290話
「あははははははー!」
「オラオラオラオラァーー!」
ナル&昊に釣られ、アレックスまで張り切り出したらしい。
後者の場合、先程の父親が多分に含まれてる気がしなくもないが。
「殿下達張り切ってるな…こりゃ、俺も気合い入れないとかねぇ。」
ともあれ、響き渡る2人(+1体)の大声が元で微妙な顔を浮かべる人物━━━ユリウス。
ははっ、参ったぜと漏らしながら千子村正を肩に担ぐ彼は、そこそこの魔物を討伐済み。
基本落ち着いている上にマイペースな性格故か、イマイチ気分が乗らない。
とは言え、このままだと負けは必須。
向こうの方が数が多いからとマウントを取られるのは癪に障るとして、却下の判断を下す。
「なら…玄狼牙っ!」
闇属性を得意とする彼が左手を翳し、自身の影から玄い狼を生成。
昊の半分程の大きさ(=大型の馬位)はある影の獣に行け、との合図で走らせ、両足に力を入れての跳躍。
「よっと…見せてやるぜ、餓狼と呼ばれる戦い方をよ。」
そのまま背中に跨り、人馬一体ならぬ人狼一体の戦い振りを披露。
「じゃあな。」
最後は玄狼単体での吶喊。
ひょいっと飛び降りるや大きさと獰猛さが増し、進行方向にいた魔物達の悉くを喰い破り、波状攻撃を仕掛けるとの戦法に移る。
「教皇様…先へ行き過ぎです!」
「御身をもっと大事になさって下さい!」
神聖国の視点。
こちらは鼻唄混じりでドンドン先へ進むフィリップを、アーウィンとレイラが慌てて追うとの構図だ。
尤も、当の本人はおや?と首を傾げるだけ。
部下2人の苦労等、まるで気付いていない様子。
「とは言いましても、後進に道を譲る体制は大分整ってきましたし…ねぇアーウィン次期教皇?」
「勘弁して下さい…。」
苦虫を噛み潰した様な面持ちのアーウィンを他所に、フィリップは満面の笑顔。
少し前までは弱りに弱り、ほとんど死ぬ間際。
見た目も、実年齢より上の70歳ちょい位とかなり老け込んでいた彼。
それが今や40代半ばにまで若返り、元気溌剌と動き回れる程に快復。
大分歳下であるはずの2人よりも遥かにエネルギッシュ、且つアグレッシブに走り、見ての通り盛大に翻弄中。
話は変わり、フィリップの口から出た次期教皇について。
本来ならば枢機卿を中心とした選挙で決められるのだが、その枢機卿が早く頂点の座に就きたいが為に毒を盛り、老衰死を図ろうとした。
だが凛の介入もあって見事に打ち砕かれ、4人中3人が関与を理由に権利を剥奪。
残る1人は興味がなく、枢機卿の下にいる司教等もイマイチ。
消去法でアーウィンに白羽の矢が立ち、こうして誂われた次第だ。
「ガァァァァァァッ!!」
話は戻り、オーガの上位個体。
黒鉄級のクリムゾンオーガが乱入。
「…!教皇様ぁ!!」
アーウィンの正面、フィリップの後ろから現れた事もあり、反応が遅れる━━━
「━━━」
なんて事はなく、攻撃を届かせる前に得物共々細切れと化してしまう。
「今のは…もしや白閃?」
白閃、それは(百引く一は白との意味も兼ねて)99もの斬撃が織り成す剣技。
一瞬の内に繰り出されたそれをクリムゾンオーガは喰らい、斬られた感覚すら知らずに逝けたのはある意味僥倖なのかも知れない。
因みに、凛の奥義の1つ百湎剏とほぼほぼ被っているが、単なる偶然。
それでも共通点には違いないとして、より親密になる切っ掛けになったとか何とか。
「ほっほ、流石は私の弟子。良く分かりましたね。」
「辛うじて…ですけどね。」
「おや?しばらく稽古しない内に気が緩んでしまわれましたかな?ならば━━━」
「違います。むしろ逆です、教皇様が強くなられたのです。恐らく全盛期以上に。」
「ふむ、全盛期以上…成程、言い得て妙ですね。確かに、今が最も体が軽く感じる。つまり伸び代がある事に他なりません。」
なんてやり取り━━━アーウィン側は扱かれたくないからか中々に必死だが━━━をした後、団体客が到着。
1体だと思われたクリムゾンオーガが次々と現れ、少数ではあるが神輝金級のジャガーノートまで登場。
アーウィンとレイラが絶望に打ちひしがれる中、歓喜に湧いたフィリップがスキップ交じりで突っ込み、真っ青になりながらも追随せざるを得なくなった部下2人。
激戦の末に辛くも勝利を収め、やらかした本人は満足そうな顔で大の字に。
「どうにか、勝てた…か。」
「今回、ばかりはもう、駄目、かと…。」
2人も疲労困憊でへたり込み、揃って生を噛み締めた。
「ほらよ、っと。」
骸が黒に近い灰色の大剣を振り抜き、数秒後に業火を操る10メートル級の紅い狐の魔物…黒鉄級上位のブレイズフォックスが斃れる。
傍らには積雪を思わせる白い毛並みの狐ことブリザードフォックスもおり、両方合わせ述べ30体程を掃討。
「その剣、やはり便利じゃのぉ。妾にくれぬか?」
一息つく彼に声を掛ける朔夜。
「アンタには宵闇があるだろう…それに、EXブレードは俺専用だ。何せ、特殊仕様だからな。」
ちょっと触れただけで指ごとスッパリ斬れそうなギザギザの大剣こと、EXブレード。
嘗て暴走した配下のヴァンパイアロード達により、切断された尻尾部分を加工。強化したものだ。
元々体の一部だった事もあって親和性が高く、魔力による補強も操作もお手の物。
連接剣宜しく刀身を伸ばし、鞭みたいに巻き付かせ、パージも可能。
シールドソードビットみたく遠隔での攻撃も出来るとあり、中々に人気だったりする。
そんな(ある意味)浪漫武器であるEXブレード、名前の由来は持ち主である骸の種族名から。
イクリプスドラゴンである彼のイクスを取り、似た響きのエクスカリバーのエクスにEXの文字が使われているで採用。
名実共にカッコイイを恣にし、朔夜みたく虎視眈々と狙う者もチラホラ。
「妾なら問題ないぞ?チートらしいからのぅ。ほれ、早う。ほれほれ、早う早う。」
「期待に胸膨らませた子供か。いやまぁ、普通に断るけども。」
「むぅ…ケチじゃのう。良いではないか。」
「いや尻尾だぞ?渡すには身を切る必要があるんだぞ?進んで痛い思いをする奴がいるか?いないだろう。」
「雄の、それもドラゴンともあろう者が情けない。先っちょだけ、先っちょだけでええんじゃよ。」
「ええんじゃよ、じゃないんだよなぁ…。」
朔夜の中で諦めるとの文字はないらしく、あの手この手で骸を勧誘。しかもしれっと朔夜お付きの段蔵まで便乗して。
そうこうする内にレイラ、ついでにフィリップとアーウィンが合流。
骸大好きな彼女が参戦しないはずもなく、一悶着あったのは言うまでもない。
「…む?」
「んお?体が…。」
途中、朔夜と骸。
それと言葉にこそしないものの段蔵が違和感を覚え、同時に明後日の方を向く。
「ふんふふーん♪ふんふふーん♪ふんふふんふふーーん♪」
そのほんの少し前。
3人の視線の先━━━鼻歌を歌い、如何にもご機嫌な様子のクロエの姿がそこにあった。
ニッコニコの彼女だが、決して油断はしていない。
時折軽快なステップを刻みながら襲い来る魔物を瞬殺、しかも瞑目した状態で…だ。
これも骸の孤高の覇者スキルの対応策の1つ。
視認しなければバフが途切れないを根拠に、目を閉じたまま魔法を行使。
見ずしても空間認識能力で動きが丸分かりな相手の眉間に、超圧縮したソレをプレゼント。
叫び声を上げて登場したと思った次の瞬間には地に伏せ、自然と屍の道が形成されていく。
そんな彼女の後ろを歩く、進化したモンスター娘。
もとい炎神龍ファフニールのフラム、グリフォンロードのラファ、ギガントタートルのロゼに元死人のクリスティーンを足した4人は戦々恐々。
「ふん?あれ、どしたの?」
ふと後ろを振り返り、萎縮するフラム達を不思議そうな顔で眺めるクロエ。
自分が元凶だとの考えは一切なく、純粋な疑問から来ている様だ。
「い、いや〜、クロエ様はお強いなーと思いまして。」
答えたのはフラム。
ラファ達から無言の圧力を受け、後頭部に手をやり、微苦笑を携えてのものだ。
「も〜、クロエ『様』は止めてって言ってるでしょ〜。」
「あ、あはは…すみません。」
「フラムちゃん、面白いねー。」
クロエはケラケラと笑うが、フラム的には全く笑えない状況。
目の前にいる幼女とも少女とも取れる子供の胸三寸で自らの進退(物理)が決まるとあり、「あははは…はは」と返してみるも気が気でないのが正直なところ。
「ならさ、フラムちゃんも強くなっちゃえば良いんだよ。ラファちゃんもロゼちゃんもクリスちゃんもさ。」
「仰ってる意味がよく…。」
「え、ええ…。」
「その、ごめんなさい。」
「もう少し噛み砕いて説明して頂けると。」
「つまりこう言う事!不死軍の狂宴ー!」
モンスター娘+αの当惑に指を斜め上方向へ突き出すポーズでクロエが返すや、彼女達に少しばかり変化が。
「こ、これは…!」
「力が…漲る?」
「クリスさんが特に凄そうです。」
「………。」
不死軍の狂宴は自軍の魔物を強化するスキル。
フラム達━━━範囲内にいた骸達も━━━は生きている為に多少(2割位)なのに対し、半死半生。
ギリ死人と呼べるクリスの上昇率は10割、つまり2倍の強さにまで向上。
両腕を胸の横の高さにまで上げ、溢れ出るオーラに戸惑っているところだ。
ついでに闘争心を燃やす効果まであり、先程までの消極的な様相から一転。
クリス先導で魔物らを打ち倒すに至り、フラム達や騒ぎを聞き付けた他の面々を驚かせるのだった。
文中に出たクリムゾンオーガとジャガーノートは魔物一覧表の巨人のカテゴリに。
ブレイズフォックスとブリザードフォックスは獣系のところに記載されてます。




