299話
5分後、凛達1行は屋敷地下のディレイルームにいた。
魔素点に引き寄せられ、力を注がれてパワーアップしたウォーヴォルフごと翠が光系最上級魔法ディヴァインパニッシュメントを放ち、凛が聖光魔法最上位ヘヴンリーディストラクションで追撃。
規模は直径20メートルと小さく、威力はそのままに上から。
正面に展開し、扉から開け放たれた同規模の(破邪・浄化に特化した)極光で灼かれ、ものの数十秒で瀕死状態に。
サクッと終わらせて吸収し、オーバ山全体を管理下に置いた。
紆余曲折あった(?)ものの、まずは名付けからとディレイルームへ直行した1行。
甘えた声を出しながら凛にすり寄り、鼻先を撫でられるティラノサウルスは『薺』、
ブラッディベルゼルガは中の3文字を取って『ライル』と、こちらはすんなり決められた。
問題は鎧型精霊こと鎧月 撓子。
着脱可とは言え、首なしで鎧姿の精霊と言う事で『デュラハン』。
次に前世の名前である撓子か、それをもじったものをと思ったのだがどちらも却下。
他にも色や雰囲気、(同行者の兼ね合いで)自然や植物に関する例を幾つか挙げるもしっくり来ず、グダグダになりつつあった。
「カロンなんてどう?デュラハンは元は死を予言し、実行する妖精。表現を換えれば死を司るとも取れる。カロンは冥府の川の渡し守と呼ばれる存在、そこまで間違ってはないじゃないかなって。」
「それだーーー!…けどどうして今頃?」
「ギリシャ神話に登場する神、若しくは番人だからだよ。大言壮語…とまではいかないかもだけど、名前負けしそうな感じしない?」
後、古典ギリシア語で外形だけではなく内容や中身まで含めた美しさを表す言葉なんだよね。
凛の補足、更には周囲の『あー…』との反応が全てを物語っていた。
「すっごく失礼な事言われた気がする。」
「自らの所業を顧みて頂いてですね。」
「すみませんでしたーーー!」
距離を置き始める凛に危機感を覚えた撓子━━━カロンは捨て置いて。(どこからか捨て置かないでー!と聞こえたが無視)
見た目に反して意外に甘えっ子だった薺、無愛想なライルと共に名前と人化スキルを与え、休んだのを確認した凛達はその場を後にする。
ポータルでオーバの最深部に戻った凛達。
部屋の一角に鍵付き小屋を建て、中にポータルを設置。
粗方片付いたとして報告の為に代表の元へと向かう。
歓迎の挨拶もそこそこに、メルローズを含めたブラッドロード家の者。
見届け役のアレックスを加えたメンバーでこれからの事について話し合った後、主要な者達を連れて再度オーバへ。
開放されたエリア込みで観察、採れる鉱物や出現した魔物についての説明を行う。
時折生み出した魔物を翡翠達に戦って貰いつつ最深部まで進んだ結果、エリア毎の鉱物や魔物のランクを大まかにではあるが把握。
凛1行がいなかった場合、自分達では魔物を倒しながらでの採掘作業は到底不可能だと青い顔で告げられた。
だが凛の最奥部屋━━━更に言えばこれから設ける地下部分━━━にさえ近付かなければ危険はないと言葉に、代表達のテンションは一転。
沈鬱から上機嫌へと早変わりし、これからは採掘出来る箇所が増える=そう遠くない内に嘗てのゾンドルキア公爵家みたく…否、彼の家以上に豊かになれるかもと喜んだ。
凛、アレックス、メルローズの3人は帝国城にいる皇帝ゼノンの元へ向かい、オーバでの顛末を報告。
ゼノンの他に、皇后オリビア、長男ウェルズ、次男ニールや重鎮達の姿も。
ただ、オーバが以前より封鎖された旨を知っていたのは(書物で学んだ)ニールだけだったらしい。
途中からは驚きの連続で、常に口が開きっぱなしの者が大多数を占めていた。
「そうか、ソルヴェー火山だけでなく、オーバ山にも精霊がいたのか。それに、神金級の強さを持つ魔物同士での戦い…。」
ゼノンが非常な残念そうな面持ちで呟く。
彼がションボリ気味なのは実際に戦闘風景を見たかったから。
しかも訓練ではなく実戦でとなると本気の度合いが変わり、より白熱したに違いないとの思いから来ている。
「一応、やろうと思えばすぐにでも魔物と戦える手はずが━━━」
「よし!では早速オーバへ向かうとしよう。ウェルズよ、お前も出発の用意をするのだ。」
「え…?父上、私も行くのですか?」
「当然であろう?時には丁寧に時間を掛けるより、多少杜撰だとしても早いが有利の場合もある。今回みたくな。」
「拙速は巧遅に勝る、ですね。」
「それはどう言う意味なのだ?」
「出来が良くて遅いよりも、出来が悪くても早い方が良い。つまり物事は素早く決行すべきであるという意味の諺になります。」
「余が述べたいのは正にそれだ。何よりヴェルズ、お前の知見を広げる意味も含まれている。次期皇帝になる為には必要な事だとは思わぬか?」
「分かりました…。」
ゼノンの有無を言わさぬ圧力に屈したヴェルズ。
言い出しっぺである皇帝本人が危険を承知で行くのに息子だから、次期皇帝(予定)だからは通用しないと諦めたとも。
肩を落とし、「準備をして参ります…」と呟きながら謁見の間から出て行く。
「くかかかか!神金級か、楽しみだな。では凛様、余も今から準備に入る。これにて失礼させて貰うぞ。」
高笑いをしたゼノンが後を追い、謁見の間に残されたのは静寂だけ。
「ゼノン様、まさか今から、しかも2人だけでオーバ山へ行くつもり?…参ったな。状態異常を振り撒く敵は多いし、万一があっては困る。回復込みで何人か追加要員として派遣するか。」
流れる様なスケジュールの組み方に、置いてけぼりを食らう他の帝国メンバー。
凛は凛で、視察名目等で向かうにしてもてっきり明日以降だとばかり。
なので困り顔で後頭部を左手で掻き、思念越しにナビとやり取り。
それから10分経つか経たないかの頃、2人が戻って来た。
片や嬉しそう、片や不安で一杯なのがこれ以上ない位に明暗を分けていた…とだけ。
その間、凛はただ待つのではなく1人の教育係の男性。
それとアルラウネ3姉妹こと緑髪+赤髪の少女彩菜、彩芽、彩花を応援として謁見の間に招集。
男性は元ゴールデンベアーで30後半位の見た目、金髪刈り上げの髪型、大柄な体格をした大斧使い。
4人全員が近接と魔法の両方に適性を持ち、回復役も兼ねている。
男性が主に露払い。
彩菜達が護衛として傍に付くと説明にゼノンが益々やる気となり、ヴェルズは安心材料が増えるを理由にホッと安堵の息を漏らす。
魔物の出現頻度は下げているが完璧ではないのでくれぐれも気を付ける様にとの言葉を最後に、6人はオーバ山へと向かう。
帝城での用事を済ませ、アレックスとメルローズを伴った凛が屋敷に帰宅。
「お"願"い"じま"ず〜!どうか、どぉぉぉぉか私めに御慈悲をぉぉ!」
「…あの、止めて下さい…困ります、本当に…。」
リビングに入った3人の視界に映るは、楓の足元に縋り付いて困らせるカロンの姿だった。
凛達は揃って目をパチクリし、付近で呆れた様相を浮かべる火燐を発見。
何となく事情を知ってそうなのも兼ね、尋ねてみる事に。
「火燐、火燐。」
「ん?おぉ、凛か。アレックスにメルまでいるってこたぁ、片付いたと見て良いんだな。」
「取り敢えずはね。それで、アレは何なの?」
「オレに扱かれるのが嫌で楓に泣き付いたの図。」
さっき社畜舐めんなって啖呵切ったばかりなのに?
メンタル弱過ぎでは…と複雑な想いに駆られ、相応の表情となる凛。
「サラマンダーのアホが口走りやがってよ〜、早い話がビビった訳だ。」
「そのサラマンダーは?」
「罰として『アイツ』に押し付けて来た。」
「『アイツ』?もしかしてアフーム=ザーの…。」
「おう、1号だな。」
フフンと笑う火燐をベースに生み出された存在、アフーム=ザー。
見た目は30代後半の厳つい見た目の男性で、仕事時は冷酷&中々に苛烈な性格として知られる。
2人目がいないのに1号とか不憫過ぎる…と、凛をして言わしめたとか何とか。
因みに、彼女以外は与えられた名前、煉凍で呼ばれている。
「同じ土繋がりで、楓なら…とでも思ったんじゃね?知らんけど。それに、楓は楓で増やしたばっかってのもあるし。」
「増やした…?あ、肩に何か…葉っぱ、小さな女の子、微妙に見覚えがある様な…。」
「コロ…コロ何とかってのがなかったか?」
「あ、それだ。コロポックルだ。」
押し通そうとするカロンに困惑気味の楓の肩に座る、蓮っぽい葉を片手にした少女風の精霊。
ふーんと言いたげの火燐、同じく引っ掛かりを覚えたアレックスのヒントで凛は正解(?)へと至る。
「「そうそうそれそれ。」」
かと思えば、師弟コンビでの息の合ったハモり。
なんだコイツ…的な感じで睨み合う2人に凛、メルローズ両名からクスリと笑みが零れる。
「発見場所は凛達がいたトコのちょい南、『クルル』って付けたいんだと。後可愛がりたいから可愛げのないカロンはパスらしい。」
「ふふっ、可愛げないって言っちゃった。」
「「いや実際ねーだろ。」」
「ぶふっ、さっきからハモらせるの何なの。」
「「別に狙ってるって訳じゃあ…止めろよなーお前。」」
火燐にアレックス。
似た性格故発言も似通ったものとなり、「狙ってるでしょ絶対」とのツッコミまで頂戴する始末。
その凛の後ろではメルローズが必死に笑いを堪え、いつの間にか注目を集めていたのか楓達まで視線をこちらに。
「…凛君、助けて下さい…。」
「ちょっと凛!貴方からも言ってやって!私を助けると思って!」
実際に助けを求めたのはカロンではなく、楓。
パタパタと駆け寄って凛の背後に隠れ(彼女の方がちょっと高いので隠れ切れてはないが)、服をチョンと摘む。
翻ってカロン。
堂々と歩き、腰に両手を当てて仁王立ちする様は楓を追い詰めている風にしか感じられない。
「カロン…さっきのやる気云々の話は嘘だったの?」
凛よりカロンが歳上ではあるものの、それ以外は前者に軍配が。
加えて立場や状況から主従関係となり、普段通りの口調。
且つ遠回しに責められ、カロンがうっとたじろぐ。
「違うの、嘘じゃないの。ただちょっと待って欲しいと言うか、ちょーーっと難易度を下げてくれないかなって。」
「難易度?」
「うん。私これまでイージー、良くてノーマルな生活を送って来たじゃない?なのにいきなりインフェルノとか、ヘルみたいな最高難易度はね…せめてハードにしてくれると助かる。」
「…まぁ、言わんとする事は分かった。けど、それって単なる甘えだよね?」
「うっ。だって、だってぇ…。」
「ウン百年生きて来た奴が今更甘えてんじゃねえよ。つか、何だよ難易度インフェルノとかヘルって。失礼過ぎだろ。ベリーハードがせいぜいだっつーの。」
再び呆れ返る火燐に、カロンが真顔でスンッてなりながら「十分じゃない」と1言。
そこから2人による言い合いが始まり、最終的に首根っこを掴まれる形で運ばれて行った。
「…ふぅ、やっと片付いた。にしても、まさかあそこまでグズるなんて…。」
「前世が厳しかった分、今世では楽しむとか怠惰に生きたいとでも思ったんじゃねえか?多分。」
「社畜だったから?」
「社畜だったから。重圧とか、ストレスとか、疲労とか。それらが蓄積し、凝り固まった末路が死亡なんてモンに繋がったんだ。多少偏屈にもなるだろうさ。」
「うーーーん、体験した事がないからなぁ…と言うか詳しいね?」
「凛の場合、そもそもの身体能力が違うとかの次元の話になりそうな…詳しいっつーか、そんな話をチラッと耳にした程度だ。他意はない。」
「交友関係広いからねぇ。」
「まぁ、そう言うこった。」
なんてやり取りをする2人の元へ、メルローズが近寄る。
女性陣に手招きされ、一頻り話をしての解放だと思われる。
「アレックス様、少し宜しいでしょうか。」
「んお?どうしたんだ?改まって。」
アレックスが彼女の方を向くや、まずはありがとうございます…と丁寧にお辞儀をされる。
「皆様のおかげをもちまして、当家の…いえ、帝国最大の災厄となり得る事態を未然に防ぐ事が出来ました。ブラッドロード公爵家を代表し、感謝申し上げます。」
「おう…で良いのかは分からんが、俺は単なる繋ぎ。本当に感謝すべきは凛達だ。」
「それでも、です。貴方様がいらっしゃらなければここまでスムーズには運べませんでした。」
「…まぁ、ちぃとばかり手順は増えるかもだが…。」
「やはり、私には貴方様が必要です。これまでも、そしてこれからも…。」
「何を当たり前な…ん?その物言い、もしかして…?」
「はい…ずっと、ずっとお慕い申しておりました。出来ましたら、これからもお傍に…。」
潤ませ、不安げな眼差しを送るメルローズにアレックスがマジか…と呟く。
「…あー、出発前のアレはこの為だったのか。でも、俺なんかで良いのか?」
「なんかではありません、アレックス様『が』良いのです。」
「…そこまで言われちゃあ、俺も腹ぁ括るしかねぇか…ステラ、いるんだろ?」
目を伏せ、開いてからすぐに出るは前世からの旧友の名。
急に呼ばれた当人はに"ゃ"っ!?と驚き、覗かせたネコミミをビクッと反応。
「聞いてない、僕何も聞いてないよ?」なんて口にしつつ、コソコソ逃げようとするのだった。




