283話
「悪魔憑き?この私を愚弄するか。侮辱と捉えるぞ?」
意見を述べている最中に遮られたゾンダ。
ただでさえ険しい目付きが、より厳しさを増したものとなってステラへと突き刺さる。
「どうぞご随意に。ですが分かるんですよ、僕みたく闇属性に特化した者なら尚更…骸さんもですよね?」
しかし当の本人は全く意に介しておらず、あっけらかんとした口調。
骸はそんな彼女から質問を投げ掛けられ、「ああ、そうだな」と首肯する。
「加えて言うなら、俺はアンデッドだ。それも一応頂点の立場の、な。だから見えるんだよ、アンタの周りにいる死者達の念が。相当、怨まれているみたいだな。そこのマダムに、嬢ちゃん坊っちゃんもだ。」
滔々と語る人物こと、皇帝から自身の友人だと紹介された骸が、実はアンデッドだった。
その情報に加え、悪魔憑きだと否定する本人に真っ向から反論する2人に貴族達が息を呑む。
事実、彼らの目には怨嗟と憎悪に塗れたゾンドルキア家の様子が有り有りと映っていた。
現在進行系で体を通り抜け、呪詛を漏らす辺り余程業が深いと見える。
突然話を振られたゾンドルキア家はと言うと。
「ヒッ!?」とルイーズが叫声の後、「どこ!?どこにいるの!?」と頻りに周囲をキョロキョロ。
弟のフェルナンドは未だに目を覚まさないし、は目まぐるしい展開に付いて行けない母スザンヌ。
自らの夫が疑われ、信じがたい気持ちでいっぱいらしく瞠目したまま固まっている。
「…これ以上は誤魔化せぬか。致し方ない。」
諦めた様にして頭を振った途端、ゾンダに変化が。
170センチ位だった身長が2メートル半ばにまで伸び、鋭利な爪や牙が出現。
肌は浅黒くなり、終いには背中から蝙蝠の様な翼まで生やす始末。
「ふぅぅぅぅぅ…この姿を見られたからには、誰1人として生かしては返さぬ。まずは皇帝、貴様からだ!」
口から黒い煙を吐き、如何にもやる気なオーラを醸し出す彼。
ゆったりとした動作の後、勢い良く跳躍する。
「しぃぃぃぃぃぃぃねええええぇぇぇぇぇぇぇぇ…えあ?!!」
ゼノンが反応する素振りを見せないのを良い事に、好機!とばかり左腕を前に突き出しながら飛翔するも━━━長くは続かなかった。
「危険だと知っていながら、何の対策も講じないなんて有り得ないでしょう。」
声の主はステラ。
彼女が伸ばした影の先から黒い棘を幾つも生み出し、悪魔と化したゾンダの腹部を正面から貫く。
彼女のおかげ(せいとも)でゾンダは身動きが取れなくなり、否応なくその場に固定。
「馬鹿が、叛意の罪は自らの命で贖え。」
「…!」
更に、いつの間にか武器を手にしたアレックスにより首を落とされ、
「汚物は焼却ぅ〜…雫様ぁ、コレで良い?」
「ん。大丈夫、問題ない。」
雫から妙なセリフを吹き込まれたサラマンダーが発生させた炎で、呆気なく焼滅。
先刻の思いっ切り手加減されたのとは異なり、文字通りチリ1つ残さずゾンダと言う存在は焼き尽くされた。
客観的に見れば、猛烈な勢いでゼノンに迫る途中(串刺しとの形)で急停止させられ、アレックスが介入。
喫驚するゾンダの首が胴体から離れたと思われた矢先、球状の炎で彼の痕跡1欠片すら残さず消え失せたとの感覚だ。
これらは10秒にも満たない、極わずかな時間で行われた出来事。
貴族達は例外なく絶句し、次に襲われるは特大の恐怖。
無理もない。
いくら悪魔へ変貌を遂げた者とは言え、少し前までは紛れもなく人間。
それがほぼほぼ一瞬の内に死へ至り、後には攻撃の余波で起きた窪みのみ。
その窪み自体も、(雫の手によって)すっかり元通り。
アレックスにステラ、サラマンダーを含めたゲスト陣営が一切心乱してないとの様子から、自分達も同じ運命を辿るのでは…と恐れを成した模様。
パニック状態へと陥り、悲鳴と共に一斉に駆け出すと言う。
阿鼻叫喚の地獄絵図と成り果てた。
「静まれ。」
そこへ届けられる、皇帝ゼノンの言葉。
低く、然程大きな声量でもないのに従わざるを得ない状況に持って行かされたのは、彼が覇道から来る威圧を乗せたから。
ここまでが彼の描いたシナリオであり、ようやくだったり万感の想いも含まれる。
「もう1度言う、静まれ。彼らを招いたのは卿らを害する為ではない。ある者を炙り出すが目的だったのだ。」
今度は肉体を通り越して精神━━━魂に響くではなく、普通の声色で以て説明に入る。
曰く、その者は帝国でも有数。
皇族ですら大凡無視の出来ない、強大な力を持った家との事。
その家は資源に富み、群がる者達から得られる莫大な財産を元手に様々な悪行に手を染めたのだそう。
同族他種族問わず平気で誘拐を行い、資金繰りが悪くなった者へ対しては対価と称した肉親(大体が妻や娘)を強制的に搾取。
それでも払い切れない場合は、当人を題材とした人体実験なんてのもしばしば。
それら込みで人身や違法薬物の売買に携わっているであろうまでは掴めたものの、肝心の証拠が見付からない。
どうやら徹底した性格らしく、それっぽい者や商人を捕らえても、トカゲの尻尾切りがせいぜい。
途中で足取りが消えてしまい、彼の家に繋がるまでには至らなかった。
以前より黒い噂が絶えない家ではあるが、最近は酷くなる一方。
すっかり増長し、皇帝からの言葉ですら無視するなんて事態もあった程だ。
このままでは力関係が逆転しないとも言い切れないし、正直手詰まりの状況。
そうして現れたのが凛達だ。
形振り構わず依頼を掛けた結果、次の報告が得られた。
彼の人物は(顔付きは別として)表面こそ穏やかだが、性格は傲慢で不遜。
弱者を甚振って悦に浸る…要は嗜虐趣味で、専用の部屋もあるのだとか。
妻はとある候爵家女当主の姉で、当主争いに負けてゾンダと婚約。
内政の才があった娘共々、かなりの浪費癖。
息子はプライドが高く、自尊心を満たしたいが故に他者を貶す節が見られる。
帝国の闇こと、影の王国や、その下部組織である闇鴉とも繋がりが。
白鳥を通じて心の闇を煽られ、唆され、甘言に惑わされ、悪魔と契約。
欲求が満たされ、ついでに強さまで得られるとかでそこそこ躍起になっていたのだそう。
更に、屋敷の地下には施術室と実験室が。
攫った者や奴隷を魔物と組み合わせると言う、非人道的な行いがされ、被害者は述べ数百人。
ほとんどが死に絶えたものの、息がある者に関しては保護したとの事。(魔物込みで)
ついでに、件の組織を介し、ブンドール候爵本人とも交流が。
ブンドールもやはり白鳥から悪魔招喚の話を持ち掛けられ、既に投じた数十人分の生贄を代償に、遠隔操作で起動出来るタイプのものを使用したとか。
因みに、影の王国やブンドール云々は報告書によって初めて知らされた事。
特に後半はゼノンですら初耳で、ステラとのやり取りは「この内容マジ?」「ホントホント、僕嘘付かない」的な意味合いが込められたからだったりする。
「皇族直属部隊が長年追求仕切れなかったものをあっさり解決出来たのは些か腑に落ちぬ…が、ここまで話せば理解出来た者も多かろう。そう、この催しは彼の家━━━ゾンドルキア公爵家の足止め。この1言に尽きる。我が息子が案内を買って出たのも然り。卿らに対し、申し訳ないとは思うが役得もあったのだから堪えて欲しい。」
睥睨した後、ゼノンがゾンドルキア家の3人に視点を定める。
「さて、数多の者を犠牲にして利益を貪った挙げ句、皆の前で醜態を晒し、悪魔と相成った。守護者であるサラマンダー殿も(ソルヴェー火山から)離れる以上、ゾンドルキア家に公爵としての価値はないと判断。当主は既に死亡、残る3名は縁座処刑が妥当だと思うが如何か?」
ゼノンより齎された質問は波紋を呼び、近くの者同士での話し合いへ。
やがて取り潰しや処刑コールが轟き、ゾンドルキア公爵家の女性陣が揃って青い顔を浮かべる。
昨日までの華やかな生活から一転、人生の最期を迎えようとしているのだから無理もない。
だがそれは今までの積み重ね、自身らの行いが招いた事。
万を越す犠牲者が出たのだから、ある種必然とも言えよう。
「待って下さい。」
そんな雰囲気をぶち破る人物━━━光輝に耳目が集まる。
「皇帝陛下の御前で失態を犯したフェルナンド殿、悪魔化した本人の妻であるスザンヌ殿ならまだしも。ルイーズ殿は悪辣との但し書きは付きますが、贅沢したいが理由。取り潰しは当然として、相応の罰で十分かと。命で償う必要まではない、と愚考致します。」
「ふむ、そうか。相分かった…だがしかし、甘いな。」
「存じ上げております。」
片目を閉じるゼノンに、光輝が苦笑いで応える。
「こ、光輝、アンタ…。」
ルイーズが瞳を潤ませる。
彼女にとって、光輝は命の恩人。
ゾンドルキア家唯一の生き残り━━━尚、母親からは信じられないものでも見たかの様な目を向けられているがまるで気付かない━━━になってしまい、彼には感謝しかない。
「勘違いしないで欲しい。」
ただ、現実とは無情なもの。
「単に、君が一応幼馴染と呼べる間柄だから。表現は悪いけど、僕の為に止めただけなんだ。知ってる人の死に目に遭いたくない、ただそれだけって言う。」
「そんな…私を…想っての、事じゃ…。」
「ないかな。仮にあったとしても、せいぜい小学校まで。理由は言わなくても分かるよね?」
救いだと思いきや、単なる光輝の都合。
勝手に舞い上がり、勘違いしただけだった。
期待していただけにショックは大きく、光輝の突き放す物言いにルイーズはその場で崩れ落ちるのだった。




