284話
「お願い…お願い、助けてよぉ。光輝ぃ。」
尚も諦め切れないのか、四つん這いのまま右手を前方へと伸ばし、希うルイーズ。
「残念だけど無理だ。万を越す人達に被害を与えた君を許す訳にはいかない。本当に、残念だ。」
対する光輝。
首を左右に振り、諦観に満ちた瞳でルイーズを見やる。
「そ、そんな事言わないでさ。ほら、私の体好きにしてくれて良いから!男ウケするって何人からも評判(を)得てるんだぁ!」
室内が軽く騒然となる。
尤も、ルイーズは言い繕うのに必死になるあまり、口走った事に全く気付いていないみたいだが…。
何にせよ、彼女の名誉の為にと敢えて知らせなかったにも関わらず、自ら台なし。
はぁ…と溜め息を零す光輝に、どこか至らない点でもあったのかと思い至ったのだろう。
「え?な、何?私何かした?」と狼狽し、「どうして君はそう…マジでもう…」と頭が痛そうにしてもオロオロするばかりだった。
「あのさぁ、盛大に自爆したって自覚ある?」
「えっ…え?」
「ないよなぁ…でなきゃあんなの起こり得ないもの…今ね、君は貴族令嬢としてあるまじき発言をした。ここまでは良い?」
貴族以前に、人として問題ある気もするが、誰も突っ込まない(突っ込む気が失せたとも)。
ともあれ、光輝のプレッシャーに気圧されてか、ルイーズが「う、うん」と頷く。
「一般的に、生涯1人だけを添い遂げるのが貴族。それが見合いでも、恋愛だったとしてもね。」
「…あ。」
「ようやく(状況が)飲み込めたか…そう、貴族。それも公爵令嬢ともあろう者が、複数の男性と関係を持った事を認めた。君自身が認めてしまったんだ。折角ゾンダ様が必死で隠したのに、全部無駄になった。」
「え、ちょっと待って。まさか…。」
「勿論、(今しがた得たステラからの念話越しに、屋敷での様子を)知ってるよ。まぁ、前よりも酷い生活を送っていたなんてのは流石に予想外だったけど…複数の男性奴隷を相手に、爛れた生活を送るなんて普通考え付かないって。」
「どうして…どうして…。」
「何も知らないと思った?周りが教えてくれるし、何より目立ちたがりな君がオープンじゃないか。表裏関係なくね。だから何をしようがしまいが、勝手に耳に入って来るんだよ。
まぁ、僕からすれば、(前世での同世代の)悪評が酷かったのに良くもまぁ懲りずにとの思いが強いかな。むしろ、昔が酷かったからこそ『今』があるんだろうけど…亮司さんには申し訳ないが、君の面倒を見て欲しいとの要望を断って正解だったと言わざるを得ない。」
ホズミ商会の現代表となった理彩の恋人、光輝。
意外な事に、彼は商才が。
しかしながら、未だ理彩の手伝いをするのに乗り気ではなかった。
と言うのも、彼の目の前にいる人物ことルイーズ━━━ではなく草葉 える。
彼女の父亮司に能力を見出され、差し伸べられた手を受け取らなかったとの後ろめたさがあったからだ。
える以外。
つまり互いの親同士が仲が良く、光輝とえるの両親とも良好な間柄。
話が出たのは高校進学してすぐの頃で、複雑な顔でそうか…と呟かられたのを鮮明に覚えている。
もしえるの性格が数段マシになり、光輝がそれに応えていたら互いの未来は明るかったかも知れない。
「何それ、私知らない…。」
「言えるはずないでしょう。仮に伝えたとして、君が受け入れるとは到底思えない。家を飛び出すが良い方で、下手すると何仕出かすか分からないもの。それ位、当時の君は危うかった。」
光輝はやはり口にしなかったが、飛び出した先で宿泊する代わりに体を差し出す。
所謂パ◯活的な行い等も、えるは平然と行っていた模様。
「だからこそ距離を置いたんだけど…まさかこんな結果になるとはね。本当、どうしてこうなっちゃったんだろう…大学に上がるまで引っ込み思案だった僕が悪いのかな?亮司さんの想いに応え、本気になるべきだった?ちゃんと君にぶつかっていれば、別な結末を迎えられた?今更ながら、そう思ってしまう。」
「そんな、今更なんて言わないで。アンタに見捨てられたら、私━━━」
「もう遅い。離れて行ったのは君の方なんだ。それに…。」
光輝が言葉を紡ぐよりも早く、そっと握られる右手。
優しく微笑み掛けてくれる恋人に釣られ、彼の表情も柔らかくなる。
「この通り、素敵な人が隣にいてくれる。君との関係も、今日限りで完全に終わりだ。」
「行こう、理彩さん」「ええ」と仲睦まじい雰囲気で歩き出し、部屋を後にする2人。
置いてかれたルイーズの目から涙が零れ落ち、3名程ショックを受けたり後を追い掛けようとした者がいたりいなかったり。
貴族達にとって、今しがた行われた一部始終はまるで物語のよう。
特等席で見ているかの様な、或いは登場人物の1人にでもなったみたいな錯覚に陥っていた。
「以上で、今回の催しは終わりだ。皆、ご苦労だった。」
そんな彼らを現実へ引き戻す、パンパンとの音。
見れば(無限収納に火之迦具土を仕舞い終えた)アレックスが柏手を打ち、言い終えるや体全体で後ろ方向を指し示す。
「巻き込んだお詫びだ。ウチの者から粗品を受け取ってから帰ってくれ。粗品のタイプは3つ。酒等の嗜好品、シャンプーや化粧水等の美容品、お菓子類だ。1人につきいずれか1つ、金額的にはどれも一緒だから安心して欲しい。あ、欲張って2つ目に並んだ場合は没収するからそのつもりでなー。」
粗品は全て4種で構成され、旅行とかで用いられるミニサイズが中心。
逆にお菓子はそこそこボリュームがあり、(日本で言うところの)大体1500円相当。
アレックスから許可が出るや否や我先にとエクスマキナの元へ向かい、得た戦利品を抱え、嬉しそうに帰って行く。
(誰も私を見てくれない。終わった者として扱われてるんだ…嫌、嫌よ。そんなの、嫌ぁ…。)
皆粗品へ夢中になるあまり、ルイーズへ気を配る者は皆無。
その孤独さから来る哀しみでさめざめと泣き、これ以上は耐えられず、瞑目する彼女。
その視線の先と言うか。
ルイーズが顔を向けた方向でアレックスの背中をバッシバッシ叩く、上半身裸の壮年男性。
帝国に於ける宿将、又は鮮血公とも呼ばれているガーランドその人。
巨斧片手に敵陣へ突っ込むが常の御仁で、先刻やたらやる気に満ち満ちた人物。
溢れ出るパッションが、アレックスへの可愛がり。
もとい、挨拶代わりのコミュニケーションともなっている。
「お父様、殿下が困ってますよ。」
「おお、スマンスマン!殿下がウチを気に掛けてくれるのが嬉しくてな!ついでにメルを嫁に貰ってくれると尚良いのだが!」
「お父様!」
「ガハハハ!ガハハハハハ!!」
そしてメルローズの父でもある。
豪胆な性格の彼は、獅子の鬣を思わせる立派な赤髪を盛大に揺らし、呵々大笑。
余談として、凛達は光輝達。
並びにアレックスの粗品配布に併せ、既に退出済み。
見惚れたり、現を抜かしている内に動いたとの形だ。
そこそこの数が名残惜しそうにしながらも、残る人員は帝国サイド。
加えて、皇帝の友人である骸だけとなった。
「ちょっと、聞き捨てなりませんわ!アレク様と結婚するのは私です!わ・た・く・し!」
「あら。ですがアイシャ様は(婚約者を)白紙撤回されたと…。」
「その様なもので殿下を諦めろと?断固拒否致しますわ!お慕いするのは後にも先にもアレク様ですの!」
「ふふふ…では私達はライバル、と言う事になるのですね♪」
「負けませんわー!」
アレックスの婚約相手の話を引き金にアイシャから待ったが入り、トレードマークである金髪縦ロールを揺らしながら主張。
彼女がいたが為に身を引いたメルローズも密かにやる気を見せ、視線が交錯。
2人の間に、バチバチと火花が散る。
「は?メルがアイシャのライバル?嘘だろ?」
「はーーはっはっは!殿下、モテモテだなぁ!!」
「だから痛いっての!つか父親だろ、止めなくて良いのかよ?」
「止めるも何も、娘の恋路を応援するのが親と言うものだろう?」
「アンタは昔から変わらねぇよな…(メルローズが)浮いた話を全く聞かなかったのはその為か、いつからだ?」
「時期で言えば、アイシャ嬢が相手として選ばれるよりも前になるな。」
「割と最初じゃねえか!?え、そんな昔から俺なんかを?」
「君なんか、ではない。君『だから』良いのだよ。分かる者には分かる。」
「ん…まぁ、当時のアイツは相当おとなしかったからなぁ。少々強引に引っ張り出したは良いが、目を回して焦った記憶しかねぇよ。」
「公爵との立場に尻込みするか、打算ありきの者達ばかりが相手だったからな。余程、嬉しかったのだろう。それからだ、変わろうとメルが努力し始めたのは。」
「そう、か…なら、応えてやんないと…なのか?」
複雑ではありながら、照れ臭さ+やや好意的なアレックスを見たガーランドがうむ、と首肯。
「それと、残る2人の娘についてだが…。」
「ん?ああ、シアンとスノウか。あいつらいつもメルにべったり━━━ってちょっと待て。まさか仲が良いからが理由で一緒に娶れ、なんてほざくつもりじゃないだろな。」
「ガハハハハハ!」
「いやガハハハハハ、じゃなくて。そう言うのはダニエルだけで十分なんだよ。」
「おや、既に知り合いでいるのか。ならば話は早い。」
「いや、早いとか早くないとか。そんな前置き要らんて。」
「まぁ、宜しく頼む。未来の義息子よ。」
「宜しく頼まないで良いから。」
「ガハハハハ!ガーーーーッハハハハハハハァ!」
「聞けよ、人の話!!ああもう、俺の周りこんなんばっか…って、待てガーランド!待てっつの!!」
高笑いを浮かべ、弾む気持ちを抑えられないガーランド。
それとは対照的にアレックスは苛立ち、頭を掻き毟る間にガーランドが離れるのを察知。
未だ笑い続ける彼を追い掛けさせられる羽目に。
その後の顛末として。
数代に渡り、繁栄させたゾンドルキア公爵家は取り潰し。
皇帝に弓引くとの凶行に走ったのだから当然も当然。
自家が盤石だと信じて疑わず、各自好き勝手にしたせいで砂上の楼閣へ成り果てたとも。
皇族どころか帝国全体を舐めて掛かったフェルナンド。
及びその母スザンヌは、身を以て大変さを知れと皇帝からのありがたーい言葉を元にソルヴェー火山へ。
ルイーズは実情を学べとの事で、帝都貧民層に放逐された。
タイミングや迎え方こそ違うものの、3人中3人が死亡。
いずれも決して良いとは言えない終わり方を、彼ら彼女らは迎えた。
誰からも気に留められず、早々に忘れ去られる運命を3人は辿るのだった。
「…ない…絶…さ…ら、…輝」
いや怖えぇよΣ(゜ω゜ノ)ノ←作者自ら突っ込んでみる




