292話 74日目
74日目 午前8時前
「戻ったぜー。」
朝食後の訓練を終えたアレックスが、屋敷のダイニングへ帰途。
「お兄ちゃんお帰りなさい!」
『アレックス様、お帰りなさいませ。』
「「「お帰りなさいませ。」」」
彼の到着に併せてティナが駆け寄り、ラニ達親衛隊にフラム達新メンバーがお辞儀。(何故かメイド服で)
ティナに至っては、病弱の為に割と最近までベッドの上で生活を送っていたとな思えない元気っぷりだ。
「…え?ちょっとアレックス様、どう言う事ですの!?ラニ様方はまだ理解るとしましても、こちらのお3方を私は存じ上げません!どう言う事ですの!?納得のいく説明を求めます!」
からのアイシャによる追求。
何故ここに?と言わんばかりにアレックスを驚かせた。
「あれ、アイシャ?なんつーか、久しぶりだな。」
彼女を最後に見たのは6日前。
ゾンドルキア公爵家断罪執行と同時に忙しくなり、会う機会がなくなったからだ。
公務の一環で帝都へ赴き、(プレオープン等の)準備を粗方昨日の内に終え、今日から本格的に帝国とホズミ商会の間で取引が開始。
そんな気合いが入りまくった彼の前にいきなり現れたものだから目を丸くしたのだろう。
「…ですわね。まずはお久し振りにございます、アレックス様。」
1人だけ盛り上がってるみたいで気恥ずかしさが込み上げ、幾分か冷静になったアイシャ。
今更ながら、貴族令嬢らしく優雅に挨拶。
「だな。まさかとは思うが、帝都から来たとか言わねぇよな?」
「そのまさかです。限界まで突っ走ってやりましたわ!」
フフンとドヤるアイシャとは対照的にアレックスが「うわー、馬が可哀想…」と若干引き顔の通り、可能な限り爆走に爆走を重ねた彼女。
金に物を言わせ、都市や街へ着く度に馬を乗り継いだとも。
おかげでお供の従者3人はグロッキー状態へ陥り、近くにあるソファーでダウン中だったり。
「アレク、丁度良い機会。ロゼは私が引き取る。」
そこへ忍び寄る、雫の魔の手。
「えっと…あの…」と困惑する、ふわふわ水色ショートボブの小柄な女の子━━━ロゼを抱き寄せ、すすすと距離を取る。
「雫お前、しれっとロゼを掠め取ろうとしてんじゃねぇ!フラムもラファもロゼも、今じゃ大事な俺の配下だから渡す気なんてねーんだよ!今後一切な!勿論ラニ達もだ!」
アレックスは一度覚悟を決めたら大事にする性分らしく、彼の啖呵にモンスター娘。
及びラニ達が『アレックス様…!』とウルウル&目をハートに。
「ちっ。今日も失敗か。」
舌打ちを交え、悔しがる雫。
その目は諦めておらず、隙あらば再度狙うつもりなのが有り有りと窺える。
彼女は同じ『雫』の意味合いを持つロゼが同じ水属性。
しかも、自身より10センチ以上背が低く、妹みたいな感じでより親近感が湧き、その守ってあげたくなる見た目で自分の物にしようと画策。
ロゼが仲間になった次の日から事ある毎にアレックスから引き取ろうとし、都度失敗していたり。
フラムは名付けの影響で18歳位の見た目となり、赤い髪色でポニーテールの髪型をした少女に。
ラファは17歳位。
上半分が白、下半分が茶色い髪色のミディアムヘアーのグリフォンロードへ。
最後にロゼ。
彼女は3体の中で1番厳つく、巨体さを誇るギガントタートルに。
甲羅に鋭い棘が生えまくり、如何にも高い戦闘力を持ってます!的な全体像にも関わらず、人間の姿で与えるは最も柔らかい印象。
外見もギリギリ1桁かどうか的な感じ…とのギャップへと繋がり、可愛がられる要因と化した。
ロゼは無事奪取したものの、新たな火種が。
「ちょっとアレックス様!大事なってどう言う意味ですの!?私にはその様な事、1度たりとも仰らなかったではありませんか!!」
「お兄ちゃん!私もフラムちゃん達みたいに大事だって言ってくれるよね?ね?」
アイシャとティナだ。
揃ってグイグイと詰め掛け、アレックスを困らせる。
「ティナ様!私は親同士が認めた、アレックス様の歴とした許嫁なのですわよ!」
「いや、だから婚約は解消━━━」
「そんなの関係ない!お兄ちゃんは私の面倒をよく見てくれてたもん!」
「それはマリアが(依頼等で)忙しそうにしてた━━━」
「なんですってーー!」
「何よーーー!」
「どっちも話聞いてくれねぇ…。」
口論から額を突き合わせるにまで発展し、一触即発の空気に。
「アレックス様!」
「お兄ちゃん!」
「「どっちを嫁にするの(ですか)!?」」
「私ですわよね!」
「いや私!」
「いやいや私ですわ!」
「いやいやいや私だから!」
「いやいやいやいや━━━」
「あーーもーーー!分かった、分かったから!俺が纏めてお前らの面倒を見てやる!だから喧嘩なんてするんじゃねぇ!」
「「…!!」」
アレックスは半ばヤケクソ気味でアイシャとティナを抱き寄せ、2人は驚きから揃って沈黙。
ただその顔は共に赤く、アレックスにギュッと抱き着く様は満更でもなさそう。
嬉しさが隠し切れず、口元が緩みっぱなしなのがその証左。
当のアレックスはまだ移ったばかりで、独り立ちどころか完全におんぶに抱っこなのにやっちまった。
やっべぇっぺ、これからどないすりゃええんやと本人も良く分からない様相へ。
ついでに、何故か巻き込ませる形となったロゼ。
アレックスに両手を、アイシャとティナからは片手ずつ回され、完全に身動きが取れない状態。
あうあうと口にしつつ、目をグルグル回していた。
アレックスは今まで面と向かって告白されたり、詰め寄られた経験がないからか押されると弱い。
多少ならまだしも、こうも食い気味に来られたら対応に困ると表現した方が良いだろうか。
ともあれ、まさかの展開。
新たな恋人誕生に送られる、拍手や声援。
火燐、火燐に肩車したナル、朔夜、雫がニヤニヤとしながらアレックスを。
それも祝福と称した最大級のイジりを見舞い、軽く…いやまあまあ一悶着あったりする。
そんな中、マリアだけは慈しみの表情で娘を見ていた。
ティナは小さい頃からアレックスのお嫁さんになりたいと何度も何度も耳にし、その夢が実現。
他の誰よりも感動、人知れず涙を流す。
アイシャもアイシャで、嬉しさのあまり化粧が崩れてしまい、美羽と一緒に洗面所へ。
少しして戻るも、化粧だけでなく自信まで落としたのかオドオド気味だった。
バッチリ二重は一重に。
そばかすがあり、スキンケアもなしに直接塗布を繰り返した影響でか肌も若干荒れていた。
アイシャ的に、綺麗な自分を見て欲しい。
偏にアレックスの事ばかりを想い、メイクに関しても努力を続けた彼女。
だからこそ今の醜い姿は晒したくなかったのだが、アレックスからすればようやく初めて会った時に戻ったかとの感じ。
全く気にしておらず、(現代の観点から見て)質の悪い化粧品を使って肌質が悪くなったみたいと美羽に言われ、アイシャの心配をした程だ。
アイシャはすっかり毒気を抜かれ、この日を境にスキンケアを念入りに。
メイクは先人達に教えを乞い、ライトやナチュラルを心掛ける様になる。
「良い雰囲気のところ申し訳ありません、私も混ざって宜しいですか?」
そこへ訪れる闖入者。
「? メル?」
帝国公爵家の1つ、ブラッドロード家長女。
鮮血公、宿将との呼び名のガーランドを父に持つメル━━━メルローズ・ヴァン・ブラッドロードその人だった。
「はい、私です♪」
にっこり笑うメルローズは、アレックスの数少ない理解者。
優雅に、笑顔にを常とし、アイシャの先走りがなければ…位には彼を好いている。
「えー、と…まさかとは思うが見てた?」
「いえ、そちらの方々が一糸乱れず頭を下げた辺りからしか。」
「ほとんど最初っからじゃねえか!?え、マジで!?すっげぇ恥ずかしいんだけど!!」
「…と言いつつ、その手は離さないのですね。羨ましいです。」
離さないのではなく離せないが正確なのは一先ず置いておくとして。
(皇族を除いて)立場は最上級。
見た目も中身も素晴らしく、帝国の紅玉の異名を持つ彼女だが、人々に敬遠されがち。
戦闘を得意とする名家に生まれ、父が大将軍で彼女自身も姫将軍との地位に就いているからだ。
治める場所も悪く、人生の墓場と称される鉱山。
魔素点でもある『オーバ山』を保有しているのも大きい。
罪人や一部の奴隷は当然の事。
機嫌を損ねればオーバ山に送られる、との根も葉もない噂の所為で怖がられ、距離を置かれている。
故に、アレックスの存在は珍しい…どころかオンリーワンに近い。
嫉妬から来る誂い、そして聞き取れない位に小さな声での呟きに、彼をパチパチと瞬かせた。
「…何でもありませんわ。本日は関係者として参りましたの。」
「え?関係者?可能性でいくと…オーバ山、か?」
「ご明察です。つい先程、崩落事故が起きた様でして。」
「一大事じゃねぇか…ん?つい先程?どうやって知ったんだ?」
アレックスの疑問に、僕が教えたんだよとの言葉と共に現れたのは凛。
ナビから報告を受けるやすぐにメルローズ。
厳密にはブラッドロード公爵家の住まいへ向かい、その足でこちらへ(ポータルで)跳んだとの流れらしい。
「いくら救助が目的でも、場所は他所様の領地。挨拶と許可は必要でしょ?」
「お父様に呼ばれ、名代として馳せ参じた次第です。」
「成程。仮令緊急事態だろうが、自分トコを好き勝手されて良い顔する奴はいねぇ…なんてのを口実に、手をこまねいてたら後手に回るだけだし、散々な結果だとそれこそ目も当てらんねぇ。何より時間との勝負、か。確かに必要な措置だな。」
「そう言う事。怪我人多数みたいだし、今から行こうと思う。アレックスも良い?」
「ん?俺も?」
「向かうメンバーは場所が場所を理由に予め決めてはいたけど、元々はもっと後の予定だったんだ。なのでメルローズさんの存在は僕達としても想定外でね、そんな状況下で彼女を1人にさせるの?」
「俺じゃなくても大丈夫な気もするが…折角のお誘いだしな。乗ってやるよ。ただし、あっちの対応は任せるぜ?」
「だって。良かったね、メルローズさん。」
「ん?」
「はい!ありがとうございます♪」
「んん?」
何やら失敗した様な気配を感じたアレックスだが、既に決定済み。
両サイドからはジト目を向けられ、ロゼは変わらずあっぷあっぷなまま。
1拍遅れて参入しようとしたリーゼロッテをアンジェリーナが遮りつつ、オーバ山へ。
5分後、アレックスを含めた第2陣がオーバ山に到着。
何故彼らが第1ではなく第2かと言うと、先にラニ達やフラム達らを帝都からの応援との名目で派遣したからだ。
彼女らの行動の中心は治療。
そこそこの回復魔法が使用可能、且つ崩落事故で負傷した者達への処置の為、一足早く送った形に。
「こりゃ酷えな。」
アレックスが語る通り、そこかしこに怪我人が。
その数優に100を超え、ラニ達メイドが忙しそうにする。
因みに、アレックス、凛、メルローズ以外での同行者は翠、金花、銀花、棗、樹、柊の6人。
翠はユグドラシル教の教祖で、金花と銀花はシスター。
棗と樹と柊は喫茶店勤務なのは変わらずそのまま。
彼女らが赴いた理由は土に属する魔物、言い換えれば植物系の魔物が出るから。
金花と銀花が乗り気になり、そこから翠、棗、樹、柊もとの運びに。
「負傷者は次々運ばれて来るみてぇだし、俺らも加勢に回るか。」
彼の1言に全員が同意。
尤も、凛のリザレクション1発で片が付き、順番待ちで痛い痛い喚いていた怪我人の口が半開き→飛び上がる位に元気になったのは微妙な空気ではあったが。
「取り敢えずは完了だな。お、2陣目も来たか。」
そんなこんなで怪我が治った者達のチェックに15分程要していると、後発組が着いた模様。
「やったのですー♪」
「へへっ、嬉しいぜー!」
「まさか勝ってしまうとは…。」
「やーりいっ♪」
メンバーは梓、ルル、丞、翡翠の4名。
いずれも嬉しそうな。
或いは微妙なテンションのまま足を運び、アレックス達から笑顔で迎えられるのだった。




