303話
「堕天使?」
「ああ。あたしも元はエルマと同じ中級天使だったんだ。エルマは上司から力を落とされて追い出された…けど、きっちりと手順を踏んだから天使のままだったみたいだね。けどあたしは真夜中に集落をコッソリ出たのがいけなかったんだろう。次の日の朝見た時、翼の色が白から灰色に変わっていたんだよ。」
「自分から出るか追い出されるかで種族が変わるって中々ですね…。」
「まぁね。けど集落にはいい加減飽き飽きしたトコだったし、この国にいる人達は天使じゃなくなったあたしでも敬ってくれるからね。何か事情があったのでしょう、って感じで。自分がこれからどうなるかで悩んでいた時期もあったけど…途中からそんなのどうでも良くなっちまったよ。」
肩を竦めるアウラ。
思わず零れた「良いんだ」との凛の呟きに、「飯の種になる訳じゃないしねぇ」と返答。
「それからあたしはこの国を起点として、エルマ達がどこに行ったのかって情報を探し回っててさ。そしたら最近、ここ聖都で白い髪と黒い髪で非常に似た顔をした女の子を見た事があるって話じゃあないか。
そんで(女神騎士団本部の門番から)今日来てると聞いて、いざ入ってみたらエルマ達がいたって訳だね。なんで教会じゃなくて騎士団なんだって事も勿論だけど、それ以上に騎士達を圧倒する位強い?驚き過ぎて、最早夢や冗談じゃないかって思ったさね。」
浮かんだ凛の疑問は、アウラの解説により納得。
成程…と頷いてみせた。
正規の手順を踏まずに天使族の集落を出たが理由なのか。
それか反逆の意志有りとでも捉えられたかは不明だが、堕天扱いとなってしまった彼女。
堕天使は天使や悪魔と同じく下級、中級、上級とあり、大天使や大悪魔と同じ強さが大堕天使。
更に進化を重ね、大きくなった翼が灰色から漆黒と化した暗黒天使が、熾天使や悪魔公と同ランクに該当する。
因みに、エルマとイルマ。
双方幼さが残る見た目、対するアウラはサバサバ系美人と。
仲が良さそうな割にまるで別人、って位似ていない。
「それはそれとして…ジ~クぅ~?」
アウラはそれまでの様子から一変、悪戯っぽい笑みへ。
凛から視線を移した事でジークフリートの体がビクッと強張り、アウラは悪戯っぽい笑みを浮かべたまま彼へ歩み寄る。
「あんたってば、集落にいた時からだと全然想像出来ない位に偉くなったみたいじゃないの~。ん~?」
「いや、あの、それはだな…。」
「エルマ達がいなくなった後、少ししてあんたまでどっか行っちゃったもんだから退屈で退屈でしょうがなかったんだからね?だからあたしも集落を出る事にしたんだよ。どう落とし前付けてくれんの?ええ?」
「それを僕に言われても困るのだが…。」
周囲をぐるぐると回るアウラに、本人はいっぱいいっぱい。
何ら悪い事をした訳でもないのに気をつけの構えを取り、少し上を向いた後困った相貌へ。
どうやらジークフリートはアウラが苦手らしい。
面倒見の良いエルマや優しいイルマとは異なり、悪戯心満載なので仕方ない部分はあるかも知れないが。
「まぁまぁアウラちゃん。こうやって皆無事に集まれたから良かったじゃない。」
「アウラさんはエルマ達の知り合いだったんだね。」
「うん。あたしとイルマちゃんとでよく一緒にいたんだけど、そこへジークやアウラちゃんが後から合流するって流れが多かったかな。」
「ある日いきなりエルマが集落から追放されたって聞いてね。あたしはエルマ程頻繁にイルマと会っていなかったから上司にはバレなかったんだけど…エルマ達から事情を聞いた今では、あの時一緒に出ていればって後悔してるよ。」
歯を食いしばり、苦々しい顔付きのアウラが吐き捨てる。
話の内容はエルマとイルマ、それと凛が初めて接触した時の事を指し、自分がいればオーク程度に遅れを取る事はなかった。
自責の念に駆られる彼女の背中にエルマが右手を添え、向けられた凛の笑顔にエルマも笑みで応対。
「アウラさんは優しいんですね。」
「やさっ…!ま、まぁ、あたしが1番しっかり者だからね。なら、皆に気を配るのは当然だよ。」
混じり気のない称賛にアウラは得意気になるも、褒められ慣れていないのが災いしたらしい。
頬や耳を真っ赤に染め、そっぽを向く。
その後、ジークフリートがアウラが困っている様子を見て珍しさから笑いを堪えているのが本人にバレ、ムキになったアウラがジークフリートにちょっかいを出す等して軽く一悶着。
それからは談笑へと移り、アウラも凛に付いて行く事が決定した。
ついでに、ちゃん付けで呼ばれる通り、こう見えてアウラの方がエルマとイルマより歳下。
「え、逆じゃない?」と皆から突っ込みを頂戴し、最年少のジークフリートを交えた4人を微妙に困らせた。
更に、新しい天使を理由に元妖精。
現エンジェルロードやティターニアのミラ&エラ姉妹が参上。(しかも何故かハート型と星型のサングラス装着+シャキーンとのポーズ付きで)
ノリと勢いが良いミラ、雫に似て結構な頻度で混ぜっ返すエラの乱入によりちょっとだけ場が混沌と化した。
時間はちょっとだけ遡り、凛がアウラと話をし始めた頃。
帝都にて先日、火燐が商業ギルド帝都支部を含めた各所で説得により、ホズミ商会関係者に対して被害を与えようとする者は激減。
代わりに関連施設を出てすぐガラの悪い者達に襲われ、宝石を始めとする商会関連商品や金品が奪われるとの被害が相次ぐ。
耳にした火燐はポールや雫達を連れ、ホズミ商会帝都支部へ。
支部長から詳細を聞き次第、調査依頼も兼ねてステラと双葉を呼んだ。
「よっ。」
「かはっ…。」
ネコミミくノ一こと、忍装束姿のステラが素早く男性の目の前に立ち、後頭部へ軽く1撃。
当てられた男性は白目を剥き、前へと倒れていく。
数分前、帝城上に立ったステラは眼下を見回しつつ月の目スキルを行使。
閉じた片目で上空から帝都の様子を俯瞰、もう片方の開いた側の目で眺めるとの構図だ。
部下達や影の魔物集団ディシーバーズの働きぶりを観察と並行し、宝石店を出た客に暴行を加えようとする犯罪者達を発見。
自身の影に溶け込んでの高速移動で現場へ向かい、鎮圧。
何回目かのゴロツキ共を倒し終え、一段落ついたところだった。
『(火燐ちゃーん。こっちは終わったよー。部下達と合流してそっちに向かった方が良い?それとこの人達はどうしよっか?)』
『(お、あんがとよ。だが大丈夫だ。こいつらは見せしめ、帰る場所を失って貰う事にするからな。)』
『(えっ?それって…。)』
ステラが最後に救助へ赴いたのは宝石店前。
何回も頭を下げる客に返事を行うと同時、念話で火燐へ報告。
不穏な雰囲気を感じ取り、少し嫌な予感がした彼女は火燐がいるであろう方向を向く。
ドォォォォォォン
「あー…やっぱり。」
瞬間、案の定と言うか。
火燐が向かった犯罪者のアジトと思われる建築物、それも複数から上がる巨大な火柱。
つい今しがたまで忙しなかった客の動きは見事に固まり、ステラは複雑な様相へ。
「火燐は相変わらず派手なのが好きだねぇ。まぁでも、これに懲りて悪い事をする人達がいなくなるのを考えたらまぁ…必要悪ではある、のかな?」
「…凛様か。帝都に住んでる人達が怯えそうな気がするんだけど…ところでそちらは?天使族の人?」
「彼女はアウラ。追放されたエルマとは違い、自分の意志で集落を出たのが災いして堕天使になっちゃったんだって。」
「…え、何そのトンデモ効果。」
「本当だよね。堕天使に堕ちて光の適性が半分に減ったけど、代わりに生まれたのが闇の適性なんだって。」
「それは…喜んで良いのか悪いのか判断に困るかも。」
「ね。」
神聖国からポータルで出た先。
それはステラのすぐ傍だった。
後ろから声を掛けた凛に、未だ巨大な火柱の方に体を向け、視線だけを寄越した彼女が回答。
2番目に来た「どもどもー!」「おっすおっすなのん」とアピールするとある姉妹には、「ミラちゃんはともかく、エラちゃんは毎回挨拶変わるよね…てかそのサングラス何」と微苦笑。
そこから美羽達が次々と姿を現し、ステラが助けた客。
加えて、ポータル初体験のアウラが「え?え?」と目を丸くするのが印象的だった。
「ステラ様、間もなく全ての鎮圧が終了するかと。」
「あ、うんご苦労様。それじゃ引き続き帝都の事をお願い。相手を無力化する目的でなら雷輝石とか使って良いからね。」
「分かりました。」
なんてする内に、ステラの部下と思しき(彼女と同じ装いの)男性が出現。
帝都民の叫びや憲兵の慌ただしい声が彼方此方より届くも、完全に無視。
跪いた状態でシュッと姿を見せ、言いたい事だけ言って黙る彼に姉妹が「おー、かっくいー!」「なのん」とちょっぴり感動。
客とアウラが「今度は何ー!?」と驚く中、男性へ労いの言葉を掛けたステラが指示を出す。
男性は跪いたまま更に頭を下げて返事し、体勢はそのままに音もなくその場からフッと消え失せるのだった。




