300話
同時刻
項垂れたカロンの前を、火燐が歩く形で訓練部屋に到着。
「…ん?どうしてアイツが…?」
ポータルを抜けるや火燐がポツリと零し、聞こえたカロンが顔を上げる。
2人の視線の先にあったもの、それは男女が激しく戦うとの光景だった。(端っこで何か気を失った男性らしき人物がいる気もするが、敢えて見なかった事に)
片方は真ん中を境に赤と青で分かれたショートヘアーの男性、もう片方は透き通る様な青髪を腰まで伸ばした女性━━━セルシウス。
「…む。」
「…ん?あ。」
2人は火燐が来たと分かるや矛を収め、双方共に彼女の元へと歩みを進める。
「来たわね。」
「貴方は?もしかして…。」
「私はセルシウス。貴方と同じ大精霊よ。」
「…煉凍だ。」
「恐らくココへ来るだろうと思ってね、ただ待つのもなんだったから煉凍と手合わせしてたの。それで、もう1人が━━━」
セルシウスが後ろを振り返ろうとする直前、スパァァァンと響く小気味良い音。
続く「んぎゃあああああ!?」との悲鳴に、堪らず苦笑い。
「一応、炎の大精霊…なんだけど、とてもそうは見えないわよね。」
等と話す内に、叩き起こされた人物。もといサラマンダー。
後頭部を擦りながら近寄る彼(+火燐)に、「ほら、挨拶なさい」と促す。
「えっと、オイラはサラマンダー。アンタも大精霊かな〜?よろしくぅ。」
「いや軽っ…んんっ、カロンよ。早速質問で申し訳ないのだけど、2人共最初からその姿なの?」
セルシウスにサラマンダー、どちらも人間にしか見えない。
ついでに火燐も煉凍込みで、違うの見た目なのは自分だけじゃあ…とカロン。
なので居心地が悪く、もし当時から変わっていないと答えられたら凹む自信すらある。
「まさか…私はこうよ。」
「ならオイラも…こんな感じだよ〜。」
髪色はそのままに、セルシウスは水色がかった肌へ。
サラマンダーは蜥蜴を象った炎へと様変わり。
「大精霊へ進化した影響で、魔力の操作がしやすくなってるはず。それの応用なのだけど…どうする?必要とあれば手伝うし、最悪(変身)スキルに頼るって方法もあるわよ?」
「…やってみてから考える。」
と、静かにやる気を漲らせたカロンだが、魔力操作は素人に毛が生えた程度。
10分以上時間を費やしてダメだった為に2人の協力を得、それから1分近く掛けて人の姿に。
今の彼女は18歳位の見た目。
身長は170を超え、背中までの深紫色のサラサラストレートはどこかセルシウスを思わせる。
ミニスカートやニーソックス含め、黒を主体+時々白のドレスアーマーを纏い、出るところは出て引っ込むところは引っ込んだ美少女と化した。
「お前…色々盛ったな?」
火燐の指摘にギクッとした通り。
凛達と出会い、訓練部屋へ至るまでの集大成が現在のカロン。
蛙みたいな顔+低身長+小太り+常に濡れた様な脂ぎった髪と。
前世では散々だった彼女の、理想を詰め込みまくったのが今の外見なのだと(容姿の話は全くしていないのに)即看破された。
ともあれ、セルシウス達と違い(自堕落な日々を送った所為で)結構ギリギリだったものの、大精霊の1柱となったカロン。
土だけでなく闇属性も併せ持つ様になり、気合いを入れ直した彼女が全員から手解きを受ける。
話はアレックスへと戻る。
「ステラ、こっちに来てくれ。」
「え、で、でも…。」
「良いから。」
「………。」
「頼むよ。」
「う、うん…。」
切なる願いに断り切れず、手を伸ばせば彼に届く距離まで歩くステラ。
ただ若干オドオド、ソワソワ。
伏し目がちなのが彼女の心情を表している。
「俺達は前世で幼馴染だった。」
「うん。」
「幼稚園から始まり、高校を卒業するまで何をするにも一緒。色んなところを歩き、駆けて回ったよな。」
「うん、そうだね。」
「んで、何の因果か異世界転生なんてモンを体験しちまった。しかも2人揃ってだ、何の冗談かと思っちまったぜ。」
ククク、と笑うアレックスを「…ホントだよね」と元気のない笑みでステラが返す。
「だからこそ思う事もある。」
「? 何を?」
「これは偶然じゃねえ、最早運命なんじゃないかってな。」
「それは…でもちょっと言い過ぎじゃない?嬉しいのに変わりはないけどさ。」
「そうか?ただどちらにせよ芽生えちまった訳だ、お前と一緒になりたいっつー欲がな。」
「え…でも、僕らは親友で…。」
「今まではな。だがこれからは違う、意味は分かるな?」
「…どうして僕なの?他に魅力的な人は沢山いるじゃない。それに、獣人だし…。」
「俺にとっちゃお前が最高の存在なんだよ、そもそも負けてねぇし。獣人?だから何だってのが正直だな。むしろこれ以上ない位似合ってるじゃねえか。」
元々猫っぽかったしな、とアレックスが肩を竦める傍ら。
最高の相棒の部分で、つい口元が緩みそうになるステラ。
直後、彼を想ってくれる女性達に悪いと考えたのか「でも…」と零す。
「ステラも覚えてるだろ?向こうで散々夫婦、夫婦と誂われてさ。」
「毎回居た堪れない思いでいっぱいだったけどね。」
「そうか?俺は別にって感じだったけどな。」
「え…?」
「お前が女だったら、と思わないと言えば嘘になる。その度に諦めたが…今はその必要も意味も理由もねぇ。だからステラ。」
「う、うん。」
「昔も今も、俺の隣はお前が良い。お前じゃなきゃ嫌、お前じゃなきゃダメなんだ。」
「………。」
「立場的に、凛の部下同士なのは分かってる。分かってるが━━━」
アレックスは言葉を紡ぐ事が出来なかった。
複雑な表情のステラ、その両目から止めどなく涙が流れ続けていたからだ。
思わずギョッとなり、雫の泣かせたとの茶々に目を白黒させる。
「違うの、嬉しいの…でも、僕なんかで良いの?」
「何度も言わせんな、お前だから良いんだよ。」
「そっかそっか、そうなんだ…。」
つい今しがたまで一杯だったネガティブな考えが綺麗に吹き飛び、残されたのは喜びの感情。
隠し切れず、ニマニマとした口元にステラがなる一方。
一世一代の大勝負に出、不安と緊張で心臓が早鐘を打つアレックスの心的負担は計り知れない。
返事までがとてもとても長く感じ、やがてステラから答えが。
「その、宜しくお願いします…。」
「…それは、人生のパートナーって意味で合ってる、んだよな?」
「もう、イジワルだよ。分かってて言ってるでしょ。」
「わ、わりぃ。は、ははは…はぁ〜。」
困った笑みから、安堵の息と同時に尻餅を突くアレックス。
極度の緊張の解放から来るもので、しかしその顔は満足げ。
「ふふ、もう大袈裟なんだから…立てる?」
優しげにこちらへ手を伸ばす、最愛との未来が約束されたと思えば決して悪くない。
「ありがとよ…まぁ、何だ。これからも宜しく。」
「うん、宜しくね?旦那様。」
「なっ!ばっ、おまっ…不意打ちは止めろって。」
「ふふっ、え〜だってこれからはそうなるんでしょ?なら早めに慣れなきゃだよ。」
「だからってよぉ…。」
突如展開された、ラブコメ特有の甘い空間。
2人の雰囲気に当てられ、固唾を呑んで見守っていた周りの者達が様々な反応を示す。
「えんだああああああああ…!!」
その中での雫の1言。
慟哭とも呼べるそれは、気迫の割にとても声量の小さいもの。
『声小っさ』と、漏れなく全員からツッコミを頂戴する程だった。
瞬間、どっと沸き上がる笑い。
シリアス展開が良い方向へ好転したのも追い風となったに違いない。
「これからも宜しくな、相棒。」
「あいよ、相棒。」
アレックスとステラにとってもそれは然り。
手の甲同士をコツンと重ね、ははは、ふふふと笑う姿は長年連れ添ったパートナーを思わせた。
「アレックスお兄様、おめでとうなのです!」
「おにーたん、おめでとー!」
微笑み合う彼らの後ろから、2人の少女の声が。
1人は梓、そしてもう1人は本日仲間に加わったばかりのティラノサウルス…薺だ。
人の姿となった彼女は見た目が6歳位、髪は根岸色とでも言おうか。
少し緑みの入った薄茶色で、肩より少し下程度に伸ばした髪型。
少女と幼女。
天真爛漫な仲良し姉妹にも見える彼女らと軽く話し、また後で…なんてやり取りを最後に去っていった。
「梓ちゃんに薺ちゃん、どっちも可愛いよねー。」
「ああ、そうだな。」
「僕達も、いつかあんな子供達を育てるのかな…。」
フフッと笑った後、ほんのり顔を赤らめるステラ。
これにアレックスがブッと吹き出し、だがすぐに「勿論だ。きっと、ステラに似て可愛くなるに違いない」と歯を見せて笑えばもーと突かれ、次々に声を掛けられる。
中でも目立つのがアウズンブラ代表アルルに、人化したバロメッツ達。
前者は牛、後者は羊をイメージしたお姉さん風の方々で柔らかさ、優しさ、臆病さの中にしっかりと色気が。
バロメッツ達は髪型こそ異なっていたものの、全員がふわふわとした金髪。
彼女らのスタイルの良さにアレックスが勿論色香に惑わされる…なんて事はなく、特有の人懐っこさで始めこそ探る視線だったバロメッツ達も絆され、ニコニコ笑顔に。
尤も、後ろで美羽と雫が手をわきわきと動かした事がバロメッツ達に伝わり、一気に台なし。
怯える彼女達を何故かアレックスが慰め、凛達やアルル達から苦笑いを向けられる羽目に。
因みに羊の実が成る→実りから。
バロメッツ代表はミュリ(フランス語のミュリールが語源)との名が与えられたとの事。
それとオーバ山繋がりで翡翠達。
彼女らは青ねぎ、青じそ、きゅうり、ほうれん草などの緑色野菜がベースの翡翠ソースが好み(翡翠タレも好き)で、現在はリクエストのカルパッチョ、えんどう豆の翡翠煮、青梅の翡翠煮を堪能中。
緑黄色野菜を足したり、より爽やかにとの意味合いでレモンやライムの果汁をプラス。
コクを出す目的で白ごまやごま油を少し加え、ラー油、山椒、チリペーストを加えたりしてピリ辛風味にも。
人気の高いが故、休む間もなかったアレックスとステラがようやく一段落ついたところへ押し掛ける1団。
メルローズ、アイシャ、ティナ、ラニらアレックス親衛隊、ファフニールのフラム、グリフォンロードのラファ、ギガントタートルのロゼだ。
全員がアレックスを慕い、けれど返事は保留。
若しくは面倒を見ると公言されたものの、未だ何のアクションも示されなかった者達。
その理由がステラにあるを共通認識とし、問題解決したと見てアプローチに来たのだろう。
未来の正妻ステラと目が合ったアレックスは互いに笑い、メルローズ達との対話に応えつつこの日を終えるのだった。
いつもありがとうございます。
週1投稿と併せて行っている最初からの修正ですが、取り敢えず次辺りで7000〜文字のが終わります。
なので再び始めに戻り、単話を複数に分けてサクサク読める様にしようかなと。
我が事ながら、1話1話が長いのなんの。
クライマックスでも何でもないのにMAX18000文字とか、もう馬鹿かと阿呆かと…。
急に話数が増えた錯覚を覚えさせたりとご迷惑をお掛けしますが、ご了承の程お願い致します。(※エイプリルフール目前ですが、ネタでもなんでもありません)




