302話
視点は凛。
「それで…あー、誰だったか。」
「バカターレ。」
「違うぞ雫、アホターレじゃ。」
「ああ。」
「どちらも違うが!?アバトーレだアバトーレ!アレックス殿下に至っては何度かお会いしたでしょうに!」
「あー、だっただった。けどよ、強ち間違いとも言えなくね?」
「ぐっ!?」
ではなくアレックス。
厳密にはホズミ商会内にある応接室。
時刻は午前8時過ぎ。
雫や朔夜にバカだのアホだの貶され、アレックスからダメ出しされてたじろぐ、身形の良い強面男性こと現アバトーレ侯爵当主。
財務大臣に就く彼は、帝国に於いて重鎮も重鎮。
にも関わらず、苦い顔となる原因…それは要望が通らなかったから。
「つかよー。商業ギルド、それに既存の商会へ対する諸々の優遇だぁ?んなアホみてーな案が通る訳ねぇだろ。何考えてんだ。」
先日(ホズミ商会として建て直す前の)商業ギルド帝都支部にメスが入り、多数の罪人が出た。
お約束である汚職、癒着、賄賂etc…が原因で。
おかげで多数の穴が空き、人事関連でごたつきが発生。
一先ずとの名目で派遣された商国の商業ギルド員対帝都での商会団体&貴族との構図だ。
前者は早く落ち着きを取り戻したいが為、後者は振って湧いた幸運に肖りたい、滑り込みたいとの思惑が主。
派遣された側はさっさと仕事に取り掛かりたいのだが、必死な者程声高に喚き、しかも悪い事に影響力もある。
不慣れな者、権力を手にしたいだけの者、足を引っ張る者は不要。
折角刷新されると言うのに、再び問題がある。
若しくはないにしても横への繋がり…加えるならば実力不十分な者を雇い入れ、ホズミ商会からの商品調達も安くで済ませたい等言語道断。
「…で、見返りは何だ?金か?」
ダメだと見るや、頼ったのがアレックスの目の前にいる人物。
伝と言えば聞こえは良いが、単に成功報酬に釣られての事。
「知らないとでも思ったか?欲を掻き過ぎたな。」
1つの頂点の地位にいる自分ならばと思ったのだろうが、そうは問屋が卸さない。
雫に朔夜にアレックス親衛隊、(アレックスが帝国兵から個人的にスカウトした)孤人女性2名が冷めた目でアバトーレ侯爵を見る中。
アレックスの言葉、商人らとのやり取り現場を押さえた写真を証拠として突き付けられたのが決め手となり、彼は財務大臣の座を辞する結果に。
同時刻、凛は美羽やメルローズと共にオーバ山へ。
代表らと話し合いを行い、途中からフィリップ達や(気絶から復活した)エリオットが参加。
まさかの教皇登場&フットワークの軽さ故にかなり驚かれたものの、中への入口前の広場の一角に女神教教会を建てた後、エリオットを司祭として派遣。
他にも、何名かエリオットを補助する形で送る事が決まった。
と言うのも、オーバ山も霊峰エルミールや(過去の)ドネグ湿原。
それとソルヴェー火山と同様、地形や環境を変える魔素点程活発化し、魔物を生み出す数が増える傾向にあるからだ。
いずれも破壊、若しくは支配下に置いたとは言え、全てをコントロール出来る訳でもなく。
ここオーバ山の場合、少しでも早く多く稼ぎたいからと昨日の内から出力を上げ、金属や宝石の産出量がアップ。
それに伴い、(以前よりは少ないにせよ)魔物の出現数も増加。
一応は最奥地下にスペースは設けたものの、幸か不幸か強い個体は地下空間に、弱めの個体は入口近辺に集中。
文字通り集中とあってか今朝までに100体近い魔物と相対したとの報告を凛は代表から受け、そこから誰かしらでフィリップに伝わったのだろう。
その後も協議は続けられ、朝から夕方までを採掘や魔物の討伐。
以降は補助要員がオーバの入口を土魔法で封鎖、作業を終了するとの流れで管理しやすくした。
仮に翌朝解放するタイミングで魔物が押し寄せたとしても、エリオットは既に黒鉄級に近い魔銀級。
エリオットの補助を行う者達(主に人化スキルを施した魔物だが)は最低でも神輝金級以上の強さ。
ブラッドロード公爵家の兵達の増員を視野に入れ、更には冒険者ギルド新設予定も立ったのだとか。
しばらくは実戦や訓練がてら兵達が応戦、手が足りなくなったら…との話で落ち着いた。
視点は同じくオーバ山の外━━━ではなく内側。
獣王の末娘姉妹ことサラ&シーラ、晴れてアレックスの婚約者となったティナ。
同じく婚約者で、凛から能力を底上げされた事で本日より参戦のアイシャ。
更にはサラ&シーラ姉妹の監視、及び戦力として元ラウンズのナノウ、アイヴィー、ヴィクトリア。
獣国、帝国と来れば神聖国もと名乗りを上げたミリアを連れ、中層へと光輝はやって来た。
「どうして俺が…尻拭いは自分でやって下さいよぉ。」
そんな、やる気のない呟きと共に。
話は朝食時にまで戻る。
昨日ゼノンがオーバ山に挑み、志半ばで断念したから引き継ぎを頼むと光輝に依頼。
何故そうなったか。
入口から進んだ彼は途中までは良かったものの、中層のフルドラクイーンの魅了スキルにやられ、息子のウェルズや教育係に攻撃を仕掛けてしまった。
その後、教育係から治療を受けるも他のクイーン達やレインボーファンガスに良いようにされ、散々な結果で終わったとの愚痴を溢したのが切っ掛け。
それはそれとして昨晩、凛は暴君スキルを用い、レインボーファンガスやクイーン達を倒して得た状態異常スキルをアレンジ。
無効化にしたものを8色の小さな宝石に封じ込め、それをバングル型のブレスレットに収めたアミュレットを作製。
ゼノンの愚痴を聞いた彼は無限収納からアミュレットを取り出し、効果の説明を行うのだが…アクセサリーに用いられた素材に宝石をと告げた瞬間、大の宝石好きのメアリーが反応。
終わったのを見計らった彼女が凛へねだり始める傍ら、がっくりと肩を落とすのはメアリーの幼馴染ことゼノン。
そんな便利な物があるのなら自分が挑んだ時に渡してくれれば良かったのに…とジト目で凛を睨んだ。
ややあって、アミュレットの性能を見るテスト要員として抜擢されたのが光輝。
彼が行くならと勝手にメンバーが集まって━━━因みに、真っ先に挙手したのはとある双子姉妹━━━いき、最後がティナとアイシャとの流れ。
因みに、アミュレットは試作品だからを理由にやんわりと渡せない旨を伝え、メアリーはメアリーで肩を落とす。
それとミリアについて。
彼女はバルサー枢機卿の孫娘で、聖女とも呼ばれる。
笑みを絶やさない18歳の金髪美少女、高い光適性を持つが故の同行となった。
ヴォォン。
慎重に戦いを重ね、刀身を伸ばしたライトソードでガイアドラゴンを袈裟斬り。
正面への振り下ろしにより首から左肩へ掛けて切断、グォォ…との断末魔を最期に床へ倒れていった。
「…ふぅ。よし、これで2つ目の部屋も粗方攻略し終えたか。魔物が強いのは勿論だけど、状態異常効果のある攻撃を仕掛けて来る敵が多いのが厄介だな。時間も掛かるし。
凛様からこの腕輪を借りたは良いけど…いつでもあるとは限らないし、避けれるなら避けるに越した事はない。さて、皆の様子は…っと。ははっ、サラ達は順調。アイシャ様は…ティナちゃんの援護もあってもうすぐ終わりそうだな。ナノウさん達は流石の1言だし、ミリアさんは…推されるだけあって強いな。俺と(光の適性が)あまり変わらない感じ?」
一息ついた後、少し疲れた表情で辺りを観察する光輝。
こんな殺伐とした場所に理彩を連れて来なくて良かった、うん…なんて思いつつ軽く微笑む。
そんな彼の視線の先、アークドラゴンブラッドツリーを協力して倒したと思われるサラとシーラが笑顔でハイタッチ。
別な箇所では、アイシャがブレード付き魔銃2丁でパープルディオネアマスキプラを圧倒、ティナの炎系魔法での援護により間もなく終わりそうだ。
ミリアはネックレスとして首に下げたロザリオを両手で持ち、防御と攻撃を同時に行っていた。
騎士兼軍人のナノウ達3人は同じ組織なだけあって連携が取れ、安定した戦い方なのが見て取れる。
サラとシーラから、様付けでなく普通に話して欲しいと言われた光輝。
仲良くなる事に最初から賛成だった母親は元より、父親も認められて普通に会話する様に。
尚、ここでも親馬鹿が発揮され、両肩からミシミシ音がなる位ガッシリ掴まれた…とだけ。
話は戻り、それからも安定した進行具合でオーバ内を進み、午前中の内に最深部地下へ到着。
そこで(光輝にとって)最大級の戦いを無事終わらせ、再び最深部に上がる。
一角に設置してあるポータルを使い、屋敷へ帰還。
報告の為、光輝とナノウ達だけがゼノンの元へと向かった。
話は再び凛へ。
エリオット達にオーバ山の事を任せた彼らは、フィリップ達と共に先程オープンしたばかりの商店や喫茶店へ向かう事にした。
場所は聖都。
凛達が女神教本山から外に出、最寄りの商店や隣接する喫茶店へ近付いたところ。
店の前に並ぶ行列は短く、且つ女神騎士団に属する者以外の客同士が入店するのを譲り合っている事に気付く。
どうやら、神聖国は他の国と比べて購買意欲や食欲が控えめ。
しかも規律を重んじる風習があり、女神騎士団に所属する騎士は一般人よりも高い身分にあるとされるのが関係しているらしい。
フィリップ自ら店の前へ足を運び、様子を窺っている者達に遠慮なく商店や喫茶店を利用する旨を伝達。
(非番で私服姿の)騎士達へは、模範客となる様にと促し、凛達と共に聖都内を見て回った。
午前11時頃
1行が女神騎士団本部へ向かうと、何故かジークフリートと骸による手合わせが行われていた。
バルムンクとEXブレードを片手に、2人はギィン、ガン、ガガン、ガン、ガキィィン…と。
凄まじい剣戟を繰り返す2人。
程なくして彼らは凛達に気付き、数合打ち合ってから少し距離を取る。
互いに武器を背中の鞘に収め、合流を果たした。
「…で、2人はどうしてここで手合わせをしているのかな?」
「いやぁ、それがな?騎士達が俺とジークフリート、どちらが強いのかって話になったもんでよ。」
「僕達は上には上がいる事を知ってるからな。どちらが上なぞどうでも良かったのだが…折角だから手合わせをさせて貰った次第だ。」
凛の質問に気持ち申し訳を含ませた笑顔の骸、冷静な表情のジークフリートが答える。
ジークフリートは喫茶店が休みの時に騎士団本部で騎士達を鍛え、エルマとイルマもたまにそれに付き合っていた。
その事を知った骸はどの様な感じで指南するか興味が湧き、ジークフリートに併せて休みを貰ったエルマとイルマが同行。
無論、骸が動くからとストリゴイのクリムゾン達、ストリゴイカのスカーレット達も漏れなく付いて来ての見物だ。
訓練が始まって30分程経った頃。
順番を終えた騎士の1人が、折角来たのに見ているだけなのかと骸へ尋ねる。
骸はそれもそうかと答え、指南役として参加。
ついでにクリムゾン達も指南役として加わった。
骸は大剣、クリムゾン達は大太刀、槍、大斧。
スカーレット達は片手剣と盾、双剣、双斧を用い、騎士達の相手を務める。
そんな感じで指南役が一気に増え、1人当たりの訓練時間が増加。
凛達が来る少し前、疲労により騎士達全員がダウンしたとの事。
対する骸達は元気一杯。
近くにいた騎士の1人がこの中で誰が最も強いのかとの話から、2人が手合わせする流れとなったらしい。
因みに、シャルルとシャルロット。
2人は社会勉強の一環を名目に、火燐達と行動を共にしているのだそう。
「ふーん。あれがあんたにべったりだった白竜…ジークフリート?かぁ。あんた達もだけど、皆して強くなってるんだもん。ビックリしちゃったよ。」
「あー、しばらく会ってなかったもんね。ジークもあたしがいなくなった時はジラントだったし、今みたいに人の姿になれる様になったのも最近と言えば最近だからね。分からなくて当然だよ。」
「そっか。んで、そのジークと骸…だっけ?と親しげに話してる女の子は誰なんだい?」
「あの方は凛さんって言って、あの可愛さで男性なんだ。くれぐれも間違えちゃダメだよ?」
「男ぉ!?…あ。」
凛達から離れた木陰にて。
後ろ手を組むエルマに両手を前で重ねるイルマ。
それと壁に凭れ、腕を組みながら凛達が談笑する光景を眺める1人の女性。
さばさばとした口調の女性はエルマやイルマと親しげで、何より目を引くのは背中に生やす灰色の翼。
その彼女がイルマの凛が男性だとの情報に驚き、叫んだ事で向けられる、凛達3人の顔。
女性はやってしまったと言いたそうな表情になるも、既に遅し。
互いに顔を見合わせてから歩み寄る凛達を見、微妙な面持ちに。
「初めまして。僕は凛と申します。一応ではありますが、ジーク達やエルマ達を纏めさせて頂いてる立場にいる者です。」
「…ご丁寧にどーも。あたしはアウラ、中級堕天使だよ。」
彼女の前に立った凛が笑顔で話し掛けるのに対し、少々やらかした自覚のある女性は気まずげ。
それでもキチンとするべく居住まいを正し、自己紹介するのだった。
冒頭の茶番をやりたかったが為に登場、からの裁かれるが結末の哀れなアバトーレ君(笑)




