31話
大剣を肩に担ぐ彼女が語る通り、種族毎に少なくとも計10体ずつは下位個体がいた。
凛のうっかりミスから始まった初の団体同士でのぶつかり合いは、(こう言っては何だが)結果だけ見れば十分過ぎる経験を得られたとも取れる。
「これを全部回収するのかー。」
「少し、時間が掛かりそうですね…。」
翡翠はうんざり気味。
楓は困惑し、澄まし顔なのは雫位。
美羽もあはは…と苦笑いを浮かべるしかなかった。
暁達は疲労で地面に座り込んでおり、紅葉から労いの言葉を掛けられつつ話をしている。
その後、凛達は10分程で魔物達の回収を済ませ、紅葉がいる場所へ。
すると、小夜がうつらうつらと船を漕いでおり、それに気付き凛が尋ねようとしたところ。
ナビから報告が。
曰く、彼女は進化する為の準備段階に入ったらしい。
詳細として、今の小夜はホブゴブリン。
そのホブゴブリンは進化先が幾つかあり、1つは敏捷性に優れたグレーターゴブリン。
1つが全身毛むくじゃらになって力が増し、暁やゴブリンキング程ではないが体が大きくなったバグベア。
1つが反対に小柄な体躯+背中に羽や尻尾が生えた外見のインプ。
最後が旭や月夜と同じレッサーオーガだ。
インプが今と同じ銅級で、インプを除いた3つが銀級。
他にも金級のマーダーゴブリンだったり、ゴブリン達を統べる金級上位のゴブリンクイーン(通常だとゴブリンキング)との選択肢があるのだが…今回は魔素値が足りていないので割愛する。
小夜が4つある選択肢から1つを選び、◯◯になりたいと願いながら休む。
そうすれば寝ている間に体が作り変えられ、次に目覚めた時には希望した種族になっている…のだそう。
「他のゴブリン系やレッサーオーガは知っていたし、毛むくじゃらの…バグベアだっけ?はまだ分かるとして。どうしてその中にインプが?(種族が)丸っきり変わっちゃう様な…。」
進化先のその先。
つまり羽の生えた悪魔であるインプが次に進化した場合、レッサーデーモンになる旨もナビから伝えられる。
小鬼から悪魔へ。
容姿は勿論、同じ亜人との分類でも異なる種族となる事に、凛が不思議がる。
そしてそれは他のメンバーにも伝わり、ほぼ全員が驚いた顔をイルマに向ける。
話の流れから、彼女がイルマみたいになるとでも考えたのだろう。
ただ向けられた側であるイルマとエルマとはリンクしていない=ナビの声が聞こえない。
その為エルマは「え?え?急に何?」とわたわたし、エルマの頭の上にも疑問符が。
凛は気付いていないが、ゴブリンは小鬼。
インプは小悪党、だが小鬼と呼ばれる事もあるから来ている。
「インプからレッサーデーモン…要は、小夜は紅葉みたいにも、イルマみたいにもなれる、と。」
それを裏付けるかの如く漏れた、凛の独白。
先程の答えでもある彼の呟きに、美羽達はやはりとでも言いたいのか神妙な面持ちに。
イルマとエルマは、「そうなの!?」と驚愕に満ちた眼差しを凛に向ける。
そんな彼女らを他所に、ナビと凛による話は続く。
纏めとして、ゴブリンキングになるとそこで進化は打ち止め。
他はいずれも先が見込める為、将来が楽しみとなった。
凛はゴブリン系を真っ先に進化先から除外。
同様に、動物系統へ進むバグベアも選択肢から省かれた。
残る2つ。
イルマみたいな悪魔か、他の仲間と同じ鬼人系統に進むかだ。
暁、旭、月夜がオーガ種なので、出来れば小夜もそちらに進んで欲しくはあるが、無理強いはしたくない。
本人の意思に任せよう…との意見になったところで小夜本人から自分も紅葉達と同じオーガになりたいとの申し出が。
だがそこで限界が訪れたらしく、そのまま眠ってしまった。
ややあって、小夜を休ませるとの名目で紅葉だけが屋敷に帰り、残るメンバーで森の探索を続けるとなった。
凛達は魔物を倒しながら魔素と素材を集めつつ、近場での狩りを継続。
それでも正午と午後3時になれば一旦戻り、紅葉と一緒に昼食やおやつを食べたり話をして過ごす。
やがて、もうすぐ午後5時になると言う頃にエルマとイルマ。
旭と月夜の4名も進化可能だと分かり、彼女のサポートをしながら移動を開始。
その傍ら、エルマとイルマはそれぞれエンジェルとデーモンに。
旭達はオーガとは別に、サイクロプスやトロールと言った巨人の種族にも進化出来ると伝えられ、皆から「へー」と感心が寄せられた。
帰宅後、凛はエルマ達や旭達だけ先に夕ご飯を軽く摂って貰い、早目に休ませるとの流れに。
午後8時頃
「進化かぁ。僕にも進化ってあるのかな…なんて。」
浴室にて、お湯に浸かりながら凛が1言。
料理は勿論。
今朝作ったデザートの数々も大好評で、笑顔が絶えないまま夕食を終える。
今回食べられなかった者は明日にとなり、皆で後片付け等を済ませ(暁もこれに含まれ、食器類を割らずに運んでいたので火燐と雫が地味にショックを受けていた)、女性陣や暁に配慮して1番最後に1人楽しんでいるところだ。
そんな彼が思いを馳せるのは進化について。
エルマとイルマはこれからも順当そうなので外すとして。
こうも進化先が分岐するのかと勉強になったし、もしかしたら自分も…?なんて思うのも不思議ではない。
「今考えても仕方ないし、明日からも頑張ら…ん?」
そして今日の出来事を振り替えり、誰よりも多く魔物を倒してはみたが全然足りなかったか…等と思案し、そろそろ出ようと浴槽の縁に手を掛けた瞬間。
「凛。私も入る。」
「お邪魔しまーす♪」
バスタオルを体に巻いた、雫と美羽が突撃して来た。
「え?雫に美羽?さっきお風呂へ入ったのに何しに…って、2人共。いきなり抱き着かれると、その…(胸が)当たってるんだけど…。」
2人は浴室に入るなり、脇目も振らず真っ直ぐ浴槽へ。
そのまま凛の両腕を手に取り、抱き着いてみせた。
「(わざと)当ててんのよ。」
「そーそー。雫ちゃんの言う通り当ててるんだよ♪」
雫も美羽も困った様子の凛にお構いなく、片や澄まし顔のままぐりぐりと左腕に胸を押し当て、片や笑顔でぎゅっと抱き締める。
まだ美羽はふにっとした柔らかい感触があるから良いものの、雫は完全にバスタオルと肌の質感のみ。
しかもぐりぐりと何度も擦る動きを取る事から、痛みすら生じる程だ。
凛は様々な意味で我慢しようとも思ったのだが、2人の予想外な答えによるインパクトが勝り、出るのは「ちょっ、2人共!そんな情報どこから仕入れて来たの!?」と驚きの声。
「「勿論、凛(マスター)の知識から。(だよっ♪)」」
しかし澄まし顔のままだったり嬉しそうな答えに、「やっぱり…」とがっくり項垂れる。
この後もぎゃーぎゃーと騒ぐ光景はしばらく続き、浴室で一体何が?と疑問を持たれるまでに。
3日目
翌朝、エルマとイルマは銀級上位のエンジェルとデーモンへ。
旭と月夜も同じく銀級のオーガへ、小夜はレッサーオーガに無事進化出来たのを確認。
しかし5人は進化したばかりのせいか上手くバランスが取れず、動きに少し変なところが見受けられた。
生まれ変わった体に馴染んでいないのが大凡の理由だろう。
そう当たりを付けた凛は5人に休みを与え、申し訳なさそうにする彼女らへ、昨日みたくお昼やおやつ時は家路に就く。
あまり遠くまで行かないを約束に、屋敷を出る。
この日の午後、火燐と雫に進化の兆しが見えたものの…進化先が『???』としか表示されなかった。
2人を心配した凛は、無理に進化しなくても良いのではと促すも、火燐達はもっと凛の役に立ちたいからとしてこれを拒否。
若干眠そうにしながらも普通に夕食を済ませ、自室へ向かうのを見送るしかなかった。
「火燐と雫…大丈夫かな。」
場所は再び浴室。
凛が俯きながら入浴していたところ、昨日みたく美羽と雫━━━ではなく、翡翠と楓がバスタオル姿で入って来た。
「凛くーん!昨日は美羽ちゃんと雫ちゃんが来たんだってー?」
「お邪魔しますね…。」
「今日は翡翠と楓か、昨日の美羽と雫だけじゃなかったんだ…。」
凛がえ…と言いたげな顔になり、翡翠が「まーまー」と彼を諭しながらもしれっと入浴。
彼女の後ろを、若干申し訳なさげの楓が続く。
「凛くんの事だから、火燐ちゃん達の事でも考えてるんだろーなーって思って。だからあたし達、凛くんを励ましに来たの!」
「凛君、元気出して下さい…。」
「しかも見透かされてたーーー!」
自らの行動を予測され、途端に恥ずかしさを覚える凛。
思わずと言った感じで盛大に頭を抱えた。
4日目
火燐は炎の精。
雫は水の精と言う種族へとそれぞれ進化。
どちらも、金級中位の強さとなった。
「炎の精に水の精か…ん?炎の精?まさかね…。」
朝食時、凛は嬉しさから顔を綻ばせる火燐達に目線を向けつつ、難しい表情でそんな事を口籠る。
この日は午前中にエルマ、イルマ、小夜。
午後は翡翠と楓に、進化の兆しが見えた。
「…良かった。今日は誰も入って来ないみたいだね。これからもこんな感じの日が続いて欲しいんだけど…。」
入浴時、凛は誰からの介入もなく、無事に終えられたと安堵。
ただ、無意識に出た本音とは言え、それはどう見てもフラグ。
明日から絶えず誰かしらが、しかも自ら立ててしまった事に全く気付けないでいた。
5日目
エルマとイルマは、共に魔銀級のグレーターエンジェルとグレーターデーモンへ。
小夜はオーガへ。
そして翡翠は風の精、楓は土の精へとそれぞれ進化。
「ボクも火燐ちゃん達に負けてられない!マスター、今日はもう少し奥まで行ってみようよ!」
これに触発された美羽が、少々無茶な案を凛に持ち掛ける。
彼女の意見に火燐、雫、暁、月夜の4人が大きく同意。
他の面々も、満更でない態度を示した。(旭だけは少々面倒そうな表情を浮かべ、暁から拳骨を貰っていたが)
「えぇ…。」
特に4人の熱量は相当なもので、凛は断り切れなかった。
放って置くと、彼女らだけで行くと言い出し兼ねないからだ。
故に、渋々ながら表層の中部付近で探索する事が決まる。
先に凛と美羽が現地へ向かい、大丈夫そうな場所に降りてポータルを設置。
その後火燐達がポータルで凛達と合流…的な流れだ。
「大丈夫かなぁ…。」
「大丈夫大丈夫!その為にボクとマスターが見に行くんだし!」
「まぁ、そうなんだけど。」
「ほらほら、マスター行くよ!」
「ちょ、美羽。分かったから引っ張らないで!」
未だ乗り気でない主の腕を美羽が上方向に引っ張り、浮遊。
火燐の「頑張れよー」の声をバックに、真っ直ぐ南方向へと飛ぶ。
いきなり引っ張られ、空中でもしばらく動揺が続いた凛。
やがて覚悟を決めた彼は逆に美羽を引っ張る勢いで前に出、揃ってスピードアップ。
すぐに音速を超える速さとなり、森の上を飛び続ける事4時間。
2人は表層中部に到着する。
『(…この辺りで良いんじゃない?)』
『(んー、そだね。それじゃ、下に降りよっか。)』
森に生える木の葉に黒みがさしたと捉え、降り立つ凛と美羽。
周辺に魔物がいない事を確認。
設置したポータルを設置を介し、すぐに火燐達が姿を見せた。
凛は彼女らが来るまでの間、周辺を警戒。
同時に、近辺の魔物についての情報収集を行ってもいた。
「ナビによれば、この辺りになると金級の魔物も普通に出るんだって。油断せず、でも出来るだけ早く終わらせて戻ろう。」
凛の言葉に、美羽達が真面目な表情で頷く。
彼も頷きで返し、すぐに応戦出来る構えで移動を開始。
その後、凛達はナビから齎される情報を頼りに単体。
若しくは少数で行動する魔物を中心に探し、屠っていく。
その中に、銀級の強さで1つ目。
且つ5メートル近い背丈の巨人であるサイクロプス。
獅子の顔、山羊の体、蛇の尻尾を持つ金級のキマイラ。
キマイラと同じ金級の強さで、フォレストウルフを進化させたダイアウルフ。
スピノサウルスの様な見た目で、金級上位の強さを持つ土属性のドラゴンこと土竜。
凛達が下界へ降臨した時に見掛けた飛竜ことワイバーンの姿もあり、午前中の内に率先して魔物達を片付けた美羽が進化可能に。
先日までとは異なり、魔物の強さが1段階上がったおかげなのかも知れない。
しかし、例え火燐達と同じ『???』でも、進化出来るのに変わりはない。
緊張の糸が切れ、安堵した美羽が地面に座り込んでしまう。
それを危惧した凛は迅速に動き、多くの魔力を費して創った頑丈な小屋を即席で用意。
小屋の中にポータルを設け、念の為に内側からも魔力による強化を施してから皆で帰宅。
屋敷にいる翡翠達共々皆で無事を分かち合い、昼食以降を屋敷でのんびり過ごす事に決めるのだった。




