288話 73日目
明けましておめでとうございます。
今年も宜しくお願い致します。
明くる73日目 午前7時半過ぎ
「…私は一体何を見せられているのでしょうか?この世の終わり?」
導かれるまま来てはみましたが、と。
昨日新たに仲間となった者の代表、クリスティーンが目を丸くする。
「余興、なのだそうだ。」
「余興…ですか?これ程にまで広い規模の…?」
「然り。人同士ならいざ知らず、魔物と魔物による戦いなぞ普通ではまず見れる機会がない。故に、自ずと人気になる。単純に面白いのもあるがな。」
知り合いであるゼノンの説明で、更に驚きを露にする彼女。
同僚も一様にポカンとし、開いた口が塞がらないとの状況に陥っていた。
彼らが現在いるのは亜空間部屋。
4階建てのスタジアムを模した、超巨大な闘技場の中だった。
客席とグラウンドの境目には、アクリル板みたいな質感の透明な防護壁が。
攻撃が当たってから展開する仕組みとなっており、逆に何もなければクリアな状態を維持出来るので視界自体は極めて良好。
1体1体がかなりデカく、離れてても分かる様にとの目的を兼ね、空中にモニターを設置。
臨場感のある動きをより間近で体感したいからと、前のめりで観戦する者も多い。
如何にクリスティーン達が新参、且つ下から数えた方が早いとは言え。
客観的に見れば彼女らも十分人外のポジションに収まる。
その旨をゼノンが伝え、クリスティーン達がそう言えば…と思い出す素振りを見せながらも納得。
「凛様曰く、息抜きは大事なのだと。心的負担を出来るだけ溜め込まず、発散させる一助になればとこの場をを設けたそうだ。」
「成程…。」
説明中も大型魔物達による取っ組み合いや攻撃は続き、そこかしこで爆発だったり着弾する音が発生。
数日前に加わったマリア達も今ではすっかり慣れ、ナルに至っては完全に観戦モード。
朝食が済んでまだそう経たない彼女の両手には、何故かコーラとポップコーンが。
どっちも頑張れー!なんて宣いつつガラガラガラ…ゴクゴクと口へ流し込むとの姿に、クリスティーン達が引いたのは言うまでもない。
時間は少しだけ進み、邪神龍ティアマットの朔夜、イクリプスドラゴンの骸、ベヒーモスキングの猛を始めとした。
凛サイドが誇る屈指の実力者達、並びにゲストである天空神龍ヴァルハラの竜胆等が魔物形態で登場。
所謂、クライマックスとも。
待ってましたとばかりに指笛が鳴り、上がる大・歓・声。
その中にゼノン夫妻、レオン夫妻やポール、教皇フィリップに女神騎士団団長アーウィン、副団長レイラも含まれ、クリスティーン達は「え?え?一体何の騒ぎ?」と混迷の極みに。
そんな状況下でも時間は経過していき、開始される戦闘。
40秒が経過した辺りで氷神龍ヨルムンガンドのアーサー。
1拍遅れる形でフレースヴェルグの翔、ライと名付けられたテンペストルーラー(旧ライトニングレオ)がゼノン付近の防護壁に叩き付けられ、観客席から驚声や悲鳴が。
特に最初のアーサーは、全長数百メートルを誇る巨体。
最大級の質量な分、受けた衝撃も一入だと思われる。
体勢を立て直し、再び向かう彼らに大きな声援が送られたのは言うまでもない。
「イーノック、そんな装備で大丈夫か?」
「…1番良いのを頼む。」
「…上手く使いこなせよ。」
「うぅ、分かりました…。」
それからしばらくして、皆がいる前で繰り広げられた雫とイーノックによるやり取り。
雫は淡々としながらも妙にイイ声で、反対にイーノックが恥ずかしげなのがポイントだ。
イーノックへ対し、やたら勿体ぶったのは最初だからか。
若しくはわざとなのかは分かりかねるが、残るパーティーメンバーには普通にアズリール合金製の武具を譲渡。
ひょいひょいっと渡していく光景に、当人が思いっ切り面食らう。
「あの…今の(やり取り)は必要なのでしょうか?」
「ん、(私的に)必要。」
「そうですか…。」
扱いの差にささやかな抵抗を示すも、あっさり一刀両断。
諦め、項垂れるしかイーノックには選択肢が与えられなかったらしい。
「…雫。」
「ん?何、凛。」
「敢えて聞くまでもないだろうけどさ、何やってるの。」
「ん。今日からイーノック達も死滅の森で魔物狩り。なので餞別。」
「成程ねぇ…でも今の茶番いる?」
「いる。」
茶番って言っちゃったよ、しかも断言まで…との周囲の反応を他所に。
むふーと胸を張り、雫1人だけがご満悦な様子だった。
正午前
獣国王都イングラムの1角にて。
凛は美羽とステラ、レオン達王族(ただし妻タリアを除く)を伴い、本日オープンの寿司屋へと移動。
中央にはレーン。
それ以外でテーブルと座敷が設けられ、レオン含む大体の者がレーンの動きにキラキラとした目を向け、どんな仕組みなのか触ろうとして怒られるまでがセット。
レオンはガハハ…と一笑を交えて仕切り直し、事前に予約しておいたカウンター席へ。
彼以外の家族、凛達の順で座り、店についての説明やオススメを伺う。
軽い昼食へと移り、凛から(メニューに載っていない)皇帝マグロの大トロを提供。
テンションの上がったレオンが早速口へ放り込み、美味い!と1言。
半ば分かっていたとは言え、彼の家族(ただしファザコンな長女を除く)が呆れの色を見せたのは仕方ないのかも知れない。
この世界に於いて、魚の生食はタブー。
火を通さずに食すと、漏れなく腹痛に繋がるが常識だからだ。
それを覆したのは凛。
漁獲→データ化→スキルで再現した為に細菌や寄生虫の類いを皆無にし、安全に食べられる仕組みを用意。
勿論生以外にも焼きや炙り、唐揚げやハンバーグを始めとした変わり種。
プリンやケーキみたいなデザートやドリンク、果てはアルコールまで完備。
メニュー次第で値は張ったりするが、基本子供から大人まで楽しめる仕様となっている。
因みに、皇帝マグロは魔銀級中位の強さ。
先端にある刺はカジキマグロを思わせ、体長6メートルクラスの魚の魔物だ。
鮭王を含め、この世界の魚の何種類かは地球と違って進化するらしく、進化をするに連れて大きさや凶暴さが増していく仕様に。
ついでに、名前の挙がった鮭王や皇帝マグロを確保した場所。
それは獣国最南端漁業都市アゼルより、1000キロ位離れた海域だった。
切っ掛けは火燐。
場所的には先日ナル、アレックス、光輝、勉と行った座標より大分先にはなるが今は置くとして。
以前ポールと一緒にアゼルへ赴き、運良く穫れたと1匹の(鉄級の戦鮭が進化し、銀級となった)大鮭を紹介されるやサーチを展開。
程なくしてハッとした表情を浮かべ、1人現地(現海?)へ急行。
目的の海上に到達し、自身の真下。
それなりの深さにて、鮭王とマグロ皇帝。
及び配下の大鮭や、同等クラスの大マグロが縄張り争いをしているのを把握。
ニィ…と広角を上げた彼女は紫水の糸で出来た強靭な網を用い、それらを纏めて捕獲。
続けて、そう遠くない海中で8メートル程の大王イカと(上半身が女性、下半身がタコっぽい見た目のスキュラが進化→完全にタコと化し、魔銀級の大王イカより少し強く、大きくもなった)カリュブディスが同じく縄張り争いをしているのを発見。
追加で当然大王イカとカリュブディスも捕まえ、ホクホク顔でポールの元へ戻ったとか何とか。
閑話休題
「しかし美味ぇな、この寿司ってやつぁよ。」
十数皿を平らげ、そこそこ満足したと思しきレオンがお腹を擦る。
「惜しむらくは、漁で獲った魚だとほとんど提供が難しいって点か。どうにか出来んもんかねぇ。」
アゼルの新たな目玉になりそうだってのに、と。
どこかもどかしそうにする彼へ、凛…ではなく美羽が答える。
「出来るか出来ないかで言えば出来るよー。完璧に、とまではいかないのが懸念点ではあるけどね。」
「ほう?」
「1つは加熱で1つは冷凍。火を通す、それか丸1日以上凍らせる事で、寄生虫って言う。悪ーい虫さんを動けなくする方法。最後は清浄、若しくは浄化。ただこっちは弱らせるが主なので、過信は禁物かも。疲れてる時とか、病み上がりの状態だとお腹が痛くなっちゃうかも…あっ、どちらも下処理を済ませた上での行動ね♪」
程度はあるにせよ、ひとまず4つも選択肢(内1つは光属性なので多少揉めるかもだが)が与えられた事にレオンは安堵。
意外にあるもんだな…と漏らしつつ、改めて美羽。
の下、テーブルに置かれた皿をまじまじと見る。
「ところでよぉ、美羽様のは寿司…で合ってるのか?俺にはネギの山にしか見えないんだが…。」
皿の上はネギがこれでもかと積まれ、寿司以前に元が何の料理なのか最早分からないまである。
いくらネギ好きでも、限度があるのでは?と口に出したいのが有り有りと伝わって来る。
「ボクのは皇帝マグロを使ったネギトロって寿司なんだー♪しかもネギを増し増し…はっ!?分かった…レオン様も食べたいんでしょ?」
「え?いや違━━━」
「でもダメ!これはボク用にわざわざ作って貰ったものなの!だからあげないよー?」
うぅー、と唸る美羽。
仕草こそ可愛らしいものの、彼女から漂うはそこはかとない執念。
これ以上踏み込んでは不味いと、レオンの直感が警笛を鳴らす。
「そ、そうか…。(なんだか良く分からねぇけど、美羽様が初めて本気になった気がして怖ぇんだが…。)」
寿司?アレを寿司と呼んで良いものなのか?後、ついでにめっちゃ怖い。
どう見ても寿司とは思えないビジュアルに、疑念と共に生まれる、困惑。
死神を彷彿とさせるプレッシャーから来る恐怖が綯い交ぜになり、レオンは複雑な様相に。
「あーん♪んー、美味しっ♪」
翻って美羽。
非常に満足そうな面持ちで刻みネギの塊へ箸を入れ、中からネギトロを取り出し、口の中へ。
両頬に手を添え、ん〜〜〜〜♪と漏らす位には幸せを噛み締めていた。
「炙りサーモン美味しー!焼きも中々♪」
ついでにステラも。
これに末っ子姉妹とその1つ上の兄がほほうと唸り、追随したのはお約束。
精算を終えた1行は少しだけ食休みを挟み、今度はビュッフェ式のレストランへ。
そこは様々な料理が食べ放題飲み放題。(ただしアルコールは追加料金が掛かり、いずれも日本のより味が少し落ちる)
皿に乗せれるだけ乗せては完食し、再び調達しに向かうを繰り返す者が多かった。
「はーい♪ここは受付後から1時間、好きなだけ食べて飲んで良いお店になりまーす♪ちなみに〜、お値段はコチラっ!」
案内役は寿司店に続き、美羽。
ニコニコ顔の彼女がメニューを提示し、即座に返って来る『安っ!!』との反応。
「ビックリだよねぇ。けどその分、味と言うか質も少し抑え目になってるの…ゴメンね?金額が安いのは、運用試験も兼ねてだって。ね、マスター?」
なんて凛に問い掛ければ、微笑みを交えた首肯が。
「成程な、開店してまだ数時間だってのにこの盛況振り…ガハハ、勝ったな。」
レオンの謎の結論に、「誰になの?」と美羽のツッコミ。
ただ少しツボに入ったのかクスクスと笑いながらであり、ステラの「ホントだよ」も同様。
彼の子供達は一様にポカーンとしており、3人だけの世界に。
同刻、帝都にある高級料亭。
そこで凛とシエル━━━護衛役を兼ね、小型化した状態で肩に乗るアルファも━━━、ゼノン1家(妻オリビア、リーゼロッテ、アレックス、アリスを除く)が和食を堪能。
こちらにいる凛が本人で、美羽と共にいるのが分身体に当たる。
分身体も意思表示だけでなく、発言も勿論可能。
ただあの場に於いて、美羽が先導したいとの要望から任せた次第だ。
尚、このお店では魔銀級までの肉・魚貝類・野菜を用いた料理を提供。
単品、コース、懐石。
それと、どら焼きや大福等の甘味や清酒、焼酎等のアルコール類を注文する事が出来る。
人型となったシエルが美味しそうに飲む、ほうじ茶ラテもその1つ。
砂糖たっぷりのそれをふへぇ〜と泡状の髭を付けて飲む傍ら、凛はゼノンと談笑。
残る男性陣は隣のテーブルから若干引き気味でシエルを眺め、逆に女性陣は興味津々な様子。
抹茶ラテもあるよー!とのシエルの提案に、後者が見事食い付いた。
「離せ!儂を誰だと思って━━━」
そこへ届けられる怒声。
にこやかな雰囲気から一転、うんざりした顔付きになったゼノンがそちらを見やる。
60代と思われる男性がやらかしたのだろう。
2名の男性スタッフに両腕を捕まれ、引き摺られるとの光景を凛達は目撃。
「あー…開店して間もないにも関わらず、早速問題を起こす馬鹿が出たか。」
「みたいですね。どうします?オープンしたばかりで右も左も分からない体にして━━━」
「助かる…が、(ホズミ商会関連施設の利用は)全く初めてではないはず。相応の落とし前は必要だろう…はぁ、済まないが少し席を外して来る。」
「あ、はい。分かりました。」
ファイアドラゴンの角煮を食していたゼノンが手を止め、ナプキンで口元を拭き、離席。
そう時間を置かずして戻った彼によると、先程の男性は出された料理が気に入ったを理由に勧誘。
断られ、逆上して連行されたとの経緯らしい。
その際、今回は見逃してやるが次はないと告げ、男性は「ふざけ…」と言い掛けたところで相手が誰なのかを知り、真っ青な顔で去って行ったとの事。
「お待たせ致しました。凛様、ご機嫌麗しゅう…。」
ようやく、妻オリビアが合流。
静かに席へ着き、上品な仕草で以て凛達に相対する。
ただ、彼女の肌は瑞々しく、髪はサラサラのツヤッツヤ。
昨日までより明らかに若く、美しく、綺麗になっていた。
そんな澄まし顔を浮かべ、キラキラオーラを放つ彼女へ、隣に座るゼノンが含みのある視線を向けるのだった。
テンペストルーラー(悪魔系のところにあります)のライは、フレースヴェルグの翔と同じ133話で名前だけちょこっと。
篝とステラにロックオンされ、ビクゥッとなった子です(笑)
主に2人に可愛がられ、ステラにはにゃん丸がいるので篝の騎獣みたいなポジションへ。
人化した場合、高校生手前位の男の子(盾◯勇者のフォ◯ルを中性的にした感じの為姉妹に間違われる)の見た目になります。




