっくりと着地。
「はーー、つっかえ。あんだけ意気込んどいてこのザマたぁな…だがまぁ、雫が相手じゃ仕方ねぇか。」
「ねえ火燐。」
「ん?」
「雫の移動って、フローティングを風で操作したものだよね。しかも風とか雷魔法まで扱えてるし、同時使用も可能になったんだ?」
肩慣らしにすらならない兵達の惨状にしらけ気味だった火燐も、凛からの問いで少しだけ嬉しそうな容貌に。
「ああ、それな。雫はクティーラに進化した影響か、全属性に適性が生まれたんだよ。それと魔法の同時発動は、並列思考ってのを使ったからだな。」
「へぇー、それは凄いね。僕もうかうかしてられないや。」
凛は全ての属性を最上級まで扱える上、スーパーコンピューターをも凌ぐ処理速度を持つナビのサポートが追加。
初級や中級魔法なら毎秒数十~数百発射が可能、ようやく近付けたと思ったら流麗な刀捌きが待っている。
「いや、お前の方が全然凄ぇじゃねぇか。何言ってやがんだ…。」
彼は密かに1人軍隊と呼ばれ、火燐も「もうコイツだけで良いんじゃね?」と思った内の1人。
呆れ顔で突っ込みを入れるのは自然としか言いようがなかった。
「雫の事は分かったとして、火燐も進化して何か得られたものは?」
「オレか?オレはな…。」
「この…得体の知れぬ者共め。我らが黙ってやられると思うな!」
「お、丁度良いのが来た。オレのはこれだ。」
そう言って、火燐は右手を前に翳し、こちらへ向かって来た兵士に青い炎をぶつける。
青い炎は兵士に当たり、瞬く間に上半身を覆い尽くした。
「うわ、あっっっ…つくない?むしろ冷たい位だ。幻術か何かか?」
「なら熱くしてやるよ。」
始めこそ不思議そうにするだけだった兵士も、火燐が指をパチンと鳴らした途端熱がり始め、耐え切れず地面を転がる。
火燐が手を前に翳し、動きが止まったかと思えば鉄で出来た鎧の上半身部分だけがパリィィンと砕け散った。
「鎧が砕けた?もしかして、金属に急激な温度変化を与えると壊れるって言う…。」
「そう、それだ。冷炎っつってな。上は3000度、下は-200度で調整出来る粘着性の青い炎が生み出せる様になったんだ。そのおかげか、水にも適性がな。」
「うわー凄い凄い。格好良いよ火燐。」
凛に褒められ、途端にニヨニヨするのを我慢出来ず、明後日の方を向く火燐。
彼女は簡単に説明したが、良く見ると炎に覆われたのは鎧部分だけ。
肌には一切触れていないのが見受けられた。
ダメージを与えたのは鎧のみ(それでも肌に触れた箇所は熱いのだが)、転がった時に出来た擦り傷や軽い火傷位だったり。
「…終わったか。全く、馬鹿な真似をしたものだ。」
ゴーガンを伴ったガイウスが姿を現した。
「ガ、ガイウスか。私は…馬鹿では…。」
「見たところ、兵士達は銀級…良くて金級と言った感じの強さだろう?それじゃあまるで足りないよ。」
「何、だと…。」
「火燐君と雫君は最低でも黒鉄級、凛君に至っては神金級以上の強さだ。フォレストドラゴンに付けた傷は首だけ、と言う卓越した技術の持ち主でもある。今は更に増したのかな?外見からはとても判断出来ない点についてだけは同意するよ。」
凛は敢えて口にしなかったが、現在ならば武器すら使わず軽めの身体強化だけでフォレストドラゴンを制圧可。
しかしそれを知った場合、(ガイウス達も含め)漏れなく卒倒するだろうが…。
「だから本気で勝つつもりで攻め込むのだとしたら、数万規模で兵を用意しなきゃ…それに、上を良く見てごらん。」
「上…?」
アダムが若干苦しそうに上を見てみれば、沢山の…最低でも人数の倍以上はある、氷で出来た棘が。
尖った部分が全てこちらを向き、その1つ1つがボウリングのピン位の大きさとかなりの殺傷力を保持。
見上げる兵達にもそれは否が応でも伝わり、揃って浮かべるは絶望の表情。
「これで分かったろう?これだけの魔法を行使しておきながら、まるで疲れた様子がない。それだけの差がある…つまり、君達位の実力ならどれだけ集まろうが余裕と言う訳だ。」
「そん…な……。」
ゴーガンの言葉がトドメとなったのか、気絶するアダム。
兵達も戦意喪失し、終わったと捉えた凛が雫に氷の矢を引っ込めさせ、エリアハイヒールを行使。
彼らの怪我や、(副次効果として)麻痺状態を治療してみせた。
大半が驚いた弾みで飛び起き、ガイウスは折角箝口令を敷いたのに…と落ち込み、ゴーガンに慰められる始末。
凛はそんなガイウスを苦笑いで一瞥しつつ、目を覚ましたアダムへ改めて話し合いを持ち掛けた。
向こうは向こうで、この規模の回復魔法を使っても顔色1つ変えない凛に戦慄。
ここで断りでもしたら先がないとの判断から、快く(?)正座で応える。
やたらと凛達を褒めちぎる場面はあったものの、購入予定のフォレストドラゴンの交渉云々で来訪した旨をアダムは説明。
バーベキューで振る舞われる肉については、過去にランドドラゴンの肉を食べた経験から間違いなく絶品。
それを下々の者に食わせるなぞ言語道断、奪い取ってでも確保しようと行動を起こしたとの事。
かなりしょうもない話は以上で終わるも、何故か凛を庇う様にして前へ立つガイウスとゴーガン。
3人は揃って不思議がり、ガイウスが微妙そうな表情で咳払いする。
「…今は宴の席だ。私としては不本意だが、凛殿は貴様の行いを許し、しかも催し物に参加していけと話す━━━。」
ガイウスが説いている途中。
いつの間にか「ありがとうございます!このアダム、感謝の極みにございます!」と、凛の右足にアダムがしがみついていた。(一応、凛とアダムの距離は5メートルと少しあり、しかもガイウス達が立ち塞がっているにも関わらず)
凛達は目を見張り、ガイウスがアダムを畏れ多いとして引き剥がそうとするも、妙な力強さで中々離れなかった。
最後は火燐が拳骨で物理的に黙らせ、ようやく距離を取る事に成功。
捨て置いたガイウス達が、少し疲れた様子で説明し始める。
「こいつは自分よりも立場が上の者に媚びを売るのだが、その度合いが半端ではないのだ。」
「見ての通り、数人がかりで対処しないと収まらなくてね。相手からすれば迷惑この上ないから困っているんだよ。」
この様にして媚びを売られた場合、大抵の相手は折れてアダムの言い分を聞く。
それなら会わなければ良いだけの話ではあるのだが、ストーカーの如く手紙を送り続けられたり、お茶会に誘われる等で結局折れるなんてのもしばしば。
兵達は申し訳なさそうにペコペコ頭を下げた後、抱えたアダムごとその場から去って行った。
「…まさか、凛が不覚を取られるなんて思わなかった。」
「本当にね。僕も凄くビックリしちゃったよ。」
なんて話しつつ、1行はバーベキュー会場へ。
その会場だが、物凄い熱気と歓声に包まれていた。
美羽達がひたすら肉を焼き、食べ頃になったら縦へ6つへカット。
味付けは凛と同じく塩と胡椒だけ。
エルマ、紅葉、月夜、ニーナが2切れずつ皿に乗せ、残りのメンバーが列に並んだ人達へ配るとの構図だ。
そしてその列だが、女性は暁、旭、玄。
男性はリーリアを始めとした女性陣へ群がる傾向に。
彼らから肉が乗った紙皿と、プラスチック製と思われるフォークを受け取る際。
お近付きになる目的で話し掛けようとしたり、偶然を装って接触を図ろうとする者が結構数いた。
だがその前に(騒ぎを聞き付けた)アルフォンス達警備から止められ、がっかりした面持ちで離れてからの肉の美味さで復活するまでが一連の流れになりつつある。
その後、凛達も美羽達のフォローに回るのだが、夕方からバーベキューが始まったのが影響したのだろう。
仕事上がりや飲みに繰り出す者。
それと外部から来た者達や気絶から復活したアダム達も重なって、今までに経験した事がない程の大混乱が起きた。
しかも1度受け取ってるにも関わらず、再び体感したいからとこっそりと並ぶ者が。
しかも一定数いた。
その度に暁達や警備から注意を受け、中には不服を理由に暴れ出す者まで出る始末。
その様な輩は漏れなく火燐から鉄拳制裁を食らうか、雫の(威力を弱めた)パラライズボールによる麻痺で強制連行させられるまでがセット。
最初こそ様子を窺っていたアダム達も、高そうな服や鎧姿は目立つを理由に火燐と雫からジト目を向けられ、居心地が悪くなったのかそそくさといなくなった。
やがて、食べ終わった者の1人が全然足りない、もっと寄越せと叫んだのを機に人々が同調。
得も言われぬ美味さに気を大きくしたのか、この機を逃したら一生食べれないとの思いから来たかは不明。
ともあれ暴動の1歩手前にまで発展し、これに警備達が落ち着くよう促すも全く効果がなかった。
我慢出来なくなったガイウスが牢屋へぶち込むぞとの圧に人々は怯み、叫びこそしなくなったものの「何か納得出来るだけのものを用意しないのであれば、ここから動かん!」との目付きでガイウス達を見、真っ向からぶつかる形に。
両者の睨み合いは1分が経っても全く収まる気配がなく、見兼ねた凛が1週間後に再び行う旨を伝達。
人々は歓喜し、反対に(申し訳ないを根拠に)落ち込むガイウス。
そんな彼を宥め、凛は今日のところは帰るよう促すを切っ掛けに、人々は笑顔で去って行った。
開始してから4時間後の午後9時過ぎ
誰も列に並んでいないのを見計らい、凛が今回のバーベキューはこれで終了だと発表。
残った人々の何割かは拍手で応え、そうでない者達はこのまま残っていてもこれ以上何もないと踏み、離れて行く。
凛が指示し、本人込みでバーベキューの片付けを最低限だけ行い、時間も遅いから残りは明日へ…とのやり取りで開始された片付け。
時間が経つに連れ、残った人々の中から手伝う者がぽつぽつ現れ、その分だけ早く終わる事が出来た。
感謝の印として、凛は1人1人にクッキーが入った袋を手渡し。
警備とガイウス達へはステーキ肉が乗った皿等を渡し、軽い挨拶と共に別れて家路に就いた。
帰宅後、凛は限界を迎えたらしいナナを自室に休ませ、皆をダイニングに集めた。
テーブルの上には各種ペットボトル飲料、それと先程と同じステーキ肉等が置かれてある。
「まずは皆さん、今日のバーベキューお疲れ様でした。」
そう言って、凛は頭を下げた。
「ニーナさん、トーマスさん、コーラルさん、ジェシカさん、ダニーさん、エディさん、カーターさん、購入したばかりなのに早速扱き使ってすみませんでした。特にニーナさんは最も大変な場所でしたし。」
翡翠が肉を焼いてカットし、ニーナが皿に移して次に託した相手…それはリーリアだった。
そこらではまずお目に掛かれない美貌+圧倒的破壊力見たさにダントツの人気、にも関わらず彼女はのんびりな性格の持ち主でもある。
配るまでに人一倍時間を要し、ニーナはかなり忙しそうにしていた。
「…いえ、御主人様。気になさらないで下さい。私も途中から何だか楽しくなってきた位ですし、お役に立てて光栄です。」
(固いなぁ。)
若干含みを持たせつつも恭しく頭を下げるニーナに凛は微苦笑を浮かべ、表情を真面目なものに変えて話を切り出す。
「では改めまして、僕の名前は凛と言います。まず始めに、僕はリルアースとは違う世界から来ました。」
『違う世界?』
「はい。魔法や魔物は存在しませんが、その代わり道具が発達した世界になります。」
こうして始まった凛の説明に分かった様な、良く分からないが入り混じった状況に陥るニーナ達。
エルマとイルマが「ですよねー」と共感するのを尻目に、凛は困り顔で追加だったり補足を行う。
ただ、一流の実力者且つ教養のあるガイウス達ですら理解出来なかったものを、ただの村人であるニーナ達や一介の盗賊ことジェシカ達が理解出来る訳がなく。
コーラルとダニー達3人は目を回して混乱、トーマスは難しい顔でぶつぶつと呟き、ニーナとジェシカは最早考えるのを止めたのか揃って遠い目をしていた。
「…ナナちゃんはまだ幼いので屋敷で過ごす事が多いと思いますが、ニーナさん達はサルーンが主な勤務先になる予定です。」
この説明にニーナ達ははっとなった。
「その勤務先は商店や公衆浴場等ですし、覚える事は沢山あります。なので、すみませんがそのつもりでお願いしますね。」
「ですが御主人様、恥ずかしながら俺…いや私は右腕が…。」
「ええ、勿論分かっています…少し失礼しますね…エクストラヒール。」
凛は申し訳なさそうなトーマスの元へ歩み寄り、彼の右上腕部分に両手を添える形で超級回復魔法エクストラヒールを施行。
トーマスの右腕を白い光が覆い、10秒程で(事故により失う前の)健全な状態へと戻っていた。
『!?』
これに美羽と火燐達を除く全員(ただし紅葉は瞑目して何度も頷き、暁達は感心した様子)が驚愕。
その中でも特にトーマス本人、未だに中級までの光魔法しか扱えないエルマが衝撃を受けている様だった。
その後、凛は右腕が戻ったとの実感を得たトーマスからお礼を述べられ、何度も何度も頭を下げられる。
そんな彼を宥め、時間が遅いを理由に食事と並行との形で自己紹介をし合う。
尤も、フォレストドラゴンの存在は凄まじいあまり、凛から水を向けられるまで完全に意識が肉に向き、その結果一拍遅れた上に噛む者が何人か。(イルマとか藍火とか)
途中、ジェシカが紅葉達は鬼人族かを尋ね、紅葉が肯定して鬼人族に知り合いがいるのかと返し、ジェシカはいや…とだけ答えて黙ってしまう場面も。
最後は揃って笑顔。
凛が明日も忙しくなるから今日はここまでと締め、1日を終えるのだった。
雫が地上を滑る際、トリプルアクセル等をとか考えたのですが、着てるのセーラー服だしなぁと思い断念しましたw
それと、凛にとって予想外の出来事はアダムが足に抱き付いたとの光景になります。
目の前にいたはずが足元に…とw




