285話 72日目
4晩明けた72日目
午前8時過ぎ
「………。」
海上より幾許か高い位置にて。
腕を組み、仁王立ちで遠方を見据える火燐の姿がそこにあった。
彼女は現在、大陸最南端にある獣国の漁業都市アゼル。
そこから更に、南へ5キロ程進んだ空間にいる。
「海かー、こんな感じで見るのは初めてだな。」
「うーーみーーーー!」
同行者はアレックス。
それと彼に肩車されている状態のナルだ。
今回彼らがここへ来たのは、2人の師匠である火燐から技を伝授して貰う為。
転生者&皇族との恵まれたポジションのおかげか、中々に優れたポテンシャルを有するアレックス。
ナルはその逆。
全体的に適性が低く、そのせいで弱い部類に入る。
彼女は種族が種族なので小柄な体躯。
実力者程動きに補正が掛かる風に適性があり、それと同じならば良かったのだろうが…彼女の中で最も得意なのは炎。
彼の属性に関してだけならまぁまぁ扱う事が出来、今までは攻撃を補助するを目的に使用していた。
そんな彼女だが、アレックスに(猫の首を掴むみたいな持ち方で)拾われ、2つ返事で同行。
仲良くなり、彼の師匠との繋がりから火燐とも関わりを持ち、得た加護越しに適性を大きく引き上げて貰った。
その影響でか、現時点に於いて上級までの魔法ならギリギリ扱えるまでに。
本日、朝食後に行われた訓練。
そこで彼女は指定された的へ初級〜上級の炎魔法を放ち、続けて手足に纏わせた炎を同じ的にぶつけると言った動作を披露。
手応えを感じたナルが満足げな表情を浮かべ、しかし次の瞬間には愕然。
アレックスが(先日ゼノンへ見舞った)超・爆炎斬を的にぶっ放し、ド派手な破砕音と共に的である鎧を粉々にしたからだ。
数秒後、我に返ったナルは感動のあまり体を震え上がらせ、やがて盛大に嫉妬。
自分の知らない内に強くなり、使える様になったのがズルいと駄々を捏ねた結果、今に至る。
「感動する要素あります?コレ。」
「物騒が過ぎるでござる。」
ついでにと言う訳ではないが、同行者が2人。
光輝と勉だ。
彼らは火燐達ではなく、海上。
水や風魔法等を用い、激しく縄張り争いする水棲系の魔物の集団を何とも言えない表情で注視。
「分かってねぇなぁ。あの程度、オレらからすりゃ、単なるじゃれ合いみたいなもんだろ。」
チッチッチッ、と指を振り、訳知り顔で宣う火燐。
あんな危険極まりないじゃれ合いがあって堪るか、とナル以外の全員の考えが一致した瞬間だった。
さて、何故この場所に光輝と勉がいるかだが…早い話が火燐に引っ張られたから。
ゾンドルキア元公爵家の断罪を機に大規模な是正が入り、貴族や商人達を入念に調べた結果、出るわ出るわ悪事の数々。
おかげで上から下への大騒ぎとなり、諸々沈静化させるまで3日もの時間を要した。
すっかり当てにされる形となったアレックスを主戦力に、何故か商国(特にポール代表)のご意見番に据え置かれた火燐。
男尊女卑の観点。
並びに招喚された異世界人&現ホズミ商会員とのポジションが関係してか、光輝と勉にもとばっちりが。(男尊女卑の件で同じ異世界人枠ながら恋人でもある理彩と莉緒を矢面から守った結果とも)
「しかし疲れたな…。」
「皆さん必死でしたもんね…。」
「ドン引きでござるよ…。」
「?」
不思議そうにナルが首を傾げる傍ら。
アレックス、光輝、勉の3人が遠い目をする。
貴族や商人との面談時。
骸による皇帝の友人やアンデッドの頂点との肩書や発言が功を奏したのか、彼へ対し圧力に連なる行為はなく、ほぼほぼノータッチ。(初顔合わせの際、メアリーが目をハートにしてひたすら声を掛け続けたのが大きかった模様)
代わりに狙われたのがアレックス達3人。
アレックスは持ち上げれば。
残る2人は世間知らずだろうと高を括られ、女でもあてがえば良いと思われたのだろう。
言葉巧みに懐柔しようとし、上手くいかなければ娘、姉妹、従姉妹、姪、孫娘のいずれかで年頃の女性を紹介。
それ込みで便宜を図って欲しい、と頼まれるまでがセットだった。
純粋な好意であれば一考の余地はある(初対面且つつい最近喚ばれた為碌な情報がないので仕方ない)ものの、漏れなく打算的な考えの元で行われた行動。
男性は酒や嗜好品。
女性は(お菓子はお菓子で別として)美容関連に注目が寄せられ、特に後者に至ってはホズミ商会に関わった皇族が目に見えて綺麗になったと専らの噂。
それに肖りたい彼ら彼女らは、前のめり状態でアレックス達との面談に臨んだとの状況だ。
これに光輝達が靡くはずもなく、同様の誘いを受けたアレックスも然り。
1度や2度ならまだしも、「デジャヴかな?」と軽くうんざりする位には繰り返された行動。
むしろ光輝や勉からすれば、帝国で既に2人ないし3人。
更には神聖国、王国、商国からも各1人ずつは懇意にした方が良いとの意見が。
アレックスもアレックスで、元十死天→現親衛隊のラニ達とは別で、新たに加わったのが3人(もとい3体)。
いずれも、これ以上は勘弁して欲しいとの思いが強かったり。
獣国側は特に何も。
獣王夫妻が現状に満足しており、特に何かする必要性を感じなかったとも。
因みに、火燐に関して…と言うか。
極めて純度の高い火鉱石こと、『煉獄石』と名付けられたそれを(光輝や凛達がいなくなった後に)骸が謁見の間で発表。
これ見よがしに貴族達の前へ掲げ、ゼノンが持つカレドヴルッフにも使われていると告げれば、結果は火を見るより明らか。
疑って掛かった1人の貴族が奪い取り、高エネルギー体である獄炎石を何の対策もなしに持ったものだから発火。
流れる様にして炎上へと移行。
凝縮した炎と言っても過言ではないそれに一般人の体が耐えられるはずもなく、あっという間に二の腕から先が炭と化した。
落ちる獄炎石を骸がキャッチし、反対の手で用意したポーションをぶっ掛けて事なきを得たものの、却って本物であるとの信憑性が増す結果に。
彼女が補佐を務めるポール含めた商国に矛先が向き、売却希望が殺到。
続けて目玉が飛び出る値段に驚き、辞退するまでがお約束になったりなかったり。
閑話休題。
淡々と話し合いは進められていき、人として問題なさそうな者に関係する場所から順次事業を展開するとの運びに。
死んだ魚の目みたく覇気のないアレックス達3人も、取り敢えずは元気を取り戻したと踏んで良いと思われる。
「お前ら…確かに面倒ではあったがよ、所詮は有象無象の集まりだろ?情けねぇ。」
「残念美人筆頭争いが何か言ってらぁ。」
「中身はともかく、見た目絶世の美女に違いないでござるからな。」
「だ・れ・が・残念だ!内面も素晴らしいやろがい!!つか筆頭って、他に誰がい(る)んだよ!」
「「雫(殿)。」」
「雫だぁ!?あんなのと一緒にすんなし!!」
火燐がそう返すや、アレックスと勉が顔を見合わせ「ハハッ、ワロス」と嘲笑。
光輝も光輝で「あはは…」と苦笑いするに留まる。
「ベクトルが違うだけで、割とどっこいどっこいだと思うぞ。」
「ちょ、殿下…まぁでも分からなくはない、かな?」
「(残念美人との言葉が)これ程似合う方は中々いないですしおすし。」
「マジで好き放題言いやがる…お前ら、覚悟出来てんだろうな?」
「ステイステイ。」
「火燐様、ストップ。」
「落ち着くでござるよ。」
「オレぁ犬かっ!!」
3人の雑な宥め方が癪に障ったのか、がるるる…と唸る火燐。
歯を剥き出しにしての威嚇と言い、紛れもなく犬のそれだった。
ややあって、チッと舌打ちの後に始められた訓練。
「…エクスプロージョン。」
火燐が右手を前に翳し、ドォォォォンとの爆発が起きる。
「これは皆がよく訓練で使うやつだな。」
「うんうん。」
「ですね。」
「(自分達の中で)割とありふれてる魔法でござるな。」
「そうだ。そしてコレを元に開発されたのが爆炎斬でもある。」
アレックスの発言を起点にナル達3名、そして火燐が頷く。
「んで、こっからが本題だ…ニュークリアブレイズ…ほれ。」
火燐は軽い調子で、掌の上にピンポン玉位の大きさのエネルギー体を生成。
これまた軽く放り投げる感覚で、明後日の方へと投擲。(※彼女の卓越した魔力操作が為せる技で、本来ならば出来ない芸当)
放たれた明るいオレンジ色の球━━━炎系超級魔法ニュークリアブレイズは、1キロよりも幾分か先へ向かった辺りで発動。
ドゴオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォン…と、かなりの規模の大爆発を引き起こした。
「うぉっ!」
「ぬわーーーーっ!!」
これにより音や衝撃は元より、物凄い爆風が発生。
アレックスはギャップの差に驚き、彼に肩車されているナルは飛ばされる寸前。
小さな体をバタバタバタ…と激しく揺らし、アレックスはそんな彼女を必死に支える。
光輝や勉も瞠目したが、自身よりも近くにいたアレックス達のリアクションに意識を持っていかれた為、そこまでではなかった。
しかも、ビビった海の魔物達が慌てていなくなり、そちらへ視線が釣られたとのオマケ付きだ。
ニュークリアブレイズは半径1キロ程の爆発を起こす魔法。
発動中である10秒位の間、その圧倒的熱量で一切合切を燃やし尽くすとの効果が。
ニュークリアブレイズは他の超級魔法━━━インフェルノやクリムゾンノート(サラマンダーがゾンダを焼き尽くした時のに近い感じ)と比べてシンプルな分。
効果範囲、殺傷能力共に優れた魔法となっている。
「これが炎系超級魔法、ニュークリアブレイズって魔法だ。こいつは使いどころが難しいのは難点だが…最早そんなのはどうでも良いって位、すげぇ威力だろ?」
良いところを見せようとわずかばかり張り切り、もう少しで最上級であるブレイジングサンに近いまで魔力を込めてしまった。
ぶんぶんぶんぶんと首を縦に振る弟子2人を前に、火燐はすっかり上機嫌。
インパクトを与える点だけで述べれば、十ニ分な成果だったと言えよう。
「今のニュークリアブレイズもそうだが、超級魔法ってのはどいつもこいつもやたら癖が強え。効果範囲は広いし、威力は言わずもがなだ。だから練習するには許可が要る。周りへ危険が及ぶんだ、まぁ妥当だよな。」
「あー、近くに仲間がいる状態で暴発でもされたらたまったもんじゃねーもんな。死亡原因が同士討ちなんて、何の冗談だよって思っちまう。」
「そう言うこった。だがまぁ、アレックスはもう少しでこの魔法を使える様にはなるぜ。一応な。反対に、ナルは適性があんまり高くねぇからなぁ…まだまだ使えそうにないわ、ドンマイ。」
「マジか!」
「ぐぬぬぬぬ…。」
「ああ。んで…溜めるのに時間は掛かっちまうが、さっきのニュークリアブレイズの威力を封じ込めた剣技が━━━」
「シャァァァァ!」
言い掛け、火燐へ向かう形で海から飛び出したのはシーサーペント。
シーサーペントは餌にしようとした魚を目の前で燃やし尽くされ、大層憤慨。
怒りをぶつけんと姿を見せまでは良かったのだが…相手は武神とも称される火燐。
一瞥すらくれずにひょいっと攻撃を避け、ガチンッと口を閉じる音だけが虚しく響く。
火燐は振り向き様にレーヴァテインを構え、隙だらけになったシーサーペントのど真ん中に、ニュークリアブレイズの威力を封じ込めた剣技を打ち付ける。
向こう側広範囲への爆発と共に開く、大きな風穴。
ガ…ガガガ…と呻いた後、シーサーペントは海へと落下していった。
「…この超・爆炎斬って訳だ。」
「…ん?あれ、俺のと違━━━」
決まった…とばかりに目を閉じた火燐へ対し、アレックスが何か思い出そうとする。
「カッコ良いーーーーー!!ってーー、アレックス様ばっかりズールーイー!学びたいのはあたしなーのーーにーーーー!!」
「いててて。ちょ、ナル!頭を叩くな!」
だか肩車中のナルが彼の頭をぽこぽこと叩き、ものの見事にシャットダウン。
心做しか、トレードマークである彼女の青いツインテールも荒ぶっている様だった。
「なぁ火燐。」
「ん?」
「今のと俺が親父に放ったの、同じ(技の)はずなのにちぃとばかり違くねぇ?」
「そうか?…あ。あー、間違ったのを教えたかも知れん。」
「は?なら俺のは━━━」
「剛・爆炎斬…クリムゾンノートをベースにしたもんだな。」
「…どっちが強いのかは。」
「そりゃ超に決まってっだろう。3つある超級ん中で1番火力高ぇ。色もこっちは黄に近いオレンジ寄りだしな。スマン、間違えたわ。」
父親と姉の前で叫んだ必殺技が、実は違う技だった。
謝罪込みであれ、さも当たり前の如く言い放つ火燐にアレックスはやるせなさを覚え、「何だよソレ…」とガックリ。
「だからあたしはーーー!?」
「まぁ慌てなさんな。折角ここまで来たってのに、剣技だけで終わると思うか?」
ナルは「いでででで!髪!髪を引っ張るな!!」と叫ぶアレックスを無視し、「…ごくり。それって…!」と前屈みに。
「(前に言ってた、わざわざごくりと口に出す奴か。本当だったんだな。)…ああ、当然素手用の技もある。それをナルに教えてやんよ。」
「師匠ぉーーーーー!!」
「つかよ。超とか剛とか、紛らわしいのが多いんだよ火燐の技はよ。烈や重なんてのもあるし。」
「うるせぇな、爆発はロマンだろ?」
「否定はしねぇ…が、ちょいちょい凛の(技)からパクるのはどうなんだ?」
「パクってねぇ、リスペクトした結果だ。」
「ものは言いようだな。」
そんなこんなで紆余曲折ありつつ、ひたすら指導を受けながら訓練を行うアレックス達。
最後は横並びになり、ストレス発散や遊び心を兼ねて水平線の彼方へ向け、大音声で叫ぶのだった。
アレックスの言うパクり技一覧↓
飛閃 飛ぶ斬撃→緋閃
飛燕 短距離転移→緋燕(幻影付き)
残響 残像を残した状態で回避、カウンターを見舞う→陽楼撃




