30話
夕食が済み、2時間が流れた頃。
自室で過ごす凛の元に、ナビから連絡が入る。
どうやら夕食後に美羽から相談を受けたらしく、火燐、雫、翡翠、楓の4名が主の役に立ちたい。
その為にはやれる事を増やす必要があるを名目に、彼女らとリンクしても良いかの許可を求められた。
報告を受け、凛は作業の手をピタリと停止。
続けて、こちらの配慮が足らないせいで火燐達に気を遣わせてしまったと少し申し訳なさそうにする。
「そうなんだ、火燐達が…分かった。丁度良いと言えば丁度良かったし、許可するよ。ついでに、これからもし向こうに関する情報を求められたは場合は、僕に意見を求めずそのまま教えて構わないからね。」
《畏まりました。その様に差配致します。》
「うん、お願い。」
ナビとのやり取りを終え、凛は中断した手を再び動かし始める。
明日からの予定。
まずは死滅の森へ向かい、暁達を紅葉みたく人に近い姿にまで進化させ、皆でサルーンへ向かう事。
しかしそこへ至るまでに、多くの魔物を討伐する必要があると凛は予想。
それと並行し、魔物を回収出来る要員は多いに越した事はないとも考えていた。
なのでナビの報告は凛にとってありがたく、いずれはエルマ達や紅葉達にもリンクを行う方向に考えをシフト。
《近隣一帯の魔物が当屋敷に目を付けた模様。然程影響はないと思われますが如何致しますか?》
等と思っている内に届けられた一報。
攻撃自体は屋敷を建ててからそう経たずして受けていたのを把握済みではあったのだが、相手は鉄級からせいぜい銀級。
上級どころか超級魔法ですら数発は凌ぐよう設計された建物が彼ら程度で揺らぐはずもなく、ナビは取るに足らない問題として放置。
魔物側も、攻撃が通じないと分かったのだから諦めれば良いものを、ダメだったから引くとの考えはないらしい。
始めに襲撃した1体が援軍を呼び、その援軍込みでダメだったから更なる応援を。
それらが重なり、まるで示し合わせたみたく他のグループと共に…となったのが現状だ。
ナビの報せを受け、屋敷は防音処理済みなのでこのまま放置しても大丈夫と言えば大丈夫。
ただ1度でも気付いてしまうと、皆の心が休まらなくなるだろう…と凛は結論付ける。
散歩に出ると言って外出し、ついて来た美羽と共に魔物達を殲滅。
諸々の片付けを済ませた2人は、屋敷の周りを頑丈で高い塀や門で囲い、即興で用意した遮断結界スキル(指定した者以外の侵入を拒む)を敷地内全域に施して帰宅。
3日目 午前6時頃
この日からエルマ、イルマ、紅葉がキッチンに加わる事となった。
これにより凛は今まで以上に余裕が生まれ、作業の合間にオーブンを使った焼き料理や焼き菓子が作れるまでに。
以前出したケーキのほとんどはアクティベーション。
品質が一定に保たれなくはなったものの、今後は自作でケーキが楽しめるとの利点が。
凛の腕前は言わずもがななので、否が応でも皆の期待が高まる。
ついでに冷菓。
これは冷やしたり凍らせるお菓子全般を指す言葉で、プリンにゼリー、ムース、ババロア、水羊羹、テリーヌ。
並びにアイスクリーム等をオーブンでの焼き時間の合間に作り、冷蔵庫や冷凍庫へ。
美羽は一緒にプリンを作った事があるので特に反応は示さなかったものの、代わりに他の者達が凛に不思議そうな目を向ける。
彼から冷やし固めるのを前提とした食べ物だと説明され、「へー」と納得。
今日の夕食で出すからお楽しみに、となった。
なんてやり取りをした後位に、火燐と雫の2人も参加するのだが…手伝いに来たはずなのに皿を幾つも落として割るわ。
力を入れ過ぎたせいで切った野菜が跳弾みたくあちこちに跳ね、向かった先で色々なものに被害を及ぼすわ。
調味料をぶちまかすわで仕事が増える一方。
最終的に美羽と翡翠から向いていない旨をやんわりと告げられ、2人してかなり落ち込んだ様子に。
しかし焼き上がったばかりのクッキーやケーキのスポンジ部分の試食係を凛に依頼され、気持ち渋面で口にしてみたところ、一瞬でご機嫌へと早変わり。
続けて、畳み掛ける形でこの時間を風呂の掃除等に充ててみてはとの助言を出されものだから、2人はかなりやる気に。
颯爽と走り去る彼女らを背に、美羽、翡翠、エルマからはなんて分かりやすい。
残りのメンバーからは都合の良い様に転がされて…との憐憫の眼差しになるも、当の本人達は全く気付いていなかった。
その後、7時からの朝食を摂り終えた凛達は8時過ぎに屋敷を出発。
200メートル程離れた地点で止まり、雫、翡翠、楓、イルマの中衛・後衛組は1人で練習。
火燐とエルマの前衛組は、美羽を相手に実戦形式で手合わせ。
紅葉達は凛から教わるとの流れで、それぞれ訓練を行う。
少しして、紅葉が鉄扇を扱う際に見られる魔力反応から、彼女は術者タイプ。
加えて風や土と相性が良さそうに感じた凛は翡翠と楓を呼び、訓練の合間で構わないので属性の扱いを紅葉へ教えるよう促す。
気付けば時刻は9時頃。
全員が高い集中力を維持したおかげか、あっと言う間に1時間近くが過ぎ去った。
凛の終了の合図で訓練は切り上げられ、全員で死滅の森へと入る。
死滅の森は、嘗て凛がいた日本がいくつも収まる位には広大な森。
大まかに表層、中層、深層、最深部の4つに分かれ、各層が切り替わるまでに最低でも日本列島1つ分以上は移動するとの計算だ。
そして最深部へ近付くに連れ、魔素の濃度も上昇。
相応に、強力な魔物が出現する頻度も増していく。
凛達が入った表層は、死滅の森の中で最も外側に存在。
その割合は森全体の半分を埋めるとも。
又、ど真ん中にある魔素点から最も遠い場所に位置するを背景に、入口付近は銅級や銀級。
中層付近は金級だったり魔銀級の魔物が最低ライン…と言った具合で、同じ表層でも強さにばらつきが生じる。
訓練を終える前。
森の出入口付近に、魔物が1体だけで行動しているとの報告を凛はナビから受けていた。
1行は凛先導でその魔物の元へ向かい、森に入ってから10秒程で蟷螂の姿をした魔物と遭遇。
その蟷螂はバトルマンティスと言い、銀級の強さを持つ魔物だ。
全長180センチ近くあり、鋭い鎌の形をした前足を主武器としている。
まずは凛が様子を見ると言って前へ進み、1人でバトルマンティスと戦う事に。
「キチキチキチキチ…。」
バトルマンティスは2つある前顎を擦り合わせる形で警戒を露にし、右の前足を高く構えて攻撃態勢をとる。
ギィン
ヒュッ
ヒュッ
ヒュッ
ヒュヒュヒュヒュッ
最初の攻撃を凛に弾かれ、続けざまに何回も攻撃を繰り出していくのだが、その悉くを避けられてしまう。
やがて業を煮やしたバトルマンティスは右前足を大きく振りかぶり、繰り出された攻撃を凛は真上に跳んで回避。
今の動きは、バトルマンティスにとって予想外だったのだろう。
仕留めたと思ったら、ギリギリまで引き付けられただけ。
獲物が躱した先にあった木に鎌部分が深く食い込み、身動きが取れなくなってしまったのだから。
「へぇー…ここに生える木って、かなり頑丈に出来てるんだ…おっと。観察している場合じゃなかった。」
家を造る材料とかに使えそう、なんて現を抜かしたのはさて置き。
何とか抜け出そうとして藻掻くバトルマンティスと木へ交互に視線を向けた凛は、やがて冷静に止めを刺す。
「ギヂィィィィィ…!」
ただ、その終わらせ方が不味かった。
本来であれば頭を潰すか首を斬り落とすべきだったのだが…凛が取った方法は打刀で心臓部分を貫くと言うもの。
バトルマンティスが断末魔を上げるのを機に、周辺が俄に騒がしくなる。
《マスター。只今の断末魔により、近くにいるバトルマンティス達がこちらに向かって来ております。間もなく接触。》
「…!仲間を呼んだのか。皆ごめん!このカマキリの仲間がこっちに来るみたい!今すぐ戦闘態勢に入って!」
凛は自らの詰めの甘さを悔いるも、先に状況を知らせ、戦いに備えるのが先だと判断。
彼の言葉に美羽達は応え、各自武器を構える。
程なくして、1行は集団戦闘へ突入。
バトルマンティス達との戦いの音。
それと討伐後を含めた彼らから漂う血の臭いから、他の魔物まで呼び寄せてしまう。
バトルマンティス以外の魔物が現れた事に全員が驚き、軽く戸惑ったりしたものの、ビットを操作しながら出した凛の指示に従い、その数を減らしていく。
30分後
凛が操作するビットでハイオークの頭を撃ち抜いたを最後に、戦闘終了。
息をつき、脱力する皆の周りには、計100体を超える魔物の死骸が。
内訳として、蟷螂の魔物であるバトルマンティスやキラーマンティス。
狼の魔物アッシュウルフにフォレストウルフ。
マーダーゴブリンやグレーターゴブリン。
弓を扱うゴブリンシューター、魔法使いのゴブリンウィザード等を含めたゴブリン達。
オークやオークアーチャー、オークメイジ。
ハイオーク、オークジェネラルと言ったオーク達。
2メートル程の大きさをした熊の魔物で、銀級のブラウンベアー。
そして銀級上位の強さを持つ、ヴェロキラプトルの様な見た目のランドドラゴンらの姿があった。
敵の上位個体であるキラーマンティスは、最も数が多いとの理由から主に凛が。
他のオークジェネラル、ブラウンベアー、ランドドラゴンについては実力者である美羽と紅葉に倒して貰い、それ以外を火燐達…と言った感じで討伐。
「ふぅ。ようやく終わった…。」
「だな。しかし、カマキリ1体だけのつもりが…すげぇ数になっちまった。」
鞘に刀を収め、軽く息をついた凛の横へ並び立つ火燐。
うわぁ…と零し、地に伏す魔物らを眺めてゲンナリするのだった。




