287話
それから、紅葉やクロエや甦った者達。
ゼノン親子を伴い、話に出たVIPホテルの食事スペースで昼食を摂るとの運びに。
一緒に来た者の多くは初めて体験する美味さに我を忘れ、数瞬後に夢中となる一方。
(たまに食べるとの意味で)慣れ親しんだ凛サイドは程々に済ませ、片付け等の作業を行いにブンドール元候爵が保有する鉱山都市オラーノへ向かう旨を伝達。
話を聞いたゼノンが折角なので随行したいと返答。
尤も、カプロスとミノタウロスキングを粗挽きしたハンバーグを堪能、口元にソースを付けるとの様相は威厳もへったくれもなかったが…。
それはそれとして、これまでおとなしかった次男ニールが自分も見たいと志願。
(魔銀級の強さで体長5メートル近い)鮭王のカルパッチョを食べながらでの彼の提案にオリビア、ウェルズ、リーゼロッテが便乗。
反対に、見ていて胸クソ悪くなるだろうからとアレックスは辞退。
アリスはアレックスが行かないならと拒否、他の姉弟も断る形に。
食事後、紅葉達やアレックス達。
新たに加わった元アンデッド組のほとんどを残し、凛達は転移魔法で目的地へと向かう。
いきなり転移した事に戸惑う面子が数名いたのはさて置き、オラーノの正面入口の前へやって来た1行。
そこにあったのは山、それらを削り取って出来たであろう岩壁。
最後に、何人たりとも逃さないを意志表示したかの如く聳え立つ、厳ついが特徴の巨大な漆黒の門だった。
凛達は現在外にいる為に確認仕切れなかったが、半分以上を占める鉱山を除いた居住区画の内、6割程をブンドール元候爵家の屋敷が占める。
巨大なT字の形をしており、奴隷や無理矢理連れて来た者達を(強引に)連れ込む形としても利用。
ただ、それは気に入ったと呼べる者へ対する処置。
残りと言うかほぼほぼの人達は屋敷の外にある、岩肌を削って設けた檻に閉じ込められ、兵達によって管理。
たまに行われる、帝都からの視察への対策で、必要に応じて土魔法によるカモフラージュが施される。
要は、監察官達が来る前から帰った後までの間、生き埋め状態。
持て成しも兼ねているので最短1日、長くて2〜3日の場合も。
空気穴なんてのはなく、死んだら死んだで大いに結構。
地下で飼っている魔物達の食糧にすれば良いし、減ったらまた補充すれば…位の感覚でしかない。
人を人と思わず、家畜みたく扱った挙げ句監視までする。
とてもまともとは言えない、狂った所業の数々。
それがブンドール家での仕来り。
そんな彼の屋敷を正面より入った凛達は、簡単ながら部屋の様子や檻等を確認。
乾いた血の跡が所々で視界に入り、被害に遭った者の惨さ、不憫さ、痛ましさが伝わって来る。
オラーノの実状は外部に一切伝わっていない事から、恐らく1度入ってしまえば2度と出られない。
被害を受けた者はどれだけ酷い目に遭ったのかと、全員が沈痛な面持ちに。
参考までに。
オラーノでは、屋敷の縦部分をブンドールや兵達。
横部分の内の東側がそれ以外の男性、中央より西側が女性で区分。
比率は凡そ4対6。
男性は発掘を含めた力仕事、女性は屋敷の手入れや(色々な意味を含めて)兵士達の世話、食事の提供を行っていた。
「…屋敷なのは見せ掛けだけで、実質ただの牢獄だったり処刑場じゃないですか。まるで罪人みたいに…罰を受ける謂れも何もないのに。」
「オラーノは先々代のブンドール家当主が、自分の為に興したと言っても過言ではない。形式上(人数的に)都市と呼ばれているだけで、ほとんど意味を成さぬ…そうであろう?クリスティーンよ。」
凛の悲哀に満ちた呟きをゼノンが拾い、目線を1人の少女━━━クリスティーンへ。
「はい…」と答えた彼女は年の頃が18歳位。
身長167センチ、オレンジに近い黄色の髪をウェーブ状に下ろしている。
「我が15の頃だったか、突然いなくなったかと思えば…まさか斯様な場所にいたとは、な。」
「お久し振り…で宜しいのでしょうか?お察しの通り、私は息絶えてからこちらの様子をずっと見て参りました。酷いなんてものではありませんでしたが…。」
クリスティーンは多少ながら、昔のゼノンを知る人物。
それが元で今回の説明役のポジションに収まり、微苦笑を浮かべ、物憂げがちに目を伏せた。
クリスティーンは元子爵家令嬢。(ついでに、彼女より早くオラーノにいたを経緯に同行した熊人の青年は補佐役)
先代ブンドール家当主から目を付けられたを発端に家が多額の負債を抱え、借金の形としてこちらに。
オラーノへ来てからは地獄の日々。
自分以外の者へも酷い仕打ちだと思いはしたものの余裕がなく、散々辱められ、嬲られ、尊厳を踏み躙られた末に死亡。
数十年もの間恨み辛みを募らせ、紅葉の手によってエルダーリッチへ。
オラーノに残っていた兵達を転移機能付魔道具で亜空間部屋へ強制連行し、新たに生を受けた他の者達と共に大暴れ。
相手からの言い分だったり命乞いを一切合切無視し、漏れなく鏖殺。
見るに堪えない、聞くに堪えない彼らの醜態なぞ受け入れられるはずがなかった。
物理的に黙らせ、肉塊へ変えたのがつい先刻の事。
終いには空間ごと閉じられ、オラーノ兵団なる集団は抹消された。
コレヲは既に処刑済み。
彼の取り巻きであるカスメール家とウーバウ家も相応の罰が与えられ、オラーノ兵団と共に命を散らした者もちらほら。
地下にいた魔物達も同様の道を辿っている。
屋敷に誰もいないのはそれが理由で、解放された者達は各々行きたい場所へ既に転送済みだったりする。
ややあって、オラーノ全体が更地へと変貌。
鉱山内にある鉱物も遠隔操作や抽出によって回収が行われ、山だったものも凛・美羽・雫・楓の手によって地面と同化。
悲しみの連鎖はここで終止符を打たれ、鉱山都市としても終わりを迎えたとの運びに。
「では、ゼノン様。先程の件、宜しくお願いしますね。」
「心得た。早速都内各所に案内を貼らせよう。」
一連のイベントを終えた凛達は、帝城へ帰還。
そのまま解散となり、その別れ際で行われた凛とゼノンによる短いやり取り。
話の内容はホズミ商会の扱いについて。
関係者に危害を与えるのは勿論。
圧力や勧誘、実力行使と言った、悪意を抱きながらでの接触は厳罰に処する旨を発表。
オープンして間もないにも関わらず、既にかなりの報告を受けているからだ。
帝都の彼方此方。
加えて店内外にも案内が貼られ、幾度となく帝国兵が出張るとの事態に。
時刻は変わり、夕方。
領地に戻った凛達は、本日より加わるクリスティーンらオラーノにいた者の歓迎会を行った。
のだが━━━
「アレックスよ…其方、ティナの様ないたいけな娘にお兄ちゃん等と呼ばせておるのか…。」
「ん。アレックスの癖に生意気。それに、これは犯罪の臭いが━━━」
「し・ね・え・よ!!つかちょっと待てや雫。俺の癖にって酷過ぎだろ、癖にって。俺はあっちの世界では実際に妹がいてだな…おいお前ら、何だそのにやけ顔は。」
「「アレックスお兄ちゃん♪」」
「止めろー!お前らみたいな妹は死んでも要らん!」
「「解せぬ。」」
「それは俺の台詞だっての!」
ドン引き。
からの納得いかない雫と朔夜へ更に不満をぶつけるアレックス…的な構図で軽くカオス化。
それからも3人はギャーギャーと騒ぎ立て、名前を挙げられたティナがオロオロ。
「相変わらず仲が良いのか悪いのか…。」
「良いからじゃれ合うんじゃない?」
「だよねぇ。」
「じゃれ合うって言えるのかな…けど希望ちゃんか、元気にしてるかなぁ。」
彼らの様子を眺めつつ、凛、翡翠、美羽、ステラの順でそれぞれ1言。(ひかり繋がりで、光輝の妹耀がピクリと反応)
それで冷静さを取り戻したらしく、ティナが「あの、私のせいでごめんなさい…」と申し訳なさげに謝罪する。
「私、小さい頃からアレックスお兄ちゃんに面倒を見て貰ってて、ついいつもみたいな感覚で…。」
「アレクは悪い気はしてないし、雫と朔夜も単に誂って遊んでるだけ。だから大丈夫、ティナさんが心配する必要はないよ。」
「えっ、そうなんですか?」
凛からのフォローに目を丸くしたティナが辺りを見渡し、示される首肯による同意。
更に「人が苦労してるってのに、そっちは楽しそうだな」とアレックスから小言を貰い、「あ、ごめんなさい」と返すのがせいぜいだった。
「けど、お兄ちゃんねぇ…。」
「な、何だよ…。」
ふーん?と意味ありげなステラの視線に、アレックスがたじろぐ。
「ちゃんと兄らしい事してるんだなぁと。」
「まぁ、そりゃあな。たまたまっつーか、向こうの時と同じ年齢差だし。」
「5つ下だもんね。」
「皮肉な事にな…ったく、何の因果かっての。」
「僕もまさか、ティナちゃんを切っ掛けに流行る(?)とは思わなかったよ。」
ステラの言う流行り。
それはティナがアレックスを兄と呼び、彼を慕うとの関係性に倣おうとの動きの事だ。
「あ、そう言えば…。」
続けてそう告げるや、途端に「ど、どうかしたか…?」と身構えるアレックス。
疚しいと言うか、安堵からの警戒へ移行したのが誰から見ても明らかだった。
「希望ちゃんで思い出したけど、ロゼちゃんって…。」
「あー…まぁ、バレるわな。」
「そりゃ分かるよー。違う点は幾つかあるけど、雰囲気全体で見れば似てるもん。」
ロゼは控えめで、希望は快活。
顔立ち、髪や瞳の色は異なれど、兄好きなのはどちらも同じ。
ついでに、背丈と髪の長さもどっこいどっこいだったりする。
「だから嫌がったの?」
「…ああ。」
「コロって名前を付けようとしたのは?希望ちゃんがコロコロと笑うのを思い出したからとか?」
「…マジで隠し事出来ねぇな。」
こてんと首を傾げるステラに、アレックスは戦慄を覚える。
可愛い幼馴染が告げたのは悉くが真実。
ロゼはドラゴン。
威圧的、且つゴツゴツしつつ丸みも帯びてはいるが、形状自体は亀っぽい。
なのでコロコロ転がるからコロなのだと多くの者が考え、焦点をロゼからアレックスへ戻すと同時。
表情や心裡でそっち!?と盛大にツッコミを入れていた。
「やっぱりお兄ちゃんなんだねぇ。アリス様もそう思いません?」
「うん。兄様は偉大。素敵。」
淡々と。
それでいて全肯定するアリスに周りから上がる、おぉー!との称賛の声が。
「じゃあじゃあ、あたしもお兄ちゃんって呼ばせてもーらおっ♪」
真っ先に反応し、にへへー♪と笑いながらアレックス━━━ではなく凛の腕に抱き着いたのはナル。
これまでずっとお兄…と口に仕掛けては閉じるを繰り返し、未だ彼を名前で呼んだ経験はなかったり。(いつもはねぇねぇ、とかあのねで濁していた)
待ってましたとばかりに行動する彼女に周りは呆気に取られ、翡翠だけが逸早く反応。
「あ、ナルちゃんだけずるーい!あたしだって凛くんの事をお兄ちゃんみたいだってずーーーっと思ってたんだからねー!?あたしもお兄ちゃんって呼ぶーー!」
先を越され、納得いかなさそうにするもすぐ「にひひ♪」と笑い、ナルとは反対側の手を取ってみせる。
「…凛、兄さん?…悪くはないですが、私は凛君のままで…。」
「私も。畏れ多いので凛様のままでお願いします…。」
「オレぁ柄じゃないからパスだな。」
「マスターはマスターなのだー♪」
楓は少し不思議そうにし、垰はお辞儀。
火燐が肩を竦め、美羽は後方彼女面ならぬ後方従者面(?)を披露。
「さしずめ、凛は皆の兄。若しくは母親ってところだな。」
アレックスの結論にほぼ全員がコクコクと頷き、当の本人は「母親って、僕22歳だよ。それに男…」と苦笑。
客であるレオン達やフィリップ達、ゼノン達も同意。
ちょっとした笑いが起きた。
「雫よ、完全に出遅れておるぞ…。」
「ん。今更凛の事を弄っても何の面白みもない。くっ…おのれアレックスめ…。」
「いや、完全にお前らの自業自得だろうがよ。俺を巻き込むな…。」
気持ち朔夜が焦り、悔しげに瞑目する雫。
どちらも自分達の都合でしかなく、アレックスが不本意とばかりに複雑な表情を浮かべるのだった。




