301話 75日目
75日目 午前5時前
「よ〜アレックス、楽しい一夜を過ごせたかよ?」
「ん。詳細きぼんぬ。」
アレックスとステラ。
2人揃ってダイニングへ降りて来るのを見計らい、火燐&雫が迫る。
ニヤケ顔の火燐、メモとペン持参で「はよ」と宣う雫共に誂う気満々な事もあり、早朝にも関わらず始まる口喧嘩。
ステラは(*・ω・*)の表情で眺めるしかなく、凛は藪蛇のリスクが高いを理由に苦笑い。
美羽を始めとした女性陣が向けるは好奇心の眼差し。
しかしただ単に語り合っただけと分かるや一気に冷め、ステラが( *¯ ꒳¯*)と微妙にドヤる一方。
「はー、つっかえ」と火燐。
雫は「ん。つまらない」と後ろにメモやペンを投げ捨て、肩を怒らせる寸前のアレックスをステラと凛が宥める。
何とも波乱に満ちた1日のスタートとなった。
それから1時間と少しが経ち、朝食が開始。
カロンは日本人だったので言わずもがな、ライルも地頭が良いので昨日の内に箸やフォーク、スプーンの使い方をマスター。
ただ、ティラノサウルスだった薺は見ての通り幼女。
活動時は前足をあまり使わなかった+お世辞にも知能が高いとは言えないとの弊害からか、嘗ての藍火よりも酷かった。
厳密にはスプーンすらまともに掴めず落とす=上手く口まで運べない=身の周りがべちゃべちゃ状態との構図に。
当時は左右から与えられて過ごし、解散後に幾度となくチャレンジ。
慣れたら慣れたで、今度は生来持ち合わせた力で食器を破壊しまくる始末。
そんなこんなで努力を重ね、どうにか食事と呼べるレベルにまで達する事は出来た。
「薺、口の周りがイチゴジャムで汚れているのです。」
「えへへ、ありがとっ。おねーたん♪」
「薺ちゃん、牛乳のお代わり入れとくね。」
「それじゃ私はフルーツヨーグルトあげるっ♪」
「わーい!2人ともありがとー!」
とは言え、まだまだ未熟も未熟。
顔の下半分が汚れている彼女を隣に座る梓がナプキンで拭き、近くに控えるナナがカップに牛乳を注ぐ。
梓の反対側にいた菫が自分のフルーツヨーグルトを差し出し、終始笑顔の薺がお礼を述べる。
(和むなぁ…。)
梓の隣にいる垰を含め、彼女らの様子を見た一同がほっこり。
離れた席にいるエリオットに至っては、尊い…と口にしたのを最後に気絶。
幼女好きの彼にとって、ナナ達の仲の良い光景は正に天国。
キャパシティーを優に越え、鼻血を垂らしながら後ろに倒れる彼。
強かに後頭部を打ち、しかしながらその表情は非常に幸せそうだった…とだけ。
午前7時過ぎ
「カロン、使う武器は決まった?」
訓練部屋にて、一通りの武器を床部分に並べた凛が尋ねる。
昨日は魔力に関する勉強や練習が主。
復習を交えつつ、体捌きについても今回教えるつもりでいる。
「僕としてはオーソドックスに剣と盾とか、大鎌辺りがデュラハンちゃんに似合うと思うんだけどな!雰囲気出るし!あ、元の姿の話ね。」
「大鎌ですって!うん、良いじゃない!貴方に絶対似合うわよ!」
「何言ってやがる、全身鎧っつったら大剣に決まってるだろうが!」
「同じく!異論は認めねぇ!」
現在の人型、元の鎧型を連想したステラが嬉しそうに。
大鎌と聞き、仲間が出来ると喜ぶ渚が。
大剣以外は許さんとばかりに声を荒げた火燐とアレックスが、本人を前にそれぞれ主張。
当のカロンはどこか気まずげ。
加えて、申し訳なさの表れでもあるが如く正座状態だった。
「えっと…私的には使うなら大盾が良いかなー、なんて…。」
どうやら、罪悪感の理由はコレに該当するらしい。
人差し指同士をつんつんと顔の前で合わせ、遠慮を含ませての物言い。
「「はぁ!?」」
「え?」
「何ですってー!?」
これに納得いかず、憤慨したのが火燐とアレックスと渚。
ステラは予想外とばかりに面食らう。
「うんうん。大盾の素晴らしさが分かるとは、デュラハンさんは良い人なのです。」
大盾+メイス使いの梓が満足そうに頷く。
仲間が増えると分かり、カロンを囲んでの火燐達4人による話し合い(?)を前に、好感度が爆上がりした瞬間でもある。
途中で凛も参加で話し合った結果、左手は要望通り大盾。
右手には大剣や大鎌等の武器を都度使い分け、しばらく様子を見るで一先ず纏まった。
大剣に大鎌。
元の鎧型に戻り、空中に佇みながら携える彼女はどちらも様になっていた。
「え、えぇ~い。」
『………。』
にも関わらず、攻撃ではなく防御に重きを置いたのは、彼女が極度の運動音痴だったから。
右手に大剣を持たせ、試しに1振り。
そんなカロンから発せられるは何とも気の抜ける声。
驚愕に値する程の力やキレのなさ。
へろへろとした動きで振り下ろす光景を目にした瞬間、凛達が抱いたのは「あ、ダメかも知れない」との感想。
一様に何とも言えない表情で押し黙り、別な手段を講じた方が良いか?との考えに至った程だ。
如何にも接近戦が得意そうな雰囲気にも関わらず、実際は目も当てられない体たらく振り。
それでも、精霊なだけあって魔力量や操作はまぁまぁ。
なので、大盾で身を固めつつ魔法等を軸とした遠距離砲台にするべきかとの意見が出、そちらで纏まる方向に。
カロンが格好良く武器を振るう姿は見れるかも知れないし、永久に来ない可能性もある。
もし見れる様になったとしても、しばらく後になりそうだとの意見で一致。
「おねーたん、あたしは何をしたら良いの?」
「あっ、ごめんなのです。あそこに並んでる武器だと薺じゃ大きいですし…ひとまず的を殴ってみるのです?」
「殴る?」
「はいなのです。あそこに見える的をこう…バーンと当てるのです。」
「うん!でも届かない…。」
的の高さは130センチ位。
対して、相応の背丈しかない薺では届かず、しょんもりと脱力。
見兼ねた梓が右手で自身の胸を叩き、「私が肩車するのです」と姉力を発揮。
「これで届くのです。薺、目の前にある的を殴ってみるのです。」
「うん!…えいっ!」
その姉の協力もあって、割と良い高さに。
促されるまま、薺は気持ち斜め上方向を殴り付け、物凄い音&勢いと共に的が壁へ激突。
「わーい、飛んだ飛んだー!」「初めてにしては上出来なのです」と当人達は喜んだ様子を見せ、目先の事象に夢中。
薺の両の指全部が黒い靄の様なもので覆われ、皆の注目を集めている事に全く気付けないでいる。
薺はティラノサウルスへ進化した際、『暴君』なるスキルを得ている。
これは(主に最終進化をした者でないと意味はないが)倒した相手のスキルを奪うだけでなく、奪ったスキルのアレンジが出来る様になると言うものだ。
ティラノサウルスとなった薺が凛の仲間になるよりも早く、邪樹龍クリフォトを討伐。
尻尾から最大10体までを分体へと変化させる『使い魔』を獲得。
そして薺は今回、その使い魔スキルを無意識の内に発動。
両手の指に宿らせ、攻撃力を上乗せさせるとの形で。
因みに、薺の本来の姿では主に噛み付き、体当たり、後ろ足、尻尾を用いた攻撃を行い、前足を攻撃に使う事はほとんどなかった。
その為、前足→人間時は手となったそれを使うとの不慣れな環境や状況が本人も知らないまま、それと初めて使い魔を…との認識が正しかったりもする。
ともあれ、薺はそれからも梓に肩車して貰ったまま近くにある強硬石。
そしてアダマンタイトを鎧の姿に加工した的へ向かい、先程同様に的を殴打。
どちらも鉄製の的と同じか、それ以上の勢いで以て吹き飛ぶ。
目の当たりにした者達は、いくら薺が可愛らしい外見だろうが魔物。
存在に相応しいだけの高い攻撃力を所持している…のだと再認識させられた。
時間は少し進み、恒例の魔物同士での戦いへ。
「うわーー、格好良いーー!!」
「うひょーーー!でござるぅー!」
「「かっけぇーー!!」」
「ふぅん。」
「ほえー。」
「ほほぅ。」
「恐竜って言ったらやっぱりティラノサウルスだよね!」
『分かる。』
薺が本来の姿となり、得られたリアクションがコチラ。
ステラ、勉、アレックス&光輝、理紗、莉緒、カロンの順、最後のステラの〆の1言が皆の心情を代弁したとの運びだ。
勿論凛達も満足しており、ドラゴンでありながら異彩を放つ。
それでいて堂々たる風格やフォルムに、大人になっても少年心のあるレオンやゼノンやフィリップ等がニッコリ。
反対に、正常な考えを持つ男性ことアーウィン達、タリアやオリビアを含めた女性陣は、かなり獰猛そうな佇まいの薺に少し引き気味。
『(さあ、薺。お姉ちゃんが相手をするのです、遠慮せず来るのです!)』
『(分かった!いっくよーおねーたん!)』
梓も本来の姿へ。
すっかりお姉ちゃん風を吹かせる様になった彼女が自信満々に告げ、薺が嬉々として突っ込んで行く。
「うむぅ、薺に美味しい所を全部持っていかれてしもうたのぉ…。」
皆の視線は新参の薺、そして面倒を見る梓に集中。
いつもなら盛り上がる場面がすっかり温かい空気と化し、妙なこそばゆさを覚えた朔夜がポツリ。
猛や藍火等の猛者達も同様らしく、何とも言えなかったり納得の表情で「確かに」と頷いていた。
一方、凛達とは別の訓練部屋。
セルシウス、サラマンダー、翠、そこにカロンを足した4人の姿がそこにあった。
赴いたのは上記メンバーで、いずれも大精霊。
エンシェントエルフであるリーリアが持つ共鳴スキルにより、コロポックルのクルルみたく察知。
若しくは吸い寄せられる様に集まって来た精霊達も少しづつ強くなり、十を越す個体が上位精霊へ進化を済ませている。
それはそれとして、新たに誕生した大精霊デュラハンことカロン。
彼女の数十分前の醜態は酷いなんてものではなく、残りの3人。
少なくともセルシウスや翠にとって、赤っ恥も良いところ。
いつものお楽しみ時間━━━最近では、頂上決戦とか怪獣大決戦と呼称━━━を観たいものの、気が気でない。
何より大精霊としての矜持が許さないを理由にカロン(ついでにサラマンダーも)を引っ張り、現在地へと移動した次第だ。
「あぁ…オイラも皆と一緒に魔物姿での訓練を観たかったな。」
「私だって観たかったわよ!と言うかカロン!!」
「ひ、ひゃいっ!!」
「さっきの無様は何?新手のダンス?それとも別なナニカ?」
「い、いやぁ…運動らしい運動なんて随分久し振りで。それに私、元々インドア派━━━」
「知らないわよそんな事。さっきのアレ、恥ずかしいったらなかったわ。」
「今まで(の転生者は)悩む必要がなかったものね、ある意味衝撃的だったわ…取り敢えず、凛ちゃんには私から伝えておきます。だからセルシウスちゃん、徹底的に鍛えるわよ。」
「勿論。今日は諦めるけど、明日からは観れるよう厳しくいくからね!」
「「ヒィィ…!」」
彼女らがいるのは遅延効果のある部屋で、最大10倍。
その時間を限界まで使い、カロンは金属糸使いとしてどうにか戦闘を熟せるまでに成長。
ただ、セルシウスに翠。
2人から目茶苦茶扱かれ、巻き添えになったサラマンダー共々絶えず悲鳴を上げる羽目になるのだった。
ステラの( *¯ ꒳¯*)(ドヤ顔)ですが、凛が褒められる等した際にちょこちょこ美羽が見せる誇らしげな表情+後方従者面(師匠ならぬ従者ver)でもあります(笑)




